今目の前で、一層ボス《イルファング・ザ・コボルドロード》が討伐され、
部屋の中心に『congratulation』の文字が浮かぶ。
奇跡的な結果だ。
初めての大規模レイドボス戦で情報との違い、指揮官のスタン等トラブルに見舞われて、
死者数は一人もいない・・・はずだ。
キリトさんに教えてもらった方法で、全パーティーのHPゲージを確認してみる。
そこにははじめと同じ45人の体力ゲージがイエロー以上で残っていた。
そこでやっと肩の重みが消える。
そして新たな重みが肩にかかる。
(一体、これを後どれだけ繰り返せば現実に帰れるのだろうか?)
そして・・・その間自分は生きていられるのだろうか・・・。
それでも、僕にできるのは進み続けることだけだ。
キリトさんとアスナさんがこっちに向かってやってくる。
「ゼロ、やったな」
「お疲れ様」
「やりましたね、これでようやく進展です」
「コングラチュレーション、あんた等がいなければ攻略は全壊だった。
この勝利はあんた等のものだ」
そこに声をかけてきたのは、エギルさんだった。
「いえ、エギルさんが助けてくれなかったら僕は死んでました。
ありがとうございました」
勝利を分かち合っていたところに、怒鳴り声が飛んだ。
「おまんら! なんでボスの情報黙っとってん‼」
この関西弁、間違いなくあのとげ頭のプレイヤー、キバオウだ。
「黙ってた?」
キリトさんが代表して声を上げる。
「だってそうやろ! お前はあんコボルドの技知っとったんやろ⁉
そんでもって、そこのゼロって奴に教えとったんや!
じゃないとそいつがタイミングよくディアベルはん助けたり攻撃躱したつじつまが合わへん!」
正直、無茶苦茶だと思った。
だが、確かにディアベルさんを助けられたのは違和感に気づいたからで、
確かにその違和感に注意するように声を荒げれば・・・いや、指揮が乱れるだろう。
ただ、あれだけ躱し続けれたのも奇跡に近く、
僕がコボルド王のソードスキルを知っていたなら都合がいいのは間違いない。
周りからは、僕たちに対する侮蔑が飛び交い始める。
ディアベルさんも、止めようとしているが効果はない。
「そうか・・・結局ここもこうなのか」
どんなに頑張ってもその努力が認められることはない。
認めてくれたのは親と、あの子の家族だけだった。
「こいつらはきっと元ベータテスタだ! だからボスのソードスキルも知ってたんだ‼」
「ベータ―のチーターで・・・ビーターだ!」
「黙れッ!」
ああ、これだけ声が出たのは何時ぶりだろうか・・・。
周りは一気に静まり返った。
「そんなに実力が信じられないなら試せばいいだろう?
さっきからビータービーター言ってる人から一人代表して僕とデュエルしろ」
「おいゼロ!」
「大丈夫ですよキリトさん、対人戦の方が慣れてます」
あれだけ喧嘩したんだ。むしろ慣れないモンスターで戸惑ったくらいだ。
「ダメだ、危険すぎる。ゼロ君か、それか相手が死ぬかもしれないんだよ?」
「半減決着モードか初撃決着モードにすれば大丈夫ですし・・・
何よりむしろこの関係をこのままにしておく方が問題でしょう?」
ディアベルさんはそう言われて黙ることしかできなくなった。
結局代表は、キバオウが出てきた。
僕はウィンドウを操作してデュエル申請を送る。
設定は初撃決着モード、体力が半減しても負けだ。
申請は了承され、カウントダウンが始まる。
そしてそれがゼロになり、デュエルが始まった。
キバオウの武器は片手直剣で、一気に距離を詰めてきた。
距離を詰めれば投剣は使えないという算段だろう。
繰り出される剣戟を、飛んでスライドしてしゃがんで回避する。
攻略組であるためその剣筋は鋭く、速い。
だが、所詮射程が長いだけでカッターナイフと大して変わらない。
キバオウはしびれを切らして、ソードスキルを発動する。
単発斜め斬りソードスキル《スラント》、それはキリトさんがパリィするのに使ったもの。
もう何度も見たため見慣れているうえ、キリトさんほど早くないため僕も仕掛けることにした。
振られた剣の剣筋から僅かな移動でかわし、手首を掴む。
そのまま相手のソードスキルのアシストも利用し、転換を使い地面に叩きつける。
合気道の初歩である《四方投げ》。
しかし、これではまだ決着にならなかったようだ。
足を引き、キバオウさんの右手を思いっきり踏みつける。
だが、いかんせん武器の補正もない攻撃ではクリーンヒット判定にはなりにくいようだ。
「ん」
そこにちょうどいい剣があった。キバオウさんの剣だ。
持っていた右手を踏んだ時に放してしまったのか。
僕はその剣を拾って・・・放り投げた。
そして倒れているキバオウさんを蹴りつける。
「どうしたんですが? 僕の力はベータテスターに教えてもらったものなんですよね?
