神であり魔王である者も異世界から来るそうですよ?   作:ケミ

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第7話 白き夜の魔王

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

個室というにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから十六夜達に向き直る。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。その隣で耀が小首を傾げて問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図を見た天真達は口を揃えて、

 

「………超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

「お前らがそう言うからバームクーヘンにしか見えなくなったよ」

 

身も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギとは対照的に、白夜叉は呵々と哄笑を上げて二度三度と頷いた。

 

「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったものの達が棲んでおるぞ―――その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

 

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人では月とすっぽんだぞ」

 

神格とは生来の神様そのものではなく、種の最高のランクに体を変幻させるギフトを指す。蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。人に神格を与えれば現人神や神童に。鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

それを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。

 

「へえ?じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の“階層支配者(フロアマスター)”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者(ホスト)なのだからの」

 

“最強の主催者”―――その言葉に、十六夜・飛鳥・耀の三人は一斉に瞳を輝かせた。

 

「そう………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。

 

「お前らは戦闘狂かよ………」

 

天真は問題児達のノリについて行けるか不安になった。

 

「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

「ふふ、そうか。―――しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、

 

「おんしらが望むのは“挑戦”か―――もしくは、“決闘”か?」

 

刹那、四人の視界に爆発的な変化が起きた。四人の視界は意味を無くし、様々な情景が脳裏で回転し始める。脳裏を掠めたのは、黄金色の穂波が揺れる草原。白い地平線を覗く丘。森林の湖畔。記憶にない場所が流転を繰り返し、足元から四人を呑みこんでいく。四人が投げ出されたのは、白い雪原と凍る湖畔―――そして、()()()()()()()()()()()()()

 

「………なっ………!?」

 

余りの異常さに、四人は同時に息を呑んだ。まるで星を一つ、世界を一つ創り出したかのような奇跡の顕現。唖然と立ち竦む四人に、今一度、白夜叉は問いかける。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」

 

魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄味に、再度息を呑む四人。十六夜は背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。

 

「水平に廻る太陽と………そうか、()()()()。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるってことか」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私がもつゲーム盤の一つだ」

 

数多の修羅神仏が集うこの箱庭で、最強種と名高い“星霊”にして“神霊”。彼女はまさに、箱庭の代表ともいえるほど―――強大な“魔王”だった。

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤………!?」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は?“挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。―――だがしかし“決闘”を望むならば話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「……………っ」

 

飛鳥と耀、そして自信家の十六夜でさえ即答できずに返事を躊躇っていた。勝ち目がないことは分かっているが、自分達が売った喧嘩を、このような形で取り下げるにはプライドが邪魔しているのだろう。しばしの静寂の後―――諦めたように笑う十六夜が、ゆっくりと挙手し、

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。―――いいぜ。今回は黙って()()()()()()()、魔王様」

 

プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されてやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑をあげた。

 

「く、くく………して、他の童達も同じか?」

 

「………ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

苦虫を嚙み潰したような表情で返事をする二人。しかし、天真だけは

 

「決闘で頼む。今の力がどれだけ通用するか知りたい」

 

(最初は驚いたがそこまで力の差を感じない。勝ち目は分が悪い感じだけどあるかな?()()()()()()

 

天真の返答に、黒ウサギ達が驚愕した。

 

「おんし、本当に決闘でいいんだな?」

 

白夜叉の最後通牒に首肯で応える。

 

「よかろう。まずは、試練をやるとするか」

 

その時、彼方にある山脈から甲高い叫び声が聞こえた。

逸早く反応したのは、耀だった。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ………あやつか。おんしら三人を試すには打って付けかもしれんの」

 

湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。すると体長5mはあろうかという、鷲の翼と獅子の下半身を持つ獣が現れた。耀は驚愕と歓喜の籠もった声を上げた。

 

「グリフォン………嘘、本物!?」

 

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。“力”“知恵”“勇気”の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 

グリフォンは白夜叉の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

 

「さて、肝心の試練だがの。おんしら三人とこのグリフォンで“力”“知恵”“勇気”の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞う事が出来ればクリア、という事にしようか」

 

 

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