神であり魔王である者も異世界から来るそうですよ?   作:ケミ

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第14話 レティシア=ドラクレア

「ゲームが延期?」

 

「はい………申請に行った先で知りました。このまま中止の線もあるそうです」

 

黒ウサギはウサ耳を萎れさせ、口惜しそうに顔を歪めて落ち込んでいる。

 

「白夜叉に言ってもどうにもならないの?」

 

「どうにもならないでしょう。どうやら巨額の買い手が付いてしまったそうですから」

 

「チッ。所詮は売買組織ってことかよ。エンターテイナーとしちゃ五流もいいところだ。“サウザンドアイズ”は巨大なコミュニティじゃなかったのか?プライドはねえのかよ」

 

「仕方がないですよ。“サウザンドアイズ”は群体コミュニティです。白夜叉様のように直轄の幹部が半分、傘下のコミュニティの幹部が半分です。今回の主催は“サウザンドアイズ”の傘下コミュニティの幹部、“ペルセウス”。双女神の看板に傷が付く事も気にならないほどのお金やギフトを得れば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」

 

「まあ、次回に期待するか。ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」

 

「そうですね………一言でいえば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光がキラキラするのです」

 

「へえ?よくわからんが見応えはありそうだな」

 

「それはもう!加えて思慮深く、黒ウサギより先輩でとても可愛がってくれました。近くに居るならせめて一度お話ししたかったのですけど………」

 

「ねえ。それってさっきからそこでこっちを見ている人のこと?」

 

天真の指した方を向くと、ガラスの向こうでにこやかに笑う金髪の少女が浮いていた。跳び上がって驚いた黒ウサギは急いで窓に駆けよる。

 

「レ、レティシア様!?」

 

「様はよせ。今の私は他人に所有される身分。“箱庭の貴族”ともあろうものが、モノに敬意を払っていては笑われるぞ」

 

黒ウサギが錠を開けると、レティシアと呼ばれた金髪の少女は苦笑しながら談話室に入る。

 

「こんな場所からの入室で済まない。ジンには見つからずに黒ウサギと会いたかったんだ」

 

「そ、そうでしたか。あ、すぐにお茶を淹れるので少々お待ちください!」

 

黒ウサギは小躍りするようなステップで茶室に向かう。十六夜と天真の存在に気が付いたレティシアは、彼らの奇妙な視線に小首を傾げる。

 

「どうした?私の顔に何か付いているか?」

 

「別に。前評判通りの美人………いや、美少女だと思って。目の保養に観賞していた」

 

十六夜の真剣な回答に天真も頷く。その回答にレティシアは心底楽しそうな哄笑で返す。口元を押さえながら笑いを嚙み殺し、なるべく上品に装って席に着いた。

 

「ふふ、なるほど。君が十六夜か。白夜叉の話通り歯に衣着せぬ男だな。そして君が天真だな。君の事も白夜叉から聞いているよ。あの白夜叉がゲームで負けたと聞いて耳を疑ったよ。しかし観賞するなら黒ウサギも負けていないと思うのだが。あれは私と違う方向性の可愛さがあるぞ」

 

「あれは愛玩動物なんだから、観賞するより弄ってナンボだろ」

 

「黒ウサギには悪いけど、弄らずにはいられないよ」

 

「ふむ。否定はしない」

 

「否定してください!」

 

紅茶のティーセットを持ってきた黒ウサギが口を尖らせて怒る。

 

「レティシア様と比べられれば世の女性のほとんどが観賞価値のない女性でございます。黒ウサギだけが見劣るわけではありませんっ」

 

「いや、全く負けちゃいねえぜ?違う方向性で美人なのは否定しねえよ。好みでいえば黒ウサギの方が断然タイプだからな」

 

「………。そ、そうですか」

 

「俺はどっちかというとレティシアの方がタイプかな」

 

「む、それは嬉しいな」

 

「なんだ天真。ロリコンか?」

 

ニヤニヤしながら十六夜が天真に言う。すぐに否定した天真だったが、

 

