これキリトハーレム作れるのか心配になって来ました(´・ω・`)
今回はネタ少なめです。赤鼻のトナカイを見てみたところ、ちょっとやそっと言ったところでは彼等を止められそうにないので、シリアスに近い雰囲気を出してみました。
サチは生存させたいもんね。
現在装備している短剣は、現段階で装備できる物の中では最高品質のダガーであり、これを強化する際に必要な素材は片手剣と若干似ているという。
俺達キチガイ共の中では俺のダガーだけが飛びぬけて攻撃力が低く、そのため最大強化が必要とされているのだ。そりゃ、ダガーで攻略組に名を連ねているのは俺だけだという噂もあり、その理由には他の武器より武器のレパートリーが圧倒的に少ないのも理由の一つだ。
茅場さんや、もうちょいダガー種類増やしてくれませんかね? この武器リセマラで十七本目なんですけど。
そんなこんなで20層周辺でニートと狩りをした帰り道、どうせならと20層の街に顔を覗かせたところ、なんと酒場にイキリト君の姿があった。
どうやら何人かのプレイヤーと会話をしていたらしく、そこまで話しかけ辛さなどが感じられなかったため、俺とニートは彼等に割って入ってみることにした。中二病でコミュ障なキリト君と言語的会話できるプレイヤーというものに興味が湧いたからだ。是非ともウチの姫ともコミュニケーションを試みて欲しい。
「泣く子も黙るイキリトのキリトじゃねーか。こんな下層で何してんだ? もしかしてお前も強化素材の収集しに来たん?」
「ハムタロとニート!?」
「……キリト?」
やましいことでもあったのか、キリトは俺が声をかけると大いに驚き、同時に他メンバーの一人が訝しむようにキリトを凝視した。
事情を聞いてみたところ、イキリト君は俺と同じく武器強化素材を探しに下層へ潜っていたところ、フィールドモンスターに苦戦しているパーティに遭遇し、それを颯爽と助けて今に至るという。
彼等はリアルで同じ高校のパソコン研究会のメンバーらしく、キリトをギルドに誘うと共に、パーティメンバーの一人『サチ』というプレイヤーの戦闘指南を頼んでいたところだったらしい。ここでキリトが渋い表情をしていた矢先、俺とニートが介入してきた、と。
「どうもー、ギルド《天壌無窮》のリーダーやってるハムタロといいまーす。とりあえず親しみ込めてハムタロサァンとでも呼んでくださいな」
「同じギルドの曲刀使ってるニート侍でーす。ニートとか名乗っときながら、攻略組として毎回ボスと戯れてる働き者でーす。以後ヨロシク」
常識ある人間として彼等──ギルド《月夜の黒猫団》のメンバーに自己紹介をしてみると、彼らの表情は驚愕と驚嘆に彩られた。
「『《イキリト》のキリト』も確か攻略組のトッププレイヤーの一人だったような──! は、初めまして! 俺は《月夜の黒猫団》のギルドマスターをしているケイタと言います! お二人のようなトッププレイヤーに会えて光栄です!」
ケイタ君は興奮した様子で自己紹介をし、他のメンバーも名乗りを上げる。そしてサチちゃんも自己紹介をしたのだが、どうも大人しくて健気で戦闘に向かなさそうな人物という印象を受けた。
……ウチのクロとトレードしてくんねぇかなぁ。
「──ふむふむ、つまり前衛が欲しいからサチちゃんを槍から片手剣にシフトチェンジしたいと考えてるわけだね。パーティバランス的には正しい判断だよ」
《月夜の黒猫団》の抱えている問題に肯定的な反応を示すニートに、《月夜の黒猫団》のギルドメンバーは希望が芽生えた表情を浮かべ、キリトは苦虫を噛み潰したように渋い顔を俺に向け、当事者のサチちゃんは──若干の怯えを含む瞳の色をした。
キリトは気づいているのだろう。散々クロに武器にされたり、ケムッソに投擲で投げられたり、ハッタに騙されてトラップの数々を潜り抜けていた彼は、このゲームにおける
話は変わるが、攻略組としてボス戦に入るために、事前試験としてケムッソがプレイヤーを投擲する儀式みたいなのがあるのだ。彼の人間投擲スキルを上げる意味合いもあるが、彼等が本当に迷宮区のボスと対峙していいのかを測る目安としても用いられている。一種の度胸試しやな。通称『マユルドへの進化』。
