神であり魔王である者も異世界から来るそうですよ?   作:ケミ

22 / 27
第22話 鬼ごっこ

―――東と北の境界壁。

四◯○○○○○外門・三九九九九九九外門、サウザンドアイズ旧支店。

 

三人が店から出ると、熱い風が頬を撫でた。この支店は高台にあるらしく、街の一帯が一望できる。眼下に広がる街は、赤壁と炎とガラスの街。昼間にも拘わらず街全体は黄昏時を思わせる。胸の高まりが静まらない飛鳥は、美麗な街並みを指さして熱っぽく訴える。

 

「今すぐ降りましょう!あのガラスの歩廊に行ってみたいわ!いいでしょう白夜叉?」

 

「ああ、構わんよ。続きは夜にでもしよう。暇があればこのギフトゲームにも参加していけ」

 

ゴソゴソと着物の袖から取り出したゲームのチラシ。三人がチラシを覗き込むと、

 

()()()()()―――のですよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

ズドォン!! と、ドップラー効果の効いた絶叫と共に、爆撃の様な着地。大声の主は我らが同士・黒ウサギ。

 

「ふ、ふふ、フフフフ………!ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方………!」

 

淡い緋色の髪を戦慄かせ、怒りのオーラを振りまく黒ウサギ。まるで仁王のような黒ウサギに危機を感じた問題児。真っ先に動いた十六夜は飛鳥を抱きかかえる。

 

「逃げるぞッ!!」

 

「逃がすかッ!!」

 

「え、ちょっと、」

 

十六夜と飛鳥は展望台から飛び降りて逃走。空に逃げようとした耀を黒ウサギは大ジャンプで捕まえる。

 

「わ、わわ、……!」

 

「耀さん、捕まえたのです!!もう逃がしません!!!」

 

どこかぶっ壊れ気味に笑う黒ウサギは、耀を引き寄せ胸の中で強く抱きしめて耳元で囁く。

 

「後デタップリ御説教タイムナノデスヨ。フフフ、御覚悟シテクダサイネ♪」

 

「りょ、了解」

 

反論を許さないカタコトの声に、耀は怯えながら頷く。今日の黒ウサギは普段よりバイオレンスだと、野生の直感が見抜いたのだろう。着地した黒ウサギは、白夜叉に向かって耀を投げつける。三回転半して吹っ飛んだ耀と白夜叉は悲鳴を上げた。

 

「きゃ!」

 

「グボハァ!お、おいコラ黒ウサギ!最近のおんしは些か礼儀を欠いておらんか!?コレでも私は東側のフロアマスター―――!」

 

「耀さんの事をお願い致します!黒ウサギは他の問題児様を捕まえに参りますので!」

 

「ぬっ………そ、そうか。良く分からんが頑張れ黒ウサギ」

 

「はい!」

 

展望台からジャンプする黒ウサギ。それと同時に天真達が転移してきた。

 

「あれ?少し遅かった?」

 

「だから言ったのだ!歩くのが遅いと」

 

レティシアが天真に文句を言っている。ばつが悪い天真は視線を逸らす。すると、座り込んだ白夜叉に寄りかかっている耀を見つけた。

 

「何やってんの?」

 

「………黒ウサギに投げられた」

 

「耀は捕まったってわけか。十六夜と飛鳥は何処に行った?」

 

耀は無言で眼下に見えるガラスの歩廊を指さす。それを見た天真は呟く。

 

「北側は綺麗なところだな。東側よりも面白そうなものがありそうだ」

 

それを聞いた白夜叉が拗ねるように口を尖らせて抗議する。

 

「………むっ?それは聞き捨てならんぞ天真。東側だっていいものは沢山あるっ。おんしらの住む外門が特別寂れておるだけだわいっ」

 

白夜叉の抗議を聞き流しながら、天真はいきなりレティシアをお姫様抱っこする。

 

「て、天真!?何をするのだ!?」

 

レティシアが顔を真っ赤に染めて腕の中で暴れる。

 