「そんなわけないよ。………ない、はず。ないよな?」

 

「なんで疑問系になんだよ」

 

十六夜にバッサリ切られた。不意打ちの言葉に思わず黒ウサギとレティシアは頬が紅くなった。

 

「そ、そうだ。レティシア様!どのようなご用件ですか?」

 

慌てて黒ウサギは話題を戻す。

 

「用件というほどのものじゃない。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないというのは合わせる顔がないからだよ。お前達の仲間を傷つける結果になってしまったからな」

 

ハッと思い出す。予想はしていたが、鬼化していた木々はやはりレティシアのものだった。

 

「吸血鬼?なるほど、だから美人設定なのか」

 

「まあ、金髪美少女は王道だよね」

 

「は?」

 

「え?」

 

「「いや、いい。続けてくれ」」

 

十六夜と天真はヒラヒラと手を振って続きを促す。

 

「実は黒ウサギ達が“ノーネーム”としてコミュニティの再建を掲げたと聞いた時、なんと愚かな真似を………と憤っていた。それがどれだけ茨の道か、お前が分かっていないとは思えなかったからな」

 

「……………」

 

「コミュニティを解散するように説得するため、ようやくお前達と接触するチャンスを得た時………看過出来ぬ話を耳にした。神格級のギフト保持者が、黒ウサギ達の同士としてコミュニティに参加したとな」

 

黒ウサギの視線が十六夜と天真に移る。恐らく白夜叉にでも聞いたのだろう。四桁の外門に本拠を持つ“階層支配者”の白夜叉が、最下層である七桁の外門に足を運んでいた理由は、秘密裏にレティシアを此処まで連れてくる為だったのだ。

 

「そこで私は一つ試してみたくなった。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」

 

「結果は?」

 

黒ウサギは真剣な双眸で問う。レティシアは苦笑しながら首を振った。

 

「生憎、ガルドでは当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加した彼女達はまだまだ青い果実で判断に困る。………こうして足を運んだはいいが、さて。私はお前達に何と言葉をかければいいのか」

 

自分でも理解できない胸の内にまた苦笑する。十六夜は呆れたようにレティシアを笑う。

 

「違うね。アンタは言葉を掛けたくて古巣に足を運んだんじゃない。古巣の仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見て、安心したかっただけだろ?」

 

「………ああ。そうかもしれないな」

 

十六夜の言葉に首肯する。

 

「その不安、払う方法が一つだけあるよ」

 

「何?」

 

「簡単な話だよ。レティシアは“ノーネーム”が魔王を相手に戦えるのかが不安で仕方がないんでしょ。ならその身で、その力を試せばいいんじゃない?俺の実力は………もとい、正体は白夜叉から聞いているはずだから、十六夜の力を試せばいいと思うんだけど。―――どう?」

 

天真の意図を理解したレティシアは一瞬唖然としたが、すぐに哄笑に変わる。

 

「ふふ………なるほど。それは思いつかなんだ。実に分かりやすい。下手な策に弄さず、初めからそうしていればよかったなあ」

 

「そういうことだから。十六夜頑張って」

 

「丸投げかよ」

 

「えっ?だって十六夜は戦闘狂だから喜ぶと思ったんだけど」

 

「誰が戦闘狂だコラ」

 

「違うの?」

 

「天真とは小一時間ほどオハナシが必要みたいだな」

 

「ちょ、ちょっと御三人様?」

 

「さて、ゲームのルールはどうする?」

 

十六夜の言葉を聞き流して、ゲームの確認を行う天真。

 

「力試しだから手間暇かける必要もないし。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う、ってのはどうかな?」

 

「地に足着けて立っていたものの勝ち。いいね、シンプルイズベストって奴?」

 

笑みを交わし三人は窓から中庭へ同時に飛び出した。窓から十間ほど離れた中庭で向かい合う十六夜とレティシア。少し離れたところに天真と黒ウサギは立っていた。

 

「へえ?箱庭の吸血鬼は翼が生えてるのか?」

 

「ああ。翼で飛んでいる訳ではないがな。………制空権を支配されるのは不満か?」

 

