現実編に行ける! 私の頭の貯蓄が試される!
頑張るぞぉ!
死を振りまく刈り手は待ち受ける。
剣士は想い人を守るために双剣を握る。
拳士は道を開くために己が拳を握りしめる。
聖騎士は己が望みのため仮面をかぶる。
いくつもの思いが渦巻く戦場は、もう目と鼻の先で・・・。
「・・・偵察隊が全滅ですか」
送られたメッセージを確認する。そこに映るのは絶望的な結果のみである。
それでも、戦わないという選択肢はない。逃げるという選択肢は許されない。
今考えるのはそれだけでいい。明日勝つまでは余計なことは考えるな。
ボスの情報はない。また、戦闘が始まれば退路は断たれクリスタルも使えない。
・・・いや、その情報があるなら情報がないというわけではない。
それだけのことが分かっているのだ。軽く目を閉じ偵察部隊の死者に軽く黙祷する。
さて、今日はもう寝よう。明日戦えないなど話にもならないのだから。
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『○○助けて・・・早く・・・!』
「ッ!」
珍しくいい(?)夢を見れた。彼女の姿を見れたのは夢でもうれしい限りだ。
「行こう。もう待つことはできない」
装備の点検やアイテムの買い足しをする。結晶は使えないが、一応一個ずつ持っておく。
準備は整った。意思も十分。何が何でも生き残り、現実に帰るのだ。
全ての用意が整い、集合地点のコリニア市に向かう。
そこにはすでに、多くの攻略組がそろっていた。
自分は、予定ではキリトさん達と同じパーティーになる予定だ。
「ようゼロ!」「元気にしてるか?」
「クラインさんとエギルさんですか。まあそれなりには」
「やあゼロ君」
そこに声をかけてきたのはディアベルさんだった。
「クラインさんやエギルさんもどうも、今日は一緒に頼む」
「おう、絶対勝つぞ」「いい売りもん手に入れるまで死ぬわけにはいかねぇ」
「皆さんも頼りにしてますよ」
軽く話をしていると、攻略組の要の二人がやってきた。
「ようお前ら!」
「おお! キリトにアスナ、来てくれたのか⁉」
「流石に偵察隊が全滅と聞いたら黙ってられないわよ」
キリトさん達も話は聞いているようだ。
「なに、目標はシンプルです。生きて敵を仕留めるだけですから」
そう、目標は分かり切っているのだ。なら手段を間違えなければいいのだ。
少しキリトさん達に時間をもらって、ユイちゃんのことを聞く。
「それが・・・ユイはMHCPっていうAIで・・・」
「今は本体をシステムから切り離してこのクリスタルになっている」
簡単に詳細な事情を聴くと、いろいろ大変なことがったらしい。
クリスタルを見ると瞬いた気がした。
そして、最後の要(非常に不本意だが)がやってくる。
「やあ諸君、欠員はいないようだな。状況は知っているだろう。
厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられるだろう―――解放の日のために!」
その場にいる者たちが声を上げる。このカリスマ性も僕の不信感を呼ぶ。
「では出発しよう。ボス部屋までコリドーを開く」
濃紺大きめな結晶は場所を指定し、その場所まで扉を開く。
非常に高価で宝箱かネームドmobくらいからしか出ない。
便利ではあるが、こういう時くらいしか役に立たない。
「コリドー・オープン」
ヒースクリフの握る結晶は砕け、青い光の渦が現れる。
「ついてきたまえ」
渦に入ると、一瞬眩暈のような感覚に包まれ迷宮区が目に映る。
「準備はいいな。今回ボスの攻撃に関する情報はない。
基本的には我々KoBが前衛で攻撃を食い止めるので、その間にパターンを見極め、
柔軟に反撃して欲しい」
皆が皆、無言で頷く。
「では、行くぞ。戦闘開始!」
扉が開かれ、ボス戦が始まる。
全員がボス部屋に入ると、後ろにあった扉が消滅する。
一個もってきていた攻撃上昇の《鬼人結晶》を使ってみるが、反応はしない。
広い床にはプレイヤーしか存在しない。ボスはどこにも現れない。
皆が張り詰めているのを理解しているのかいないのか、時間は過ぎていく。
耳を澄ます。聞き耳スキルを取っているので他のプレイヤーより聴力はいいのだが。
「ッ! 上だ!」
僕の声に皆が天井を見る。そこにいるのは骨の百足であった。全長は10mくらいだろうか。
特徴的なのは人間の頭蓋骨のような顔に青い炎のような瞳、
鎌状になった巨大な腕、そして槍上のものがついた長い尾。
その名は《Skullreaper》―――骸骨の刈り手。
