神であり魔王である者も異世界から来るそうですよ?   作:ケミ

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第21話 拉致されたジン

―――“ノーネーム”本拠。飛鳥の私室。

 

眼を覚ました飛鳥は、柔らかなベットを堪能しながら惰眠を貪っていた。令嬢として厳格な暮らしをしていた彼女は、朝のまどろみに身を委ねる時間すら無かったのだろう。幸せな朝のまどろみに身を委ねながら飛鳥が、噂の“二度寝”なるモノに挑戦するべきではないかと思ったその時。コンコン、とドアを叩く音が聞こえた。

 

「えっと、春日部です。年長組の子と朝御飯を持ってきた。飛鳥は起きてる?」

 

「…………………………………………、」

 

むぅ。コレは困った、と飛鳥は蹲る。“二度寝”を決め込んだ手前、身体を起こすという選択肢は非常に苦痛だ。しかし、あの大人しくも可愛い友人が自分の為に配膳してくれた朝食を無視してしまうのも心苦しい。―――コンコンコン。

 

「飛鳥?………寝てるの………?」

 

控えめなノックと、困ったような、寂しそうな耀の声が部屋と良心に響く。―――一回分ずつ多くなる控えめなノックがまた響く。飛鳥は申し訳なさを胸に怠惰と惰眠の海、贅沢で幸せな深層意識の中にどんどんと意識を沈

 

コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。

 

「ごめんなさい、私が悪かったわ」

 

結果、4ラウンドTKOで耀の勝利。飛鳥は観念して身支度を整えるのだった。用意の出来た飛鳥が部屋に招き入れる。

 

「ごめんね、飛鳥。せっかく作った朝食が冷めたら勿体ないと思って………」

 

「い、いいのよ春日部さん」

 

頭を搔いて恥じらいながら弁明する耀に、唇を引きつらせながら笑いかける飛鳥。一方で、耀は一緒に入ってきた割烹着を着た狐耳の少女の背中を軽く押す。狐耳の少女は緊張した面持ちで朝食の載ったカートを押し、ガチガチに緊張したまま飛鳥に一礼して、

 

「り、り、り………りりとおんもします!」

 

「はい?」

 

「リリ、落ち着いて」

 

耀が苦笑しながらポンポンと背中を叩く。パタパタと二本の尻尾と狐耳を忙しなく動かす少女は、年長組のリリというらしい。

 

「ああ、以前にクッキーを持ってきてくれた時の?じゃあこの食事とお茶は貴女が?」

 

「は、はい。飛鳥様はハーブを好まれると聞きましたので、菜園で採れるものを一式用意しました。特に朝の目覚めが良いものを用意したのでその……喜んでもらえたらなあって………」

 

はにかみながら笑い、ハッと口調を改めようと慌てるリリ。ハーブティーの事は黒ウサギから聞いたのだろう。その心遣いが少し嬉しかった。三人は食事をしながら、コミュニティの農園についての話をしていた。目下の目標は土地の再生―――と、話がまとまりかけた時、ヒラヒラと窓の外から一枚の手紙が降ってきた。封蠟には向かい合う双女神の紋、“サウザンドアイズ”の旗印が刻まれている。リリは大きく息を呑んで叫んだ。

 

「す………凄いです!“サウザンドアイズ”の印璽が押された封蠟なんて初めて見ました!コレは白夜叉様が直々に印を押した、ギフトカードへの招待状ですよ!」

 

「白夜叉から?」

 

「あのフロアマスターの?」

 

手紙を手にした飛鳥と耀は顔を見合わせ、その瞳を喜色に染める。箱庭の最強種の一角である白夜叉から届いた招待状となれば、いやが上にも期待してしまう。飛鳥と耀は嬉々として封を切った。読み終わった飛鳥達は天真と十六夜を探しに駆けだした。

 

―――“ノーネーム”本拠。地下三階の書庫。

十六夜とジンはそこに居た。毎日朝早く本拠を出て、帰ってきては未読の書籍を漁る十六夜の生活のサイクルに、ジンも付き合っていた。箱庭に来てからずっと繰り返していた生活に、さすがの十六夜も限界だったのだろう。十六夜とジンは健やかに寝息を立てて寝ていた。

 

「十六夜君!何処にいるの!?」

 

「………うん?ああ、お嬢様か………―――」

 

声の主が飛鳥だと分かると、うつらうつら頭を揺らして二度寝しようとする十六夜。十六夜を見つけた飛鳥は散乱した本を踏み台に、十六夜の側頭部へ|飛び膝蹴り()()()()()()()()()()()で強襲した。

