なんでコイツ等楽しんでんの?   作:十六夜やと

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Q 音沙汰なかったけど何してたん?
A 死んでました_(:3」∠)_

 というわけで皆様お久しぶりです(`・ω・´)ゞ
 気温の変化が激しかったせいで39度の熱と喘息のコンボを喰らいました。いや~、あれ軽く死ねますね。皆様も気をつけましょう。

 というわけで今回はケムッソ回です。
 次回は白髪のアイツです。


キチガイ共の日常 不良少年編

 そんなに早くない時間に目が覚める。

 予定は午後しか入っていない上に、今日はあのアホ面の数々を視界に入れる時間が非常に少ない日。ゆっくりと約束ギリギリの時間まで惰眠を貪ろうと考えていた。

 ならば、なぜ目が覚めたのか?

 どっかのアホが叩き起こしてきたからだ。

 

「……起きて。ハムタロどこ?」

 

「……うっせェな」

 

「どこ?」

 

 無理矢理寝ようとするが、この金髪女の馬鹿力によってリビングまで引きずられていく。首根っこ掴まれて行く姿は、さぞ滑稽なことだろう。クソが。

 

 というかタンクと狙撃メインなオレは、ヘイト集めるための火力が必要なために、相当な量のSTRを振っているため、バーサク女レベルの筋力値は持っているはず。

 なのにオレの抵抗に手こずるどころか、されるがままにリビングまで引きずっていくコイツの筋力は何なんだ? もしかしてハムタロの言ってた「コイツSTR極な上にタンクでVIT振ってないとかマジやべぇ」という戯れ言は本当なのか?

 そうだったとしたら馬鹿だろ。

 

「つかフレ登録してンなら場所分かるだろうが」

 

「フレ切られた」

 

「……チッ。要するに場所知られたくねェってことだろ? なら放っておいていいンじゃねェの? わざわざ休日までストーカー行為とか、ロリコンの変態じゃねェンだからよォ」

 

「嫌。ハムタロに変な()がつく」

 

 もうとびっきりの手遅れなデカい虫がついてるだろうが。

 言ってやりたい気持ちは山々だったが、特に口に出す必要性を感じなかったために、喉まででかけた言葉を飲み込む。

 

 肩を落としているクロをよそに、テーブルにあった料理を適当に摘まむ。どうやらギルドマスターの野郎は、ご丁寧に作り置きまでして出掛けたようだ。

 まぁ、アイツの作るもんは味は悪くな──

 

「がっ……!?」

 

 待て待て待て待て待て。

 なんで麻痺がついてやがるんだ!?

 倒れ行く寸前に、机の上に書き置きが用意されていたのが目に入る。ちゃんとクロのものだけ指定して。神話生物から逃げるのに本気出しすぎだろう!?

 

 一時間半という、プレイヤー相手どころかモンスターにすら使わないレベルの、長期のデバフに引きつった笑いが出る中、麻痺したオレの前にしゃがみながら、仏頂面の女が見下ろしてくる。

 見てねぇで助けろボケナスが。 

 

「……ケムッソのフレ欄見せて」

 

「………」

 

 コイツ本気で言ってんのか?

 まずはデバフかかったギルメン助けるのが先決だろう?と思わなくもなかったが、何言っても無駄だと悟ったオレは、首で自分の右腕を示す。

 ボーっと何考えてんのか分からん表情で、オレの右腕を使ってメニューを開き(犯罪その一)、フレ欄を閲覧し(犯罪その二)、ついでにオレのアイテム欄から転移結晶を勝手にトレードする(犯罪その三)。

 

 ……いや、まぁ、転移結晶は別にいいんだが。

 アホのクセに律儀に相場の倍のコルをトレードしてくれたし。

 

「じゃあ行ってくる」

 

「………」

 

 仏頂面のクロが出ていくのを寒冷期よりも寒い瞳で見つめながら、アイツだから仕方ないと諦め半分で虚空を数分間眺める。

 せめてもの抵抗として、動かない体を何とか駆使して、ニートの寝室近くまで移動する。こんな姿見られた日には、アインクラッドの外へとI can flyするだろうが、何も予定のない日の天壌無窮は午後まで惰眠を貪ることなど珍しくもない。

 そしてアイツならそろそろ──

 

「ハロー、人類代表諸君! 清々しい朝の始まりだよ! ほら、グッドモーニン──」

 

「うるせェ無職」

 

「──もぐもぐ。お、これはハムの朝ごは……がっ!?」

 

 笑顔で扉を開けた白髪のクソ野郎に向かって、途中まで食べていた麻痺ご飯を投擲スキルで口にぶち込む。投擲スキルをカンストさせたオレの投擲が外れるわけもなく、朝っぱらからうるさい無職童貞の口へとジャストミートした。

