『存在するが、それらが付与できるタイミングは少ない』です。
例えば、レイスなどには聖水を使ったり教会で祝福を受けたりして、
武器に聖属性をつけないと的なことが書いてあったはずなので、
属性要素がない訳ではなく非常にその条件がシビアまたはタイミングがないという推測です。
だって・・・魔法が存在しないのに牛男が雷のブレス吐くなんて・・・竜ならともかく。
まあそう言う感じで進めるのでご了承を。
この牢獄《ソードアートオンライン》が始まってから約二年。
現在74層攻略中、生存者は約6000人・・・。
「邪魔をするな」
目の前に立つのは74層迷宮区に巣くう《ワイトリッパー》。
短剣を主武器とし、他のアンデットと違い行動速度も非常に早い。
今もすばしっこくかく乱しようと動きまわってるわけだ。
だが、コンピューターが操作している以上一定の法則性がある。
例えば・・・そう、背後を取れた瞬間にすぐに攻撃する等。
「シャァ!」
短剣突進ソードスキル《ラピッドバイト》、突進後、往復の突進をして戻る技。
それをわずかに避けて、往復される前にこちらもソードスキルを発動する。
チャクラムソードスキル《ターンアクセル》
右手のチャクラムを投げ、相手のソードスキルを中断。
さらにチャクラムが戻ってくる際にもう一撃。
それを回転しながら回収し、回転で勢いをつけ接近してチャクラムで殴りつける。
ワイトモンスターは死体のため、肉が柔らかく斬属性はよく通る。
ワイトリッパーは青いポリゴンとなり飛散した。
時間を確認する。《21:30》今日の攻略はもう終わりだ。
転移結晶は使わず徒歩で帰る。
マップがあるとはいえ、道は歩いて覚えた方が後々楽だ。
多くの攻略組が既に今日の攻略を終えてる中、僕は一人歩く。
「お! あれ攻略組じゃね⁉」
「ラッキー! もう出ないかと思ってたがいいもん手に入りそうじゃん」
迷宮区を降りきって町までの道中に、十数人のプレイヤーがいた。
「おいあんた、死にたくなかったら金目のもんは置いて行け」
声をかけたプレイヤーと他のプレイヤーのカーソルはオレンジだった。
「・・・街に帰ってる途中なのでどいていただけませんか?」
「ほう・・・なら死んでも金目の物置いて行ってもらう事になるが?」
時折いるのだ。数で有利を取れば最前線のプレイヤーも狩れると思う犯罪者プレイヤーが。
「別に、それが好みならしても構いませんが・・・損害が出るのはどちらでしょう?」
僕はチャクラムを実体化させる。帰り道は敵をスルーするので投剣だけで充分なのだ。
「暗緑色のコートにチャクラム・・・頭! こいつまさか⁉」
「な! こいつが《ゼロファイター》って言うのか⁉ 最もプレイヤーを殺した攻略組の⁉」
「話が早くて助かります。死にたくなければ道を開けてください」
「く・・・撤退だ! こんなやつ相手にしてたらこっちの被害の方がやべぇ!」
オレンジプレイヤーたちはすぐに逃げていった。
街に戻り、行きつけの店に入る。とはいえ、別段好みの料理があるからではない。
そんなものに意志決定力は使っていられない。
いつもと同じものを頼み、いつも通り勉強を開始する。
だが、今日はいつも通りじゃないことが一つあった。
「よぉゼロ、三日ぶりカ?」
「・・・アルゴさんですか。今日は何の用で?」
この独特なイントネーションで話す人は一人しか知らない。
「なに、お前はいろんなギルドから嫌われてるから情報を持ってきてやったんダヨ」
先程は『最もプレイヤーを殺した攻略組』の名前が役に立ったが、
主に大手ギルドの団員たちはそれを良しと思っていない。
「それは有り難いです。後で払いますので情報お願いします」
それゆえにアルゴさんは貴重な情報リソースなのだ。
勉強をしながら、アルゴさんの情報を頭に詰めていく。
「しかし、お前に悪名がついたのはあの時からだっタカ?」
「・・・あの時のことは後悔してませんよ。
何度同じ場面を繰り返しても同じ選択をするでしょうし・・・」
情報を聞いていれば、日は変わっていた。
「じゃあオイラはそろそろ帰るからナ。無茶はすんナヨ」
アルゴさんはそう言うと帰っていった。
僕も勉強は終わりにしよう。
明日もまたいつも通りの・・・いつも通りになってしまった日常を過ごすだろう。
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『・・・ロシィ・・ゴロシィ・・・ヒトゴロシィ‼』
「うん・・・よく寝た」
耳障りな声、僅かに上っている日、けたたましいアラーム。いつも通りだ。
いつもの店で三食を確保して、軽くストレッチしてから迷宮区に赴く。
時刻は《6:00》、攻略組の多くのプレイヤーが寝ている中、僕は一人歩く。
とは言え別段大きなことはない。
迷宮区も20階には到達しているがまだボス部屋は見つかってない。
恐らく今日には見つかって明日には偵察隊の派遣、明後日には74層も攻略されるだろう。
その最前線で闘って、昼は過ぎたころだった。
ボス部屋は見つけ、今日はできる限りレベリングし帰れば情報を提供するだけとなった。
(集団のプレイヤーですか? 統率の取れた動き・・・何かのギルド?)