選別するために行うので、特にサチみたいなプレイヤーを投げたら、十中八九街から出てこなくなるレベルのトラウマを植え付けてしまう。そういうプレイヤーは前線に出てくる素質がない。
ただトッププレイヤーとなるとケムッソの儀式を行わずとも自然と分かる。
──サチちゃんが戦闘に向かない人物であると。
つまりキリトは『分かるだろ? ほら、分かるだろ!?』みたいなことを俺に言いたいのだ。さっさとニート止めろと。
ただニートが分からないはずがないんだよなぁ。《天壌無窮》の中で戦闘センスがずば抜けて高いのは──
「──ただ、正解かって言われたら論外だなー。ぶっちゃけサチちゃんって戦闘そのものに向いてないし。それよりも生産系にシフトチェンジしたら?」
──ニートなのだから。
「ど、どうしてですか……!」
「うーん、何ていうのかなぁ。こう、感覚的なものなんだけどさ、サチちゃんって無意識に戦闘そのものが嫌いな印象を受けるんだよね。そんな人間に無理矢理戦わせようとしても意味ないよ。いや、サチちゃんを早死にさせたいってなら止めはしないけど」
ケイタの疑問に、ニートは歯を着せぬ物言いに全員が黙り込む。
コイツは昔から言葉に対する遠慮を知らない。
「で、でも……!」
それでも諦めきれないのだろう。戦闘面での強化を図り、できれば攻略組を目指したいと考えてるケイタには。
だから次にニートが言うことは目に見えている。
「それなら、君達には洗礼を受けてもらおっか」
「「「「「……は?」」」」」
♦♦♦
青空はどこまでも続く。
雲一つない空は実に綺麗だ。
日向ぼっこをしていたのなら、次の瞬間には寝てしまいそうだ。
「──っと。コイツ等レベル低くねェか?」
「お試しと言ったでしょう? 下層プレイヤーなら高い方でしょうよ」
そんな空を背景に、飛んで逝く《月夜の黒猫団》の愉快な仲間達。
第一層始まりの街で行われたケムッソの儀式in第一層編は、案の定、攻略組を夢見た初々しいプレイヤーにトラウマと恐怖を植え付けたのだった。
この儀式を体験した《月夜の黒猫団》のメンバーは、ハッタの『これをボス戦前になると必ず行います。しかも最前線のモンスターにブン投げますね』に、全員が例外なく項垂れる。さっき、低レベルモンスターに矢の如く突っ込んでいったサチちゃんに至っては、蹲って頭を抱えてカタカタと震えて泣き始める始末。
いくら夢を持とうとも、この有様を見れば誰だって考え直す。
呆然とその様子を見守るケイタ君に、俺は肩を置きながら親指で後ろを指した。
「さて──ギルドマスターには特別モードだ」
「……へ?」
「君には武器になってもらう」
「ばっちこーい」
考える思考時間すら与えず、クロはケイタ君の両足を掴んでブンブン振り回しながら、一層のイノシシ型モンスターを100体ぐらい狩った後、ボロボロで意識がないケイタ君を引きずりながら戻ってきた。
そしてケイタ君を無慈悲に投げ捨てる。
クロは鼻を鳴らしながら言い捨てるのだった。
「弱すぎる。レベル上げて出直して来い」
「………」
ボロボロになったケイタ君は理解してくれただろうか?
攻略組と君達の差とは、情報量でもプレイヤースキルでも意思でもなく、どんだけ頭のネジがぶっ飛んでんのかだ、って
──後に《月夜の黒猫団》は、生還間際まで中下層の支援をメインに活動するギルドとして名を馳せることとなる。特に『《治癒》のサチ』は、強力な回復ポーションなどを制作するプレイヤーとして、彼女の作るポーションは前線の攻略組が生命線と揶揄するくらい活躍したそうな。
あとケイタ君は現実世界に戻った時に、クローバーという植物を見ると発狂するようになったのは……俺達には関係ないことだろう。
今後描写しない《月夜の黒猫団》との関係
《Hamutarosaan》……サチからポーションを輸入する代わりに、素材を提供するWINWINNの関係を築く。
《Wurmple》……全員から避けられる。
《neetsamurai》……ポーション制作系のスキルをサチに教え込む。生還後も連絡先を交換するレベルには仲が良かったらしい。
《Madhatter》……サチの作るポーションの流通経路を確保する。そういう意味では、月夜の黒猫団の支援を裏で支えた。
《Clover》……何故かサチと仲が良くなる。ケイタ君はコイツの姿を見ると泡を吹いて気絶するとかしないとか。