人の感情には表裏がある。本音と建前、二枚舌、虚と実。
それはゼロ君とて変わらない。この物語を描く私も、閲覧する皆様も。
ゼロ君の中にある本音と建前は何なのか。
本日はそんな話・・・。
男は少年に問う。なぜそこまで少女を守るのか、と。
少年は男に返す。大切なものを守りたいと思うことはおかしなことか、と。
少年は拳を握る。拳士としてではなく、ただの一人の少年として・・・。
2024年 12月15日 日曜日
SAOがクリアされてから早一か月弱、既に僕は日常生活に支障がないほどに回復していた。
今は詩乃と一緒に地域の図書館で本を読む・・・もとい受験勉強中だ。
「あ、そういや明日からまた学校行くから」
「ふ~ん、大丈夫なの? 嫌味言われるかもよ?」
正直なところかもじゃなくて確実に言われるだろう。
「別に言いたいなら言わせておけばいいし、それよりも大切なことがあるし」
手を出してくるならやり返せばいい。もう僕は反撃することを迷わない。
そんなことより詩乃の方が心配なのだ。それだけのために二年間戦ったのだから。
「もう6時か・・・詩乃はそろそろ帰った方がいいんじゃないのか?」
既に外は真っ暗である。詩乃のおじいさんたちが心配するのではないか?
「おじいさんがあんたと一緒なら心配ないって。
私としてももう少し勉強したから頼むわよ」
「わかった。おおせのままに」
サーシャさんに教えてもらったおかげで勉強にはついて来れている。
本当にあの人には感謝してもしきれない。
「あの、そろそろ閉館時間なのですが・・・」
気づくと7時前だった。閉館時間ともなると帰らないわけにはいかない。
「7時? って・・・ああ、もう戻ったんだな」
SAOでは帰るのが10時でそこからずっと勉強していたから少し感覚が狂ってる。
「満留、帰るわよ」
「分かってる」
出していた本をカバンに入れて図書館を後にする。
「流石に遅くなりすぎたかしら?」
「・・・これ遅いって言われたら僕が拳骨食らう奴じゃないか?」
「あら、そう言えばそんなこともあったわね」
おじいさんの拳骨くっそ痛いんだけど・・・。
「はぁ・・・まあ殴られる位問題ないか」
そんな程度ならあの世界で生きて居残るよりは全然問題ない・・・。
「心配させよってこの馬鹿モンがッ!」
予想はしていたので相当ましになっている・・・それでも痛い。
「心配をかけてごめんなさい・・・」
心配かけた以上怒られても仕方ない。
「まったく・・・これでは詩乃を安心しt・・・ムグゥ!」
詩乃が何やらおじいさんの口を押えて小声でささやいている。
「え~と詩乃、取り合えずおじいさんが苦しそうだからやめてあげて」
詩乃は「満留が言うなら」と拘束を解いた。
「おじいさん大丈夫ですか?」
「あ、ああ、詩乃もたくましくなったものだ・・・」
本当にたくましくなったな・・・。あの頃よりずっと・・・。
「じゃあ僕も帰りますので、と言っても隣ですが」
「あ、満留君。君の親が今日は忙しいからうちに世話になれと言っておったぞ」
そんな話聞いてなかったんだが・・・。まあ忙しいのでそう言う事もあるか。
「はぁ⁉ そんな話聞いてないんだけど・・・」
詩乃は驚くが息子の僕も聞いてないのではまあ詩乃も知らないだろう。
「では申し訳ないですがお邪魔さていただきます」
「ちょっと⁉ あんたもなんでそう簡単に受け入れるのよ!」
「いや・・・向こうでずっと一人でご飯食べてたから・・・。
帰ってきてからも病院では一人だったから大人数で食べるのは嬉しいなぁと・・・」
ずっと戦っていて食事もほとんど適当に取っていたから大人数で食べるのは嬉しい。
「うぅ・・・わかったわよ。上がりなさい!」
「ありがとう」
そう言って入れてもらう。詩乃の家に入るのも久々だ。
懐かしい匂いが鼻を通る。優しい匂いが満ちている。
「あら満留君、久しぶりね」
「おばあさん、お久しぶりです」
詩乃のおばあさんたちにもお世話になっている。
今回のように両親が遅くなる時は毎回おばあさんの食事を頂いている。
「今日はゆっくりしていくといいわ」
本当にありがたい。一人で食べる食事は正直・・・ずっと寂しかったから。
「はいどうぞ、今日の晩御飯は肉じゃがよ」
「懐かしいですね・・・僕が昔来た時も作ってましたか・・・」
詩乃は『よく覚えているわね・・・』と言っているがまあ・・・色々だ。
配膳を手伝って皆を食事を開始する。
「いただきます」
僕の味覚は嗅覚や観察眼と同じで鋭敏化される。
お陰でカップ麺やスナック菓子なんかは僕は苦手だ。
「相変わらずおいしいですね」
親愛する人が作ってくれてものは何故か素朴で美味しいのだ。
もとより脳に傷があるわけではないから感情からくるものに近いらしいからかもだが。
給食なんかは嫌いだったな。ましてや周りの人間もうるさいし。
「あんた本当にこの肉じゃが好きよね・・・」
「大切な人が作ってくれたものじゃないと美味しいと思えないんだけどね・・・」
これが役に立つことは少なくても役に立たないことがないのはましだ。
「そう言えばあの子が満留君を呼んでいたわよ」
「おばさんが? 何かやらかしましたかね?」
思いつくものはSAOから帰ってから一度もあってなかったぐらいだろうか?
