神であり魔王である者も異世界から来るそうですよ?   作:ケミ

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第4話 世界の果てへ

天真と十六夜は森を駆けていた。雑談をしながら走っていると、大河の岸辺に出た。

 

「「おぉ!」」

 

“トリトニス大河”の雄大な景色に目を奪われた。世界の果てはすぐそこのようだ。十六夜と歩いていると、巨大な蛇の試練に巻き込まれた。

 

「十六夜、俺は疲れたから一人で頑張ってくれ」

 

まだギフトの制御が甘い天真は、ここに来るまでに体力を半分くらい消耗していた。なので、元気が有り余っている十六夜に押しつけた。十六夜がまるで遊んでいるように大蛇と戦っていると、髪色を淡い緋色にした黒ウサギが到着した。

 

「あ、やっと来た。案外早かったね」

 

天真がそう言うと、

 

「案外早かったね、じゃありません!もう、一体何処まで来ているんですか!?」

 

「“世界の果て”まで来ているんですよ」

 

「しかしいい脚だな。遊んでいたとはいえこんな短時間で俺達に追いつけるとは思わなかった」

 

「むっ、当然です。黒ウサギは“箱庭の貴族”と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが」

 

(黒ウサギが………半刻以上もの時間、追いつけなかった………?)

 

黒ウサギは首を傾げる。しかし今は、十六夜達に怪我がないことに黒ウサギは安心した。

 

「ま、まぁ、それはともかく!十六夜さん達が無事でよかったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」

 

「水神?――――ああ、()()のことか?」

 

十六夜は水面に浮かぶ白い大蛇を指差す。そして、黒ウサギが状況を理解する前に大蛇が動き出し、

 

『まだ………まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!』

 

「蛇神………!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか御二方!?」

 

「俺は手を出していないよ。全部十六夜のせいだ」

 

「おい天真、それはひどくねえか?オマエもそこでうたた寝とかしていただろうが!十分に挑発行為だろ!まあ、八割方俺のせいなのは否定しないけどな。なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか、上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ。結果はまあ、残念な奴だったが」

 

『貴様ら………付け上がるな人間!我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

「十六夜さん、下がって!」

 

黒ウサギは庇おうとするが、十六夜の鋭い視線はそれを阻む。

 

「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺が()()()、奴が()()()喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」

 

十六夜の本気の殺気が籠もった声音に黒ウサギは驚き、始まってしまったゲームには手出しできないと気づいて歯嚙みする。その言葉に蛇神は息を荒くして応える。

 

『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様の勝利を認めてやる』

 

「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。()()()()()()()()()()()()

 

『フン―――その戯言が貴様の最期だ!』

 

蛇神が叫び、嵐のように川の水が巻き上がる。竜巻のように渦を巻いた水柱は、蛇神の背丈を遙かに超える。それが計三本。それぞれが生き物のように十六夜に襲いかかる。まさに“神格”のギフト保持者に相応しい力だ。

 

「十六夜さん!」

 

黒ウサギが叫ぶが、水柱は容赦なく十六夜を呑み込む。

 

「―――ハッ―――しゃらくせえ!!」

 

十六夜は三本の水柱のうち二本を、ただの腕の一振りでなぎ払った。

 

「嘘!?」

 

『馬鹿な!?』

 

驚愕する二つの声。に、呆れ気味な声が一つ。

 

「おいおい、勘弁してくれよ。十六夜なら全部なぎ払えるだろ?」

 

「ヤハハ!天真にも見せ場を、ってな」

 

「余計なお世話だ」

 

十六夜が故意に残した水柱が天真と黒ウサギを襲う。

 

「天真さんは下がってください!」

 

「十六夜が俺の力を見たいって言っているから、黒ウサギは見てな」

 

危険が迫っているのに、やる気が感じられない天真に黒ウサギは焦った。しかし、今からではもう間に合わない。黒ウサギは最悪を想定したが、目の前の展開に思わず目を疑った。天真が触れた水柱は忽然と姿を消したのだ。

 

