古戦場は忙しかったですね(すっとぼけ)
さて、今回は例のアイツ視点の日常回です。おそらく予想の斜め上な作品に仕上がったわけですが、元々シリアス作品書いてた人間だったということも鑑みても……ど う し て こ う な っ た。
今後の予定は52層ボス攻略した後に原作準拠に戻ります。
次回壮大にやらかします。
私は一人だった。
よく分からないけど、私は
ニホンジンは異物を徹底的に排除する生き物らしいから、私は何処に行っても常に一人だった。知り合いもいなかった。友達もいなかった。兄弟姉妹もいなかった。両親もいなかった。
ずっとずっと、一人だった。
『いやー、便所飯する奴ってのは本当に居たんだな。何が凄いって、男子トイレで女子が飯食う姿を見るとは思わなかったわ』
──×××に会うまでは。
出会ったことを今の×××は「あの時の俺は気が狂ってた。関わったのが運の尽きだった」と言ってたけど、私にとっては×××と会った20××年5月14日午後12時28分34秒から、私の時間は始まった。
『テメェ本物のキチガイ連れてくんじゃねェよ。これ以上増えたら常識人のオレがキチガイに染まるじゃねェか』
『有史以来最大の嘘乙。それにしても……また個性的な娘を連れてきたねぇ』
『……ふむ。ロリ巨乳という希少種であるにも関わらず、どうしてこうも心動かされないのでしょうか? 実に興味深い』
友達というものを持ったことがないから分からないけど、私と会話してくれる人も少し増えた。
『どおおおおおしてこうなったぁぁぁぁあああ!? 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろおおおおおおお!!』
『はっはっはー、……あ、ちょっとヤバいわコレ。洒落になんないわ』
『このキチガイ金髪娘が変なことしなきゃなァ! 晩飯まで待てって言ったじゃねェか!』
『なるほど、死ならば諸共って訳ですか? これ素直に投降──したら死にますね確実に』
でも、世間一般では『キチガイ』とは端的に状態が著しく常軌を逸した狂人のことで、いい意味で使われることは限りなく少ない。×××達に会ってからというもの、『キチガイ』と言われることは多くなった。
中でも私は本物の狂人らしい。
けれども──私は『キチガイ』と呼ばれることを誇らしく思う。
×××が私に居場所を与えてくれた。
×××のお陰で私は一人じゃなくなった。
×××が──私を
物覚えは前から人よりも悪いし、純粋なニホンジンでもないし、感情を上手く表に出すことが出来ないし、身体は最初から切り傷や打撲の痕でボロボロだし、お金もそんなに持ってない私。
×××と会う前のことは思い出せないけど、どこの国のハーフかも分からないけど、どうすれば笑うことが出来るのか知らないけど、いつ誰かに切られたり殴られたりしたのか見当もつかないけど──前に×××が何で泣きながら私を抱きしめてくれたのか今でも分からないけど。
分からないことだらけの私だけど。
『デスゲームっつーわけかぁ。参ったな、こりゃ』
そんな何も役に立たない私は、×××についていく。
『私』が『私』であるために。
♦♦♦
「とうとうアインクラッド解放軍もリタイアしたかぁ。それしか方法がないのは分かるけど……こりゃ次の層の作戦案を考え直さなきゃアカンわ」
「攻略組最前線指揮官様は大変だなぁ」
「『大変だなぁ』の言葉で済ませられる立場の黒の剣士様は気楽でいいな、オイ。羨ましいなら代わってやろうか? ん?」
血盟騎士団本部がある第39層の主街区。何もないクソ田舎のような街並みが特徴の人気のない場所。
マスター会議?ってのが終わった私達は、食欲を満たすために古ぼけた食堂のような場所に入った。
「あれを……こうして……えぇと……あのギルドにも根回しを……アイテム分配は……人員配置……」
イキリトと雑談しながらも、各ギルドから渡された資料と、攻略層のクエストから得られるボスの情報を照らし合わせながら、次の層を攻略するための作戦案を考える×××……ハムタロ。
やっぱりゲームの名前は慣れない。
「──次の層はこの陣形で行ってみっか? 血盟騎士団副団長様的にどう思う?」
「いつもとは違う配置ね。どちらかというとクォーターポイントのボス攻略編成に似てるし……今回のボスが他の層のボスよりも二回りくらい大きいって情報があるから?」
「アスナ、その紙見せてくれ。──タンクの比率がやや多いな。まぁ、ヒースクリフを起点としたタンク編成ってことは、今回のボスは火力が高いって見積もってるのか?」
イキリトから紙を見せてもらったが何書いてんのかさっぱり分かんない。
日本語でおk?
