電子の世界を駆けるピーキーな少年(仮)   作:fallere

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よし、詰めた! ここからが大変だ!
ゼロ君には頑張ってもらわないと!



不思議な世界は終わりお告げる。

拳士は拳を振るう。この世界を打ち砕くために。

剣士は双剣を振るう。この世界を終わらせるために。

魔王は盾剣を振るう。己の夢の世界を守るために。

さあ、最後の審判が今始まる。夢が終わるまであと少し。



拳士・剣士・魔王

「それが伝説の正体ですか。どんなことがあろうとイエローに落ちないHP。

 そして不死のシステム保護を持っているのはNPCでないならシステム管理者のみ。

 このデスゲームの管理者は始めにシステムコールした茅場晶彦以外ありえない」

 

ずっと思っていた疑問が解かれていく。あの外から見るような瞳の理由も。

 

「この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがある。

 あいつは今どこから観察して、世界を調整しているんだろうってな。

 でも俺は、子供でも分かる単純な心理を忘れていた。

 ―――他人がやっているRPGをはたから眺めているほどつまらないことはない」

 

周囲が静寂に包まれる。誰もが声を出せない状態であった。

 

「何故気づいたのか参考程度に教えてもらえるかな・・・?」

 

茅場は飄々と尋ねる。

 

「僕はずっと疑ってました。あなたの瞳は常に余裕にあふれていた」

 

「デュエルの最後の一瞬、あんたは余りにも早すぎた」

 

茅場は頷く。唇の片端をゆがめ、顔に苦笑の色を浮かべる。

 

「なるほど、君たちは本当にイレギュラーだ。

 予定では95層まで正体を明かすつもりはなかったんだが・・・。

 確かに私は茅場晶彦で、最上層で君たちを待つはずだったラスボスでもある」

 

「趣味が悪いですね。最強のプレイヤーが最悪のラスボスですか・・・」

 

「なかなかいいシナリオだろ? まさかたかが3/4で暴かれてしまうとはな。

 君たちは最大の不確定因子だと思っていたが、ここまでとはな・・・」

 

ヒースクリフの纏う無機質、金属質な雰囲気はSAOの始まりを告げたアバターと同じだ。

 

「キリト君に与えられた《二刀流》は最大の反応速度を持つものに与えられる。

 魔王に対する勇者に役割を担うはずだった。

 ゼロ君の《格闘術》はエクストラスキル、所有者は85層くらいだと思っていたが。

 君たちは私の予想を超えて見せた。この想定外の展開もネットワークRPGの醍醐味か」

 

その時、傍観しているKoB幹部プレイヤーの男が立ち上がり斧槍を持ち上げる。

 

「貴様が・・・俺たちの忠誠―――希望を・・・よくも―――――ッ!」

 

その斧槍が振り下ろされる寸前、茅場が左手を振った。

 

男の体は空中で停止し、床に音を立てて落下した。

 

そのHPゲージは緑色の枠が点滅している。麻痺状態を示している。

 

茅場はそのままウィンドウを操り続ける。

 

確認すれば、僕とキリトさん、そして魔王たる茅場のみが立っていた。

 

キリトさんはアスナさんに駆け寄り、僕は臨戦態勢にすぐさま入る。

 

「ここで全員殺して隠蔽するつもり・・・なら僕らも麻痺にするべきですから?」

 

茅場は微笑を浮かべ首を横に振る。

 

「そんな理不尽な真似はしないさ。こうなっては致し方ない。

 私は最上階の紅玉宮にて君たちの到着を待つとしよう。

 ここまで育てた血盟騎士団、攻略組の諸君を放り出すのは不本意だが・・・。

 

 その前に、君達には私の正体を暴いた報酬を与えなくてはな。

 今この場で私と1対2で戦うチャンス、無論不死属性を解除してな。

 私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがログアウトされる」

 

キリトさんも暫く押し黙っている。

 

