Fate×アイマス   作:PCN

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お久しぶりです、5ヶ月ぶりの投稿となります。




今回はFate側の主人公のお話

そろそろ人物紹介が必要かもしれません














episode4 ファースト・コンタクト

 

 

 

 

 

 

 

 冬木市――――西日本に存在し、三方を海と森に囲まれた自然豊かな地方都市とされる。だが、特別田舎っぽいと言うわけでもなく、そこそこのビル群、のどかな商店街、大型ショッピングモール等を揃えた立派な街である。

 街の中心を流れる川を境に、片側は前述のビル群、ショッピングモール等を含んだ近代都市、もう片側は商店街を含んだ住宅街といった具合に分けられ、川に架けられた大橋で繋がっている。

 人口、経済、文化に特筆すべき点は無いが、住人が不満を感じない程度には発展した、至極平凡な地方都市。

 

 そんな平凡で平和な街は、ただ一度の悲劇をもって、全面的な知名度を得た。

 

 10年前のある夜、冬木市をなんの前触れもなく襲った火災は建設途中の市民会館を起点に、周辺一帯を一夜にして焼き払ったという。

 風が吹いていたわけではない、燃えやすい家が並んでいたわけでもない、にも関わらず炎は通常あり得ない速度で燃え広がり、結果多くの人が逃げ遅れた。

 

 死者は約500名、日本災害史に残る、戦後最悪の大規模火災だった。

 

 しかしこれほどの死者を出しながら、延焼理由も、そもそもの火災発生原因も、未だ不明となっている。

 

 

 

 当時7歳だった僕には微かな記憶しかないが、焼き尽くされる街の映像は火災現場での追悼式と合わせ、毎年お茶の間に流されている。そういう火災があったという事実だけなら、多分亜美や真美でも知っているだろう。

 

 

 

 

 そんな事情を抱えるこの街は、この度5度目の聖杯戦争を迎えることになったのである―――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 2004年 1月31日 17:00

 

 

 

「それにしても、本当に人が多いね」

 

 夕飯の買い物客などで賑わう商店街をぶらぶらしていると、どうしてもそんな感想になる。

 これから(基本夜中とはいえ)戦争が始まるというのに、こうも人が多くては人目につかないようにというのも至難の業だ。

 だいたい今時、真っ昼間だろうが真夜中だろうが外に人はいるのだ。プロデューサーを見てればわかるが、大人はみんな夜更かしだ。日付が変わればみんな家で寝てくれるなんて期待するほうが間違っている。

 

「これでも10年前よりか減ってるって話だぜ?例の事故のせいで結構移住されたんだとよ。

 まぁそれ以前にも色々あったらしいが――」

 

「怪奇現象だっけ?怪獣が出たとかなんとか

 ……ていうかどこで聞いたんだよそんな話。」

 

 10年前の火災により全面的に有名になった冬木市だが、当時からの住民が言うには、火災以前にも様々な事故が起こったらしい。

 

 港のコンテナ群が一夜にしてバラバラにされたとか、高層ホテルが一瞬で崩壊したとか、ガス漏れによる集団幻覚とか、怪奇現象というには規模の大きすぎる現象が次々と発生したらしい。

 これらは後の火災によって全て掻き消されてしまったが、住民が離れる一因になったという。

 

 

 それが、前回の聖杯戦争の爪痕であることは容易に想像できる。つまり第四次聖杯戦争の時点で既に、公然と殺し合いをする輩が平然と暴れまわっていたということだ。今回もそういうマスターかサーヴァントが現れる可能性は非常に高い。

 

「というか、ボク達がそうならないとは限らないんだけどね……」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

 間の抜けたランサーの返答に溜め息をつく。

 マスターである僕は、当然そういう事態にならないよう努力するつもりだ。しかし見るからにアクティブな僕の相棒は、今のところ分別のある好青年に見える。だがいざとなれば人前とか関係無く暴れまわりそうで、手綱を握る立場としては心配でしょうがないのだ。