 

「起きなさい!」

 

「させるか!」

 

「グボハァ!?」

 

飛鳥の蹴りは盾にされたジンの側頭部を見事強襲し、ジンは三回転半して見事に吹き飛んだ。追ってきたリリの悲鳴と耀の驚いた声が書庫に響く。

 

「ジ、ジン君がぐるぐる回って吹っ飛びました!?大丈夫!?」

 

「………。側頭部を膝で蹴られて大丈夫な訳ないと思うな」

 

顔色一つ変えずに合掌する耀。

 

「十六夜君、ジン君!緊急事態よ!二度寝している場合じゃないわ!」

 

「そうかい。それは嬉しいが、側頭部にシャイニングウィザードは止めとけお嬢様。俺は頑丈だから兎も角、御チビの場合は命に関わ」

 

「って僕を盾に使ったのは十六夜さんでしょう!?」

 

ガバッ!! と本の山から起き上がるジン。どうやら生きていたらしい。

 

「大丈夫よ。だってほら、生きているじゃない」

 

「デッドオアアライブ!?というか生きていても致命です!!飛鳥さんはもう少しオブラートにと黒ウサギからも散々」

 

「御チビも五月蠅い」

 

十六夜が投げた本の角がジンの頭にクリティカルヒット。ジンは先ほど以上の速度で後ろに吹き飛び失神し、リリは混乱極まりあたふたしている。そんな少年少女を余所に、不機嫌な視線を飛鳥に向ける十六夜。

 

「………それで?人の快眠を邪魔したんだから、相応のプレゼンがあるんだよな?」

 

「いいからコレを読みなさい。絶対に喜ぶから」

 

「うん?」

 

不機嫌な表情のまま、開封された招待状に目を通す十六夜。

 

「双女神の封蠟………白夜叉からか?あー何々?北と東の“階層支配者(フロアマスター)”による共同祭典―――“火龍誕生祭”の招待状?」

 

「そう。よく分からないけど、きっと凄いお祭りだわ。十六夜君もワクワクするでしょう?」

 

「オイ、ふざけんなよお嬢様。こんなクソくだらないことで快眠中にも拘わらず俺は側頭部をシャイニングウィザードで襲われたのか!?しかもなんだよこの祭典のラインナップは!?『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会および批評会に加え、様々な“主催者”がギフトゲームを開催。メインは“階層支配者”が主催する大祭を予定しております』だと!?クソが、少し面白そうじゃねえか行ってみようかなオイ♪」

 

「ノリノリね」

 

獣のように身体を撓らせて跳び起き、颯爽と制服を着込む十六夜。

 

「そういえば、天真はどうしたんだ」

 

「天真君なら黒ウサギ達とコミュニティの手伝いをしているみたいよ。今頃、黒ウサギとレティシアと一緒に農園にいると思うわ」

 

天真がいないことに気付いた十六夜の言葉に飛鳥が返す。ここへ来る途中に、リリから話を聞いていたらしい。肝を冷やしながら見ていたリリは、血相まで変えて呼び止める。

 

「ま、ままま、待ってください!北側に行くとしてもせめて黒ウサギのお姉ちゃんに相談してから………ほ、ほら!ジン君も起きて!皆さんが北側に行っちゃうよ!?」

 

「………北………北側!?」

 

失神していたジンは「北側に行く」の言葉で跳び起き、話半分の情報で問い詰める。

 

「ちょ、ちょっと待ってください皆さん!北側に行くって、本気ですか!?」

 

「ああ、そうだが?」

 

「何処にそんな蓄えがあるというのですか!?此処から境界壁までどれだけの距離があると思っているんです!?リリも、大祭の事は皆さんに秘密にと―――」

 

「「「秘密?」」」

 

重なる三人の疑問符に、ギクリと硬直するジン。失言に気が付いた時にはもう既に手遅れだった。振り返ると、邪悪な笑みと怒りのオーラを放つ耀・飛鳥・十六夜の三大問題児。

 

「………そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだ、私達。ぐすん」

 

「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日頑張ってるのに、とっても残念だわ。ぐすん」

 

「ここらで一つ、黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのも大事かもしれないな。ぐすん」

 

泣き真似をするその裏側で、ニコォリと物騒に笑う問題児達に、ダラダラと冷や汗を流す少年少女。問題児達のストッパーとなる天真がいないため、ジンは問答無用で拉致され、リリに手紙を預けた問題児一同は東と北の境界壁を目指し“サウザンドアイズ”を訪ねた。

