なんでコイツ等楽しんでんの?   作:十六夜やと

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 ちなみに今作のボツ小説として『ソードアートオンライン──運営がもしネクソンだったら──』があります。バグだらけラグだらけ、デスゲームではなくバグと戦う話となってました。もう書くつもりはありませんが。

 そして主人公の日常編です。
 これから投稿期間が開くかと思われますが、エタる前兆とかではなく、ただ単に大学スタートするだけです。

 次回は不良少年編です。
 加えて、『短編』から『連載』に変更します(`・ω・´)ゞ


キチガイ共の日常 主人公編

 俺は朝早くから第三十九層にやって来た。

 田舎のようにこじんまりとした街が印象的な層で、一見前線入りしている攻略組の人間が足を踏み入れるような場所ではないように思われるが、ここには《血盟騎士団》のギルドホームがある。

 月一の攻略組ギルドの全体会議がココで行われるため来たのだが──勿論それだけが理由じゃない。

 

 キチガイ共と顔を合わせない月一の日。

 精一杯のびのびと羽を伸ばしたいのだ。

 

「──ハァ、ハァ、ハァ……ここまで来りゃ」

 

「私からは逃げられない」

 

「キエエエエエエエエエエ、シャベッタアアアアアアアア!?」

 

 この月一の楽しみだけにカンストさせた《隠蔽》スキルを駆使したのにもかかわらず、今回も神話生物(クロ)を撒くことが出来なかったことに、マリアナ海峡よりも深い悲しみを覚える。

 おかしい、フレンド解除したから場所が割れるわけがないし、念の為に《麻痺》デバフを付与する朝飯も用意したはずなのに。

 

 仕方ないので、ギルドマスター会議にクロを引きつれて、会場の《血盟騎士団》ギルドホームに足を踏み入れる。本来ならばギルドホーム入り口の門番に止められるはずなのだが、血盟騎士団団員の彼等は苦笑と同情が入り交じった笑みを浮かべて通してくれる。

 まるで「今回も駄目だったんですね」と言いたげだ。

 アインクラッド最強のヒースクリフですら止められない化物だから理解はできるが、こう、もうちょっと門番らしくクロの奇行を止めてくれないものだろうか?

 

 会議室まで行く途中で、補佐として会議に出席する《豪気》と、ソロだけど攻略の要たる《イキリト》に遭遇する。しかも手まで繋いでいるもんだから、相当仲がいいんだろう。

 俺はアツアツの二人に声をかけた。

 

「よーっす、アスキリ。元気してた?」

 

「あ、ハム君にクロちゃん!」

 

 俺とクロを視界に入れたアスナさんはキリトを伴って近づいて来る。……キリトを引きずっているようにも見えたが、まぁ、気のせいだろう。

 

「朝から見せつけて……何なん? 恋人なん?」

 

「え!? そ、そう見えるかな……?」

 

「おいハムタロ! 余計なことを言うな! 俺達はそんなんじゃ──ヒィッ!?」

 

 ロリを守るハッタ並の速さでソードスキルを振るうアスナに、一層の面影は微塵もなかった。前まではデスゲーム内という環境で情緒不安定となっていたが、今ではジャングルの奥地に身一つで生活できるレベルまで強かになってしまった。

 だが当人のアスナさんは黒の剣士にソードスキルをぶち込んだ後、首を傾げる。

 

「ねぇ、クロちゃん。やっぱりシステム的にソードスキルの速さに限界があるのよね。ちょうど火力も欲しかったし、両手剣も使ってみようかなって思うんだけど、どうかな?」

 

「うん。アスナなら細剣と同じ速さで両手剣を振れる」

 

「両手剣も片手で振れば細剣よね?」

 

「当たり前」

 

 なら細剣の熟練度で使えるわ、そう言って笑う狂乱の姫君に、近くを通りかかった同ギルドメンバーは顔を真っ青にして逃げ、関節技を決められているキリトは奥歯をガタガタと震わせる。

 ここに二人目の神話生物が誕生したのかもしれない。いや、元々か。

 

「キリト、誰か可愛い女の子紹介してくれないか? どうも俺の身の回りに女性が一人も存在しないんだ」

 

「……俺も最近見てないな、女の子」

 

 キリトはどこかやつれた表情をしていた。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 マスター会議というのは大切だ。

 誰がどのように動き、攻撃のタイミングやタンク入れ替えの指示、ボス攻略ヒントの情報共有、最後にどこで最終兵器(イキリト)を使うか──とにかくボス攻略前にやることはたくさんある。