 令呪を使えば解決なのだろうが、そんなことにわざわざ切り札を切る馬鹿はいないだろう。

 

 ちなみにランサーは現在霊体化しており、僕は端から見れば見えない誰かと会話している変人なのだが、自分に認識阻害の結界を張っているので誰も気にしていない。

 

「なんでもない、それよりどうする?ちょっと早いけど夕飯にしようか?」

 

「そうだな、今のところ異常はねぇし」

 

 聖杯戦争は本来夜に行われるもの。昼間に異常などあるわけがない。だが地形把握などは昼間にやった方がいいと思うので、こうして出てきたというわけだ。

 午後4時頃から歩き回って早一時間、こんな時でも腹は減る。

 

「よし!そうと決まれば―――――痛っ!」

 

 勢いで駆け出そうとして、誰かにぶつかってしまった

 

 

 

「すいません、大丈夫ですか!」

 

 相手は慌てた様子で僕に駆け寄る、走り出した自分が悪いと謝ろうとして顔を上げ、相手と目が合った。

 

 

 

 学生服に買い物袋という、少し変わった出で立ちの少年。燃えるような赤毛が印象的だが、それ以外はいたって普通の、どこにでもいそうな感じの学生だ。(春香の顔が浮かんだのは気のせいだ)

 

「全然大丈夫です、こっちこそごめんなさい、いきなり走りだしちゃって……」

 

「ならいいんですけど……」

 

 少年には悪いが、これ以上顔を見られるとまずいので、「失礼します」とこの場をさっさと立ち去った。

 

 

 

「ったく、落ち着きがねぇなお前も」

 

「ごめんごめん、これから気を付けるよ」

 

 まったく情けないとばかりに頭を掻く、勢いで失敗するのはよくあることだが、他人に迷惑をかけては世話にならない。

 

「じゃあ気を取り直して、行こうか」

 

「へいへい」

 

 気を取り直すのはお前だろという心の声が聞こえたが気にしない。

 夕飯を食べたら一回部屋に戻り、また夜に出かけることになるだろう。

 

 

 

 冬木市に滞在して早4日、異常の気配は、未だ見えない―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしあの坊主……」

 

「えっ?」

 

 

 

「いや……なんでもない」

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

「運命」というのは面白いもので、人によっては「運命」と呼べるものでも、他人にとってはその時点での「ただの出来事」でしかない。「彼」との出会いも、僕じゃなかったら運命とやらを感じていたのかもしれない。

 

 ただ、僕は「あの時点」では何も感じなかった

 それだけの話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 2004年 1月31日 19:30

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 玄関の戸を開け中に入ると、「おかえりー」と「おかえりなさい」が重なって聞こえてくる。

 廊下を歩けば、微かに漂う夕食の匂いが鼻を擽る。

 居間に入れば、変わらない日常がそこにある。

 

 

「ただいま桜、藤ねぇ、遅くなっちまった」

 

「いいんです、先輩は家主さんなんですからちょっと遅くなったくらいで謝っちゃダメです。すぐにお夕飯用意しますね?」

 

 そう言って微笑む少女は、間桐桜(まとう さくら)、同じ学校に通う後輩だが、ひょんなことから我が家に通うようになり、こうやって手伝いをしてくれている。かれこれ一年半になるだろうか

 

「そういうわけにもいかないんだけどな……というか藤ねぇ、飯をかっ込むないい年して」

 

「――――――――」

 

 俺の言葉を一切無視してガツガツと食している2×歳。この女性は藤村大河(ふじむら たいが)、親父が生きてた頃からこの家に入り浸っている俺の姉貴的存在だが、桜と違い、物腰遠慮ついでに生活力をどっかに置き忘れた見事なまでの駄目人間である。これで教師なのだから世も末だ。

 

 

「あっ!先輩、手は洗いました?駄目ですよ?この時期は流行るんですから」

 