 

“サウザンドアイズ”の支店前に着いた問題児達。竹ぼうきで店前を掃除していた割烹着の女性店員に一礼され、

 

「お帰り下さい」

 

「まだ何も言ってないでしょう?」

 

門前払いを受けていた。飛鳥は髪を搔きあげ、口を尖らせて抗議する。

 

「そこそこ常連客なんだし、もう少し愛想よくしてくれてもいいと思うのだけれど」

 

「常連客というのは店にお金を落としていくお客様の事を言うのです。何時も何時も換金しかしない者は、お客様ではなく取引相手と言うのです」

 

「あら、それもそうね。じゃあ御邪魔します」

 

あっさり納得。そのまま侵入。何気なく店に上がり込もうとする飛鳥達の前に、大の字になって立ち塞がる女性店員。竹ぼうきを片手に八重歯を剝きながら唸り、十六夜達に叫ぶ。

 

「だからうちの店は!“ノーネーム”御断りです!オーナーが居る時ならともかく今は」

 

「やっふぉおおおおおおお!ようやく来おったか小僧どもおおおおおおお!」

 

空の彼方から叫び声を上げながら降って来た白夜叉。ズドォン! と地響きと土煙を舞いあがらせて荒々しく着地をして登場。十六夜は土煙を払いながら、呆れたように女性店員に言う。

 

「ぶっ飛んで現れなきゃ気が済まねえのか、此処のオーナーは」

 

「……………、」

 

痛烈に頭が痛そうな女性店員は、言い返せずに頭を抱えた。天真の姿がないことに気が付いた白夜叉。

 

「ん?あやつはどうしたのだ?」

 

「天真か?天真なら黒ウサギ達とコミュニティの改善をしていると思うぜ」

 

「ふむ。あやつには後で話せばよいか」

 

「招待、ありがと。だけどどうやって北側に行くのか分からなくて………」

 

「よいよい、全部分かっておる。まずは店の中に入れ。条件次第で路銀は私が支払ってやる。………秘密裏に話しておきたい事もあるしな」

 

スッと目を細める白夜叉。三人は顔を見合わせ、悪戯っぽく笑った。

 

「それ、楽しい事?」

 

「さて、どうかの。まあおんしら次第だな」

 

意味深に話す白夜叉。三人はジンを引きずりつつ、嬉々として暖簾をくぐった。白夜叉の座敷に招かれた四人は“サウザンドアイズ”の流通の仕組みを聞いていた。その後、白夜叉が“打倒魔王”のコミュニティの方針を取る“ノーネーム”のリスクを指摘し、その意見を聴いた。それを踏まえた上で、白夜叉は本題に入る。白夜叉は北側の事情を話すと、申し訳なさそうな苦々しい顔で項垂れた。そして重々しく口を開こうとした白夜叉を、耀がハッと気が付いたような仕草で制す。

 

「ちょっと待って。その話、まだ長くなる?」

 

「ん?んん、そうだな。短くともあと一時間程度はかかるかの?」

 

「それはまずいかも。………黒ウサギ達に追いつかれる」

 

ハッ、と十六夜達も気が付く。今は黒ウサギ達と追いかけっこの最中なのだ。転移系統の能力を持つ天真がすぐに来られることに気付いたジン。

 

「し、白夜叉様!どうかこのまま、」

 

「ジン君、()()()()()!」

 

時間を稼ごうと話を引き延ばそうとしたジンの口が、飛鳥の支配する力で強制的に閉ざされる。その隙を逃さず十六夜が白夜叉を促す。

 

「白夜叉!今すぐ北側へ向かってくれ!」

 

「む、むぅ?別に構わんが、何か急用か?というか、内容を聞かず受諾してよいのか?」

 

「構わねえから早く!事情は追々話すし何より―――()()()()()()()!俺が保証する!」

 

「そうか。()()()か。いやいや、それは大事だ!娯楽こそ我々神仏の生きる糧なのだからな。ジンには悪いが、面白いならば仕方がないのぅ?」

 

「………!!?……………!??」

 

白夜叉の悪戯っぽい横顔に、声にならない悲鳴を上げるジン。白夜叉は両手を前に出し、パンパンと柏手を打つ。

 

「―――ふむ。これでよし。これで御望み通り、北側に着いたぞ」

 

「「「―――………は?」」」

 

素っ頓狂な声を上げる三人。980000kmというお馬鹿な距離を、今の僅かな時間で―――? という疑問は一瞬で過ぎ去り、次の瞬間、三人は期待を胸に店外へ走り出した。

 

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