「僕はその決闘受けましょう。ここであなたを倒し、この世界を終わらせる」

 

正直何処までも戦える気はしなかった。ここで終わらせられるなら終わらせるしかない。

 

「・・・わかった、俺も決着をつけよう」

 

キリトさんも立ち上がる。それをアスナさんをはじめ数人が止める。

 

まあキリトさんがこの程度では止まらないだろう。僕は意識を集中する。

 

 

 

茅場はこの世界を作り出した者。システムアシストは読まれやすい。

 

であれば、《ゼロ》だけでは足りない。ソードスキル等を使うの前提では厳しい。

 

だから僕は、言うなれば現実の自分を《ゼロ》にロードした。

 

ただひたすら、守るために拳を振った・・・過去の自分を。

 

 

 

(この鋭敏すぎる聴覚、そして目の前の茅場から臭う害意・・・)

 

少年にとってこの感覚は二年ぶりであった。

 

ある時頭に石が当たった時に開花した超感覚。それに加え異常な観察眼。

 

VRと言う仮想世界にて失ったモノであり、ある意味少年の呪い。

 

(まさか本当にこんなことになるなんて・・・ただの幻覚か・・・まあいい)

 

頭を横に振る。その考察は今必要ない。

 

「さて、キリト君とゼロ君の準備はいいかな?」

 

「無論、いつだって」「もう充分だ」

 

そう、むしろいつだってこの疑問を明かすために力技でも調べたかった。

 

「僕はこの世界を・・・」「俺はこの男を・・・」

 

「「打ち砕くッ!(殺すッ!)」」

 

身体が弾かれたように加速する。雑念を払え。己の本能だけを信じろ。

 

キリトさんは一歩待って加速する。

 

キリトさんのシステム外スキル《武具破壊(アームブラスト)》を除けば対人戦は僕が最強だ。

 

まっすぐ突っ込んで行くと・・・茅場の左手にもつ盾がわずかに震える。

 

それを見て体を右下に滑り込ませると、元居た場所に盾が殴りこまれる。

 

裏に回り込めたが、纏う鎧は強固でとどめは刺せない。

 

であればと、羽交い絞めにして茅場を拘束する。

 

作戦などはないから単純なコンビネーションしかできない。

 

だがそれで十分だ。倒すだけなら手段は有り余るほどにある。

 

キリトさんも好機とみて一気に剣を振り絞る。

 

・・・だが、嫌な臭い。僕の嗅覚は脳内に特大のブザーを鳴らしていた。

 

大きく下がる。キリトさんは突っ込むが、システムアシストの発動を感知して下がる。

 

茅場は強引ともいえるほど力強く体を振り回した。

 

「神聖剣拘束解除スキル《大神風》・・・見せた覚えはなかったが流石の反応だ」

 

今回はこの感覚に感謝だ。とは言えCT(クールタイム)があるとしてもその時間は分からない。

 

ましてもう一度同じ策が通じる相手とは思えない。他の策を模索しなければ。

 

キリトさんが再び突っ込む。拘束不可能ならば基本に直り殴り倒すしかなさそうだ。

 

とは言え一方から二人で攻めるのは不可能なので裏に回る。

 

キリトさんの双剣、僕の拳、どちらも生半可な受けは許さない手数の多い攻撃。

 

しかしそれを茅場は捌いている。攻めきれないのだ。

 

先に崩れたのはこっち・・・僕だった。

 

そもそも僕は対人戦は得意でもどちらかと言うと一対多が本分だ。

 

異形のモンスターではなく、人間一人相手に長時間戦う経験はなかった。

 

拳が軽い。茅場はそれを見逃すほど甘い奴ではない。盾で弾き飛ばされる。

 

「なッ! くそォッ―――!」

 

キリトさんは発動してしまった。二刀流最上位27連撃SS《ジ・イクリプス》。

 

茅場の顔に勝利を確信した笑みが浮かぶ。全ての攻撃がことごとく受けられる。

 