索敵スキルに引っかかたのは十二人のプレイヤーだった。
「む、全員一度休め」
どうやら向こうもこちらに気づいたようで、一人わざわざこっちにやってきた。
「私はアインクラッド解放軍、コーバッツ中佐だ」
アインクラッド解放軍は、ディアベルと決別してしまったキバオウさんが立ち上げたギルドだ。
ALSや軍と略されるが、この一年攻略には手を出していないはずだが・・・。
「ゼロです」
変に有名なのはこういう時に多く語らなくていい。
「君はこの先も攻略してあるのか?」
「・・・この先にボス部屋があるのは確認しました」
「なるほど、協力感謝する」
コーバッツは仲間を率いてそのまま先に進んでいく。
だが、その一団には疲労の色が見えていた。
暫くその場で食事と休憩をしていたのだが、今日は客が多い。
「な! ゼロ‼」
「キリトさんにアスナさん・・・それから風林火山の皆さんですか」
「おい! 軍の集団を見なかったか⁉」
「それなら先程向こうに向かっていきましたよ」
「ッ・・・あいつらやっぱり⁉」
どうやらキリトさんたちもボス部屋のありかは知っているようで、
コーバッツがマップデータを求めなかったのはそれが理由のようだ。
「流石にボスに情報なしで挑んだりはしないでしょう?」
そう言った時だ・・・。
「うあぁぁぁぁぁ‼」
悲鳴が聞こえてきた。モンスターのものではなく、明らかにプレイヤーのもの。
「バカッ!」
アスナさんがそう言って走って行く。キリトさんもそれに続く。
僕と風林火山のメンバーもすぐに駆け出す。
ボス部屋の扉の中では山羊頭の巨大な影と、小さな影が・・・十人。
「転移結晶を使え!」
「ダメだ! クリスタルが使えない⁉」
(まさか・・・結晶無効化空間だとでもいうのか? ボス部屋が?)
ソードアートオンラインのポーションは、一秒につき何%と言った具合で回復する。
クリスタルは唯一の瞬時回復手段であり、転移手段なのだ。
「これはちょうどいいですね。彼らのお陰でボスの攻撃が見れます」
ならばこそ、ここは情報収集に徹するのが一番だろう。
これで情報が足りれば明日には74層がクリアされる。一日でも早くなるなら大歓迎だ。
「な! ゼロ! そんなの言ってる場合か‼」
「キリトさんこそ何言ってるんですか? 明らかにこの人数で倒せる敵じゃないですよ。
なら彼等にはクリアのための礎となってもらいましょう」
「おいゼロ!」
そう言ってる時間も本来無駄なのだ。
瘴気のブレスに大剣の攻撃は見た。他には何がある?
「全員・・・突撃!」
コーバッツが突撃の指令と同時、八人の軍団員が攻撃を仕掛けるが、
瘴気のブレスの前に呆気なく崩され、巨大な剣によって一人がこちらまで飛ばされた。
そのプレイヤーはコーバッツで『ありえない』と言うように唇を動かした。
「もうだめだよ・・・ダメ―――――ッ⁉」
アスナさんは、その様を見てられなかったのかすぐにボス部屋に駆け出した。
「アスナッ!」
「どうとでもなりやがれッ!」
それにキリトさんと、クラインさんを代表とする風林火山も続く。
「・・・なんでなんですか?」
僕にはわからなかった。
彼等に犠牲になってもらえば、明日にはこの層を攻略できる。
その際、唯一《最攻》の名を持つキリトさんや《閃光》のアスナさんは勿論、
風林火山の皆さんもバランスが良く攻略を引っ張ってくれるはずなのだ。
なのに何故、こんなところで命を懸ける?
