―――境界壁・上空2000m地点。遥か上空、境界壁の突起に四つの人影があった。
「プレイヤー側で相手になるのは………“サラマンドラ”のお嬢ちゃんを含めて四人ってところかしらね、ヴェーザー?」
「いや、三人だな。あのカボチャは参加資格がねえ。特にヤバいのは吸血鬼と火龍のフロアマスター。―――あと事のついでに、偽りの“ラッテンフェンガー”も潰さねえと」
露出の多い布の少ない白装束を纏い、二の腕程の長さのフルートを弄ぶ女の質問に答えるのは、対照的に黒い軍服を着た、短髪黒髪のヴェーザーと呼ばれた男だ。白装束の女のフルートに対し、ヴェーザーが持っているのは身長と同等の笛であり、楽器としては明らかに常軌を逸した長さだった。
そして三人目は、外見が既に人ではない。陶器の様な材質で造られた滑らかなフォルムと、全身に空いた風穴は、まるで擬人化した笛のようにみえる。顔面に空いた特に巨大な風穴は、絶えず不気味な鳴動を周囲に放っていた。
その三体に挟まれる形で佇む、白黒の斑模様のワンピースを着た少女。斑模様の少女は三体の顔を一度見回し、無機質な声で宣言する。
「―――ギフトゲームを始めるわ。貴方達は手筈通り御願い」
「おう、邪魔する奴は?」
「殺していいよ」
「イエス、マイマスター♪」
*
最初の変化は本陣営のバルコニーから始まった。突如として白夜叉の全身を黒い風が包み込み、彼女の周囲を球体に包み込んだのだ。
「な、何ッ!?」
「白夜叉様!?」
サンドラは白夜叉に手を伸ばすが、バルコニーに吹き荒れる黒い風に阻まれる。黒い風は勢いを増し、白夜叉を除く全ての人間を一斉にバルコニーから押し出した。
「きゃ………!」
「お嬢様、摑まれ!」
空中に投げ出された十六夜は、すぐさま飛鳥を抱え着地する。
「ちっ。“サラマンドラ”の連中は観客席に飛ばされたか」
十六夜は舞台袖から出てきたジン達を確認し、黒ウサギに振りむく。
「魔王が現れた。………そういうことでいいんだな?」
「はい」
黒ウサギの真剣な表情にメンバー全員に緊張が走る。十六夜は真剣な表情で黒ウサギを見る。
「白夜叉の“主催者権限”が破られた様子は無いんだな?」
「はい。黒ウサギがジャッジマスターを務めている以上、誤魔化しは利きません」
「なら連中は、ルールに則った上でゲーム盤に現れているわけだ。………ハハ、流石は本物の魔王様。期待を裏切らねえぜ。………天真は何処だ?」
「天真さんですか?………いました!“サラマンドラ”の方達と観客席に飛ばされたようですね。避難誘導しています」
十六夜は観客席の方に目を向ける。魔王が現れた割に喧噪が無かったのは、天真が観客達を混乱させないように誘導していたからだ。
「どうするの?ここで迎え撃つ?」
「ああ。けど全員を迎え撃つのは具合が悪い。それに観客席に飛ばされた“サラマンドラ”の連中も気になる。天真はいるが………誘導がある程度終わったら魔王のところに行くだろうからな」
「では黒ウサギがサンドラ様を捜しに行きます。その間は十六夜さんとレティシア様の二人で魔王に備えてください。ジン坊っちゃん達は白夜叉様をお願いします」
「分かったよ」
レティシアとジンは頷く。
「お待ちください」
一同が声の方向に振り向く。そこにいたのは“ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャとジャックだ。
「おおよその話は分かりました。魔王を迎え撃つというなら我々“ウィル・オ・ウィスプ”も協力しましょう。いいですね、アーシャ」
「う、うん。頑張る」
緊張しながらもアーシャは頷く。
「では御二人は黒ウサギと一緒にサンドラ様を捜し、指示を仰ぎましょう」
避難していた観客が悲鳴を上げたのは、その直後だった。
「見ろ!魔王が降りてくるぞ!」
上空から人影が落下してくる。十六夜は両拳を強く叩き、レティシアに向かって叫ぶ。
「んじゃいくか!黒い奴と白い奴は俺が、デカイのと小さいのは任せた!」
「了解した」
レティシアは返事をし、十六夜は嬉々として身体を伏せ、舞台会場を砕く勢いで境界壁に向かって跳躍した。
「何ッ!」
落下途中のヴェーザーから驚きの声が上がる。ヴェーザーの前に現れた十六夜は、第三宇宙速度を遙かに凌駕した速度で境界壁に叩きつける。
「き、貴様ッ!?」
「会いたかったぜ魔王様。俺にも一曲恵んでくれよ」
ヴェーザーの顔面を岩壁に押しつけながら十六夜が水平に断崖を走る。
「舐めるな、この糞ガキ!!」
ヴェーザーが笛を一振りすると、境界壁の岩壁はさながら生き物のように蠢き始めた。その様子に十六夜は足を止め、ヴェーザーは十六夜の手から逃れる。陶器でできた巨兵と斑模様のワンピースを着た少女は十六夜とヴェーザーを横目にそのまま落下し、白装束の女は岩壁に摑まって叫ぶ。
「ヴェーザー!早く片付けなさいな!」