「まあ、こんなもんか。少し物足りないか?」

 

「『な………』」

 

黒ウサギと蛇神はまたも驚愕していた。十六夜も多少驚いたようだが、天真の

 

「早く決闘の終止符を打て」

 

の一言で、十六夜が蛇神の胸元に跳び込み、

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

轟音と共に空中高く打ち上げられた蛇神は、川に落下した。その衝撃で川が氾濫し、森が水で浸水した。蛇神との決闘で水に濡れた十六夜は、

 

「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代くらいは出るんだよな黒ウサギ」

 

冗談めかしたように言う十六夜の声は黒ウサギに届かない。彼女の頭の中はパニックでもうそれどころではなかったのだ。

 

(人間が………神格を倒した!?それも只の腕力で!?そんなデタラメが―――!)

 

「おい、どうした?ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」

 

「え、きゃあ!」

 

背後に移動した十六夜は黒ウサギの脇下から豊満な胸に、ミニスカートとガーターの間から脚の内股に絡むように手を伸ばしていた。押しのけて飛び退く黒ウサギは感動も忘れて叫ぶ。

 

「な、ば、おば、貴方はお馬鹿です!?二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」

 

「二百年守った貞操?うわ、超傷つけたい」

 

「お馬鹿!?いいえ、お馬鹿!!!」

 

疑問系から確定系に言い直して罵る。

 

「ま、今はいいや。後々の楽しみにとっとこう」

 

「さ、左様デスか」

 

十六夜さんは黒ウサギの天敵かもしれない、と黒ウサギは一瞬だけ遠い目をした。

 

「と、ところで十六夜さん。その蛇神はどうなさいます?というか生きています?」

 

「命までは取ってねえよ。戦うのは楽しかったけど、殺すのは別段面白くもないしな。“世界の果て”にある滝を拝んだら箱庭に戻るさ」

 

「ならギフトだけでも戴いておきましょう。ゲームの内容はどうあれ、十六夜さんたちは勝者です。蛇神様も文句はないでしょうから」

 

「あん?」

 

十六夜は怪訝な顔で黒ウサギを見つめ返す。黒ウサギは思い出したように補足した。

 

「神仏とギフトゲームを競い合う時は基本的に三つの中から選ぶんですよ。最もポピュラーなのが“力”と“知恵”と“勇気”ですね。力比べのゲームをする際は相応の相手が用意されるものなんですけど………十六夜さんはご本人を倒されましたから、きっと凄いものを戴けますよー。これで黒ウサギたちのコミュニティも今より力をつける事が出来ます♪」

 

その姿に、天真達は不自然さを覚えた。

 

「なぁ、十六夜。黒ウサギなんか焦ってる?」

 

「黒ウサギのコミュニティに関係あるんだろ。今から聞くところだ」

 

そう言うと、十六夜は黒ウサギに近づいた。

 

「どうしました、十六夜さん?」

 

「なあ、黒ウサギ。一つ聞いていいか?」

 

「どうぞどうぞ」

 

「オマエ、何か隠してるだろ?」

 

黒ウサギの表情が固まる。

 

「それは………言ったとおりです。十六夜さんたちにオモシロオカシク過ごしてもらおうかと」

 

「ああ、そうだな。俺も初めは純粋な好意か、もしくは与り知らない誰かの遊び心で呼び出されたんだと思っていた。俺は大絶賛“暇”の大安売りしていたわけだし、他の三人も異論が上がらなかったってことは、箱庭に来るだけの理由があったんだろうよ。だからオマエの事情なんて特に気にならなかったんだが―――なんだかな。俺たちには、黒ウサギが必死に見える」

 

黒ウサギは初めて動揺を表情に出した。瞳は揺らぎ、虚を衝かれたように見つめ返す。

 

「これは俺の勘だが。黒ウサギのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねえのか?だから俺達は組織を強化するために呼び出された。そう考えれば今の行動や、俺がコミュニティに入るのを拒否したときに本気で怒ったことにも合点がいく―――どうよ?一○○点満点だろ?」