「あぁ、悪い悪い」

 

 後輩に駄目出しされてしまい、とぼとぼと洗面所に向かう、藤ねぇのぐうたらを毎日のように見てるから桜の家事能力の高さがより際立って見える。やはり遺伝子の違いなのか

 

 手洗いを終えて居間に戻ると、いつの間にか食べ終えていた藤ねぇがその名の通り、虎の如く噛みついてきた。

 

「あー!士郎またこんな遅くに帰ってきて、だからホームルームでも言ったでしょー早く下校しなさいって、最近物騒なんだからー!」

 

「今頃言うのかそれ……しょうがないだろ、一成の手伝いの後商店街で買い物してたんだから」

 

「ほら、いっつもそれなんだから、おねーちゃんは士郎をそんな聞き分けのない子に育てた覚えはありません」

 

「だから藤ねぇに育てられた覚えはないっての」

 

「まぁまぁお二人とも……」

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 1月31日 21:00

 

 

 

 

「悪いな、いつも手伝わせちまって」

 

「いいんです、私が好きでやってることですから」

 

 夕食とその片付けを終え、桜の帰宅時間となったが、俺が送ることになった。彼女は断ったが押しきった。藤ねぇでは無いが、やはり最近物騒なのだ。女の子を一人で帰らせるわけにはいかない。

 

 

「私の方こそすみません、最近また兄さんがご迷惑をおかけしてるみたいで」

 

「ん?迷惑って……あー」

 

 〈朝からご苦労だね衛宮、また生徒会長の太鼓持ちかい?〉

 

 〈はぁ?手伝い?お前弓道部もう止めたんだろ?だったらもう関わるなよ、それがお前のためなんじゃないの?〉

 

 今朝言われた嫌味?みたいなことなら別に慣れているし、慎二(しんじ)もあの方が調子が出るのだろう、あいつの味みたいなものだ

 

「別に気にしてないよ、それより桜こそ大丈夫か?無理矢理送っといてなんだけど、俺が付き添ったってあいつに知れたら……」

 

 桜の兄である慎二は、彼女が衛宮邸(うち)に来るのを好ましく思っていない。俺は大丈夫でも慎二がカッとなりやすいのもまた事実で、それが桜に向くようなことがあっては彼女に申し訳ない。実際慎二には前科があって、それであいつと喧嘩になったこともある。

 

 

「まぁ、何かしら言われるかも知れませんけど……

 それでも、やっぱり先輩に送っていただいたほうが嬉しいです。」

 

 そう言って桜は、今日一番の笑顔を浮かべた。

 

 

 

「――――――――!」

 

 

 

 

 不覚にも心臓が高鳴った。彼女が友人の妹だと心に言い聞かせても尚、桜の笑顔に顔が紅くなってしまう。

 

 うちに通い始めて一年半、最初はいつも暗い表情をしていた彼女は藤ねぇに引っ張られるように、段々と明るくなっていった。それに伴い、(最近気づいたが)とんでもない美人に成長を遂げた。それはいいのだが、まともに顔も会わせられないとなっては、やはり先輩として格好がつかない。

 

 

 

「それにですね」

 

「えっ?」

 

 一人悶々とする俺を他所に桜は話し続け――――

 

「兄さん、きっと先輩が苦手なんです、だけど、それ以上に先輩が好きなんです。」

 

 と、おかしなことを言った。

 

「それってどういう―――」

 

「ふふっ、兄さん、あんな性格だから好き嫌いも複雑なんです。兄さんにとって嫌いな人は、つまり気になる人なんです。だけど兄さんが好きな人も、やっぱり気になる人なんです。

 だから嫌いな人が好きなんですけど、兄さんって素直じゃないでしょう?だから好きな人に対しても嫌いなふうに当たっちゃうんです。」

 

 

 桜はおかしな話をそれは楽しそうに話している。

 嫌い嫌いも好きのうちとは言うが、ここまで複雑だと―――――

 

