俺は会議が終わったので、明日の最上階攻略に備えアイテムの補充をしていたところ。
「おにーさん、ちょっと話いいカ?」
語尾に何となく独特のアクセントのある声をかけられた。
「・・・どなたです? 僕は貴方と知り合いでしたか?」
取り合えず声の方を振り向くと目深にフードを被った低身長の人がいる。
「あんたが《zero/ゼロ》でいいカ?」
「? はい、確かに僕がゼロですが」
「あんたと話がしたイ、少し時間を頂いて構わないカ?」
取り合えずアイテムの補充以外やることはないので了承した。
明らかに怪しいが、話を聞くくらいはしてもいいだろう。
俺はその人に連れられ、飲食店・・・と言うより喫茶店(?)に案内された。
「えぇと、取り合えずそのフード外してもらえます?
流石に素顔が見えない相手との会話は・・・」
「おっと、そうだったな。オレっちとしたことガ・・・」
フードの下から現れた素顔は、女性のものだった。
ただし、頬に鼠のような三本のペイントが・・・鼠?
「もしかして、鼠で名高いアルゴさんですか?」
鼠のアルゴ。
今日の会議で情報があったことを示すのに使ったアルゴの攻略本の筆者。
そして現時点、アインクラッド唯一にして最高の情報屋。
噂では『売れる情報は何でも売る』のがモットーらしく、
『《鼠》と五分雑談すると百コル分のネタを抜かれている』と言う噂があるくらいだ。
「お! オレっちのこと知ってるんだ?」
「そりゃ最前線にいてあなたの事を知らないプレイヤーはまずいないでしょう」
今の攻略組メンバーでもアルゴさんの助けがなくては最前線はもっと後ろだったはずだ。
「ニャハハ、いやぁ、オレっちの友人が君の情報を買いたいと言ってね」
この僕の情報? そんなものを手に入れて何の得になる?
「ゼロ君、君は目立ったからいくつか同じ仕事を受けてるンダ。
あのキバオウって奴に反論して自分の意見を言ってはいたが、
背中にも腰にも、
「僕、投剣以外使えなかったんですよねぇ・・・」
「・・・はァ? いやいや、仮にもトップランナーが剣を使えないって・・・」
「冗談じゃなくて・・・せいぜい短剣が掠るぐらいで・・・」
自分で言っていて泣きたくなってきた・・・。
「で、この情報をいくらで売るんですか?」
そう、こうやって話を戻さないと一方的に知られるだろう。
「少なくとも、依頼料に二千コルはもらってるからそれ以上出してくれたら話さないヨ」
口止め料ですか・・・なかなか狡いと言うかなんて言うか・・・。
「別に口止め料は払いませんよ。ただし・・・お願いが」
「ほう、なんダイ? オネーサンに話してみなサイ」
「まあ所詮恩を売っておきたいだけです。今後ともご贔屓に・・・って」
俺はメニューを操作して、アルゴさんにフレンド登録を申し込んだ。
「・・・ニャハハ、君面白いね。普通なら対価として情報を求めたりするんだケド」
「情報なら攻略本で充分もらってます。気になる情報もなくはないですが・・・」
できることなら《体術》スキルを聞きたいが、それを聞くのはボスを倒してからだ。
「ま、こんな程度なら安いもんサ。こちらこそご贔屓ニ」
因みにだが、なんだかんだで初フレンドである。
そこからはちょっとした質問攻めにあった。
バトルスタイルや身長体重、後は武術の経験があるかなど・・・。
それらの質問が終わるとアルゴさんは去っていった。
今から依頼主に情報を届けに行くのか他の仕事か・・・兎に角情報屋は忙しいらしい。
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翌日の夕方、またもや会議が噴水広場で行われた。
その理由は、ディアベルさんがボス部屋を見つけ、ボスの顔を拝んできたからだ。
そして同時、《アルゴの攻略本:第一層ボス編》が出版された。
ディアベルさんの話と攻略本は一致していた。
先ず、ボスは《イルファング・ザ・コボルドロード》で武器は曲刀。
取り巻きに重装備の《ルインコボルド・センチネル》が斧槍を持っている。
そして攻略本にはセンチネルは始めに三体、
ボスの四本ある体力バーが一つ無くなるごとに再出現すると。
他にも相手の推定HPや剣速などの情報が載っていた。
そして裏表紙には赤いフォトンで、
『情報はベータテスト時のものです。現行版では変更されている可能性があります』
と書かれていた。
これは非常に危険だと思う。
昨日の会議で僕はアルゴさんの情報提供者はベータテスターと言ったが、
これはアルゴさんがベータテスターと言われる可能性がある。
これをディアベルさんはどう答えるか・・・?
