電子の世界を駆けるピーキーな少年(仮)   作:fallere

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剣士への祝福

「・・・で、クラインさんにエギルさん。なんで僕が持って行かないといけないんですか?」

 

僕は主にキリトさん向けの結婚祝いを押し付けられていた。

 

「だってオメェよう、もしキリトがアスナさんとイチャイチャしてるところなんて見せつけられたなら俺はよう・・・」

 

「なるほど、その場でキリトさんに斬りかかるかあるいは圏外でPKするか・・・」

 

「流石にそこまではしねぇよ⁉」

 

「冗談ですよ。まあクラインさんはそうとしてエギルさんまで?」

 

「ちょっと暫く商品の流通の確認に行かないといけなくてな・・・」

 

エギルさんは商人もやっているのでそう言う仕事もあるのだろうか?

 

「はぁ・・・じゃあ明日持って行きますよ」

 

そう言うと二人は何故か『良いことしてやった』みたいな顔をして感謝してくれた。

 

 

翌日

 

しかし、全く困ったものだ。休日はもっと先に取る予定だったのに。

 

僕は転移門で二十二層まで降りてきている。本来なら今頃迷宮区にいるはずなのだ。

 

フレンド欄からキリトさんの現在位置を出して二人のホームに向かっている。

 

二十二層は自然が豊かで・・・それくらいしかなく多くのプレイヤーの記憶にも薄いだろう。

 

マップの通りに進むと、ログハウスとでも言うような小さな家にたどり着いた。

 

軽くノックして「キリトさんアスナさん、ゼロです」と声をかける。

 

「おおゼロ! よく来てくれたな」

 

「どうも、キリトさん。クラインさんたちから結婚祝いを渡してこいと言われまして」

 

キリトさんは少し照れたような表情を浮かべて、中に案内しようとするが・・・

 

「あ! ちょっと待ってくれゼロ!」

 

「急に止めてどうかしましたか?」

 

キリトさんがバツが悪そうに何か考え事をしていると・・・。

 

「パパ? どうしたのかな?」

「あ、ちょっとユイちゃん⁉」

 

奥からアスナさんともう一人子供っぽい声が聞こえてきた。

 

「あ、ユイ⁉ 待っててて言ったじゃないか」

 

「だってパパが遅いんだもん」

 

「・・・ふむ」

 

ここはソードアートオンラインの中で子供を産むことはできない。

しかし目の前にいる十歳にも見たないであろう見た目の少女はキリトさんのことをパパと呼んでいて、キリトさんもまんざらではない反応を示している。

 

「失礼しました。僕はこれで・・・」

 

「ゼロ待て! きっと・・・きっと何か勘違いしてるから⁉」

 

そのあと、結局家に入れてもらえて話を聞くことになった。

 

「えぇと、この子はユイ。この近くの森で倒れてて俺たちが拾ったんだ」

 

「記憶喪失みたいで呼びやすいように呼んでって言ったら、

キリト君をパパ、私をママって呼ぶようになっちゃって・・・」

 

「なるほど。大体事情は分かりました。ですけど・・・」

 

なぜか先程からアスナさんの後ろのユイちゃんに目を向けられているのである。

 

「ユイちゃん、どうかしたの?」

 

「ママ、なんかね、あの人なんて言えばいいのかわからないけどね・・・」

 

アスナさんはゆっくり話してと言って、まるで本当の母親のように見えた。

 

「なんというか・・・壊れかけているようなそんな気がして・・・」

 

「「「⁉((?))」」」

 

キリトさん達は何がと言うのが分からなかったみたいだが、

僕には何を言いたいのかがよく分かった。分かってしまった。

 

(こんな子供にも気づかれる・・・いや、子供だからか?

全く、もう少し頑丈なものだと思ってたんですけどね。僕の心って)

 

自分の心が壊れかけていってるのはとっくに気づいていた。

 

精神を研ぎ澄まさないといけない最前線をソロで潜り、

他のプレイヤーからはPKのくせに攻略組を名乗るなと言われる日常。

 

別に殺した相手もPKだしそうしなければ今の攻略組から死者も出ていたのに、

大手ギルドはそれを言おうとしない。

 

何故なら、それを言わせないのをきっかけにギルドに勧誘しようとするから。

 

特にメンバーの入れ替えが激しいギルドはそのことも知らずに言ってくる団員もいる。

 

まあどう考えても精神を擦り減らさない人間はいないだろう。

 

