Fate×アイマス   作:PCN

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第六話投稿です。

今回はオール冬木パート、遂に開戦です







episode6 始まりの日(前)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2004年 2月1日 21:00

 

 

 

 

「――――じゃ、行こうか」

 

 そう言って、僕は部屋のベッドから立ち上がった。それに応えてランサーが姿を現したが、その表情はいつもより暗めだ。戦いを前にして、この部屋全体に重苦しい空気が流れている。

 それは初陣の武者震いと、果たさなければならない使命への決意といった、僕にとってある種の興奮と呼ぶべき感情。初めてステージに立ったときのような高揚感などそこには無く、僕の内心は「殺し合い」という未知の修羅場への不安に占められていた。

 この部屋に漂う空気を醸し出しているのは間違いなく僕であり、それを一番に感じているのも、他ならぬ僕だった。

 

「あぁ―――だが真、もう一回だけ確認するぞ。

 本当にいいんだな? 一緒に行くってことで」

 

 ランサーは昼間話し合って決めたことを、今になってまた聞いてきた。それは僕が戦いの場に赴くには力不足であることを暗に告げており、それが揺らがぬ事実であることも僕自身がよくわかっている。

 

 だが、それは本来恥ずべきことではない。サーヴァント同士の戦いともなれば、それは人智を超えた肉体と魂のせめぎ合いであり、決して超越者足りえぬ魔術師はよほど高位のものであっても、戦場にあっては足手まといにしかならない。僕程度の魔術の技量なら尚更だ。

 加えてマスターはサーヴァントの視覚を共有できる。つまり離れていてもおおよその戦況がわかるため、行動を共にすることにあまりメリットが無い。

 戦いはサーヴァントに任せ、マスターは自身の根城で戦況把握や傷付いたサーヴァントの治癒に務める。自身が生き残ることが第一目的であるマスターにとって、それは当然の発想と言えた。

 

 だが今回は、その常道を曲げてでも戦場に行きたかった、行くべきだと思った。

 

 

「うん、今回は一緒に行かせてもらうよ」

 

 

 ただ知りたかった

 

 何を、と聞かれてもこれといった回答は無い。

 戦いとは何か、殺し合いとは何か、どんなマスターやサーヴァントがいるのか、等々片手の指くらいの数は挙げられる。

 

 だけど本質はそこじゃない

 

 そもそも、僕が戦いや殺し合いのなんたるかを知ったところで何になると言うのか、それで僕のやるべきことが何か変わるのか

 

 変わらない、変えちゃいけないんだ、何一つ

 

 

 だから、これはただの確認

 

 それらを知っても僕の覚悟が揺らがないということの確認、証明と言い換えてもいい。他の誰でもない、僕が、僕自身に証明するんだ。

 

 彼女を助けるために、()()()()()()()する覚悟を―――――

 

 

 

「わかった、マスターの指示に従おう――――――真、しっかり見ておけよ――――」

 

 

 ランサーは僕を抱え、病院の時と同じく部屋の窓から飛び出した。

 新都のビル群を軽々と走り抜け、目的地へと向かう。新都は都市を名乗るだけあってこの時間帯でも車や人通りが多いが、大橋を渡り深山町に入ると、人も車も、音ですら嘘のように消え去った。

 それは、きっと2月の肌寒さだけが原因ではあるまい。相次ぐガス漏れに加え、昨日は殺人事件も発生した。10年前を知る者は、もしかしたら新たな災いの予兆を感じ取っているかもしれない。冬であるが故に虫の鳴き声も無く、この街を覆っているのは、ただただ不気味な静寂だった。

 

 暗闇とは、こんなにも人を不安にさせるものだったのだろうか?―――――――

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 2月1日 21:15

 

 

 

 新都のホテルから円蔵山まで10キロ余り、歩けば2,3時間はかかる距離を、ランサーは僕を抱えて15分程度で走破した。

 地図を見る限り、柳洞寺は山の中腹にある。円蔵山もそう高い山では無く、ランサーなら1,2分で登れそうだと思ったが――――――彼は山の麓で脚を止めた。

 

「どうしたの?」

 

 彼は黙って僕を下ろし、麓に生える木々の葉に触れようとした。すると、赤い放電と共に彼の指が弾かれた。

 

「これって―――――」

 

「あぁ、結界だ」

 

 周辺を見て回ると、山の麓どころか山全体に結界が張られていた、しかも―――――

 

