今回はキリト視点でお送りいたします。
次回からは本編を一気に駆け抜けたいと思います。補足ですが圏内殺人の話はカットする所存です(`・ω・´)ゞ
次回は武具店で盛大に何も始まらない会話が繰り広げられます。
縛りプレイ。
本来使えるシステムをあえて使わずに物事を進めていくドMの諸行で、ゲームだと『○○を使わずにゲームクリア』とか『××禁止』など、ゲームの難易度を上げるために使われることが多い。
ある意味で『ソードアートオンライン』も『死んではいけない』という
なぜ今頃こんな話を持ち出したのか。
それは例のアイツ等が「今回は縛りプレイすっから」と明言してきたからだ。
「アイツ等なに考えてんだ……?」
「何を今更」
迷宮区のボスの間で待っている他プレイヤーを眺めながら、俺の発言に対して、隣に居たエギルが適当に答えを返す。でも、よくよく考えてみたら最適解と思えるような返しだったことに気づく。
その証拠に、縛りプレイ発言をボス攻略会議で聞いた攻略組からは、特に反論はなかった。
下手すれば死人が出る迷宮区のボス攻略戦で、なぜキチガイ共が自由に行動できるのか。それは、作戦立案者のハムタロに対する絶対的とも言える信頼があるからだ。
何層からハムタロが指揮するようになったかは覚えていないが、アイツの計画の綿密さは攻略組の年長者を始め、あのヒースクリフですら一目置くほどとも言われている。実際に今までのボス攻略戦での死亡者は全体で5人。それも死亡理由が本人の油断やミスによるものなので、キチガイマスターが致命的な失敗を犯したことが一度としてない。
神話生物のクロ、変態紳士のハッタ、行動系キチガイのケムッソや便乗系キチガイのニートに埋もれているものの、あれの頭ん中も十分に変態だろう。
「おーっす、お待たせー」
「やっとか。時間通りってのは珍……しい……な……?」
いつも時間の十分前には来るはずのキチガイ集団が来たわけで、それをからかってやろうと振り向いて──絶句した。
誰一人として欠けている訳でもなく、全員がいつものように揃っている。それはいい。
問題なのは──全員が黒を基調とした装備で整え、背中に二本の剣を装備していることだろうか。特にクロ以外の四人は黒いコートに指ぬきグローブ、黒いズボンと、既視感のありすぎる装備で身を固めていたのだった。
俺の呆然とした表情に満足したのか、キチガイ集団はドヤ顔で口を開いた。
「「「「「俺はキリトだ(キリッ」」」」」
「おーしお前等全員並べシバき倒したるわ」
なぜか俺の二本の剣が血を求めているため、ひとまず目の前に居るアホ共を二枚に下ろそうとしたところで、通りがかったアスナに羽交い締めされる。
というかアスナの力強くないか?
体がびくとも動かん。
「これ揃えるの大変だったぜ? なんせ黒いコートに指ぬきグローブなんて厨二臭い珍しい装備を扱ってる店がなかったもんでな」
「厨二臭いっつったよな? 今厨二臭いっつったよな?」
「幻聴だろ。そうじゃなきゃ無意識に心当たりでもあるんじゃねーか?」
俺の追及をのらりくらりと回避するハムタロ。
コイツ真顔で嘘つく上に見破りにくいから、俺は本当に信じることが多々ある。そもそもコイツに言い合いで勝てた試しがない。
「それとニート、その眼帯なんだ?」
白い髪と対比した黒いコートを完璧に着こなしているニートに僅かの羨望を覚えながらも、目を怪我しているわけでもないのに右目を隠す黒い眼帯について尋ねてみる。
「ほら、キリト君って厨二病でしょ」
「疑問符もつけずにストレートに言い切ったな」
「そして厨二病と言えば眼帯でしょ」
「その偏見どうかと思うぞ」
「だから眼帯をつけてみた」
「三段論法にすらならないガバガバ理論が原因か」
……ところでニートの眼帯はどこで買ったのだろうか?