「・・・みんな! 今回はこの情報に感謝しよう!
この情報のお陰で二、三日かかるはずの偵察戦を省けた。
一番死人が出る可能性が高いのは偵察戦だから」
少なくとも現状でディアベルさんはベータテスターを弾劾するつもりはないらしい。
キバオウさんも今は踏みとどまっている。
「この通りなら、ボスステータスはそこまでヤバくない。
きっちり
いや、違う。絶対に死人をゼロにする。俺が騎士の誇りにかけて約束する!」
周囲から歓声が上がる。カリスマ性がある人がいるのは悪い事ではない。
彼にはできれば最前線でバランスを取ってもらいものだ。
「じゃあ、早速だが、レイドを組むためのパーティーを決めたい。
これから五、六人で集まってパーティーを組んでくれ!」
マジですか・・・。正直一度もパーティー組んだことがないからなぁ・・・。
そう思っているうちにどんどん集まりが出来ていて、その全てが六人グループ。
それが七個だから三人あぶれて俺がその一人と言うわけだ。
「あんたもあぶれたのか?」
誰かに声をかけられた。声の主は俺と比べると5~10cmほど身長の低い男だった。
「そうみたいですね・・・。君もと言うことはあなたたちも?」
たち、と言ったのは後ろに紅いフードの人がいるからだ。
「ああ、まあ取り敢えずこの三人でパーティー組むことになるだろうな」
実際、ディアベルさんが各パーティーの確認をしているが、
武器種などで分けているうえ、今のところ五人になったところもないのでこの面子だろう。
「自己紹介もしておきましょうか、僕はゼロ。まあ昨日ちょっと前に出た人ですね」
「俺はキリト、よろしくな」
「アスナ、よろしく」
最後の《アスナ》と言う人の声は高く、女性かと思ったが聞くのは無粋と思ったのでやめた。
「なあゼロ、あんた腰にも背中にも武器が見えないが主武装は何なんだ?」
パーティーを組む以上教えるのが筋だろう。
「ええと、剣とか槍を試したんですがどれも使えなくて・・・。
相手の間合いは分かるんですが自分の間合いは分からないんですよね・・・。
結果投剣だけでここまでやってきました。
・・・こちらも一つ質問していいですか?」
キリトさんは驚きながら、それに頷く。
「なんで今のこと知っていたのに態々聞いたんですか?」
「⁉」
キリトさんはこっちにこそ本当に驚いた顔をする。
「キリトさん隠し事苦手でしょう。顔にもろに出てますよ」
この人案外単純かもしれない。
結果はアルゴさんから聞いてたらしい。
ディアベルさんも同じ質問をされて、同じ答えを返した。
ただ、僕の情報を知っていたかはわからなかった。
「えーと、センチネルは重装備だから喉元じゃないとダメージが通らないんですよね?」
その後、キリトさんたちと攻略本を見て確認を取る。
「ああ、そこ以外だとかなりダメージが軽減される。
俺が攻撃をパリィするからそのタイミングでスイッチしてくれ」
「「スイッチって何ですか(何)?」」
キリトさんはため息ついた後、ゲーム用語大量に詰め込まれた。
いや、前日の詰め込み・・・いくない・・・。