「サーヴァントは入れない?」

 

「サーヴァントだけかはわからんが、ここに張られてる結界はオレ達みたいな霊を阻む類いのもんだ。押し通っても死にやしねえだろうが、能力は格段に落ちるだろうな。〈動くな〉って令呪を掛けられ続けるようなもんだ。」

 

 ランサーは山の結界をそう評した。確かに僧侶というのは古来から悪霊を祓う役目があった。となれば寺の周りにそういう結界が張られていても不思議ではないが、そうなると一つ疑問がある。

 

「でもおかしいよ、それじゃあなんで柳洞寺(ここ)にサーヴァントが居るってなるのさ。中に入れないのは向こうも同じだろ?」

 

「結界は中に対処する内向きのと、外界を阻む外向きのに分類されるだろ? ここのは外向きだからな、中に入りさえすれば影響はねえんだ。」

 

「じゃあどうやって中に―――――あ!」

 

 だから()()()には――――

 

「そういうこと、山に入るための一本道、あそこにだけは結界が無かったろ?正しい作法で入る者を拒む道理はないってことだな。」

 

「正面突破しかないってことだけどね、それ―――――」

 

 

 

 

 

 山の入り口に回ると、奥の方へと続く道を見つけた。おそらく寺へ続く参道だろう。ここからは慎重に、歩いて行く。柳洞寺のマスターやサーヴァントがここの結界を承知しているのなら、必ず罠を仕掛けているはずだから。

 ランサーを前にして歩く、彼の対魔力はCランクと決して高くないが、罠程度の魔術なら無効化できるはずだ。僕も回路をオンにするが、正直気休め程度にしか思っていない。

 

 しかし、いくら歩いても何か仕掛けが作動した様子は無い。そうこうしている内に15分ほど歩き、何事もなく寺の階段に辿り着いてしまった。

 

「なんか―――拍子抜けだね」

 

「あぁ、だが油断するな。仕掛けるとしたら、ここしかねえ」

 

 そう言って、彼は階段をゆっくりと登り始める。僕も後に続いて歩きだした。数百段はありそうな階段は傾斜も急で、寺の門はまだ見えない。それでも寺に近づいていることに間違いはないのだが、この期に及んでも気配は何も感じなかった。

 

 本当に、サーヴァントなんているんだろうか?

 

 山門が見えてきて、僕がいよいよランサーの仮説を疑い始めたその時――――――

 

 

 

 

 ランサーの足が止まる―――後ろを歩く僕は何事かと顔を覗かせ、半月を背に立つ()()を見た

 

 

 夜風にたなびく紫の羽織、腰まで伸びた髪は(まげ)のように纏められ、その顔は遠目にもわかる優男。その手に握られた得物は、刀と呼ぶには長すぎる程だ

 その姿はまさしく、この時代では決して見られず、しかしおそらくこの国でしか見られない、日本人(ゆかり)の存在――――――

 

 

 

 それは侍だった

 

 

 

「てめぇ―――――何(もん)だ」

 

 ランサーの言葉には、溢れる闘気に混じり、微かな困惑が含まれていた。その侍はランサーのぶつける殺気をさらりと受け流し、あくまで自然体の構えをとっている。悠然と立つ当の本人からは、殺気も闘志も圧力も、何一つ感じられない。

 

 

 

「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎」

 

 

 

 そう、何も感じないのだ

 20メートルほど先に立つ男、マスターである僕の目には彼の筋力や敏捷性が可視化される。それがどんな数値であれ、それが()える以上彼がサーヴァントであることに疑いの余地は無い。

 

 しかし、ただそこに立っているだけで理解せざるを得ない圧倒的な存在感、それがサーヴァント―――英霊という存在だ。それこそ目の前のランサーだって、外を歩けばどんな素人をも惹き付ける魅力的な存在だし、こうして戦闘態勢をとれば、味方の僕を身震いさせる程の殺気を際限なく発している。その姿はまさしく英雄――――

 

 だがあの男にはそれがない。魔力云々ではなく英雄を英雄たらしめる要素が、彼には決定的に欠けていた。

 だからこそ僕は、あのアサシンと名乗る男をランサーの同種であると認められない。例えそれが僕でも知っている剣豪であっても、アレが英霊であるとはとても思えなかった。

 

 

「へぇ―――返事が帰ってくるとは思わなかったぜ。しかも真名まで名乗るとはな。てめぇ、なんのつもりだ」

 

 