後で聞いてみよう。
そして、なんか黒いコートをスマートに着こなしているハッタとケムッソは置いといて、いつもの装備を黒くしただけのクロに声をかける。
基本的にクロは善し悪し関係なくハムタロと同じような行動をするイメージがある。だから普段と似たような装備に関して聞いてみると、
「? 私もちゃんとイキリトの装備してる」
「……はい?」
「黒い装備してる。だからイキリト」
「おい、クロ。テメェの言いたいことは理解できたが、それをオレに向かって言うンじゃねェよ」
「」
どうやら神話生物にとって俺の特徴は「黒色」だけらしい。その事実を裏づけるように、ケムッソのことを俺だと思って話していたようだ。色彩で判別していたことに言葉を失う俺。
他人事ながらコイツ本当に大丈夫だろうか?
物凄く心配になってきた。
♦♦♦
キチガイ集団と言えども攻略組のプレイヤーだ。ましてやケムッソの柔軟なヘイト管理、ニートのユニークスキルによる単体火力、ハッタの弱点を的確に突くスキル回し、力こそ正義と言わんばかりのクロのタンクは重要なソースとなっている。
あの連中を擁護するつもりは一ミクロもないが、何が言いたいかというと──
「……チッ、ヘイト取れねェ」
「取れるわけないじゃーん。スキル縛って火力気にするとか脳ミソお花畑かな?」
「やはり二刀流は慣れませんなぁ」
アホ三人が毛ほども役に立たないってことだ。
むしろスキル縛ってヘイト取ってるクロがおかしいんだ。なんだあの理不尽の塊。
そんなクロにも回復は必要。
いつもならケムッソが管理してくれるヘイト。
つまり──
「タスケテクダサイッ、ハムタロサァン! ハムタロサァン!?」
「きりと君に構っている暇はないのだ。ここがきりと君の墓場なのだ」
「いやほんとマジで助けてお願いしますから今掠ったんだけど刃掠ったんだけどぉ!?」
いくらユニークスキルを持っている上に、《二刀流》の本質が防御面であったとしても、俺は神話生物のように一人で長時間タゲを取ることなどできない。なので、刺繍糸並の命綱を渡りながら繰り広げられる俺とボスの攻防戦と、それを笑いながらぺチペチ二本の剣でダメージを与え続けているキチガイ集団。
STR、AGI、VITに均等に振り分けてる俺のステータスから分かる通り、俺はタンクするようなプレイヤーじゃないんだが。
ん? ヒースクリフや他のタンクはどうしたかって? そこでUNOしてるが?
そんなこんなでボスと鍔迫り合いを繰り広げていると、《豪気》の異名を持つアスナさんが明るい声をかけてくる。
「ウノ! キリト君! もう少しで上がれそうだよ!」
「そうかそうか! その勢いで早く俺を助けてくれアカンこれ死にそう──」
「アスナ君、君の番だぞ。ツードローを持ってなければ十二枚ドローになるが?」
「……十二枚引きまーす」
「ヒースクリフてめええええええええええ!!」
最大の敵は味方だということを改めて認識するソロ専プレイヤーの俺。
それはそれとして、俺のHPゲージがレッドになりそうなんだけど?
「待って! 話せばわかる! 話せばわかるから!(熱い命乞い)」
「ボスモンスターに対話を求める黒の剣士の図」
モンスターにAIがあるのだから、平和的な解決があるはず。
……このゲームにはテイムシステムがあるのだから、もしかしたらSAOのモンスターと共存することが出来るかもしれない。
可能性は限りなく少ないだろう。だが、俺はそれに賭ける……!
「あ、ボスにスタンデバフ入ったで」
「死ねぇやあああああああああ!(形勢逆転)」
「熱い掌返しを見た」
モンスターに感情なんてあるわけがないだろ常識的に考えて。
もしアニメ化した時の自分の声優は?
《Hamutarosaan》……山寺宏一
《Wurmple》……山寺宏一
《neetsamurai》……山寺宏一
《Madhatter》……山寺宏一
《Clover》……山寺宏一