「いいや。ルールにはそんなのなかったしな」

 

レティシアは十六夜の態度をまず評価した。ギフトゲームにおいて、対戦者は全てが未知数であると考えるのは基本である。例えば、鳥が自由に空を駆けることを猿が不平不満を漏らしたところで、ギフトゲームでは()()()()()()()()()()()としか弁のしようがない。未知の相手が見せる新たな一手に、自らのギフトで如何に対抗するかを競うことこそギフトゲームの真髄であり醍醐味なのだ。

 

(なるほど。気構えは十分。あとは実力が伴うか否か………!)

 

満月を背負うレティシアは微笑と共に黒い翼を広げ、己のギフトカードを取り出した。金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードを見た黒ウサギは蒼白になって叫ぶ。

 

「レ、レティシア様!?そのギフトカードは」

 

「下がれ黒ウサギ。力試しとはいえ、コレが決闘である事に変わり無い」

 

ギフトカードが輝き、封印されていたギフトが顕現する。光の粒子が収束して外殻を作り、突然爆ぜたように長柄の武具が現れる。

 

「互いのランスを一打投擲する。受け手は止められねば敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

 

「好きにしな」

 

投擲用に作られたランスを掲げ、

 

「ふっ―――!」

 

レティシアは呼吸を整え、翼を大きく広げる。全身を撓らせた反動で打ち出すと、その衝撃で空気中に視認できるほど巨大な波紋が広がった。

 

「ハァア!!!」

 

怒号と共に放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、一直線に十六夜に落下していく。流星の如く大気を揺らして舞い落ちる槍の先端を前に、十六夜は牙を剥いて笑い、

 

「カッ―――しゃらくせえ!」

 

()()()()()

 

「「―――は………!??」

 

素っ頓狂な声を上げるレティシアと黒ウサギ。

鋭利に研ぎ澄まされ、大気の壁を易々突破する速度で振り落とされた槍は、たった一撃で拉げて只の鉄塊と化し、さながら散弾銃のように無数の凶器となってレティシアに向けられた。

 

(ま、まずい………!)

 

鬼種の純潔である彼女なら、たかが銃弾如きなら振り払う事もできただろう。しかし第三宇宙速度に匹敵する馬鹿馬鹿しい速度で迫る凶弾を退ける事など、今の彼女には不可能だった。

 

(こ………これほどか………!)

 

尋常外の才能を目の当たりにしたレティシアは、自分の目測の甘さを恥じ入る。しかし同時に安堵した。これほどの才能ならばあるいは………と、血みどろになって落ちる覚悟を決めた時、一つの人影がレティシアを抱えて凶弾を避ける。レティシアが目を向けると天真の顔が間近に見えた。

 

「あ、ありがとう」

 

「いいよ。別に」

 

レティシアは顔をわずかに紅くして礼をいう。レティシアを下ろし、いつの間にか近付いていた黒ウサギがレティシアのギフトカードを掠め取る。

 

「く、黒ウサギ!何を!」

 

レティシアは声を上げる。黒ウサギはギフトカードを見つめ震える声で向き直る。

 

「ギフトネーム・“純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)”………やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

 

「っ………!」

 

「なんだよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえの?」

 

「………はい。武具は多少残してありますが、自身に宿る恩恵は………」

 

「ハッ。どうりで歯ごたえが無いわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」

 

「いいえ………魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトではありません。武具などの顕現しているギフトと違い、“恩恵”とは様々な神仏や精霊から受けた奇跡、云わば魂の一部。隷属させた相手から合意なしにギフトを奪う事は出来ません」

 

「レティシア様は鬼種の純血と神格の両方を備えていたため“魔王”と自称するほどの力を持てたはず。今の貴女はかつての十分の一にも満ちません。どうしてそんなことに………!」

 

「………それは」

 

「まあ、あれだ。話があるならとりあえず屋敷に戻ろうぜ」

 

「………そう、ですね」

 

二人は沈鬱そうに頷くのだった。

 

 

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