 佐々木小次郎―――――二刀流の剣豪、宮本武蔵の最大の好敵手として語られる天才剣士。「巌流島の決闘」というあまりにも有名な逸話を持ちながら、彼の素性は謎に包まれており、故にその実在すら怪しまれる伝説の剣豪だ。

 

 

「なんのつもりだとは無粋な、武人として立ち会いの前に名を名乗るは当然の事であろう?」

 

 

 だが、この男は確かに佐々木小次郎と名乗り、自らをアサシンのサーヴァントと称した。彼が嘘を吐いているとしたら、それこそ武人として無粋の極みだろう。

 しかし、彼がアサシンだとすると当然の疑問が沸いてくる。姿を隠すべき暗殺者が堂々とつっ立っていることも、それがなぜか侍の姿をしていることも、何より柳洞寺(ここ)にアサシンがいること自体が最大の疑問だった。

 

 

「そうかよ、(わり)いが名を訊ねられて答える流儀はオレにはねえんだ。それが無粋ってんならそれでもいいさ」

 

 

「よい、元より貴様の名のりなど期待しておらぬし、貴様も我が名など知るまい。敵を知るにはこの刀で十分、それは貴様も同じであろう?」

 

 

 そう言ってアサシンは刀をこちらに向け―――微かに、初めて敵意らしきものを見せた。

 

「はっ―――――違いねぇ、お互い戦る気は十分ってこったな

 となればさっさと始めてちまいてえところだが、少し待ってくれや。オレのマスターが聞きたいことが有るらしいんでな」

 

 そうしてランサーは横にずれ、僕はアサシンと初めて真正面から対峙した。

 こうして相見えても、あの男からは殺意というものがまるで感じられない。先程の微かな敵意さえ、僕との対峙と同時に消え去っていた。

 

「――――君のマスターは街の人々から魔力を吸って、昏睡させてる犯人なのか――――?」

 

 一番の疑問を、なるべく簡潔にぶつけた。

 ランサーの仮説では、新都の魂喰いはキャスターの仕業だとされている。柳洞寺のサーヴァントがアサシンであるならばその仮説が外れたことになるが、となるとあの魂喰いは奥にいるであろうマスターの仕業ということになる。それを確認したかった。

 別に返答なんて期待してないし、違ったところで彼らをここで倒すことに変わりないのだが、目の前のサーヴァントへの違和感がやはり拭いきれず、何か裏があるのではないかと思ったのだ。

 

「フッ――――そこの槍兵ならともかく、そなたのような可憐な乙女の問いならば本来答えぬ(いわ)れは無いのだが……生憎と私も主を持つ身でな、気に食わぬ主に忠誠を捧げるのも、また武人の役目よ」

 

 まぁ、予想通りの返答だ。違和感の正体も結局わかってないが、今考えることではない。

 

「しかし、私などにわざわざ聞かずとも、そなたがこの門をくぐれば答えは自ずと明らかになろう?そして私はここの門番だ。であれば、方法は唯一と言ってよかろう。」

 

 そう、やることはただ一つ。僕達は柳洞寺に入り、マスターの正体を暴く、そのためにはまず―――――このサーヴァントを倒さなければならない。

 

 僕は敵に背を向け階段を降り、入れ替わるようにランサーが前に出た――――

 

 

 

「ここを通りたくば、押し通れ―――――」

 

 

 

 剣士は、その手に握る長刀を一閃する。月明かりのみが輝く夜に、その刃が描く白銀の軌跡は、尚一層美しく見えた――――

 

 

 それが開戦の合図だった。同時にランサーがその朱槍をこさえて獣の如く襲いかかり、アサシンの刀が迎え撃つ――――

 

 

 蒼き獣と月下の剣士、共に「最速」を持つ両雄の闘い――――

 

 

 

 

 それは、眩いばかりの剣戟だった――――――

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ―――――――」

 

 

 

 今宵で何度目という踏み込み

 

 初撃、心臓への突き――――刀で(かわ)される

 

 二撃、首への払い――――いなされる

 

 三撃、空いた腹部への突き――――やはり紙一重で躱される

 

 ほとんど一呼吸の内に放たれた三連撃は、全て神速の必殺芸、しかし、それは敵を葬るどころか傷一つ与えられない

 

 ヒュッ――――――

 

