神であり魔王である者も異世界から来るそうですよ?   作:ケミ

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第23話 一触即発

「随分と派手にやったようじゃの、おんしら」

 

「ああ。ご要望通り祭りを盛り上げてやったぜ」

 

「胸を張って言わないで下さいこのお馬鹿様!!!」

 

「ホントだよ。誰が修理したと思っているんだよ」

 

スパァーン!と黒ウサギが十六夜の頭をハリセンで叩く。その後ろでジンは痛い頭を抱え、天真は疲れ果てた顔をしていた。天真達は連行された後、運営本陣営の謁見の間に連れてこられた。ジンと同い年と聞いた、北のフロアマスターであるサンドラの側近らしき軍服姿の男が天真達を睨み、高圧的に見下す。

 

「ふん!“ノーネーム”の分際で我々のゲームに騒ぎを持ち込むとはな!相応の厳罰は覚悟しているか!?」

 

「これマンドラ。それを決めるのはおんしらの頭首、サンドラであろ?」

 

白夜叉がマンドラと呼ばれた男を窘める。サンドラは豪奢な玉座から立ち上がり、天真達に声を掛ける。

 

「“箱庭の貴族”とその盟友の方々。此度は“火龍誕生祭”に足を運んでいただきありがとうございます。貴方達が破壊した建造物の一件ですが、建造物は修繕され、負傷者は奇跡的に無かったようなので、この一件に関して私からは不問とさせて頂きます」

 

チッ、と舌打ちをするマンドラ。

 

「へえ?太っ腹な事だな」

 

「少しは反省した素振りを見せろ」

 

「いてっ!」

 

天真が全然反省してない十六夜の頭を叩く。

 

「うむ。おんしらは私が直々に協力を要請したのだからの。何より怪我人が出なかったことが幸いした。路銀は報酬の前金とでも思っておくが良い」

 

ほっと胸を撫で下ろす黒ウサギ。

 

「………ふむ。いい機会だから、昼の続きを話しておこうかの」

 

白夜叉が連れの者達に目配せをする。サンドラも同士を下がらせ、側近のマンドラだけが残る。サンドラは人が居なくなると、硬い表情と口調を崩し、玉座を飛び出してジンに駆け寄り、年相応の少女っぽく愛らしい笑顔を向けた。

 

「ジン、久しぶり!コミュニティが襲われたと聞いて随分と心配してした!」

 

「ありがとう。サンドラも元気そうでよかった」

 

「ふふ、当然。魔王に襲われたと聞いて、本当はすぐに会いに行きたかったんだ。けどお父様の急病や継承式のことでずっと会いに行けなくて」

 

「それは仕方ないよ。だけどあのサンドラがフロアマスターになっていたなんて―――」

 

「その様に気安く呼ぶな、名無しの小僧!!!」

 

ジンとサンドラが親しく話していると、突如マンドラが叫ぶ。マンドラは帯刀していた剣をジンに向かって抜く。ジンの首筋に触れる直前、天真が剣をつかむ。その視線は冷たく、瞳は笑っていない。

 

「………どういうつもりだ?止める気無かっただろオマエ」

 

「当たり前だ!サンドラはもう北のマスターになったのだぞ!誕生祭も兼ねたこの共同祭典に“名無し”風情を招き入れ、恩情を掛けた挙げ句、馴れ馴れしく接っされたのでは“サラマンドラ”の威厳に関わるわ!この“名無し”のクズが!」

 

「実力差も理解できずに“名無し”とこちらを蔑むなんてな。所詮はその程度か」

 

「何だと!!」

 

睨み合う天真とマンドラに、慌ててサンドラが止めに入る。

 

「マ、マンドラ兄様!彼らはかつての“サラマンドラ”の盟友!此方から一方的に盟約を切った挙げ句にその様な態度を取られては、我らの礼節に反する!」

 

「礼節よりも誇りだ!その様な事を口にするから周囲から見下されるのだと、」

 

「これマンドラ。いい加減下がれ」

 