「ちゃんと推測が間違っていたときの作戦計画も複数用意してあるみたいだし、これで大丈夫じゃないかしら。私は特に言うことはないかな」
「アスナさんのお墨付きって箔もついた上で……おっしゃ、次はこれで行くぞ覚悟しとけよ黒の剣士」
「……でも次善の案は個々の能力頼りが否めないなぁ」
「歴戦の攻略組様だぞ? 『臨機応変に柔軟な対応を』ってワケだ」
「要するに『行きあたりばったり』ってコトか?」
「現段階の情報を頼りに最善の策を提出したんだ。そんな無粋な言葉でまとめられるのは遺憾の意砲発射案件だぞ? 別に偵察隊の情報が出てからいくらでも路線変更すりゃいいし」
これでいいだろ、と机に置かれた作戦案を軽くノックするように叩くハムタロ。
アスナもイキリトも真剣な顔で頷く。
私には分かんないけど。どうせ私の頭では理解できないから、難しいことはハムタロに任せる。
「で、ご丁寧に48人の位置まで指定してるが、肝心な俺のポジションはどこなんだ? ……出来ればラストアタック狙える位置だと有り難いんですがねハムタロサァン」
「え、全部だが?」
「いや、ラストアタックは取れそうだけども」
違う、そうじゃない。
イキリトが顔を引きつらせる。
何てワガママなんだろう。
「えー、でもキリトならボスソロ出来そうな気がすんだよなぁ」
「あ、私もそう思う。どこかの世界線では迷宮区のボスを二刀流で倒したりして」
「ハハハ、そんなキチガイじみた命知らずの行動を、俺がするわけないじゃん。ユニークスキルにも限度があるさ」
なんかイキリトなら仲間を守る!とかアホな理由で『スターバーストストリーム』とか叫びながら七十四層のボスを倒しそうな気がするが、まぁ、気のせいだろう。
馬鹿な私でも迷宮区のボスを一人で倒したりしない。
面倒だから。
「もししたら俺は許さんけどな」
「……もししたら?」
「ピナを焼いて食わせる」
「ピナアアアアアア!!」
私の言葉にイキリトが金切り声をあげる。
……ピナは美味しいのだろうか?
「キリト君、ピナはいいとして、それを見てシリカちゃんが泣いたら、ハッタさんに切り刻まれるよ?」
「社会的にも物理的にも俺死ぬじゃん!」
ハムタロなら美味しく料理してくれることだろう。
塩焼き? 煮付け? カレーに肉の代わりに入れてもいい。
「んなアホな話は置いといて。クロもコレに異存はないな?」
「……竜田揚げ?」
「お前ん中でピナ調理確定なのは分かったが、それハッタの前で言ってみ? この作戦案に異議はねぇのかって聞いてんだよ」
「馬鹿だから分かんない」
「なるほどな。馬鹿なら仕方ないな」
自分で言うのはいいが、他人に言われると腹が立つ。
とりあえず最後の台詞を吐いたイキリトの後頭部をつかんで、テーブルに頭ごと渾身の一撃を叩き込んだ。前にアスナが町のものは破壊できないって言ってたから、安心して全力を出せる。
でも机が壊れた。あれ?
「……壊せるんだ、それ」
「相当量の筋力値が必要なんかね」
「その相当の筋力値で机ぶっ壊れるレベルで床とキスした俺の心配は?」
鼻血出てるけどHP減ってないからへーきへーき。
「それがご褒美だって言う人もいるから、キリトもソッチ側の人間なのかと」
「え、ホント?」
「アスナっ、ちょ、やめ──」
イキリトがまた床とディープキスしてるけど今日も平和。
人物紹介
《Clover》……今作のメインヒロイン(?)。《天壌無窮》のマスコットキャラクター。《天壌無窮》がキチガイ集団と揶揄されるようになった元凶のロリ巨乳。人の話を聞かない。ちなみに重度の記憶障害のため、実の両親から家庭内DVを受けてた過去を持つ少女。補足だが、彼女に危害を加えた両親は町内の《老人会》や《ふれあい漁業組合》、《南部商店街同盟》、《ゲートボール連合》などの派閥によって物理的にも社会的にも抹消された。