「そりゃまた、難儀な性格だな……」

 

「ふふっ、そうですね……けど、兄さんのそういうところ、先輩にだけはわかっていて欲しいんです。そうすれば、先輩と兄さん、もっと仲良くなれるかもしれませんよ?」

 

「ははは……善処する」

 

 彼女に言われてはそう返さざるを得ない。

 別に慎二が嫌いなわけではない。色々あったけどあいつとは中学からの友人だし、桜と出会ったのもその縁なんだから。

 

「そう言ってもらえると、嬉しいです。私は先輩と兄さんが実は仲良しなのを知っているから……少し、羨ましいんです。」

 

「あれが羨ましいって……桜も大概だよな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、間桐邸の門前にたどり着いた。

 間桐邸はとても広い西洋風の家で、中に入って桜はまた少しだけ歩くことになるのだが、俺が付き添えるのはここまでだ。

 

「それじゃあ先輩、おやすみなさい、今日は送っていただいて嬉しかったです。」

 

「あぁ、おやすみ、また明日な」

 

「はい!おやすみなさい」

 

 最後にまた一番の笑顔を残し、桜は門の奥に消えていった。

 

 

 

 

「はぁ…………帰るか」

 

 毎度あの笑顔にやられてしまうのは先輩として恥ずかしい限りなのだが、暗い表情の桜なんて見たくないし、けれど俺の憂鬱が桜にバレるなんてもっと恥ずかしい。

 

 それでも、最後にあんな笑顔を残していかれると、口惜しいなというのが正直な感想だった。

 

 

 

 

「ん?虫の音?」

 

 ふと耳を澄ますと、間桐邸周辺から虫の鳴き声が聞こえてきた。鈴々と蟋蟀(こおろぎ)に少し似た羽音、だけど蟋蟀と違い、この音は少し不気味で、少し不快だった。

 

「冬だってのになんで虫なんか―――――」

 

 それは桜の家の中から聞こえているようだった。間桐邸の庭は広いので虫ぐらいいても不思議ではないのだが、今は二月だ。どんな虫でもとっくに天に召されているだろう。

 

 俺は虫に詳しいわけでは無いし、季節外れの変わり種がいるのを知らないだけかもしれないが、どうしても気になったので間桐邸の荘厳な門の隙間から中を覗き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 「これ」

 

 

「―――――――!!」

 

 

 

 突然、声がした

 今まで聞いたこともないような、とてもしゃがれた老人の声。闇夜に突如響いたそれは、いきなり心臓を鷲掴みにされたように錯覚させた。

 

 全く気配を感じなかった。横を向いたらそれらしき老人が目に入ったが、その外形はどこかちぐはぐに見えた。

 

 

 

「え―――――あの……」

 

 

 普通に考えて家の周りをうろつく自分が怪しいに決まっているのだが、老人の声に思いのほか驚いて、返事ができなかった。

 

「この屋敷に、何の用かね?」

 

 老人の問いかけで漸く我に帰った俺は機能不全に陥った頭をなんとか働かせ、とりあえず挨拶するべきだろうという結論に至った。

 

 

「――――!すみません、俺は衛宮士郎(えみや しろう)といいます。お宅の慎二君とは同級生で……失礼ですが、ご家族の方でしょうか?」

 

「―――確かに儂は慎二の祖父じゃが……そうか、慎二の学友であったか、これは驚かせてすまなんだ。―――孫がいつも世話になっとるの、代わって礼を言おう」

 

 

 そう言って老人は頭を下げた。

 最初こそ肝を冷やしたが、話してみると普通の好々爺といった感じで安心した。しかし同時に、驚いた様子を見せてしまったのが失礼に思えて、少し気まずくなった。

 

「こちらこそ夜分遅くにすみません。今日は桜さんを家まで送らせていただきました。彼女には度々お手伝いに来ていただいて、こちらとしても大変助かってます。」

 