僕のこの世界における些細な願いだ。
『せめて僕に普通に接してくれるキリトさんやアスナさん達は死なせないように』
別に優先度はそこまで高くない。決め事ではなく願いなのだから。
だが、この二人と風林火山のメンバーを失うのは今後の攻略にも、
僕の人間関係の悪化にもつながる。
そうなれば僕はもう攻略には参加させてもらえないかもしれない。
ディアベルさんも、他の多くのギルドに言われては今ではどうにもできない。
ならば行くしかない。呑気に攻略されるのを待っていることはできやしない。
チャクラムを外し、現在僕だけが使えるであろうスキルをセットする。
腕の装備も、普段のものから《炭燃竜の鱗籠手》に変える。
籠手アイテムは体術とこのスキルの攻撃力を上げる。
もうあまり時間はない。行こう、こんなところで皆を死なせるわけにはいかない。
僕は格闘術突進スキル《ブレイブビート》を発動する。
一瞬でボス《The Gleam Eyes》に肉薄し、顔に両拳を叩きこむ。
体術と違い、両手を使うソードスキルの追加等体術の上位互換で、
籠手アイテムにその存在が記されているが未だ僕しか開放していないスキル。
「ゼロ⁉」
「キリトさん達をこんなところで死なせるわけにはいかないんですよ!」
籠手に熱がこもり始める。この籠手は戦闘中に籠手の黒い鱗が赤くなっていき、
攻撃力が上がり火の属性を追加する代わり、ダメージを受け続ける効果を持つ。
また、鱗が赤いほど攻撃力と火属性は強化されるが反動も大きくなる。
とは言え、攻撃力を増してもボスの体力を奪い切れるとは思えない。
「・・・アスナ! ゼロ! クライン! 十秒だけ持ちこたえくれ‼」
キリトさんは何やら秘策があるようだ。なら任せるとしよう。
そして、アスナさんもクラインさんも速度重視の武器で一番重い攻撃を出せるのは僕。
このまま一気に距離を詰める。
格闘術スキルにより、重さも増した拳で応戦する。
それでも、その巨躯と体験から繰り出される攻撃は圧倒的だ。
だが、力を逃がすのはこの世界において僕の専売特許でもある。
上手く逸らしつつ、隙を見て仕掛けるは格闘術12連撃《スピリットビート》。
拳だけではなく蹴りも交えたコンボがグリームアイズの巨躯を揺らす。
格闘術の《ビート》スキルは破壊力よりも短時間のスタンを付与する効果が強力だ。
攻撃中グリームアイズは攻撃することが出来ない・・・が攻撃が終われば反撃が来る。
「いいぞ!」
「イヤァァァァ!」
キリトさんの声とともに、アスナさんが向かってきていた大剣をはじき返した。
キリトさんは本来なら不可能な、両手に片手剣を持っていた。
その状態では本来ソードスキルは発動しないが、
キリトさんの二刀は全く同じエフェクトを纏っていた。
そして次々に繰り出される剣戟はグリームアイズの剣をものともしない。
「うおおおおあああ!」
キリトさんの雄たけびと同時、
最後の一突きが決まりグリームアイズはポリゴン編として飛散した。
キリトさんはその場に倒れこみ、そこにアスナさんが寄り添う。
「クラインさん、僕は新しい層のアクティベートなどをしてきます。
二人にはよろしくいっといてください」
「ん、分かった。任せておけ」
僕の格闘術はボス攻略で何度か見せており、故に拳士の名が攻略組で通るようになった。
そのエクストラスキルで開放条件は恐らく、
《体術をコンプリートし、全体術スキルを3000回以上使用したうえで、
体術スキルを合計使用回数300000回に達すること》と推測される。
これは僕が解放した時のスキル使用数から推測されたもので、
他のプレイヤーとも確認した結果この可能性が一番高いとなった。
未だにそれと同じ条件に達したものはなく、同じスキルを入手したものはいない。
だが、籠手のアイテムなどにそのスキルの存在が明記されて以上、
《ユニークスキル》ではないだろうと思う。
兎も角、これで74層はクリアした。
次が最後のクウォーターポイント。いかに強力なボスでも・・・
「僕の