「あぁ?ならお前の笛の音で捕まえりゃいいだろうが。そっちの方が早いだろ」
白装束の女はフルートに唇をあてる。奏でられる不協和音を聞いた眼下に見える観客達は、眩暈を起こしたように膝をつき始めた。しかし十六夜は涼やかな顔で立ったままだ。
「へえ……?今の音色が魔笛か。ならもしかして、その女が本命の“
「コ、コイツ………!私の音色が効いてないの………!?」
「ラッテン、お前は先に降りてろ。マスターを一人にしたら皆殺しにしちまうからな」
ラッテンと呼ばれた女は舌打ちしながら飛び降りる。それを十六夜は追う姿も見せずに見逃す。
その後、十六夜は相手の魔王達が“ハーメルンの笛吹き”の伝承に基づく仮定から生まれた、一三○人の子供達の死因を霊格化した悪魔であることを看破する。さらに、クリア条件からハーメルンの事件の真相を暴く、という限りなく正解に近い答えを導き、魔王会いたさに異世界から来たと言う。それを聞いたヴェーザーは驚愕したが、自分は魔王では無く只の木っ端悪魔だと言う。そして、二人の激闘が始まった。
一方のレティシアは、落下してきた陶器の巨兵と斑模様のワンピースを着た少女と対峙していた。
「BRUUUUUUUUUUM!!」
「くっ………!」
陶器の巨兵の奇声に応じて鳴動する大気。地上に起きた乱気流の渦が、周囲の瓦礫を吸収し始める。翼を広げて空中を舞っていたレティシアは、劣勢を騙りながら情報収集していた。数多のゲームを乗り越えてきた彼女は、魔王のゲームではどんな些細な情報でも有益だと知っているからだ。相手が油断した隙に、翼を畳んで急加速したレティシアは二人の懐に攻め込んだ。金と黒で装飾されたギフトカードから長柄の槍を取り出し、疾風の如き一刺しで斑模様の少女の胸を貫く。
「やったか―――!?」
「やってないわ」
抑揚のない声で返す斑模様の少女。レティシアの突き出した槍は斑模様の少女の身体を持ち上げただけに留まり、槍の尖端は拉げていた。斑模様の少女は無造作に槍を摑んでレティシアを引き寄せると、その手から黒い風を発生させてレティシアを捕縛する。黒く、温く、不気味に蠢く生物的な黒い風は、徐々にレティシアの意識を蝕む。斑模様の少女はレティシアの胸倉と顎を摑んで薄い微笑を浮かべる。
「痛かった。凄く痛かった。だけど許してあげる。………貴女はいい手駒になりそう」
「易々と手駒にさせると思う?」
不意に背後から斑模様の少女に声が掛かる。斑模様の少女はその場を離れようとしたが、一歩遅かった。無防備な背中を強かに殴られ、レティシアの拘束が緩む。その隙に声の主はレティシアを引き寄せ、優しく抱きかかえる。
「もう大丈夫だよ」
「その声は天真か!」
喜色の混じった声で天真の名を呼ぶレティシア。レティシアに微笑みながら、天真は全身に力が入らないレティシアを地面に下ろす。その間に体勢を立て直した斑模様の少女が問いかける。
「貴方は誰?」
「“ノーネーム”所属の潺天真だよ。よろしくね、
「………!?」
天真の言葉に驚愕する斑模様の少女。まさか出会った直後に名前を見抜かれるとは思ってもみなかったのだろう。それも“ノーネーム”という名も無いコミュニティに所属している者に。
「………なぜ私がペストだと分かったの?」
「少し考えたら分かったよ。軍服の男はヴェーザーと名乗り、白装束の女はラッテンと名乗った。そこの巨兵はシュトロムと呼ばれていた。つまり、君達は“ハーメルンの笛吹き”の伝承に基づく仮定から生まれた、一三○人の子供達の死因を霊格化した悪魔。そして、斑模様の道化であったことと、黒死病を媒介したネズミを操る道化であったことから、“一三○人の子供達は黒死病で亡くなった”という考察がある。後は連想するだけ。君は斑模様のワンピースを着ていて、黒死病を思わせる黒い風を発生させることができる。ペストだと確信できるものが揃っていたからね」
「ふぅん………ねえ貴方、“グリムグリモワール・ハーメルン”の傘下に降らない?」
「遠慮しとくよ。俺には守るべき人がいるからな」
「あら残念。なら力尽くで奪ってあげるわ」
「やれるものならね」
天真とペストがぶつかり合う寸前、激しい雷鳴が鳴り響く。一同は動きを止め、雷鳴が鳴り響いた方を見ると黒ウサギがいた。黒ウサギが輝く三叉の金剛杵・“
「“審判権限”の発動が受理されました!これよりギフトゲーム“The PIED PIPRE of HAMELIN”は一時中断し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返します―――」
書き溜めていた分を出し切りました。新学期も始まり、非常にリアルがバタバタしています。なのでこれから更新ペースが落ちます。
更新は、10:00 か 20:00 のどちらかにします。
これからも応援していただければ嬉しいです。