 連撃を凌いだアサシンは間髪いれず、オレの首を落とさんと刃を一閃させ―――――それを後ろに跳んで間一髪で躱す

 更に踏み込み、突きを放つ―――――ように見せかけ槍を引き戻し、その勢いのまま今度は上から叩きつける――――

 それを流すように受けたアサシンは隙を咎める一撃を放とうとしたが、右からの蹴りを察知しヒラリと飛び退いた。

 

 打ち合い初めて数十合、戦いの主導権は常にこちらにあった。仕掛けは全て此方から、しかし此方の攻撃は全て躱すかいなされ、攻め切れない。更に向こうは防戦の合間に必ず一撃を入れてくる。その打ち込みは常に首狙い、攪乱も遊びも一切無い。

 故にその一撃一撃全てが必殺だ。研ぎ澄まされた殺意は全て、あの長刀に込められている。

 奴には足技も格闘技も無く、ただ己の刀を振るうだけ。奴はどこまで行ってもただの剣士だ。力も速さも此方が上なのに、アサシンにはこの剣術()()()()

 故にただ恐ろしい、打ち合いは優に百を超えるというのに、未だに奴の剣筋が読めない。それが技術(スキル)なのかどうかはわからないが、目の前の剣士の心得であることは疑いようがない。

 

 奴の刀は刃渡りだけで1メートルを優に超える長刀、対して此方の得物は2メートル余りの朱槍(スピア)、持ち手の位置を考えれば、リーチの有利はむしろ向こうにある。

 しかし、槍は突くモノで刀は斬るモノ、どちらが迅いかなど一目瞭然。あのような長物ならば振り下ろしもさらに遅れよう。ならば鎧も纏わぬ剣士に防ぐ術などなく、刀で払う間もなく貫かれるが道理――――――

 だがその道理を覆しているからこそ、アサシンは未だ無傷で立っている。上段にいるという優位を踏まえても、アサシンはその()も無き刀一振りで、オレと対等に渡り合っていた。

 どこがアサシンなものか、持つべき能力(ちから)を有していないだけで、その剣技は最優のセイバーに匹敵する。

 間違いない、この剣豪は剣速と巧さに於いてオレを凌駕している。格下の霊と侮れば、こちらの首が落とされる。

 なんてやりにくい――――――細く、ただ鋭く、人か鬼を斬り殺す為だけに()たれた武器。それは山を斬り払うことも、大地を穿つこともできない代わりに、「斬るべきモノを斬る」という強い概念を共有している。

 

 

 これが、「日本刀」ってヤツか――――――

 

 

 このような武器はオレの国でも見たことがない、オレにも剣の心得はあるが、勿論刀を持ったことはない。見たこともない武器を相手にするのは慣れているが、ここまで読めないのは初めてだ。

 

 

 ヒュッヒュッ――――――――

 

 

 まずいな、こちらの槍筋は読まれてきているようだ。間に挟まれる刃の数が増えてきている。これまで防戦

 一方だったアサシンに、攻勢の色が見えてきていた。

 

 

 

「―――――――――!」

 

 

 

 ()()()踏み込まれた―――――

 

 アサシンは無造作に突き出されたオレの槍を払い、返す刀で首を斬り落としにかかる――――

 

「この―――――!」

 

 それを宙返りでなんとか躱す、しかし庇った左腕は回避しきれず、浅い刀傷を負った。

 まぁお返しに顎を蹴り飛ばしておいたので、痛み分けってとこだろう――――――――――

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 ランサーとアサシン、両雄が激突して5分余り、これまで何度刃を交えたかなんて、とても僕にはわからない。どっちが優勢かなんて尚更、唯一わかるのはランサーが攻めていてアサシンがそれを防いでいるということだけ。

 両者の剣戟は速すぎて、まるで出来の悪い映像のように霞んでいて、僕はそれを遠巻きに眺めているだけの傍観者に過ぎなかった。

 そうして何十度目かの激突の瞬間、不意に両者は弾かれたように飛び退いた。アサシンは上に、ランサーは下に、そこでお互いの動きが止まった。止まったことで、僕は初めてランサーが傷を負ったことを知った。

 そうして双方に距離ができる。段数にして20、距離にして10メートル。彼らの実力なら瞬きの内に縮まる間合いではであるが、お互いに傷を負ったことで、初めて時間的な間が生まれた。

 

「――――そうだ、治癒しないと」

 

 契約によって繋がったことで、マスターは離れたところからでもサーヴァントに治癒を施すことができる。見たところ傷は浅い、あのくらいなら未熟な僕でも治せる。

 治癒を確認したランサーは一瞬僕の方を向いて、感謝するように頷いた。

 