刈り手が僕らの命を奪うために振ってくる。
「固まるな! 距離を取れ!」
しかし、その下にいるものは恐怖に竦んで動けない。
「チッ!」
チャクラムにフック縄をつけ投げつける。
数人いるうちの二人が縄の中に入り、戻ってきたチャクラムと縄を思いっきり引く。
二人救い出すことはできたが、そこはまだ数人。
そこに降りた刈り手は、残ったものに腕の鎌を振り下ろす。
斬られたものの体力ゲージが黄色に、赤に、そして・・・消滅した。
「なッ⁉」
誰の声か・・・それは分からないが、思うことは全員に伝わった。
斬られたものは地面に付く前にポリゴンになって消え去った。
体力が一撃で亡くなったのは幻などではなく、現実だったのだ。
刈り手は咆哮を上げ新たなプレイヤーに目を向ける。
その人もすくんで動けない。そこに割って入るのはヒースクリフ。
だが鎌は二つ。もう片方を振り上げるが、それはキリトさん達に阻まれる。
「大鎌は俺たちが引き受ける! 側面から攻撃を!」
そう言って、何人かのプレイヤーが攻撃に向かう。
そこに尾が振り下ろされる。一応にでも僕もサイコウなのだ。
クイックチェンジで武器を変更し、ブレイブビートでパリィする。
「尾は僕が引き受ける! 細かい足だけは気をつけろ!」
そうだけ言って、ポーションを飲む。
オート回復は籠手の効果でほぼチャラ、しかも完璧にパリィしたのに体力が奪われる始末。
時間が立てば攻撃力が増してパリィしやすくなるが、きついことこの上ない。
ステータスは筋力を大目振っているが、装備は軽量なのでパリィをミスれば体力は消える。
「重装備のC,D隊から攻撃開始! 軽装のアタッカーは暫く待機!」
ディアベルさんが指示を出す。この場で次官を務められるのはこの人だけだろう。
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体感で数時間、実際には十数分だろうか?
あの尾について分かったのは、攻撃力はあの槍上部分に集まっていること。
槍以外の部分なら比較的パリィしやすく、槍部分は耐久値が存在する。
籠手には《武装・部位ダメージ上昇》がついていて耐久値は奪いやすい。
だが、フロアボスの部位ともなるとそう簡単に破壊は不可能だろう。
「ふぅ―――――」
一度深呼吸をする。格闘術には、唯一それを可能にするSSが存在する。
だがそれは隙が大きく、失敗すれば確実に体力が奪われるだろう。
それでも、この尾を奪うだけで幾分も楽になるだろう。
やるしかないと判断して、右腕を大きく引き絞る。
モーションが発動する。モーションはさらに引き絞らせる。
それを今日攻撃と判断してか、刈り手は尾を俺に振り下ろす。
引き絞りが終了し、力を込めた右拳を思いっきり叩きつける。
「打ち砕くッ‼」
格闘術SS《千剣破打》、ためが長いが文字通りありとあらゆる剣を破壊する。
拳と尾がぶつかり合い、尾先の槍は砕かれる。
「尾は壊した! 全力で体力を奪い取れ!」
僕がそう言うと、全員が声を上げる。槍がない尾ではダメージはほとんど出ない。
キリトさん達に負担をかけないように即刻体力を奪い取る。
「全員! 総攻撃!」
ディアベルさんの指示も聞き全員が攻撃かかる、無論僕も。
それがしばらくの時間行われた。
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「・・・終わった」
刈り手はポリゴンとなり砕け散り、いつも通り『congratulation』の文字が浮かぶ。
膝の力が抜けてか、体が糸の切れた人形のように倒れる。
犠牲者は8人、あの足だけでも相当なダメージが出ていた。
皆が生き残りを重視した立ち回りをしていたのに、それでも圧倒的だった。
目を配らせると、唯一立てている人間がいた。
そう、ヒースクリフである。
Hpも半分程残っているうえ、その顔には精神的な余裕も見える。
それこそ・・・前に言った通り、物陰から石を投げる子供のように。
そして、キリトさんの話を思い出していた。
『あまりに早すぎる反射』
同じ推測を立てたのは・・・否、立てられたのはもう一人だけだった。
拳士は投げナイフを聖騎士に投げつける。
剣士は剣技を使い聖騎士に斬りかかる。
半分ギリギリ・・・いや、綺麗に半分残されたHpは減ることなく、
紫の閃光と《Immortal Object》、不死存在を示すシステムメッセージが浮かぶ。
キリトさんの瞳には驚きが浮かんでいる。
「・・・やっぱりそう言う事ですか。聖騎士改め・・・茅場晶彦」
拳士の声は、この場にいるもの全員を震わせた。