ちょっとした息抜きで書いたので、気が向いたら別の話も書くかもしれないです。
火継ぎの魔女とそれに救われた人の物語をご覧下さい。
今回はちょっとした集まりの時に書いたネタを少し更正して投稿します。
皆さんも調べてみると、面白いですよ。
―――5年前 過去 災禍に見舞われた町にて
一番古い記憶は、様々な赤で塗りつぶされている。動的な炎色の赤に静的な黒色の赤。そして揺れる紅色の赤。ゆらゆらと移動するその赤に思わず手を伸ばす。枯れた声で助けを求める。私はまだここにいると。弱り切った灯は大きな篝火に安息を求める。私の声が届いたのか、ふと赤が立ち止まりこちらに振り向く。ゆっくりと近づいてくる赤は私には眩しすぎて、だんだんと視界が白に染まっていく。紅色の篝火が近くまで来たと感じた時、弱り切った灯に力が戻った。篝火の声が微かに聞こえる。その優しさに満ちた声は私に揺り籠のような安心感を与える。その不思議な感覚と共に私の意識は篝火に寄り添って眠りにつく。
「まだ生存者がいたなんて。かなり弱っているのね。でも心配しないで。私が火継ぎをしてあげる。あなたの灯はここで消させない」
これが魔女との出会い。命の火継ぎを司る魔女と、その火継ぎに救われた最初の人間の初めの記憶。
―――現在 疫病に見舞われた村にて
「魔女殿。ここの生存者はもういないみたいだ」
「そう? 今回も殆ど救えなかったわね」
魔女殿の手にはまだ幼き子供が一人、私の腕には二人。今日火継ぎによって救えたのはこの3人のみ。
「何分来るのが遅かった。災害が起きてから現場に向かうのでは遅すぎるか」
「でもねぇ。私にその手の魔術の心得は無いし、そこばっかりはどうしようもないわ」
「そうだな。そこは私が何とかして見せよう。貴方の一番弟子として、貴方の不足は私が補う」
「ふふ、頼りにしているわ。近隣の村もダメだったし、この子たちはうちで引き取りましょうか」
魔女殿の言葉に頷いて歩き出す。魔術陣はこの町の外にある。それまでは歩いて行かないと。大災害が起こるたびにこうして現地に向かい、救える命を救ってきた。その数はまだ少ないけれど、確かに存在する。
「そんな気を落とさないでくれ。この子たちの世話は私一人では回らない。今回は3人も救えたんだ。最初の頃に比べたら大きな成果じゃないか」
「……うちにもだいぶ人間が増えてきたわね」
「そうだな。全員、魔女殿が救った火だ。魔女殿の活動によって燃える灯たちだ。近隣に預けた灯もいる。数は少ないが、全員あなたの火を貰った家族だ」
魔女殿の篝火に集まった私たちだ。篝火が弱ったら、微力だが、多くの灯が篝火を囲もう。時にはその火のすべてを篝火に宿すこともいとわない。
「でも、私が巷じゃ何て呼ばれているか知ってる?」
「いや、最近人里に降りるのは下の連中ばかりだからな。私は他の者の世話があるし」
「災害があった場所に必ず現れる魔女。災いの元凶。災禍の魔女」
「バカバカしい。そんなもの気にしなくていいだろう。魔女殿は火継ぎの魔女。災禍に見舞われた地で弱り切った灯に火継ぎを施す篝火の魔女だ。例え誰が何と言おうと、私たちはそれを知っている」
「そうね。貴方に、いえ貴方たちにそう言ってもらえるなら私はまだ頑張れる」
そう言うと魔女殿の陰った火に力が戻る。篝火は新たな薪をくべられ、元の強さに戻っていく。郊外にある魔術陣に付けば私と魔女殿で転移の魔術の行使に入る。魔力を込めて術式を起動させると、辺りの景色が陽炎のように揺らめき、変化する。魔術陣から発せられる陽炎の炎は私たちを元の場所へ返すべく煌々と燃え盛った。
―――5年後 未来 大火に包まれた館にて
「魔女殿。灯たちは陽炎により脱出した。私たちも脱出しよう」
「そうね。でも、そうはいかないみたいよ?」
魔女殿の声と同時に部屋のドアが蹴破られる。そこから入って来たのは、火継ぎを得た人だ。
「ようやく追い詰めたぞ魔女‼ 無き家族と村の者達の仇、取らせてもらう‼」
「まて、それは誤解だ。魔女殿は……」
「それ以上はダメ。火は継がれ、灯は新たな篝火に寄り添った。篝火になることを放棄した私たちに、そのあり方を否定する権利はないわ」
魔女殿が右腕を上げて私の言葉を遮る。救った後に責任が持てないなら救うべきじゃない。それを承知で私と魔女殿は火継ぎを続けてきたのだ。こうなることは想定して然るべきだった。魔女殿は落ち着いた仕草で火継ぎを得た人達に語り掛ける。
「ようこそ。魔女の館へ。小さき灯よ。火継ぎの魔女たるこの私に何用か?」
「用だと、とぼけるな! 俺達は忘れない。あの時の怒りを。胸に宿る復讐を」
「それは構いませんが、いいのですか? これだけ火の手が回れば灯が助かる確率はかなり低いですよ」
「ここで復讐できればどうでもいい。俺たちはそれだけのために生きてきたんだからな!」
灯の後ろには火継ぎを得た人や家族を亡くしたであろう人たちの姿が見える。その誰もが強い意志のこもった火を目に宿している。これは自分諸共という発想か。だが…