 

「どうした、折角の二枚目に傷が付いてやる気を無くしたってか。だったらさっさと殺されてくれると有り(がた)いんだが」

 

「そちらこそ、格下に斬られそうになって臆したか。貴様には東洋の剣術は珍しかろう?その真髄、知りたくばかかってくるがよい。代わりに首は置いていってもらうがな。」

 

 月明りを挟み、彼らはお互いを挑発する。彼我の実力は伯仲しているが、門番という役目を果てせている分、アサシンの方に余裕があるように見えた。

 

 

「ハッ、槍を受けたこともねえ身の癖によ―――――薄々感じてはいたが今確信したぜ、

 てめぇ、人を斬ったことねえだろ。」

 

 

「―――――はぁ!?」

 

 

 間抜けな叫び声は僕のものだったが、今回ばかりはそれも許されるだろう。

 

 ランサーは今何と言ったのか

 無敵の剣豪として名を馳せ、数々の伝説を持つ佐々木小次郎、それが、日本に於いて抜群の知名度を誇る天才剣士が、宮本武蔵の宿敵ともあろう者が、人を斬ったことがない―――――?

 そんな馬鹿な話があるかと思ったが、そのサーヴァントは驚くことに肯定の意を示した。

 

「ほう―――流石はランサーに選ばれる程の英雄、我が正体などとっくにお見通しか」

 

 

 

「どういうこと――――?」

 

「簡単な話だ、奴はお前の知る佐々木小次郎とやらじゃねえってことだ。」

 

 そんな当たり前のことみたいに言われてもわからない、仮に僕のアサシンに対する違和感の正体がそれだとしたら、あの男は何者なんだ?

 

「奴は―――――」

 

「そこまでにしておけランサー、今が果たし合いの場であることを忘れたか」

 

 続く言葉は、アサシンの静かな声に遮られた。

 

「私が佐々木小次郎か否か、貴様にとってそれは重要ではなかろう?貴様はこのような殺し合いを望んで呼び出されたのではないのか」

 

 あくまで悠然と、それでいて急かすように、アサシンは自ら階段を降り始めた。

 

「このような俗世に呼び出され、挙句望みもせぬ門番を押し付けられ、楽しみといえば貴様のような来訪者との果し合いしかないのだ。

 それも()()()相手は今夜が初めてでな、私も少々気が立っている。」

 

 階段を降りるたびに、アサシン自身からも殺気が感じられるようになる。例え佐々木小次郎ではないとしても、この男から発せられる殺気は、まさしく侍のものと言う(ほか)なかった。

 

 

 

「構えよランサー、主が痺れを切らす前に、存分に殺し合おうではないか。お互い、加減の止め時であろう?」

 

 

「――――言ってくれるじゃねえか、アサシン

 ――――!!」

 

 

 叫ぶや否や、ランサーは開戦の時と同じように、再びアサシンに斬りかかった。

 迎え撃つアサシンとの間で、剣戟の音と舞い散る火花はさらに激しくなり、両雄の速度はますます上がっていく――――

 

「あれで、今まで手加減してたってこと――?」

 

 驚愕を通り越して呆れ返るしかない。彼らの化け物じみた戦闘もそうだが、一瞬垣間見えたランサーの顔には、確かに闘いを愉しむ笑みが見えた。それにつられたか、僕は彼らのただ速すぎる剣戟に、いつの間にか惹き付けられ、あろうことか美しさすら感じていた。

 

 僕は今まで彼らの戦いの外で、ただ傍観者であることしかできなかった。生き死にを賭けて戦っている彼らの勇姿を、一方の主でありながら、どこか他人事のように眺めていた。

 だけどそれではいけないんだ。僕は彼のマスターとして、例え素人目でも彼らの戦いを見届けなければならない。垂れ流しの映像ではなく、絵画のようにこの目に焼き付けなければならない。

 ランサーには必殺の「宝具」がある、僕はマスターとして彼に宝具を開帳させ、この戦いを終わらせるように命令することも必要かもしれない。

 だが、戦いは彼に任せると決めた。彼は僕の命令がなくても、必要な時に宝具を使うだろう。僕はただ彼の勝利を信じればいい。

 ランサーは、自分の命運を僕に託すと―――自分の命は僕のものだと言ってくれた。だから僕は彼に魔力を与え、そして信頼しなければならない。マスターとして、相棒として

 

