大切な人を気づつける人間を、少年は許さない。
逆鱗の意味を、力とともに思い知らせる。
運命の輪が、回り始めた・・・。
週も明け、詩乃も少しは機嫌がよくなった。
「大丈夫? 別に一日ぐらい休んでもいいんだよ?」
「そこまでやわじゃないわよ。あんたは過保護過ぎなのよ」
昨日、僕の部屋でぐっすり寝ていた(意味深なことなどない)のは黙っておく。
食事を済ませて学校に向かう。もう油断はしない。ゴミは絶対に詩乃に近づけさせない。
「じゃあ行こうか。一応、無理する必要はないからね」
自分にできることなんて些細なことだ。それでも自分の全力で詩乃を守ろう。
学校に向かっている途中も、詩乃は少しそわそわしていた。
あんなメスガキ共にできることなど限られている。
それでも次詩乃を気づつけるなら・・・ドウナッテモシラナイカラ。
教室に入ると、何故か周りの生徒が怯えたような表情を見せた。
それ自体はいつものことだ。そう、僕が怖がられることは。
「何故か」と表現する理由は単純だ。怯えられているのは詩乃であったからだ。
なんとなくか詩乃もそれを察知したらしい。まずは席に着いたのだが。
(さて・・・とりあえずは・・・)
クラス委員長の男の前に立つ。
「君、この態度はどういうことなのか教えてもらおうか?」
委員長は体を震わせて視線を向けずに「知らない」と答えた。
「成程、なんの態度がおかしいのかは分かってると」
委員長は極寒にでもいるかのように震えていた。
詩乃が僕の名前を呼んで止めようとするけど、流石に止めるわけにはいかない。
「・・・もう一つだけ問おう。遠藤か?」
委員長はこれ以上何も言わないと決めたようだが。
「急激な発汗、及び心臓の鼓動の加速、加えて筋肉の硬直。図星か」
鋭敏な嗅覚、聴覚と恐ろしいほどの観察眼の前では隠し事は通じない。
「それだけ確認できれば十分だ」
一瞬瞳を閉じ、昨日の足音と臭いと同じものを探す。
気づくのに時間はかからなかった。何故なら丁度教室に入るところだったから。
すぐさま近づいて両手で襟元をもって持ち上げた。
三人組で話していた上、音もたてずに近づいていたため気づかれなかった。
「おいメスガキ、お前ら何をした?」
「な・・・放せ・・・!」
「「え・・・遠藤!?」」
詩乃はまだ止めようとしている。そう、詩乃は優しいままでいい。
「黙ってないで話せ。僕は詩乃みたいに優しくない」
頭の中に浮かぶ怒りは、本当に何をしでかすかわからないと同時に、
こんなやつに何をしたところでどんな問題もないだろうと思っていた。
男が一人、僕止めようとか急いで走ってきた。
このメスガキをそいつに投げる。男は減速して受け止めたところに男ごと蹴りを入れる。
「邪魔するな。次はどうするかわからないよ」
「あはは・・・人殺しの付き添いはやっぱり人殺しか・・・」
怒りは尋常じゃないほどまでに燃え上がる。ここまで怒るのは何時ぶりか?
それでも、首を刈り取ろうとした前と違って逆に殺そうとは思わなかった。
「誰が誰を殺したって? その汚い口で話してみろ」
「朝田の奴が小学生の時に人を殺したんだ・・・そうだろ?」
周りの人間は目を背けるが、それは肯定を示していた。
「そういやお前はSAOにいたんだっけ・・・?
そりゃあんな狂った世界にいれば・・・人殺しの味方にだってなるよ・・・ガッ!」
メスガキの顔を蹴った。それはさも当然のように行っていた。
「分かった。お前の頭は壊れてるんだな。俺が
「ちょっと四季さん! 暴力を振るうのは・・・ッ」
止めようとした相手に視線を一瞬向ける。止めようとしたのは関係のない女。
最早怒りを通し越して凍った瞳に、まるでメドゥーサか何かのように固まっていた。
視線を直してメスガキに向ける。
「なにも知らないゴミが、知ったかのように言うな!
詩乃が殺した? 理由は? 証拠は? 情報元は?
ゴミ共はそれを全て調べたのか? 絶対的なリソースか?」
再び生徒たちは目を背ける。それが本物か確認するなんてことゴミ共がやるはずがない。
もっとも、本当か確認されるのはこっちは嫌な限りなのだが。
「人殺しと狂人が・・・調子乗ってんじゃねえぞ・・・」
「ああ、僕は狂っている。それを否定するつもりはない。
だけど、詩乃が人殺しと言うのは取り消せ」
人殺しとひとえに言っても、詩乃は決して望んだわけではない。
いけないのか? 大切なものを守るためにそれしかなくても殺してはいけないのか?