「その心意気はよし。フフ、でもね。私は『火継ぎの魔女』。 その私を火によって閉じ込めるのはナンセンスよ?」
魔女殿が意識を集中させると部屋を燃やしていた火は瞬く間に彼女の元へと集まっていく。【自分の火を継がせる力】と【他人の火を継ぐ力】を備えているのが魔女殿だ。屋敷全体の火は無理でも、自分の周りの火を継ぐことは造作もない。灯たちに動揺が走る。完全に追い詰めたと思った現状を打破されたとなれば当然だろう。
「魔女殿。準備は完了した」
「分ったわ。では、火継ぎを得た子らよ。貴方たちの篝火は未だ大きく燃え続ける。いつか貴方たちの篝火が別の物に移り行くその時まで、火継ぎの魔女が貴方たちの篝火を守りましょう」
「まて! 貴様はここで…」
魔女殿の言葉と同時に足元から陽炎が立ち込め、お互いの姿と声を徐々に歪ませる。灯が発した言葉は途中で途切れ、伸ばした手は揺らめく幻影に触れて空を切る。転移したのは屋敷の直ぐ近くの木に囲まれた高台。流石にあの短時間で長距離移動の魔術陣を書く余裕はなかった。
「魔女殿。早く逃げよう。彼らは脱出した後に私たちを追ってくる。まぁ、あそこから脱出できるかは分らないが」
「そうね。ねえ、私を殺すためにあの屋敷には何人の人が集まり、あの大火の薪となった?」
「正確にはわからない。部屋に入って来たのは5人程度だった。ただ、周りを囲んでいたのも含めると10や20では済まなかっただろう」
「そう……この災厄は今起こったばかりだわ。なら、まだ燃え尽きていない灯たちがたくさんいる」
「確かにそうだが……まさか、魔女殿‼」
よく見れば魔女殿の足元から魔術陣の起動に伴う燐火が零れている。夕暮れと足元の草叢で気づくのが遅れた。魔術を止めようと近づくが既に遅く、魔術陣の燐火は魔女殿に集まり、魔女殿によって大きな炎となった魔術が未だ燃える屋敷に降り注ぐ。その炎の勢いは異常だ。何人もの人を助けるなら確かにあれくらいは必要だろう。だが、魔女殿の篝火一つで灯せる限界を超えている。しかし私に考えている暇などなく、魔術を行使し、傾いた魔女殿の体を受け止める。
「魔女殿‼」
とっさに受け止めた魔女殿は篝火のような強い炎ではなく、今にも消えそうな灯となり果てていた。
「あら、また迷惑をかけちゃったわね…」
「そんなことはどうでもいい‼ 私の火を継いでくれ! 今ならまだ間に合う。魔女殿に生かされた命だ。貴方を救うためなら投げ捨てる価値がある」
「それはダメよ。貴方の火もかなり弱まっているじゃない。それじゃあ消えかけの灯に火は継げないわ」
そういう魔女殿の手は段々と熱を失っていく。生というガソリンをくべた篝火は一度大きな大火となる。しかし、それはくべた薪を燃やし尽くすのと同義。燃やすものを失った大火はすぐに弱くなり、潰える。その僅かな時をもって魔女殿は火継ぎを行った。
「最後に二つ。お願いしてもいい?」
「構わない。貴方の頼みだ。二つといわず何個でも」
「ありがとう。じゃあ、一つ目。灰は彼らの目につかない場所へ。彼らの篝火を消さないために」
「了解した。貴方の最後の火継ぎは私が責任を持って預かろう」
「二つ目。あの子たちを…私たちの灯を守ってあげて。そして彼らを糾弾しないで」
「…了解した。あの子たちは私にとっても大切な家族だ。そして彼らも。だから見捨てはしない」
私が頷くたびに魔女殿のから残り火が消えていく。薄れゆく意識の中で魔女殿は私にゆっくりと言葉を紡ぐ。
「あとは、お願いね、焔。私の篝火。貴方の、未来に、火継ぎがあらんことを」
「任されよう、火女。偉大なる魔女。貴方が残された火の巡礼は私たちが継ぐ」
触れていた手から力が抜ける。最後の残り火まで使った火継ぎの魔女の火は私が継ぐ。だから…
―――未来 屋敷から遠く離れた墓前にて
魔女殿の墓を作った。灰を棺に入れ埋葬しただけの目立たないものだ。魔女殿の意思を尊重して、彼らに新たな篝火が見つかるまで墓標は立てない。彼女に火継ぎをされた子供たちは少し離れた場所に待ってもらっている。気の利いた子たちで、二人っきりにしてくれたらしい。彼女に手を合わせて黙祷を捧げる。それが終われば彼らと新天に向かう。彼女の意思と火を継いで同じことをやろうと思う。例え火継ぎが出来ないとしても、救える灯があるかもしれないから。決意の火を瞳に宿し、魔女殿に背を向けて家族と共に新たな場所へと進む。この身に彼女から受け継いだ灯を宿して。
―――火継ぎの魔女から篝火を受け継いだ灯は、その火で何を照らすのだろう。魔女の遺志を薪とした新たな篝火は未来に向かう。
ここに火継ぎは成され、新たな篝火が誕生した。願わくば、その永き未来の先に新たな火継ぎがあらんことを。
主人公の名前は篝にするつもりだったんですが、自分が好きな某ダクソ系二次創作さんと被ってしまい変更したという裏話があったりなかったり。
書いている途中の作者
「あれ、火継ぎとか言い出しちゃったよ。ダクソ臭が凄い」
読んだ知人
「ダクソかな?」
作者はダクソを殆どやったことないので絶望が足りないですが、許してください。