「おお、それはすまなんだ。最近物騒だからの、君に送ってもらえて桜も嬉しかろうて。重ね重ね礼を言おう。

 折角じゃ、中で茶でもどうかね?」

 

「あ、いえお構い無く、家の用事がありますので。」

 

「おや、それは残念だの―――――」

 

 桜のお爺さんは残念そうに肩をすくめた。ご厚意はありがたいが、流石に時間が遅い。家の用事とはぶっちゃけ嘘だが、帰って「鍛練」をしなくてはならない。

 

 

「では、失礼します―――――」

 

 そう言って踵を返そうとして――――――――また、呼び止められた

 

 

 

 

 

 

「―――して、衛宮士郎、〈アインツベルン〉の娘は壮健かね?」

 

 

 

「―――――――えっ?」

 

 聞いたこともない言葉だ。外国の名前と思われるが、当然俺には覚えがない。アインツ――――なんだ?

 

 俺と老人の間に奇妙な沈黙が生まれる。

 それはたっぷり10秒も続き、その間老人は瞬きもせずに俺を見つめていた。

 

 

 

 

 

「ふむ――――――知らぬか―――――

 いや、なに、老いぼれのただの独り言よ、気にせんでおくれ」

 

 

 漸く口を開いたかと思えば気にするなと言い残し、老人は間桐邸の奥へ消えていった。

 

 その後ろ姿は、まるで蚯蚓(みみず)が這いずっているようで―――お世辞にも気分が良いものでは無かった。

 

 会話は20秒にも満たなかった。だがあの瞬間、あの場にいたのは穏やかな老人などではなく、人間味など欠片もない、もっと別の、ただただ不気味なナニかだった。

 

 

 

「――――はぁ、なんだったんだろう」

 

 

 

 桜や慎二から彼等の祖父の話を聞いたことはない。当然会話したのも初めてだが、そういえば名前すら聞いてなかった。

 

 

 

 

「ま、しょうがないか」

 

 気付けばもう22時近い、最近物騒なせいで、こんな時間でも人通りは滅多に無くなっている。

 

 

 

 早く、帰らなくちゃな――――――

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 1月31日 22:00

 

 

 

 

 

  帰り道、今日の出来事を振り返る

 

 備品の修理は上手くいった、今朝は遠坂に会ったな、そういや新都でガス事故があったっけ、相変わらず英語が難しい、そういえば商店街でぶつかった人は大丈夫だろうか―――――――?

 

 商店街の人は多分同年代だがそういえば顔をよく覚えていない。というか性別すら思い出せない。一瞬だったのでしょうがないかもしれないが、何か別の要因があった気がする。

 

 

 今頃考えてもしょうがないので、さっさと思考を切り替える。

 

 

 桜はほんとに上達したな、もう洋食じゃ敵わない、明日の朝は何にしよう、冬に虫の音なんてやっぱおかしくないか?、帰って鍛練しなきゃな――――――

 

 

 結局、あの爺さんはなんだったんだ――――?

 

 

 

 何度も通った道だ。考えことをしながらでも迷うような道ではない。だがやはり、周りはよく見えていない。故に気付かない。

 

 

 

 

 

 前から迫る人影に気付いたのは、もうすれ違おうという距離に近づいてからだった。

 

 目線を下にしなきゃ見えないほどに小さな少女、ロシア帽のようなものを頭に被り、上質の絹のような銀髪を揺らしながら、ゆっくりと歩いている。

 

 俯きかげんに歩いているため表情は窺えない。しかし、見るからに西洋風の整った顔立ちは、良くできた人形のようだった。

 

 段々その距離が縮まってきても、未だその顔は見えない。ただ帽子の影に隠れながらも、その口が笑っているのだけがわかった。

 

 そうして、ついにすれ違おうというその瞬間、少女が顔を上げ、目が会った―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――少女のルビーと見紛う真っ赤な瞳を見た途端――――空間、時間がその動きを鈍化させた