「体の傷はいいよな、時間で大体治る。時間さえあれば痛みも引く。
だけど心に付いた傷はそう簡単に治らない」
詩乃はずっと苦しんでいるんだ。だから報われてもいいだろう。
再びこのメスガキを持ち上げていた。
「そこの取りまき、言うことはないか?」
メスガキ二匹は腰を抜かして口を震わす。
「お、おい! 早く助けろッ!」
「黙れ。人を傷つけて自分が傷つけられれば助けを乞うのか」
暴れだすが、鍛えてもない女が多少暴れたところで問題ない。
「あ、朝田、こいつを止めくれ!」
「詩乃の優しさにつけこむクズが偉そうにするな!」
詩乃は黙っている。傷つけた奴に助けろと言われてもそう簡単に許すはずがない。
「人殺しって言っておいて頼るのか? 滑稽だな。
そうやっていろんな奴につけこんできたんだろ?
自分で戦うことなく、他人に任せて興味が無くなれば切って来たんだろ?」
図星なのか腕の上で震えている。だがどんなに震えても僕は離さない。
「クソッ・・・偉そうに・・・!」
どうしても反省するつもりはないようだ。
「・・・ああ、もういいや。腐れ外道に時間かける理由もないし」
手を放す。メスガキは助かったと思ったのか少しほっとした表情をする。
「許されたと思うな。お前のような腐れ外道は・・・」
腕を引き絞る。それを見て後ろに下がろうとするが、既にそこは壁だ。
最大限の威力を出すために、エネルギーの無駄を最低限に・・・。
「打ち砕くッ!」
ここまで起こった僕の拳を止めることのできるものはいない。
例え詩乃であっても。それでも詩乃は声を上げていた。
「やめなさい!」とあげられた声も拳を止めるには至らない。
だが、僕は無意識に詩乃の指示を優先してしまう。
だから拳がずれてしまう。顔に向けて放った拳がそこからずれた。
隣につるされていたホワイトボードを、僕の拳は砕いていた。
「・・・なんで止めたの?」
視線はむけない。今の顔は、向けられる気がしなかった。
「あんたは絶対にそんなことしちゃダメ」
それ以上は何も言わなかった。理由にはならないけど、僕にはそれ充分だった。
「わかった。詩乃に感謝するんだね、これ以上はもう僕も止まらないから」
それを聞いてメスガキは失神した。そこにタイミングを見て先生が来た。
「四季君! これはどういうことですか!?」
「チッ・・・見てただけで何もしなかった
危うく普通の声で言うところだった。教師は首を一瞬傾げた。
「いえ、私は正しいと思ったことをしたまでです。
どうなのかはうちのクラスの連中にでも聞くといいです。
私はもうこれ以上話したくないです」
そう、これ以上話せばまたどこで怒りが爆発するかわからない。
できることならこれ以上、僕が怒らないように。
結果として僕には過剰防衛として2日間の、
メスガキ共はいじめの主犯として1週間の停学処分が下された。
そして結局、僕たちに対する忌避の目は・・・と言うか主に僕に向いていた。
別にそんなのは慣れている。詩乃が傷つくよりもよっぽどましだ。
以下は、停学中の話である。
「ていうか満留、手は大丈夫なの?」
「簡単にケガするようなやわな鍛え方はしていないよ」
まあ殴ってすぐは正直結構な痛みがあったが。
「でもあんた・・・クラスメイトからは怪物とか言われてるみたいよ?」
「別に言いたいように言わせればいい。僕は僕以外の何でもないし」
だから僕は自分の信念を貫くつもりだ。
自分の信念を失えば、自分じゃなくなる気がするから。
「・・・少し膝を貸しなさい」
「え? なんで?」
「疲れたのよ、誰かさんのお陰で色々と見られるし」
「それは・・・ごめん。だけど膝枕って・・・子供じゃあるまいし・・・」
小学生の頃は寝れない時とかよくやってあげたけど・・・。
「私がさせてあげるって言ってるんだから光栄に思って早く貸しなさい」
・・・まあ何となく意味は察した。詩乃なりに元気づけようとしてくれてるのだろう。
「はいはい、じゃあ望むように」
男の膝枕なんていいもんじゃないだろうに、詩乃はすぐに眠りについた。
その寝顔は可愛らしくて、矢張りなにがなんでも守りたいと思った。
近づいてきた・・・原作の時が・・・。
次回は「アサダサンアサダサン」の登場予定です。
大丈夫、最初からは発狂してないし満留君が納得するようにうまく引き合わせますから。