「危ないって。これから飛び降りるからしっかり捕まってて」

 

「私は一人でも降りられるから!放してくれ!」

 

「俺が離れたくないから却下。それとも抱えられるの嫌?」

 

「そ、それを言うのは狡いな。断れないではないか」

 

レティシアの抵抗が収まったところで、耀と白夜叉に向かって言う。

 

「それじゃあ、飛鳥と十六夜を追うね」

 

言い終わると同時に天真は空中に踊り出るのだった。

 

―――東北の境界壁・自由区画・商業区。赤窓の歩廊。

 

天真とレティシアは手を繫いで街を歩きながら色々なものを見ていた。

 

「思っていた以上に色んなものがあるね」

 

「そうだな。やはりガラス細工が一番多い」

 

色取り取りのガラス細工があり、見ているだけでも楽しい。歩いていると天真の世界にあった食べ物を見つけた。

 

「ここにもクレープがあるんだ」

 

「天真の居た世界にもあったのか?」

 

「うん。俺はチョコのクレープが好きだったんだよね」

 

「ふふ、そうか。では私が買って行こう」

 

「いいよ、別に」

 

「いや、私が買いたいんだ。天真は待っててくれ」

 

そう言ってレティシアは走り出していった。天真はレティシアの言葉に嬉しくなった。自分も何か買ってあげたいと天真が周りを見渡すと、一つのアクセサリー店が目に入った。商品を買った後レティシアが戻ってくる。

 

「すまない、遅くなって」

 

「大丈夫だよ。全然待っていないから。そうそう、レティシアに渡したい物があるんだ」

 

「これは………?」

 

「プレゼントだよ」

 

「!ありがとう!」

 

レティシアはプレゼントを開ける。天真が買ってきたのは赤いスフェーンの指輪だ。スフェーンの石言葉は『永久不変』。天真は「永久不変に君を愛すから俺から離れるな」とでも言いたいのだろうか。

 

「!?これは………!」

 

「指輪だよ。レティシアの綺麗な赤い目に合わせてみたんだ」

 

「天真が嵌めてくれないのか?」

 

潤んだ目のレティシアが上目遣いで天真を見つめる。天真は左手の小指に指輪を嵌めた。

 

「―――!似合ってるよ、レティシア」

 

「むぅ………ありがとう」

 

薬指では無かったことが不服なのか、頬を紅く染めながらも少し拗ねたように御礼を言うレティシア。そして天真はレティシアからクレープを受け取り食べながら歩き始める。

 

「久しぶりに食べるクレープはうまいな」

 

「そうだな」

 

「ほら、口にクリームが付いているよ」

 

「ん………すまない」

 

顔を紅くするレティシア。周囲からの視線がとても痛い。特に男性。恨めしそうな顔で殺気を飛ばしてこないで欲しいよ。レティシアがふと声を上げる。

 

「おや?あれは………」

 

「えっ?ああ、十六夜達だね」

 

遠くの方に十六夜達が歩いているのが見えた。十六夜と飛鳥が何か喋っているようだ。会話を聞こうと思えば風を操って聞くことが出来るが、和気藹々と話しているところに盗み聞きは無粋だと思いやめた。驚いたことにそこには黒ウサギも参加していた。

 

「天真、少しクレープを持っていてくれ」

 

「了解」

 

黒ウサギに気が付いたのか十六夜が逃げ出し、飛鳥が十六夜の反対方向に逃げようとしたところをレティシアが捕まえる。

 

「きゃ!」

 

「フフ。観念してもらうぞ飛鳥」

 

仕方なさそうに降参して両手を上げる飛鳥。そして十六夜に向かって叫ぶ。

 

「十六夜君!貴方が最後の一人よ!簡単に捕まったら許さないわ!」

 

「了解、任せとけお嬢様!」

 

ヤハハハハハハ!と叫びながら赤窓の歩廊を走り抜ける。逃げる十六夜を全力で追いかける黒ウサギ。

 