 

 ―――――まるで、その瞳によって金縛りにあったかのように――――俺を含めた全てのものが―――壊れかけのマネキンのように――――噛み合いすぎた歯車のように―――ギチギチと動いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはほんの一瞬、俺と少女がすれ違う、ただ刹那

 

 金縛りの溶ける瞬間、少女は何かを呟き、はっと振り返ったときには―――――――消えていた

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 炎の中を歩く――――

 

 10年前に出会った、ただ一度の現実――――

 

 どこまでも続く―――まっかな景色―――黒焦げの何か――――

 

 その日から何度も何度も見せられた、誰かの原点――――俺の原点――――

 

 忘れてはならないと――思い出さなければならないと――

 

 

 それは――決して消えない――真っ赤な刺青(いれずみ)―――――

 

 

 

 俺は今、どこに向かっているのか――――

 

 決まっている―――あの場所、あの時―――運命の地

 

 俺は―――この後切嗣(きりつぐ)に助け―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、誰かに袖を引っ張られた―――

 

 俺を引き留めるように―――行かせないようにしている誰か――――

 

 それは――――帰り道で出会った――――銀髪の少女

 

 

 また目が会った――

 

 今度はもう動けない――俺は惹き付けられるように―――魅せられたように―――その紅い瞳を見つめ続ける―――

 

 

 

 そして少女は口を開く―――あの時聞こえなかった、あの言葉―――

 

 今度は脳味噌に書き込むように―――魂に刻むように―――その言葉を響かせる――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【早く呼び出さないと――死んじゃうよ――――――お兄ちゃん】

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『765プロの皆さん、お久しぶりです。

 まずは、突然いなくなってごめんなさい。みんなには心配と迷惑をかけてると思いますが、この通り僕は生きています。

 

 こんなもの書いておいてなんですが、あまり僕から言えることはないんです。誰にも、僕を見つけてほしくありませんから。

 前にも言ったとおり、決して僕を探さないでください。あんなものに、あなた達を巻き込みたくはありません。

 

 

 多分、これで最後になると思います。みんなと出会えて、本当に嬉しかったです。こんな別れ方になるとは正直思っていませんでしたが、ある意味これが僕の宿命なんだと今は考えてます。

 だから、みんなは待っていてください。雪歩は必ず助けますから。

 

 プロデューサー、今まで僕を見てくれて、本当にありがとうございました。お礼は一人一人に言いたかったけど、ごめんなさい。

 同封したものは、社長に渡してください。

 

 

 追伸

 もう一つ同封したものがありますが、それは貴音さんに渡してください。遅ればせながら、誕生日おめでとうございます。

 雪歩のぶんは、みんなが来年以降僕の代わりに渡してくれればと思います。』

 

 

 

 

 

 

 

 2004年 1月28日 18:00

 

 

 

 

 

「なんだよこれ!」

 

 手紙を読み終わった響が怒りのあまり、それをテーブルに叩きつける。破り捨てなかったのが奇跡なくらいだ。

 二ヶ月も行方不明になっておきながら、寄越したのは理解も納得もできない馬鹿丁寧な手紙一通、響でなくともこれが怒らずにいられようか。

 

 今事務所には私、秋月律子を含め、春香、千早、響、小鳥さんがいる。最初に手紙の入った封筒を見つけたのはレッスン場から帰ってきた春香だった。ドアの前に置かれた封筒の表に「菊地真」と書かれた文字を見て、血相を変えた春香が飛び込んできたのだ。

 

 中には真からの手紙に加え、社長宛の退職届が入っていた。それを事務所にいる全員で見て、今に至る。

 

「手紙があそこにあったってことは、真はここに来たってことだよね?どうして、こんな……」

 

 正確には真本人か、真が手紙を預けた誰かだ。ここまで警察にも足取りを全く掴ませなかった真が、今更見つかるリスクを犯すとは俄には信じられない。しかし、彼女が自分の手紙を他人に託すとも思えなかった。