呆れた口調で諌める白夜叉。しかし尚も食ってかかり、睨み返すマンドラ。

 

「“サウザンドアイズ”も余計な事をしてくれたものだ。同じフロアマスターとはいえ、越権行為にも程がある。『南の幻獣・北の精霊・東の落ち目』とはよく言ったもの。此度の噂も、東が北を妬んで仕組んだ事ではないのか?」

 

「マンドラ兄様ッ!!いいかげ―――ッ!?」

 

サンドラは見かねて叱りつけようとする最後まで言えなかった。尋常では無い重圧がこの空間に掛かっている事に気が付いたためだ。その発生源はもちろん天真だ。

 

「さすがに口が過ぎると思うな。ジンの事までならまだ許せた。けど白夜叉まで侮辱されたらね」

 

天真の双眸がマンドラを捉えたまま離さない。虚空を見つめる漆黒の瞳にマンドラはたじろぐ。

 

「そ、それが何だと言―――」

 

「黙れ」

 

静かな、しかしそれでいて有無を言わさない天真の声音に皆が口を閉じる。

 

「“ペルセウス”の一件は耳にしているよな。“サラマンドラ”も同じようになりたくなかったら、即時その言葉を撤回しろ」

 

「そこまでだ!双方、矛を収めよ!」

 

白夜叉の一喝が謁見の間に響く。天真が主催者権限を使うことを危惧したのだろう。

 

「天真よ、私のために怒ってくれた事は素直に感謝する。だが、最後に主催者権限を使おうとしたのは見逃せないぞ」

 

「………そいつが言葉を撤回すればいいだけの話だ。元はそいつの失言が原因だからな」

 

「マンドラよ、今“ノーネーム”と敵対することは得策ではないぞ。言葉を撤回した方が身のためだ」

 

「たかが“名無し”に撤回する言葉は無い!」

 

「身のためだと私は言ったぞ。それともおんしは神霊と敵対することが望みだと言うのか?」

 

「神霊だと?そいつが神霊だと言うのか?あり得んな。神霊が“名無し”に加担するとは考えられん」

 

無言でギフトカードを取り出す天真。そこに書かれているギフトネームを読み上げる。

 

「“嵐を司る者(バアル)”“ 暴食を司る者(ベルゼブブ)”“ 虚無の地平にいる者(アザトース)”。これでもまだ神霊では無いと、俺と敵対すると言うのか」

 

「………すまなかった。先ほどの言葉を撤回させてもらう」

 

「双方これでよいな?」

 

マンドラは嫌々ながら頷き、天真は首肯する。場が落ち着き、十六夜が思い出したように白夜叉に聞く。

 

「おい、噂って何のことだ?俺達に協力して欲しいことと関係があるのか?」

 

白夜叉は全員の顔を見回した後、一枚の封書を取り出した。

 

「この封書に、おんしらを呼び出した理由が書いてある。………己の目で確かめるがいい」

 

怪訝な表情のまま十六夜は手紙を受け取り、内容に眼を通す。

 

「―――――………、」

 

十六夜の顔から軽薄な笑みが消えている事を不思議に思った黒ウサギは、十六夜の後ろに立つ。

 

「十六夜さん………?何が書かれているのですか?」

 

「自分で確かめな」

 

珍しく抑揚のない声音の十六夜は、黒ウサギに手紙を渡す。其処には只一文、こう書かれていた。

 

『火龍誕生祭にて、“魔王襲来”の兆しあり』

 

「………なっ、」

 

黒ウサギは絶句し、呻き声の様な声を漏らす。次に確認したジンと天真も同様だ。十六夜は無表情に白夜叉へ問い返した。

 

「正直意外だったぜ。てっきりマスターの跡目争いとか、そんな話題だと思ったんだがな?」

 

「何ッ!?」

 

牙を剥くマンドラを慌てて窘めるサンドラ。天真は二人を無視して白夜叉に聞く。

 

「この文の信憑性はどのくらいあるの?」

 