「晩御飯を頂いたら部屋に上がらせてもらいますね」
こんな人数で食べる食事は本当においしかった。
「四季満留です。お邪魔します」
ノックして返事があったので室内に入らせていただく。
「・・・満留君、大きくなったわね」
少し驚く。おばさんはあの日からずっと子供のようになっていた。
「おばさん、大丈夫なんですか?」
それは現実を否定するための幼児化、成長に対する否定である。
「あなたにはずっと迷惑をかけたわね・・・」
「別に、僕は自分のしたいことをしただけです」
そう、これはただの自己満足なのだ。であればおばさんとも何も変わらない。
「いえ、詩乃が今怪我無く居られているのは間違いなくあなたのお陰よ。
満留君がいるから大丈夫って私はずっと逃げていたのね・・・」
「・・・それは違います。おばさんがいたから詩乃はまだ希望を持ててるんです」
そう答えると、叔母さんは「ふふふ」と笑う。
「あの子の希望である満留君に言われるならそうなのかもね」
僕が彼女の希望? それはいい過ぎだと思う。彼女のためにいれればいいとは思うが。
「満留君、あなたにお願いがあるの」
「なんですか?」
どんなに考えても思いつかない。何を願われるのだろうか?
「東京に行く詩乃を・・・私の大切な娘をお願いできるかしら?」
「僕でよければ」
おばさんは驚いたようだ。
「そんな即決断でいいのかしら?」
「勿論です。僕がずっと戦ってきたのは詩乃を守るためですから」
おばさんの顔には驚きに加え呆れまで見えてきた。
それでも自分にとって詩乃を守るために自分の力を振るうのだ。
「・・・わかったわ、じゃあ娘を頼んだわよ」
「勿論。僕の全てをもって詩乃を守ります」
「頼もしいわね。ありがとう」
それで終わりと聞くと部屋から出る。親も来ていたので家に帰った。
「満留、結構上機嫌じゃないか?」
そう聞く父親に自分が答えたのは一言。
「なんでもない、ただやる気が出ただけだ」
父さんは少し笑う。母さんは何時ものように微笑む。
自分が生き残ったのは彼女守るためなのだから止まるわけにはいかんのだ。
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翌朝、家で朝食を食べた後詩乃とともに学校に向かう。
学校に向かっていく途中、人の気配を感知した。
「詩乃、少し下がっておいて」
「え?」
害意の臭いは僕からすれば最も気づきやすいに臭いだ。
「オイオイ! 臆病者が人殺しを庇ってるぞ!」
そんな声が聞こえてくる。湧き上がるのは怒りの感情。
「なんのようですか・・・?」
「ただ久々に見た奴がいたから声かけただけじゃ~ん!」
鋭敏な聴覚、悪意を感じ取る嗅覚、見逃さない観察眼、その全てが危険を告げる。
「君等が何のつもりかはわからないけど・・・邪魔だからどいて欲しい・・・」
「ああいいよ、教室で楽しみにしているといい」
一応クラスメイトだが、友達などではないしむしろ外敵。
「あんたいきなり襲われたわね・・・」
「別に詩乃に怪我無いなら問題ない」
そう一言言って、再び学校に向かう。
教室も何も、文句があるなら口に出せばいいのに。
クラスは詩乃と同じらしいが、他のメンバーの顔など分かるはずもない。
教室に来ると、机には落書きがされている上、墓のように花を刺した花瓶があった。
周りの男がケタケタ笑う。そこにある状況は子供の遊び。言葉要らない。
「ちょ・・・ちょっとこれ・・・!」
詩乃が声を上げそうになるが、それを手で押さえる。
「・・・くだらない」
「あ、ごめ~ん。二年も来ないからてっきり死んだのかと思ってたわw」
どうせよくあることだろう。興味はないし拳で解決のも面倒だが。
「こんなくだらないことして楽しいんだな・・・」
花瓶を握り、力を籠める。花瓶にはひびが入っていた。
「こんなことをして・・・人をいじめて・・・それなら僕は
手から離れた花瓶は重力に引かれ地面に落ち割れる。
「大体聞くけど、お前は何でそこの人殺しの味方をするのよ?」
「別に・・・自分の命よりも大切なことがあってもいいだろう。
ただ、それを僕と君たちが理解し合えなかっただけだろう」
自分の中に感じる怒りは膨れ上がる。人殺しと罵ってばかりの愚者に。
「そうやっているのも面倒だから二年の内に死んでくれればよかったのにw」
怒りはそれではちきれていた。
「君等はそう簡単に人に死ねと・・・人殺しと簡単に言うけど・・・
それがどれだけ重い事か・・・君等は知らないのだろうね・・・・。
大切なものを守るために・・・自分の何よりも勇敢に戦う意志も・・・
簡単に言う死ねという言葉が・・・本当に死を呼んでしまう事も・・・」
周りの人は怯えていた。普通の人にもわかるほどの怒気を僕は放っていた。
「君等のその愚考、僕の
僕の体は動いていた。殴りかかっていることに迷いはなかった。