 

「だったらこんなもの置いてかないで、ここで直接言えばいいじゃないか!ここで!みんなに!」

 

「馬鹿言わないの、そんなことして私達が、はいそうですかって真を行かせると思うの?」

 

 響はこう見えて普段は理知的な娘なのだが、今は怒りと困惑で思考がめちゃめちゃになっている。

 

「我那覇さん落ち着いて、お願いだから律子も怖いこと言わないで

 春香の前に出入りしたのは私だけど、そのときこの手紙は無かったわ。つまり真はこの30分の間に手紙を置いてったってことね。まだ遠くには行ってないはずよ、手分けして探しましょう。」

 

 努めて、千早は静かに私達をたしなめる。それでも内心焦っているのがみえみえだ。それとも、こんな時に冷めている私が間違っているのだろうか?

 

「無理ね、真だってそんなことわかってるはずよ、目撃されるようなことはしないと思うわ。それに私達には人探しをする手段が無いわ。」

 

 諦めの感情を多分に含んで、私は率直に言い放つ。冷めていると言ったが、そろそろ何も感じなくなってしまいそうだ。

 

 そうなったら、もう終わりね――――こんな状況なのに、逆に笑いたくなってしまう

 

 

「だけど!そうやって何もしないのはもう嫌よ!律子だってわかってるでしょ、このままじゃ私達―――」

 

「やめて、千早ちゃん!」

 

 その先は、千早も口にできなかった。

 春香は肩を震わせ、今にも泣きそうな顔をしている。

 今の叫び声も、阻止というよりは懇願に近かった。

 765プロ全体に広がる不協和音を、春香や千早も感じ取っている。それがいずれカタチを為して、私達を足元からコワしていくというのも。

 だけどそれを言ってしまえば忌むべき現実を認めたことになり、加えてその未来をも予言しかねなかった。

 

「……とりあえず、これは社長に届けるわ。きっと社長なら、真を切り捨てるなんてことはしないと思う。」

 

 そう言って立ち上がる。少し、外の空気を吸いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ――――」

 

 気晴らしのつもりで屋上に出たが、景色はいつもと代わり映えなく、気分はちっとも晴れない。

 

 まただ、また「雪歩を助ける」だ。

 何度も自分で納得したはずだ。植物状態の人間は医者にだってどうにもできないのだ。神ならぬ真に何かできるわけが無い。

 それなのにこの手紙も前回のと同じ、自分が雪歩を助けるという真の意志は、全く変わっていないようだった。

 

「わかんないわね……」

 

 私達が雪歩を助ける方法なんてあるはずが無い、でも真が嘘を言う筈がない。

 私たちの限界は近いのに、謎は深まるばかりだった。

 

 

「律子…さん」

 

 どのくらい物思いに耽っていたのか、いつのまにか、金髪の少女が背後に立っていた。

 

 

「美希……おかえり、話は……聞いたみたいね」

 

「うん」

 

 765プロを苛む空気感は、あの美希でさえも侵していた。

 美希は真の男らしさを好ましく思っていたようで、仲が良いというよりは美希が真に懐いてるような関係だった。

 765プロの中でも特に人気の高い美希は、真の失踪後も疲れを見せずに活動していたが、そのぶん事務所ではその憔悴が明らかに見てとれた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、律子…さん、ミキね、決めたの」

 

 だがこの日は違った。美希の目にはステージで見せるような、前だけを見据えた、強い光があった。

 

「決めたって、何を?」

 

 この日からだろう、私達がただ座すのを止め、いずれ来る崩壊に抗い始めたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くよミキ、真クンを探しに行く。」

 

 

 それが変えたのは、きっと運命とか未来とか、そういうものではない。

 

 

 

 

 

 

 唯一、私達が変わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第四話 「ファースト・コンタクト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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