「上に投げれば下に落ちる、という程度だな」

 

「それは………」

 

天真は口を噤む。上に投げれば下に落ちる………つまり、“誰が投げた”も“どうやって投げた”も“何故投げた”も解っているということだ。それなら必然的に“何処に落ちてくるのか”も推理することができるということを、天真は理解したからだ。

 

「なるほど。今回の一件で、魔王が火龍誕生祭に現れる為、策に弄した人物が他にいる―――その人物は()()()()()()()()()()()()()()()ってことなのか?」

 

十六夜の言葉にジンはハッと声を漏らす。

 

「まさか………他のフロアマスターが、魔王と結託して、“火龍誕生祭”を襲撃すると!?」

 

「まだわからん。この一件はボスから直接の命令でな。………しかし、サンドラの誕生祭に北のマスター達が非協力的だった事は認めねばなるまいよ。もし北のマスターが、“魔王襲来”に深く関与しているのであれば………これは大事件だ」

 

深刻そうに言う白夜叉。ジンと黒ウサギも絶句している。そんな三人を見て十六夜が疑問の声を上げる。

 

「それ、そんなに珍しいことなのか?」

 

「お、おかしなことも何も、最悪ですよ!フロアマスターは魔王から下位のコミュニティを守る、秩序の守護者!魔王という天災に対抗できる、数少ない防波堤なんですよ!?」

 

「けど所詮は脳味噌のある何某だ。秩序を預かる者が謀をしないなんてのは、幻想だろ?」

 

一瞬、十六夜は冷めたような笑いを浮かべる。天真も十六夜の言葉通りに考えていた。十六夜のいた世界は、天真の世界とさほど変わらないのだろう。秩序や政を預かる者が道を踏み外すことなど、さほど珍しい話ではない、と。

 

「なるほど、一理ある。しかしなればこそ、我々は秩序の守護者として正しくその何某を裁かねばならん」

 

「けど目下の敵は、予言の魔王。ジン達には魔王のゲーム攻略に協力して欲しいんだ」

 

サンドラの言葉に、合点がいったという顔で一同は頷く。魔王襲来の予言があった以上、これは新生“ノーネーム”の初仕事でもある。

 

「分かりました。“魔王襲来”に備え、“ノーネーム”は両コミュニティに協力します」

 

「うむ、すまんな。協力する側のおんしらにすれば、敵の詳細が分からぬまま戦うことは不本意であろう。………だが分かって欲しい。今回の一件は、魔王を退ければよいというだけのものではない。これは箱庭の秩序を守るために必要な、一時の秘匿。主犯には何れ相応の制裁を加えると、我らの双女神の紋に誓おう」

 

「“サラマンドラ”も同じく。―――ジン、頑張って。期待してる」

 

「分かったよ」

 

ジンは緊張しながら頷く。白夜叉は硬い表情を一変させ、哄笑を上げた。

 

「そう緊張せんでもよいよい!魔王はこの最強のフロアマスター、白夜叉様が相手をする故な!おんしらはサンドラと露払いをしてくれればそれで良い。大船に乗った気でおれ!」

 

双女神の紋の扇を広げ呵呵大笑する。しかし十六夜と天真は不満そうな顔をしていた。それを見た白夜叉は、口元を扇で隠しながら苦笑し口を開く。

 

「やはり露払いは気に食わんか、小僧共」

 

「いいや?本物の魔王ってのがどの程度か知るにはいい機会だしな。今回は露払いでいいが―――別に、()()()()()()()()()()魔王を倒しても、問題は無いよな?」

 

十六夜は挑発的な笑みを浮かべる。

 

「そうだね。むしろ白夜叉の手を借りる必要も無いと思うよ?」

 

十六夜と天真の言葉に、白夜叉は呆れた笑いで返す。

 

「よかろう。隙あらば魔王の首を狙え。私が許す」

 

その後、天真達は謁見の間で魔王が現れた際の段取りを決めて解散した。

 

 

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