レティシアの受難はむしろそれからだった。所有権が“ノーネーム”に移ったまでは本当に良かったのだ。問題児達が口を開くまでは………
「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」
「え?」
「え?」
「………え?」
「はい?」
「え?じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したのって私達だけじゃない?貴方達はホントにくっ付いてきただけだったもの」
「うん。私なんて力いっぱい殴られたし。石になったし」
「つーか挑戦権を持ってきたのは天真だろ。所有権は基本天真のもので、俺達に1:1:1:7の分割でもう話は付いた!宣戦布告で“レティシアは俺のもの”って明言してたしな」
「何を言っちゃってんでございますかこの人達!?」
「ホントにな。俺はそんな事聞いてないぞ」
天真と黒ウサギ、そしてジンは混乱していた。唯一、当事者であるレティシアだけが冷静だった。
「んっ………ふ、む。そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。コミュニティに帰れた事に、この上なく感動している。だが親しき仲にも礼儀あり、コミュニティの同士にもそれを忘れてはならない。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」
「レ、レティシア様!?」
「一旦落ち着こうか。気持ちが高揚しすぎて冷静さが欠けているんじゃないか?」
「私は冷静だぞ天真。それに私では不満か?嫌なのか?」
「うっ………」
言葉に詰まる天真。上目遣いはずるいよね。とても可愛いので否定できないよ。この世で唯一不変の正義は可愛いとはよく言ったものだ。
「い、嫌じゃないです………むしろ嬉しいし」
「ふふ、そうか」
思わず本音が出た天真に、嬉しそうに笑いかけるレティシア。黒ウサギが、まさか尊敬している先輩をメイドとして扱わなければならないとは………と困惑しているうちに、飛鳥は嬉々として服を用意し始めた。
「私、ずっと金髪の使用人に憧れていたのよ。私の家の使用人ったらみんな華も無い可愛げも無い人達ばかりだったんだもの。これからよろしく、レティシア」
「よろしく………いや、主従なのだから『よろしくお願いします』のほうがいいかな?」
「使い勝手がいいのを使えばいいよ」
「そ、そうか。………いや、そうですか?んん、そうでございますか?」
「黒ウサギの真似はやめとけ」
ヤハハと笑う十六夜。意外と和やかな四人を見て、天真と黒ウサギは肩を落とすのだった。
*
―――“ペルセウス”との決闘から三日後の夜。
子供達を含めた“ノーネーム”一同は水樹の貯水池付近に集まっていた。
「えーそれでは!新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」
ワッと子供達の歓声が上がる。周囲には運んできた長机の上にささやかながら料理が並んでいる。本当に子供だらけの歓迎会だったが、それでも四人は悪い気はしていなかった。
「だけどどうして屋外の歓迎会なのかしら?」
「うん。私も思った」
「黒ウサギなりに精一杯のサプライズってところじゃねえか?」
“ノーネーム”の財政が悪い事を知っている飛鳥は、苦笑しながらため息を吐いた。
「無理をしなくていいって言ったのに………馬鹿な子ね」
「そうだね」
耀も苦笑で返す。すると黒ウサギが大きな声を上げて注目を促す。
「それでは本日の大イベントが始まります!みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」
天真達を含めたコミュニティの全員が、箱庭の天幕に注目する。空には満天の星空が輝いていた。異変が起きたのは数秒後の事だった。
「………あっ」
コミュニティの誰かが、声を上げた。それから連続して星が流れた。すぐに全員が流星群だと気が付き、口々に歓声を上がる。黒ウサギは天真達や子供達に聞かせるような口調で語る。
「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの四人がこの流星群のきっかけを作ったのです」
「え?」
天真達は驚きの声を上げたが、黒ウサギは構わず話を続ける。
「箱庭の世界は天動説のように、全てのルールが此処、箱庭の都市を中心に回っております。先日、同士が倒した“ペルセウス”のコミュニティは、敗北の為に“サウザンドアイズ”を追放されたのです。そして彼らは、あの星々からも旗を降ろすことになりました」
天真達四人は驚愕し、完全に絶句した。
「―――……なっ……まさか、あの星空から星座を無くすというの………!?」
刹那、一際大きな光が星空を満たした。そこにあったはずのペルセウス座は、流星群と共に跡形もなく消滅していた。規模が違う奇跡を目の当たりにし、言葉を失った四人とは裏腹に、黒ウサギは進行を続ける。
「今夜の流星群は“サウザンドアイズ”から“ノーネーム”への、コミュニティ再出発に対する祝福も兼ねております。星に願いをかけるもよし、皆で観賞するもよし、今日は一杯騒ぎましょう♪」
嬉々として杯を掲げる黒ウサギと子供達。その絶大ともいえる力を見上げ、茫然とする飛鳥と耀。だが十六夜だけは、流星群を見ながら感慨深くため息を吐いていた。
「………アルゴルの星が食変光星じゃないところまでは分かったんだがな。まさかこの星空の全てが箱庭の為だけに作られているとは思わなかったぜ………」
十六夜達とは少し離れた場所で星空を見ていた天真の元にレティシアが近づく。
「どうしたんだ?」
「天真にお礼を言いに来たんだ」
「いいよ別に。黒ウサギが助けたがっていたから助けただけだし」
「それでも、だ」
二人の間に緩やかな時間が流れる。天真は意を決してレティシアを見つめる。その頬は紅く染まっていた。
「レティシアの事が好きだ。俺の彼女になって下さい!」
それを聞いたレティシアも頬を紅く染める。
「私でいいのか?」
「レティシアでいいんじゃない。レティシアがいいんだ!」
「………はい。私を天真の彼女にしてください」
天真はレティシアを強く抱きしめた。レティシアと目が合い自然と二人の顔が近づき、満天の星空の下で影が重なった。その時、天真はレティシアに力が流れるような奇妙な感覚を覚えた。レティシアもそれを感じ取ったみたいだ。
「力が増したような気がしたが………」
「うーん。推測だけど、レティシアは俺の眷属になったかもしれないな」
「眷属だって?そうか、天真は神霊だったな」
「そう、俺は“アザトース”と“バアル”の二柱の神、そして悪霊の首領・“ベルゼブブ”の化身だよ。今のキスで眷属化の契約が成立したのかな?」
「眷属ということはつまり、私は天真の傍にずっと居られるということか?」
「そういう事になるかな。でも、眷属化の有無に関係なくレティシアを離さないよ」
「フフ。それは嬉しい」
レティシアが寄り添ってくる。女の子特有の甘い香りが鼻をくすぐる。もう一度レティシアにキスをした。十六夜達の方に目を向けると、十六夜が消えたペルセウス座の位置を指さし、黒ウサギに宣言しているところだった。
「
今度は黒ウサギが絶句する。しかし途端に弾けるような笑い声を上げた。
「それは………とてもロマンが御座います」
「だろ?」
「はい♪」
十六夜と黒ウサギの会話を聞いて、天真は箱庭に来て良かったと思った。