「逃がさないのですッ!!今日という今日は堪忍袋が爆発しました!捕まえたら黒ウサギの素敵なお説教を長々と聞かせて差し上げるのですよーッ!」

 

建造物を駆け上っていく十六夜達を見送った後、飛鳥を加えた天真達は歩き出す。飛鳥は、天真の持っているクレープを珍しそうに見つめて言う。

 

「天真君が持っているスイーツは何かしら?」

 

天真が不思議そうに聞く。

 

「飛鳥はクレープを知らないの?」

 

「え、ええ。温かい皮を包んで、中身は冷たい洋菓子。とても美味しそうなんだけど………そのまま齧り付くというのは少し品が無いわ。どう頑張っても口回りが汚れるもの」

 

「そうかな?私はこの温かくて柔らかい皮を嚙み破いた時に溢れる赤くて甘いドロリとしたソースが、口の中で滑りながら広がる感触が好きなのだが」

 

「吸血鬼に言われるとゾッとするわね」

 

「レティシア、それは狙って言っているの?」

 

天真の言葉に小首を傾げるレティシア。どうやら自覚が無いらしい。

 

「天真君の時代にはクレープはあったの?」

 

「勿論、あったよ。学校帰りの女子高生がよく買っていたよ。多分十六夜の時代にもあるはずだよ」

 

「まあ、箱庭の外から来た人間の殆どが飛鳥の様な反応をするものだ。故郷とはかけ離れた食文化、建築物、思想、種族etc……だがそういったものを全て愉しんでこその箱庭だ。食べず嫌いは良くないぞ?人生経験は大いなる財産だ」

 

「わ、分かったわ」

 

天真が買ってきたクレープを、飛鳥は大きく口を開けてクレープに齧り付く―――が、思い切りが良すぎた。クレープの皮の下からバナナとチョコレートムースが派手に溢れて口の周りにベットリとこびり付く。一瞬だけ不快そうな顔をした飛鳥だったが、指で口の周りを拭き、ペロリと舐めて頷く。

 

「………美味しいわ」

 

飛鳥がクレープを堪能していると、遠くの方で爆発音らしき大きな音が響き渡る。

 

「な、何かしら?」

 

「………十六夜と黒ウサギがいる方向だね。大方、十六夜が建物を破壊したとかだろうね」

 

十六夜と黒ウサギの様子が気になった天真は、見に行くことにした。

 

「レティシア、俺は音のあった方に行くよ。残った俺のクレープは食べてもいいからね!」

 

「分かった。気を付けてな天真」

 

レティシアにクレープを渡し天真は音の発生源に向かう。天真から渡されたクレープを食べようとしたレティシアは間接キスだと気が付き、彼の食べかけのクレープを顔を紅くしながら食べていた。

 

音の発生源に向かうと倒壊した時計塔が見えた。周囲は瓦礫が散乱して酷い有様だ。十六夜と黒ウサギはお互いを摑み合っている状態だった。

 

「あー………コレは、アレです。引き分けなので、お互いに命令権を一つ得たみたいです」

 

「そんな事はどうでもいい。腹の底からどうでも」

 

「本当にどうでもいいよ」

 

「て、天真さん?」

 

「君達さあ、何したか分かっているの?時計塔壊したりして、誰が直すと思っているんだよ」

 

「そこまでだ貴様ら!!」

 

周りを見ると炎の龍紋を掲げる蜥蜴の鱗を肌に持つ集団―――“サラマンドラ”のコミュニティの者達が天真達を取り囲んでいた。天真は片手で頭を押さえながら、事をしでかしてくれた十六夜と黒ウサギを睨み、両手を上げて降参するのだった。

 




スフェーンとは、和名をくさび石という宝石の一つです。ダイヤモンドを凌ぐ分散度を持つため、非常に煌びやかに見えるそうです。本文でも書いた通り、石言葉は『永久不変』という意味です。
左手の小指には、チャンスを引き寄せるパワー・新たな出会いや恋人、愛を呼び込むパワーを持つと言われています。このことから、「願いを叶える」という意味も込められているそうですよ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。