飛鳥たちと合流した十六夜たち。そこには黒ウサギの怒号が響いていた。
「な、なんであの短時間に“フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備をしている時間もお金もありません!」「一体どういう
「「「むしゃくしゃしてやった。今は反省しています」」」
「黙らっしゃい!!!」
口裏を合わせたような言い訳にウガー、とウサ耳を逆立てて激怒する黒ウサギ。
「まぁまぁ。見境なく喧嘩を売ったわけじゃないんだし。“フォレス・ガロ”の所業は俺でも喧嘩を売るよ。余りにも非道だ」
「天真さんまで。でも、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この“
「“
こっちのチップは、“罪を黙認する”というものだ。ゲーム以降もずっと口を閉ざし続けるということだ。
「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は………その、」
「そう。人質は既にこの世にいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんなに時間をかけたくないの」
「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされることも許せないの。ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まっているもの」
「ま、まあ………逃がせば厄介かもしれませんけれど」
「僕もガルドを逃したくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」
ジンも同調し、黒ウサギは諦めたように頷く。
「はぁ~………仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんか天真さんがいれば楽勝でしょう」
「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」
「個人的には参加したいけど、飛鳥が参加させてくれなさそうだからパスで」
「当たり前よ。貴方達なんて参加させないわ」
「だ、駄目ですよ!御三人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」
「そういうことじゃねえよ黒ウサギ。いいか?この喧嘩はコイツらが
「あら、分かっているじゃない」
「………。ああもう、好きにしてください」
天真は肩を落として呟く黒ウサギの頭を軽くなでる。
「お疲れさん」
*
「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為に素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれども………不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を」
「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」
驚いた黒ウサギはすかさずジンを見る。彼の申し訳なさそうな顔を見て、自分達の事情を知られたのだと悟り、ウサ耳まで赤くした黒ウサギは恥ずかしそうに頭を下げた。
「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが………黒ウサギ達も必死だったのです」
「もういいわ。私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」
「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも……あ、けど」
「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らに出来る事なら最低限の用意はさせてもらいます」
「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は………毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」
ジンの表情が固まった。この箱庭で水を得るには買うか、もしくは数kmも離れた大河から汲まねばならない。その苦労を察した耀は慌てて取り消そうとしたが、先に黒ウサギが嬉々とした顔で水樹を持ち上げる。
「それなら大丈夫です!十六夜さん達がこんな大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要もなくなりますし、水路を復活させることもできます♪」
これには飛鳥も安心したような顔を浮かべた。
「私達の国では水が豊富だったから毎日のように入れたけれど、場所が変われば文化も違うものね。今日は理不尽に湖へ投げ出されたから、お風呂には絶対入りたかったところよ」
「あんな手荒い召喚だとは思わなかったからな。もう二度と経験したくないな」
「あう………そ、それは黒ウサギの責任外の事ですよ………」
「あはは………それじゃあ今日はコミュニティへ帰る?」
「あ、ジン坊っちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら“サウザンドアイズ”に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」
天真達四人は首を傾げて聞き直す。
「“サウザンドアイズ”?コミュニティの名前か?」
「YES。“サウザンドアイズ”は特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」
「ギフトの鑑定というのは?」
「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」
同意を求める黒ウサギに天真達は複雑な表情で返す。思う事はそれぞれあるのだろうが、拒否する声はなく、黒ウサギ・天真・十六夜・飛鳥・耀の五人と一匹は“サウザンドアイズ”に向かう。商店へ向かう通りの街路樹は、桃色の花を散らして新芽と青葉が生え始めている。日が暮れて月と街頭ランプに照らされている並木道を、飛鳥は不思議そうに眺めて呟く。
「桜の木………ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」
「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」
「………?今は秋だったと思うけど」
「俺のところは秋の終わり頃だったよ?」
ん? っと噛み合わない四人は顔を見合わせて首を傾げる。黒ウサギは笑って説明した。
「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」
「へぇ?パラレルワールドってやつか?」
「近しいですね。正しくは立体交差平行世界論というものなんですけども………今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」
曖昧に濁して黒ウサギは振り返る。どうやら店に着いたらしい。商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神が記されている。あれが“サウザンドアイズ”の旗なのだろう。日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを、
「まっ」
「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」
………ストップをかける事も出来なかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。流石は超大手の商業コミュニティ。押し入る客の拒み方にも隙がない。
「なんて商売っ気の無い店なのかしら」
「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」
「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」
「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」
キャーキャーと喚く黒ウサギに、店員は冷めたような眼と侮蔑を込めた声で対応する。
「なるほど、“箱庭の貴族”であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」
「………う」
一転して言葉に詰まる黒ウサギ。しかし十六夜は何の躊躇いもなく名乗る。
「俺達は“ノーネーム”ってコミュニティなんだが」
「ほほう。ではどこの“ノーネーム”様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
ぐ、っと黙り込む。
「その………あの………私達に、旗はありま」
「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」
「きゃあーーーーー…………!」
黒ウサギは店内から爆走してくる着物風の服を着た真っ白い髪の少女にフライングボディーアタックされ、街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛んだ。十六夜達は眼を丸くし、店員は痛そうな頭を抱えていた。
「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」
「ありません」
「なんなら有料でも」
「やりません」
真剣な表情の十六夜に、真剣な表情でキッパリ言い切る女性店員。
「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」
「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」
「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」
白夜叉と呼ばれた少女を無理やり引き剥がし、頭を摑んで店に向かって投げつける。十六夜は飛んできた白夜叉を足で受け止める。
「てい」
「ゴバァ!」
そして、なぜかそのまま受け流して天真に向かって白夜叉が飛んでくる。天真はそれを避ける。白夜叉はそのまま地面を転がっていく。2~30mほど転がった辺りでようやく止まった。
「お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!そこのおんしも避けるでない!こんな美少女が飛んできたら抱きしめて受け止めるものだろう!」
「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」
「えっ?だって受け止めたら俺が濡れるじゃん。やだよ、これ以上今日濡れるの」
天真の本音だった。一連の流れの中で呆気にとられていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかける。
「貴女はこの店の人?」
「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育のいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」
「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」
何処までも冷静な声で女性店員が釘を刺す。濡れた服やミニスカートを絞りながら水路から上がってきた黒ウサギは複雑そうに呟く。
「うう………まさか私まで濡れる事になるなんて」
「因果応報………かな」
『お嬢の言う通りや』
悲しげに服を絞る黒ウサギ。
「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たという事は………遂に黒ウサギが私のペットに」
「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」
ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。
「まあいい。話があるなら店内で聞こう」
「よろしいのですか?彼らは旗も持たない“ノーネーム”のはず。規定では」
「“ノーネーム”だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」
む、っと拗ねるような顔をする女性店員。彼女にしてみればルールを守っただけなのだから気を悪くするのは仕方がない。
「あんたのオーナーも問題児っぽいね。大変そうだな」
天真は女性店員に同情しつつ暖簾をくぐった。