 それに各ギルドの装備やアイテム、人員の確認の共有も必要となってくる。

 特に今回の会議は、長年攻略組の柱として活躍していた《アインクラッド解放軍》の最前線戦力縮小化により、他のギルドからも人員を送らなければならない。アインクラッド攻略による中層・下層拡大により、自警団の《ドラゴンナイツ・ブリゲード》だけでは足りなくなったため、在籍数1000人を超える《アインクラッド解放軍》も自治に努めることになったのだ。

 

 これには普段マスター会議には出席しないヒースクリフも参加している。

 そもそもギルドに興味関心のないヒースクリフだが、ボス攻略に関する案件なので、自ら出向いたというわけか。

 

「──というわけで、次の案件、来週に迫った『第二回大花火大会』の企画へと移りたいと思います」

 

「「「「「待ってました!」」」」」

 

 あと祭りの企画ぐらいだろうか。ヒースクリフが率先して参加するのは。

 ぶっちゃけマスター会議なんざ一時間弱で終わってしまうもの。今回の目玉と言っていいのはコレだったりする。

 ただでさえデスゲームでは精神を削るもの。

 ずっと迷宮区に籠ってモンスターを狩り続けるようなキチガイじみた行動をするよりも、時折息抜きをする方が効率が上がるらしいからな。ソースは俺達。

 

 そんな歓喜の声を無視するかのように、進行役のアスナさんが、どこからか持ってきたホワイトボードに色々と書き込んでみる。

 

「今回も『打ち上げ《イキリト》』の季節がやってまいりました。他にも夏限定イベントと並行して、プレイヤー・ギルド主催のイベント、屋台の配置……詳しいことは手元の資料を参考にして下さい」

 

 資料一番前の表紙ページの絵、これ誰が書いたんだろう? 綺麗なまでに打ち上がってるデフォルメされたキリトの絵なんだが。

 これを見てクロは指を鳴らして意気を示し、キリトは溜息をつきながら手を振るのだった。

 

「《イキリト》スキルもカンスト寸前。前回より打ち上げて魅せる」

 

「前回が三回だったからなぁ。レベルも上がったし、五回までなら回復しなくても耐えられるぜ」

 

 嫌がる頃のキリトはどこへ。

 笑いながらも頼もしく感じる黒の剣士だった。

 

 ──それだけで終わるんなら俺達じゃないが。

 

「加えて、《SAOゼネラル・エグゼクティブ・プレミアム・ディレクター》マッドハッター氏の提案により、男性の部・女性の部ファッションショーの企画案もあります」

 

「おぉ! ええやんか!」

 

「うっひょおおお! 可愛い女の子の晴れ姿が見れるのか!」

 

「そしてキリト君は強制的に女性の部への参加となります

 

「ファッ!?」

 

 キバオウとクラインの兄貴が喜ぶ中、「お前女装な?」をアスナさんから遠回しに宣告されたキリトは、余裕そうな表情をあっさりと崩す。

 他の攻略組ギルドマスターは全員が目を逸らす。

 ここに居る全員(含・ヒースクリフ)が共犯者である。

 

「まままままままままま、待ってくれ! 男性の部だったら百歩譲って参加することもないけど! どうして女装前提の話で進めてるんだ!?」

 

「ワシじゃよ」

 

「お前かハムタロおおおおおおおおお!!」

 

 胸ぐら掴まれながらブンブン振り回されてるけど、そんなのしたところで決定は覆らない。

 多数決万歳。もうギルドマスター全員からの了承は得ているのだ。物事を決めるときには、あらかじめ何人かに話しを既に通しておくと成功率が上がる。社会人の基本だ。

 

「そんなに俺を出したいなら自分で出ろ!」

 

「は? 俺も参加するが?」

 

「マジか!?」

 

「はっ、たかだかスカート穿いて、化粧して、ウィッグつけて、骨格を女性らしく自力で変えるだけだろ? そんなに難しいことじゃない」

 

「お前もうちょっと自分の言ってることに違和感持てよ!」

 

 女装なんざリアルでも腐るほどしたわ。

 中学時代万年女性役だぞ?

 

 こうして夏祭りに『黒の剣士・キリ美』が誕生し、男女問わず密かな人気を得るのだった。

 

 

 

 




人物紹介

《Hamutarosaan》……今作の主人公。ギルド《天壌無窮》のリーダー。「比較的会話の通じるキチガイ」として有名であり、二十層以降のボス攻略戦の総指揮官を任されていたりする。社交的な性格ではあるが、あのキチガイ共と共に過ごしていた背景もあり、常識がかなり歪となっている。女装は趣味。本編とは全く関係ないが、一つ下の妹がいる。

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