 

「っ………!」

 

「黒ウサギ。そこで黙ったら認めているようなものだよ。俺達にはまだ他のコミュニティを選べる権利があるよね?他のとこに行ってもいいの?」

 

「や、だ、駄目です!いえ、待ってください!」

 

「だから待ってるだろ。ホラ、いいから包み隠さず話せ」

 

天真と十六夜は近くの岩場に腰掛ける。

 

「………話せば、協力していただけますか?」

 

「ああ。()()()()()()

 

「内容によるよ」

 

「………分かりました。それではこの黒ウサギもお腹を括って、精々オモシロオカシク、我々のコミュニティの惨状を語らせていただこうじゃないですか」

 

黒ウサギは内心自棄になって話す。

 

「まず私達のコミュニティには名乗るべき“名”がありません。よって呼ばれる時は名前の無いその他大勢、“ノーネーム”という蔑称で称されます」

 

「へえ………その他大勢扱いかよ。それで?」

 

「次に私達にはコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」

 

「ふぅん?それで?」

 

「“名”と“旗印”に続いてトドメに、中核を成す仲間たちは一人も残っていません。もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加できるだけのギフトを持っているのは一二二人中、黒ウサギとジン坊っちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」

 

「もう崖っぷちだな!」

 

「ホントですねー♪」

 

十六夜の冷静な言葉にウフフと笑う黒ウサギは、ガクリと膝をついて項垂れた。

 

「で、どうしてそうなったんだ?黒ウサギのコミュニティは託児所でもやってんのか?」

 

「いえ、彼らの親も全て奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災―――“魔王”によって」

 

「ま………マオウ!?」

 

十六夜の瞳はショーウィンドウに飾られる新しい玩具を見た子供の様に輝いていた。

 

「魔王!なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねえか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?」

 

「え、ええまあ。けど十六夜さんが思い描いている魔王とは差異があると………」

 

「そうなのか?けど魔王なんて名乗るんだから強大で凶悪で、全力で叩き潰しても誰からも咎められることの無いような素敵に不敵にゲスい奴なんだろ?」

 

「ま、まあ………倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属させることも可能ですし」

 

「へえ?」

 

「魔王は“主催者権限(ホストマスター)”という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断ることができません。私達は“主催者権限”を持つ魔王のゲームに強制参加させられ、コミュニティは………コミュニティとして活動していく為に必要な全てを奪われてしまいました」

 

「けど名前も旗印も無いというのは不便な話だな。何より縄張りを主張できないのは手痛いだろ。新しく作ったら駄目なのか?」

 

「か、可能です。ですが改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私たちは何よりも………仲間達が帰ってくる場所を守りたいのですから………!」

 

仲間の帰る場所を守りたい。それは黒ウサギの絶対に譲ることのできない本心だった。

 

「茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し………何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さん達のような、強大な力を持つプレイヤーに頼るほかありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか………!?」

 

「………ふぅん。魔王から誇りと仲間をねえ」

 

黒ウサギは頭を深く下げ懇願する。

 

(ここで断られたら………私達のコミュニティはもう………!)

 

唇を噛み返答を待っていた黒ウサギに届いたのは、あっさりとした十六夜の声だった。

 

「いいな、それ」

 

「―――………は?」

 

「HA?じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」

 

「え………あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございました?」

 

「そんな流れだったぜ。それとも俺がいらねえのか?失礼なこと言うと本気で余所行くぞ」

 

「だ、駄目です駄目です、絶対に駄目です!十六夜さんは私達に必要です!」

 

「素直でよろしい。ところで、さっきから黙っているけど天真はどうなんだ?」

 

「俺は元々協力するつもりだったよ。ただ、懸念が一つできた」

 

「懸念、でございますか?」

 

「あぁ、それが払拭されれば入るよ。だから、ゲームをしよう」

 

「えっ?」

 

すると、黒ウサギと十六夜の目の前に黒い羊皮紙が現れた。

 

「俺の試練にクリアできたらね?」

 

 

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