 

 

「勝てよ―――ランサー」

 

 戦い、殺し合いがどういうものかはまだわからない。僕の覚悟は、未だ試されていない。

 だけどこの戦いで、僕が聖杯戦争に参加しているという実感を得ることができた。飛び散る火花、空気を切り裂く剣圧、常人なら当てられてしまうような魔力の流れ――――この戦場の全てが、それを否応なしに突きつけてくる。

 それは、僕がこの戦争で出る被害に責任を負うということだ。魔術師ではなくマスターとして、一般人が()()()()()巻き込まれるのを防がなければならない。目の前の戦いを、人々に飛び火させてはならない。

 

 

 それは僕自身の、雪歩を助けるための覚悟とは違う、この戦争の当事者としての、新たな覚悟だった――――――

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 疾く―――迅く―――更に速く――――

 

 槍の一突き一突きに、オレが持つ(わざ)を全て注ぎ込む

 技術で劣るなら力で、剣速で劣るなら己自身の速さで―――互いの強みと弱みの打ち消し合い、戦いとは常にそういうものだ、いつの時代でも変わらない

 のめり込め―――理性ではなく感性で、読みではなく反応で、奴の刃を躱していく

 どうした、もっと速くなれる筈だ、死んで腕が鈍ったわけじゃあるまい―――愉しめよ、(テメエ)が望んだ戦場だろうが――――――!!!

 

 

 動きも前のように直線的ではなく立体的に、アサシンの間合いの中で撹乱する。対抗して奴も飛び上がるが、地に足着けない戦いでアサシンに勝ち目はない。そしてオレは更に敵の有利を潰すべく、階段を破壊しアサシンの足場を崩していく。

 アサシンとの戦いは愉しいが、勝てなきゃ意味がない。マスターは初陣の場でオレを信頼し、役目を果たしてくれている。力不足だというオレの心配は杞憂だったらしい

 ならばオレが使い魔として果たすことはただ一つ、主の期待に応え、アサシンを倒すことだ。誰が卑怯と罵ろうと、これは、勝つための戦い方だ―――――

 アサシンもそれに不満は無いようだ、足場を崩され戦況は不利になりつつも、奴の剣筋は衰えていない。アサシンの刃は幾度の突きを捌き、返して幾度もオレの体を掠め、命の獲り合いを強いてくる。

 両者に交わす言葉はなどない、アサシンの言うとおり、敵を知るには己の得物で十分だ、掛け合いなど必要ない。

 

 

 終わりの時は近い、既に奴の足場は破壊し尽くされ、逃げ場はない。このまま槍を投げても、あるいは仕留められるかもしれない。しかし、あの剣豪は加減を止め全力でこいと言った。ならば、我が必殺の一撃(ゲイボルク)で確実に仕留よう――――それが生前からの、オレの武人としての礼儀だ

 

 戦いを任せてくれた真を信頼して、あえて確認はとらない。オレは宝具を発動すべく奴に切っ先を向け、死棘の槍に魔力を集めていく―――――

 

 距離は5メートル、刀の間合いの外から―――ちょい遠いが、ここで決める――――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いたのは、同時だった。

 

 

 決着の前に訪れた、ただ一瞬の間

 

 

 空気ごと舐めつけるような不快な気配(ソレ)は、その一瞬に入り込んできた。

 

 

 アサシンの顔が侵入者への怒気で歪み、ソレの存在を確定させる

 

 

 それが、果たし合いを盗み見るだけの不埒者なら、どんなによかっただろう

 

 

 

 

 

 ソレが纏っていた感情は、オレ達サーヴァントではない()()への、醜悪なまでの害意だった―――――

 

 

 

 

「――――――ふざけんな」

 

 

 

 宝具を出してる暇などない、どんな決定的な隙を作ろうとも、この槍を向けるべきは決してアサシンではない

 

 

 

 例え後ろから斬られようとも、()()()()()させてたまるものか―――――――!

 

 オレは夢中で振り返り、ただ魔力を込めただけの朱槍を、ソレに向かって全力で投げつけた―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんじゃ、ねぇ――――――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第六話 「始まりの日(前)」

 

 

 

 

 




初めての戦闘描写となりました。原作で語られなかったランサーVSアサシンをイメージしたのですが、如何だったでしょうか?

よろしければ感想等お願いします。


では、第七話でお会いしましょう







8月29日 真、誕生日おめでとう!


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