二つの不可視のギフトを手に入れた十六夜達だったが、三つ目は手に入らなかった。十六夜とジンが不可視のギフトを使い最奥、最上階に着く。天真は少し遅れて、最終手段の転移で最奥に向かった。
「天真さん、十六夜さん、ジン坊っちゃん………!」
最上階で待っていた黒ウサギは天真達の姿を確認し、安堵したようにため息を漏らす。眼前に開けた闘技場の上空を見上げると、見下ろす人影があった。
「―――ふん。ホントに使えない奴ら。今回の一件でまとめて粛清しないと」
ルイオスの脚には、膝までを覆うロングブーツから光り輝く対の翼があった。
「なにはともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。………あれ、この台詞を言うのってはじめてかも」
それは全て騎士達が優秀だったからだ。十六夜は肩を竦ませて笑う。
「ま、不意を打っての決闘だからな。勘弁してやれよ」
「フン。名無し風情を僕の前に来させた時点で重罪さ」
ルイオスは翼をもう一度羽ばたかせ、“ゴーゴンの首”の紋が入ったギフトカードを取り出し、光と共に燃え盛る炎の弓を取り出した。
「………炎の弓?ペルセウスの武器で戦うつもりはない、という事でしょうか?」
「当然。空を飛べるのになんで同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ」
小馬鹿にするように天へと舞い上がる。壁の上まで飛び上がったルイオスは、首にかかったチョーカーを外し、付属している装飾を掲げた。
「メインで戦うのは僕じゃない。僕はゲームマスターだ。僕の敗北はそのまま“ペルセウス”の敗北になる。そこまでリスクを負うような決闘じゃないだろ?」
ルイオスの掲げたギフトが光り始める。星の光のようにも見間違う光の波は、強弱を付けながら一つ一つ封印を解いていく。天真と十六夜はジンを背後に庇い、臨戦態勢をとる。光が一層強くなり、ルイオスは獰猛な表情で叫んだ。
「目覚めろ―――“アルゴールの魔王”!!」
光は褐色に染まり、四人の視界を染めていく。白亜の宮殿に共鳴するかのような甲高い女の声が響き渡った。
「ra………Ra、GEEEEEEYAAAAAAaaaaaaaa!!!」
それは最早、人の言語野で理解できる叫びではなかった。冒頭こそ謳うような声であったが、それさえも中枢を狂わせるほどの不協和音だ。黒ウサギは堪らずウサ耳を塞ぐ。
「な、なんて絶叫を」
「避けろ、黒ウサギ!!」
十六夜は黒ウサギとジンを抱き抱えるように跳び退く。直後、空から巨大な岩塊が山のように落下してきた。避ける天真達を見てルイオスは高らかに嘲った。
「いやあ、飛べない人間って不便だよねえ。落下してくる雲も避けられないんだから」
「く、雲ですって………!?」
外に眼をやると、闘技場の外にも雲が落下している。“アルゴールの魔王”と呼ばれた女の力は、このギフトゲームに用意された世界全てに対して石化の光を放つ。黒ウサギは戦慄とともに口にする。
「星霊・アルゴール………!白夜叉様と同じく、星霊の悪魔………!!」
「ジンは黒ウサギのところに行って。守ってやれる余裕はなさそうだから」
「はい。それと一つだけお願いがあります。貴方達が本当に魔王に打ち勝てる人材だと、僕達に証明して下さい」
「OK。よく見てな御チビ」
「了解」
十六夜がルイオスに、天真がアルゴールに向かって駆ける。アルゴールの陰から飛んでくる炎の矢を、十六夜は気合い一喝で弾き飛ばす。ルイオスは無駄を悟り炎の弓を仕舞い、代わりに“星霊殺し”のギフトが付与された鎌・ハルパーを取り出す。
「押さえつけろ、アルゴール!!」
「RaAAaaa!!LaAAAA!!」
「十六夜の邪魔はさせないよ」
アルゴールが振り下ろす両腕を天真が受け止め、そのままアルゴールをねじ伏せた。
「GYAAAAAAaaaaaa!!」
本物の悲鳴のような声を上げるアルゴール。ルイオスは十六夜の背後から襲いかかる。
「図に乗るな!」
「テメェがな!」
ハルパーを片手に疾駆するルイオスを、下半身を捻った勢いで蹴り上げる。ルイオスは辛うじて柄で受け止めたが、嘔吐感がこみ上げるほどの重い一撃をくらい吹き飛ばされる。十六夜は跳躍して一瞬で追いつく。
「どうした?翼があるのに不便そうだな?」
「き、貴様っ………!」
怒りに任せてハルパーを振りかざすが、十六夜は難なく受け止め、今度は地面に向かって投げ飛ばした。ルイオスは闘技場に倒れているアルゴールに重なるように叩きつけられた。
「ガッ!」
「Gya………!」
「き………貴様ら、本当に人間か!?一体どんなギフトを持っている!?」
