『──これは、ゲームであっても遊びではない』
……なるほど、確かに茅場晶彦の台詞に嘘偽りは微塵もなく、誇張や妄想でもないことが今この場にて証明されたわけだ。ゲーム初日にするイベントとしては、恐らく世界でも一番物騒な催し物なのは確かだろうよ。
俺は巨大な上空に浮かぶローブを被ったGMを名乗るキャラクターを見上げながら、鼻で小さく溜息をつきつつ自分の顔を触るのであった。果たして触った感触が
世界初の
「──あれ? そんな顔してたっけ? もうちょっと顔面崩壊してなかった?」
「──テメェも目のパーツが全然違うじゃねェか。目と目の間に隙間なんぞなかっただろうが」
「──再現度が高いですなぁ。現代科学も日々進歩しているというわけですか。実に素晴らしい」
「──身長があと十センチ足りない。やり直しを要求」
茅場曰く、100層をクリアすれば生還できると言う。
各層の間は『迷宮区』と呼ばれるダンジョンでつながっており、その最奥のボスを討伐することで、上の層の『転移門』をアクティベートし、『転移門』を通して下層と行き来することが出来るようになる。要するにこれを100回繰り返せばいいだけの話である。
問題はこれをデスゲーム内にいる一万人未満のプレイヤーで、死ぬことなくラスボスをシバく縛りプレイを行わなければならないという事実である。確かβテストでも10層までしかクリアしてなかったんだっけ? しかも今回は死んだら御陀仏なのだ。ちと難しくないか?
「あっれー? 身長も縮んでますなぁ。アバター盛りすぎ」
「ほォ。完全決着モードをお望みたァいい度胸だ」
「これは『自分の役割を演じろ』というGMの粋な計らいと捉えてもかまいませんよね? ふふ、ゲームの主人公を演じるのは心躍りますな」
「しまった。TUTAYAでDVD返すの忘れてた」
「お前等ちょっと煩い。ほら、周囲の人から睨まれてんじゃん」
そんな茶番劇すっから周囲のプレイヤーの皆様に睨まれたんじゃんか。
少しは緊張感を持て。
「うっせェよ、ハムタロサァン」
「ハムタロサァンってその名前舐めてんの?」
「うん、俺もそう思うわ」
灰色と白色のツッコミに俺も真顔になる。
俺のプレイヤーネームは《Hamutarosaan》と、ネタ路線で適当に名付けてみた名前。本当は自分の使いたい名前が全部被っていたために、このような結果になってしまったのだが……いや、まさかデスゲームになるとは思わないじゃん?
「つか『ケムッソ』と『ニート侍』って名前もどうかと思うぞ」
「「まさかデスゲームになるとは思わないじゃん?」」
考えることは一緒である。
誰しもオンラインゲームがデスゲームになることなど予想しないのだから、適当にそこら辺にあった物の名前を付けるのは仕方のないことだと分かって欲しい。とっとこハム太郎のDVDがあったのだから仕方ないのだ。あ、灰色の方が《Wurmple》で白色が《neetsamurai》である。
「正直言って呼びたくない名前のオンパレードですね」
「激しく同意」
肩を落としてオーバーリアクションをとる眼鏡をかけた青年──《Madhatter》と、仏頂面で何考えているのか分かりづらい少女──《Clover》が話に介入してくる。
「くっそー、無駄にカッコいい名前だからって調子乗りやがって……」
「こうしくんが何か囀ってますなぁ」
「ハムタロサァンだ間違えんなハッタ」
「その訳し方止めてくれません?」
心の中でコイツはハッタと呼んでやろうと決定しつつ、互いにいがみ合ってるケムッソとニート、まだ何か言ってる茅場の方を見ているクローバーを引き寄せて、他のプレイヤーに聞こえないような小声で、広場から出るよう提案する。
ふざけつつも茅場の話を聞いているが、『死んだら死ぬ』と『100層クリアしろ』以外に情報が少ないので、ぶっちゃけ聞かなかったところで問題ない。最悪誰かに聞く。
人気が全くない迷路のような路地裏を走りながら、街の出口に近いところで五人は動きを止めた。
スタミナゲージみたいなシステムは見当たらないのに、若干の疲労感を感じるのはなぜだろうか? ゲーム世界でも疲れを再現できるって、茅場ってスゲーな。
「──ふぅ。さて、これからどーするよ」
「どうするっつっても、このゲームクリアしねェとログアウトできねェだろうが。……まァ、HPをゼロにすりゃあ今からでもログアウトできるが」
「誰が人生からログアウトしたいって言った?」
デスゲームとなった今でも気後れする様子のないケムッソに、頭を抱えながら溜息をつく。確かにゲームで死んだら人生からオサラバって実感は薄いけどさ。もっとこう緊張感らしいものはないのだろうか?
緊張感してたら「気持ち悪っ」の一言で斬り捨てるけど。
「逆にこう考えれば? ……ログアウトされることなく遊べると」
「……ニートお前頭いいな」
「……天才の茅場晶彦はSAOをデスゲーム化すると、馬鹿がどういう行動に出るか想像できなかったのでしょうか?」
行動力のある馬鹿が何よりも厄介だって哲学者が言ってたような。
それはそうとして、どうせデスゲーム化したところで日常生活と何が違うのだろうかと俺は考える。少し街の外に外敵が増えたところで、モンスターに殺されるのと車で轢かれるのは同じ『死』だ。そこに何の違いがあるのか?
悲観するのは他人に任せよう。
絶望するのは他人に任せよう。
諦観するのは他人に任せよう。
命を懸けている時点でSAOは現実だ。
他の連中には悪いが、茅場晶彦という天才が用意してくれた仮想世界で──現実世界と同じように一生懸命生きていくであろうSAOプレイヤーが住んでいくアインクラッドで、まるで異世界に迷い込んだ設定のような仮想世界で生きていくのなら、それこそ楽しまないと
「……なるほどねー。全力でこの世界を遊び尽す、か」
「どーせ出られはしねェんだ。いいぜ、その案」
「悲観していても何も始まりませんからねぇ。楽観視している人間が一人二人いても罰は当たらないでしょう」
「全部×××……ハムタロに任せた」
俺の思考回路から導き出される俺達の目標──このゲームで俺達が取るべき行動について話したところ、全員が乗り気のまま肯定の意を示した。やっぱりコイツ等はキチガイだ。間違いない。
「現実世界でも仮想世界でも、俺たちがやることは変わりねぇさ。全力でふざけて、全力で遊んで、全力で馬鹿やって、全力で巻き込む!!」
「ソードアートオンラインのプレイヤーの中で、一番このゲームを楽しんでやろうぜ!!」
登場人物設定
《Hamutarosaan》……主人公。『とっとこハム太郎』が由来。通称『ハム吉』
《Wurmple》……灰髪の少年。『ポケモン』が由来。通称『害虫』
《neetsamurai》……白髪の少年。由来なんかない。通称『ニート』
《Madhatter》……メガネの青年。『不思議の国のアリス』が由来。通称『ハッタさん』
《Clover》……金髪の少女。そこら辺に生えてる植物が由来。通称『クロ』