じゃあここに倒れてるの何でしょう? さっきコボルド王に斬られたんですかねぇ?」
気づけば、怒りのセーブは吹っ切れていた。
キバオウさんはよろよろと立ち上がる。その頭を殴り倒す。
「どいつもこいつもそうだ。自分に都合が悪くなると嘘をでっちあげる。
こういうやつがいなければ・・・あの子も苦しまなかったのに・・・」
何度も立ち上がろうとするキバオウさんを、蹴って殴って倒す。
それを何度か繰り返して、キバオウさんの体力は半減してデュエルの決着はついた。
「・・・これで文句はないでしょう。僕はこれで失礼します」
そしてやっと、自分がやり過ぎていたことに気づき、この場にいるのがつらくなった。
僕は逃げ去るように第二層までの階段に向かった。
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キリトside
階段を走って上っていたところで、ようやく人影を見つけ声をかける。
「おい、ゼロ!」
「・・・キリトさんですか」
ゼロは会いたくなかったという顔をしていたが、話さないといけないことがある。
「ええと・・・すまない。ベータテスターへの憎悪をお前に向けた形になってしまって」
「・・・別に、僕としては一刻も早く現実に帰りたいだけです。
そのためにベータテスターの情報は必須だと思ってるからああしただけです」
「ゼロ・・・お前は一体何を芯に戦ってるんだ」
一番の疑問だったことを口にする。
攻略組の多くが何かしらの芯を持っている。
俺ならばこの背中に背負っている剣が自分を剣士にしてくれる。
アルゴならば情報をそれこそ星の数ほど手に入れることでこの世界の芯にしている。
ならばゼロはどうだ?
特に情報通と言う訳でもなく、武器は威力の足りない投剣のみ。
武術の心得があるようだが、それも何か違う気がする。
「・・・僕は、約束を守るために現実に帰らないといけません。
あの子の・・・彼女の味方でいると約束したのに僕は一瞬目を背けてしまった。
だから、もう約束を破らないために・・・彼女を守るために現実に戻らないといけない。
僕に芯があるとすれば、彼女の味方であることだけです」
現実に戻らないといけないということは、その彼女はここにはいないという事だろう。
ならば、この世界においてのゼロの芯はないと言っても差し支えない。
願望、あるいは妄執か。それがゼロを戦わせているのではないか?
「あ、いたいた。キリト君、ゼロさん」
俺のさらに後ろから来たのはパーティーを組んでいたアスナだった。
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キリトさんのさらに後ろから、アスナさんがやってくる。
「俺は確か来るなって言ったはずだが・・・?」
「言ってないわ。死ぬ覚悟があるなら来い、っていったのよ」
待ってくれ、話が読めない。
「ええと、その様子だとビーターとか言ってたのは・・・?」
キリトさんはしまったという顔をして、ため息をついた。
「まぁ、ある程度はましになったけどいまだに言う奴は言ってるよ」
そうだったのか・・・まあやり過ぎてしまった自分が悪いだろう。
「あ、それから二人にディアベルさんやエギルさん、キバオウさんから伝言が。
ディアベルさんは『こんな指揮官でよければまたボス攻略を手伝ってくれ』って、
エギルさんは『二層のボス攻略も一緒にやろう』って、
キバオウさんは『ワイはワイのやり方で攻略を目指す』って」
「そうですか・・・まあ攻略するなら死なない限りこの縁は切れないでしょうね」
「不吉なこと言うなよ・・・」
不吉・・・か。それでもいい。
戦わないと帰れないなら戦ってやる。必ずこのアインクラッドを攻略してやる。
死ぬわけにはいかない。生きてこの世界を脱出してやる。
はい。どうも作者です。
今回ゼロ君がキバオウをぼこぼこにして、
『これ主人公強めじゃなくて最強じゃね?』と思った方もいると思います。
ですが、これはあくまでゼロ君のプレイヤースキルによるものでして、
まだプレイヤーたちがシステム外スキルを習得し終えてない状態だからです。
そしてゼロ君は、現実で喧嘩や特訓をしたことによって特に対人戦において、
圧倒的な実力を誇っていますが、それも始めの層だけ・・・だと思います。
行き当たりばったりで書いているので絶対にそうとは言えません。
ですがまあ、『主人公強め』の範囲に収まるように頑張ります。
では、次話で会いましょう。今回の閲覧、誠にありがとうございました。