無理もない疑問だろう。天真はともかく十六夜は正真正銘の人間だ。その疑問に応えようと、天真達はギフトカードを取り出す。
「ギフトネーム・“
「ギフトネーム・“
飄々と肩を竦ませて笑う十六夜。
「神霊だと。神が相手にいるのか。アルゴール!宮殿の悪魔化を許可する!奴らを殺せ!」
「RaAaaa!!LaAAAA!!」
謳うような不協和音が世界に響き、宮殿全域に広がった黒い染みから、蛇の形を模した石柱が数多に襲う。十六夜は避けながら思い出したように呟く。
「ああ、そういえばゴーゴンにはそんなのもあったな」
ゴーゴンには様々な魔獣を生みだした伝説がある。宮殿は魔宮と化し、周囲が見えていないのか、狂気じみた形相でルイオスは叫ぶ。
「もう生きて帰さないッ!この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ!貴様らにはもはや足場一つ許されていない!貴様らの相手は魔王とその宮殿の怪物そのもの!このギフトゲームの舞台に、貴様らの逃げ場は無いものと知れッ!!!」
「―――……そうかい。つまり、
「「「え?」」」
にべもなく応える十六夜に、天真とジンと黒ウサギは、嫌な予感がした。十六夜は無造作に上げた拳を、黒く染まった魔宮に向かって振り下ろした。十六夜の体を覆っていた千の蛇蠍は一斉に砕け霧散した。直後に宮殿全域が震え、闘技場が崩壊した。
「……馬鹿な……どういう事なんだ!?奴の拳は、山河を打ち砕くほどの力があるのか!?」
上空で怒りとも恐怖ともいえる叫びを上げるルイオス。残った闘技場の足場から見上げる十六夜は、やや不機嫌そうに声をかけた。
「おい、ゲームマスター。これでネタ切れってわけじゃないよな?」
「………っ……!」
ルイオスは屈辱で顔を歪ませた。しばし悔しそうに表情を歪めていたが―――スッと真顔に戻る。そして極め付けに凶悪な笑顔を浮かべ、
「もういい。
石化のギフトを解放した。アルゴールの放った褐色の光に包まれた十六夜は、真正面からその瞳を捉え―――
「―――――………カッ。ゲームマスターが、今さら狡い事してんじゃねえ!!!」
褐色の光を、
「ば、馬鹿な!?」
ルイオスが叫ぶ。叫びたくもなるだろう。ジンと黒ウサギでさえ叫び声を上げたのだから。
「せ、“星霊”のギフトを無効化―――いえ、破壊した!?」
「あり得ません!あれだけの身体能力を持ちながら、ギフトを破壊するなんて!?」
白夜叉が“ありえない”と結論付けた理由。一つの魂に、天地を砕く恩恵と、恩恵を砕く力という、相反する二つのギフトが両立することは絶対にあり得ないはずだからだ。“箱庭の貴族”はおろか、“白き夜の魔王”でさえ知らない出所不明・効果不明・名称不明と三拍子揃った、正真正銘の“
「さあ、続けようぜゲームマスター。“星霊”の力はそんなものじゃないだろう?」
軽薄そうに挑発する十六夜だったが、ありえない存在を前にしたルイオスの戦意はほとんど涸れていた。天真が十六夜に言う。
「これ以上のものはないと思うよ」
「何?」
「アルゴールが拘束具に繫がれて現れた時点で察するべきだったよ。支配が出来ていないから何もかもが中途半端。たぶん半分の力も出ていないと思うよ」
「っ!?」
ルイオスの瞳に灼熱の憤怒が宿るが、否定する声は上がらない。
「―――ハッ。所詮は七光と元・魔王様。長所が破られれば打つ手なしってことか」
失望したと吐き捨てる十六夜。そして凶悪な笑みでルイオスを追い立てる。
「ああ、そうだ。もしこのままゲームで負けたら………お前達の旗印。どうなるか分かっているんだろうな?」
「な、何?お前達の目的はあの吸血鬼じゃないのか!?」
「そんなのは後でも出来るだろ?そんなことより、旗印を盾にして即座にもう一度ゲームを申し込む。―――そうだなぁ。次はお前達の名前を戴こうか」
ルイオスの顔から一気に血の気が引いた。だが十六夜は一片の慈悲もなく凶悪な笑顔のまま尚も続ける。
「その二つを手に入れた後“ペルセウス”が箱庭で永遠に活動できないように名も、旗印も、徹底して貶め続けてやる。たとえお前達が怒ろうが泣こうが喚こうが、コミュニティの存続そのものが出来ないぐらい徹底的に。
「や、やめろ………!」
ルイオスは今になって気付く。自分達のコミュニティは今まさに、崩壊の危機に立っているのだと。
「ならもう方法は一つしかないよな?ああ、そうだ。天真は手を出さないでくれ。これからは俺の喧嘩だ」
「了解。啖呵を切ったからには負けないでよ」
「当たり前だ」
一転して凶悪さを消し、にこやかに笑う十六夜。指先で誘う様にルイオスを挑発し、
「来いよ、ペルセウス。命懸けで―――俺を楽しませろ」
ルイオスは輝く翼を羽ばたかせ、敗北覚悟で駆けるのだった。