だが、休日を増やすわけにはいかない。

 

これ以上休日を増やそうものなら攻略の進展が心配で心が壊れてしまう。

 

「まあ、変わったことを言いますね。自分は健康なつもりなんですが・・・?」

 

「あう・・・ごめんなさい」

 

「気にしてませんよ。そうだ、いいものが・・・」

 

アイテム欄から一部のアイテムを実体化する。

 

「粘土に画用紙、クレヨンや鉛筆などもありますよ~」

 

「なんでそんなものがあるんだよ・・・?」

 

「投剣スキルを使ってると麻痺毒作ったりに調合スキルを取ってるんですが、

そのスキル上げに色々混ぜてみるとこんなものが出来上がりまして・・・」

 

調合スキルは他にも手元の素材から回復ポーションを作ったりも可能だ。

 

「粘土は採掘アイテムの赤土にスライムの粘液、

画用紙は白綿草にきれいな水、クレヨンは各種塗料に蜜蝋、鉛筆は木材に石炭。

意外と知られてないんですけどね」

 

まあこれらの納品先は一層にある孤児院のような協会なのだが・・・。

 

「あ、もしかしたらユイちゃんの家族見つかるかもしれませんよ」

 

僕はそこのことを話した。一人の優しい女性が多くの子供集めて生活していることを。

 

「なるほど、確かにそこならだれか知ってる人がいるかもしれない」

 

「そろそろ向かう予定でしたし、明日一緒に向かいます?」

 

「そうさせてもらうわ」

 

丁度良い。教材も無くなってきていたのだ。補充しないと勉強もできない。

 

「さて、主にキリトさん向けにプレゼントをもらったんですよね」

 

ストレージから、先ほどとは違うアイテム群を開き実体化する。

 

「まずクラインさんから、S級食材の鉱石牛の霜降り肉。

エギルさんからは大きな花束とキリトさんが気に入ってた揺れる椅子だそうです」

 

とは言えこの二人からしかもらってないのだが・・・。

 

「あいつら・・・気を利かせやがって」

 

「良かったねキリト君」

 

因みにユイちゃん先程から画用紙にクレヨンでお絵かきしている。

 

「僕からも・・・よければ貰ってください」

 

アスナさんには蝶をかたどったイヤークリップで効果はクリティカル判定の無効と敏捷度上昇。

 

「キリトさんには、僕からの信頼の証としてこれを」

 

「ん?」

 

渡したのは十本の投剣アイテム。

 

これは《女王蜂の刺剣》で62層の《Abbie The Queen wasp》のドロップアイテム。

 

効果は強力で、通常で麻痺・スリップ毒Lv5がついている破格の性能。

 

しかし本当に危険なものなので情報はアルゴさんだけに、武器は誰にも渡してない。

 

だからこそ、信頼の証として渡す価値がある。

 

「これまたとんでもないものを・・・」

 

「それくらい信用してるってことですよ。さて、僕はそろそろ攻略に戻らないと」

 

「あ、パパ。その人帰るの?」

 

その人と呼ばれるのもなんかいい感じはしないですよね・・・。

 

「ゼロですよユイちゃん、僕の名前はゼロです」

 

「え? ぜお・・・せろ・・・」

 

う~ん、結構簡単な名前だと思うんだけど。

 

「まあ呼びやすいように呼んでください」

 

「じゃあにぃに?」

 

「「「な⁉」」」

 

驚いたのはユイちゃんを除く三人。

 

「お、にぃにですか・・・」

 

(どうしてだろう。これを断るとオジサンとか来そうな気がしてならない)

 

「まあ呼びやすいなら僕はそれでもいいんですが・・・」

 

アスナさん達にも視線を送ってみたところ、何となく察してくれたらしく。

 

「まあ呼びやすいなら問題ないんじゃないかしら?」

 

「あ、ああ、そうだよな?」

 

まあ、渋々ではあるが了承は得られたようだ。

 

その後はユイちゃんが「ありがとう」と言ってくれたので「どういたしまして」と返して、

その後攻略に戻った。気のせいか普段よりも調子よく進んだ気がした。

 

明日は一層転移門前で集合してその教会に向かうことになった。

 

「早く終わらせないと」

 

ユイちゃんのような子も早く戻すため・・・とは言えない。

 

僕は自分が現実に帰ることだけを目的にしてきたのだから。

 

明日も早い。勉強もいいところだし区切って終わりにしよう。

 

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