 そして仲良く倒れる。

 

「テメェは同じギルメンだが、こんな時間まで寝てるテメェがいけねェんだよ……クククっ……ハハハハハハハハっっ!!」

 

「シャア! 謀ったな! シャアァァァァァ!」

 

「あぁ、オレとテメェは今のところ麻痺状態だが──オレの方が先に麻痺が解除される。その意味が分かるかァ?」

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 無職引きこもりを本当の無職引きこもりに仕上げた後、オレは中層の何の変哲もない層まで足を延ばす。この層は特に重要なクエストもなければ、旨みのある狩場もない上に、街数も少なく入り組んではいないため、レッドの連中すらも目に留めない。

 そんな層の主街区の、コロッセオ風な建物に足を踏み入れる。

 人気はないと思われたそこには、オレと同世代に見える男女が立っていた。

 

「あ、ケムッソさん!」

 

「……二十分オーバー、明らかに遅刻ですよ」

 

「こっちも忙しかったンだよ、察しろ」

 

 オレの姿を見た瞬間に明るい声で迎える女と、敬語を使う姿があまり似合わない男。女の方がユナって名前で、野郎がノーチラス。

 何故こうやって待ち合わせているのかというと、始まりは数か月前。ハッタ経由で知り合ったコイツ等なのだが、暇さえあれば時折こうやって会うようにしている。どうもアインクラッドを戦闘面ではなく精神面で支えることを選んだ連中らしい。

 とんだ非戦闘員(腰抜け野郎共)だな。まぁ、攻略組(死に急ぎ野郎共)よりは遥かにマシか。

 

 目的は無論──

 

「準備は出来てるな? さっさとバックダンスの練習始めるぞ」

 

「分かってますよ……」

 

「──っと、その前にラジオ体操だな」

 

 オレはアイテム欄から《メッセージ録音クリスタル》を取り出す。そこまで高価なものではないが、これを落とすモンスターは意外と少なく、コレ目的に狩りを意識しない限り集まらないレアアイテム。

 歌を録音する意味合いでユナは使うことが多い。

 本来なら狩りをしないコイツ等には手に入りにくいものだが、そのためだけに投擲練習を兼ねて、これを落とすモンスターを乱獲したこともあり、《天壌無窮》だけで数千個所持している。

 

 これにはすでに音声を録音してある。

 ニートが歌った『ラジオ体操第一』だ。

 

「何で今さらラジオ体操を?」

 

「あァ? 老若男女を問わず誰でもできることにポイントを置いた体操と言えばコレだろうが。するしないで大きく変わる。足腰弱いババアですら熊をシバき倒せンだぞ」

 

「ケムッソさんといい、ハッタさんといい……やっぱ攻略組っておかしい人たちの集まりなんだね」

 

「血盟騎士団で前線入りしようとした自分が馬鹿らしくなって来ます」

 

 皮肉交じりにノーチラスが何かほざいているが、それを無視して《メッセージ録音クリスタル》を起動させる。懐かしのリズミカルなラジオ体操の鼻歌をクロが歌い、体操がスタートする。

 三人が横一列に並んで体操を始める。

 

『腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動~』

 

「あ、懐かしい。こういうの小学校の頃にやったなー」

 

『手足の運動~』

 

「適当にすんじゃねェぞ」

 

「言われなくても」

 

『足を横に出して、胸の運動~』

 

「なんか仮想世界なのに運動してる気分。何か子供の頃に戻ったみたいだね」

 

「どうしてユナはそれを俺を見ながら言うのかな……?」

 

「隠さなくてもテメェがリアル繋がりなの知って──」

 

『腕を前から上に上げて大きく手脚の腕を回しま~す』

 

「「……はい?」」

 

「オイ、動き止まってンぞ」

 

『足を斜め上に横曲げの運動~』

 

「それ物理的に不可能だよね!?」

 

「あァ? ちゃんとやってるだろうが」

 

『足を上げて十歩曲げてレッツダンスィング!』

 

「うわっ、ケムッソさん気持ち悪っ! あとノーチラス! 無理にすると骨折れるよ!?」

 

「こ、これくらい……!」

 

『足を横にして深く曲げて正面で回しましょ~う』

 

 こうして最後の『大きく深呼吸』の部分では、ノーチラスが過呼吸をしているのであった。

 

 

 

 




人物紹介

《Wurmple》……オリキャラ勢の一人。《天壌無窮》のサブマスター。クォーターポイント層に関わらず、タンクが必要としないときはプレイヤーを投擲するキチガイ。傍若無人で野蛮な印象が見受けられるが、面倒見は良い方。運動はリアルでも得意な方で、人間の限界を超えた手足の動かし方をする節がある。

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