最後の左手に持つ剣の一突きは十字盾の中心で受けられ、白き剣の先が砕け散る。

 

茅場の剣が緋色に染まる。《リジットストライク》だったか。

 

「さらばだキリト君」

 

身体を弾き飛ばすが僅か二間に合いそうにない。

 

だが、キリトさんの前に立つ女性が一人。アスナさんだ。

 

麻痺で動けないはずなのに・・・その驚きは茅場も共通であったらしい。

 

SSにかけるブーストが僅かだが弱まる。だが、その僅か今は欲しかったのだ。

 

最高速で動き、二人を弾き飛ばして左手の籠手で受ける。

 

「今の一瞬・・・見逃すほど落ちぶれてねぇよ!」

 

だが籠手が悲鳴を上げているのが分かる。残された時間は数秒。

 

右手でポーチから愛用のピック《女王蜂の刺剣》を・・・ぬく。

 

それを無理矢理茅場ののど元に持って行こうとする・・・しかし。

 

              バリィン!

 

籠手が砕けるのが先だった。無論、剣は止まらず身を裂いていく。

 

(ああ・・・あの籠手結構お気に入りだったんだけどな・・・)

 

そう思うと何故か笑ってしまう。

 

憎んでいたはずのこの世界も、悪くなかったと思ってしまうからか?

 

いずれにせよ、それを考える時間はなさそうだ。

 

斬り飛ばされている間、時間がスローに感じる。

 

何故か思い出したのはずっと昔、彼女と本を読んでいたころだろうか?

 

『わたしね、いつかおうじさまにあいたいな~!

 わたしがおひめさまでおうじさまとけっこんするんだ~!』

 

うん、本当に彼女は僕から見ればただの女の子なんだ。

 

『・・・それはすこしこまるな~』

 

ああ、そうか。だから僕はずっとあの子の味方で居たかったんだ。

 

そこまで考えたところで、地面に打ち付けられて思考速度が戻る。

 

「ゼロ! お前なんでッ⁉」

 

あんな走馬灯を見たからだろうか? 何故かかって言葉が出る。

 

「だって、王子様とお姫様を死んでしまえば物語は終わっちゃうじゃないですか」

 

本当にお似合いの二人だ。文字通りその二役が似合う程に。

 

「ああ、出来ることなら僕も王子様になってみたかったなぁ」

 

(それでも最後に、本当に守りたいと思えたものを守れた・・・)

 

既にHPバーは0になり、消滅まであと数秒だろうか。

 

「まあ、それならせめて魔法使い見たく最後の種はまきましたから・・・さようなら」

 

身体が消え去る。意識はそこでまるきり途切れた。

 

 

 

キリトside

 

俺たちの前で、ゼロの奴はポリゴン片になって砕け散った。

 

「ふむ・・・アスナ君が動いたのも興味深いが、ゼロ君も素晴らしい抵抗だった。

 ただ、彼がここまでして君たちを守るとは予想外だったが・・・」

 

そうだ・・・ゼロの奴は現実に会いたい人があるから戦っていたはずだ。

 

なのになんで俺たちを庇ったりなんかしたんだ・・・。

 

それでもあいつは俺たちを生き残らせてくれた。なら、それに答えなければならない。

 

「・・・アスナ、悪いが剣を借りるぞ」

 

ダークリパルサーの代わりに、アスナからランベントライトを貸してもらう。

 

「ダメッ! キリト君⁉」

 

アスナが俺を止めてくれる。だが、あいつは種をまいたと言った。

 

ならば仕切り直しは許されない。ここで茅場を倒してこのゲームを終わらせる!

 

「これで、本当に最後だッ! 茅場ァ―――‼」

 

「何度来ようと受けきって見せよう!」

 

確かに、何度剣を振っても防がれる。だが・・・茅場は攻撃を防ぐたびに顔を顰める。

 

そして攻撃を防ぐたびに僅かに茅場のHPゲージが減っていた。

 

そして、強引にパリィを狙ってきた。そこしか連撃を畳みかける隙はない。

 

最後の最後で先程はシステムアシスト頼ってしまってゼロが犠牲になった。

 

だが、それでもここは打つしかない。いや、打てとゼロが言っている気がする。

 

「スターバースト・・・ストリィィームッ‼」

 

黒の剣士キリトの代名詞、これでこの世界を終わらせる!

 

先程の《ジ・イクリプス》は完全に受け流されたが、これは受けきれていない。

 

だが、僅かに足りそうにない・・・!

 

そして、15撃目が終わった時に茅場の体力ゲージに変化が起きた。

 

緑の枠が点灯していて、ドクロのマークが浮かんでいる。麻痺毒とダメージ毒だ。

 

「なッ⁉」

 

そして、動けなくなったヒースクリフの腕の鎧の隙間にゼロのピックが仕込まれていた。

 

と言うのも、普段は刺さらないのだが、盾を前に動かそうとすると刺さるようになっている。

 

神聖剣は攻防一体、当然状態異常耐性も高いだろう。

 

だからあいつは気づかれにくいところに、普段刺さらないように仕掛けたんだ。

 

俺が攻撃しだしたらとる暇が無くなるように。

 

「茅場! とどめだァァァァァッ!」

 

16連撃目の突きは、麻痺状態の茅場を貫いた。茅場のHPゲージはゼロになった。

 

無骨なシステムアナウンスが鳴り響く。ゲームのクリアが告げられる。

 

 

 

ゼロside

 

気がつけば宙に浮いていた。

 

うん、おかしいとは思うけどそうとしか言えないのだ。一応水晶板の上みたいだが。

 

周りを見渡してみると、一つだけこの宙に浮いている物があった。

 

「あれは・・・アインクラッドか?」

 

空に浮かぶ鋼鉄の城は今まさに崩れようとしていた。

 

「やあゼロ君、中々の絶景だろう?」

 

隣にいたのはヒースクリフではない茅場であった。

 

「あの城が崩れ去ってるってことはクリアされたのか?」

 

「ああ、先ほど君の針で麻痺になり抵抗できずにキリト君の最後の一撃を食らったよ。

 それに伴い生き残っていた6147人のログアウトが完了した」

 

つまりこれで完全にSAOはクリアされたわけだ。

 

「んで、僕はどうなるんだ? あんたと心中なんて勘弁だが?」

 

「あの決闘が始まると同時、決闘が終わるまで死んでも脳を焼き消さないように変更した。

 つまり君は生きて現実に変える事ができる。

 向こうにいるキリト君達もそろそろ目を覚ますだろう。挨拶はいいのか?」

 

茅場の指の先には、いつの間にかキリトさんとアスナさんが寄り添って寝ていた。

 

「ここで顔を出すのは野暮でしょう。さっさとログアウトさせてください」

 

「・・・成程、わかった」

 

茅場がウィンドウを操作し始める。

 

「あぁ、あと一つだけお前に・・・」

 

そう聞くと茅場はふと顔を上げる。

 

「僕はこの世界が嫌いだ。閉じ込められ、常に死の恐怖と隣り合わせだったからな。

 だが、この世界で学んだこともある。それに関してだけは評価してやる」

 

「ふふ・・・君は面白いな。このゲームを作り上げたものとして感謝しておこう」

 

そう言われると、この世界が遠ざかっていく。

 

ああ、やっと終わったんだ。これで彼女に会える。

 




the next story…

「お父さんお母さん、お願いがあります」
・・・・・・
「東京に行く娘を頼んだわよ」
・・・・・・
「お前何もんだ⁉」
・・・・・・
「彼女の領域を汚すものは・・・この僕が打ち砕くッ!」
・・・・・・
「何してるのよ・・・満留」
・・・・・・



次回より帰還編! 近日公開!
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