今回はユイ登場回となっております。最初に言っておきますが、相当の覚悟を持って読み進めて頂けないと後悔します。忠告はしました。あとは知りません。
次回は戦闘描写を入れた回になるかと思われます。例のあの人の活躍が見られるかと。
『始まりの町』は意外と広い造りとなっている。実際に、町の広さは浮遊城アインクラッド基部フロアの約2割……東京都の小さな区1つほどの大きさを占めているため、現在七十五層まで解放されており、各層に街や家が準備されていても、未だに『始まりの町』に住むプレイヤーは少なくない。
このゲームがクリアされることを期待する者や、戦闘に参加できない子供や老人が在住し、その管理はアインクラッド解放軍が行っていると聞く。
「……クロが勝手に付いて来るのは別にいいとして、どうして
「新たな幼女の気配を察知したので」
「お前ホントマジで一回死んでくんない?」
では攻略組に『始まりの町』は無関係なのか?
実はモンスターの『
今回の俺の目的だって、七十五層の某モンスターに教会のアンデット特効の祝福が加算されるかの検証に赴いたに過ぎない。ついでにキバオウとかに会えればいいなーとか。
そして幼女漁りに来た変態は「しかし……」と顎に手を当てる。
考えてる姿は絵になるんだよな。変態なだけで。
「私の感知する幼女センサーが薄いんですよね。ましてやアインクラッド内の全幼女の身長・体重・スリーサイズを網羅する私が視落としていること自体がおかしい」
「自分の発言自体がおかしいことに気付け」
「はてさて……
含みのある言い方で楽しげにスキップする変態と、それを真似する脳筋に舌打ちしてると、どこからか少女の悲鳴が聞こえた気がした。
一瞬気のせいかと考えたが、どうやらハッタの様子からして俺の耳は衰えてなかったようだ。
「──っ!? 幼女に危険がっ!?」
血相を変えたハッタは地面を大きく蹴りあげ、
面倒事に巻き込まれることを覚悟で俺とクロはハッタの後を追う。
そして追いついた現場には、死屍累々の軍のメンバー、謹慎中のキリトアスナ夫妻、幼い子供三人と見知らぬ女性一人が唖然としていた。気持ちは分からんでもない。
血を払うような仕草をして細剣を収めるハッタに、ホントは近づきたくないけど呆れを含む溜息をつきながら接近して皮肉をぶつける。
絶対零度の表情で完全に瞳孔が開いてるコレに関わりたくないんだが。
「ふん……どの面下げて女子供に武器を向けたのやら」
「勝手に軍と殺り合うのやめてくれませんかねぇ、ハッタさんや。それ俺の責任になるんだけど」
「この蛮行を黙認するような組織だった記憶はありませんが? もしこれを知っても尚何か言ってくるような畜生の集まりであれば……切って差し上げましょう」
何を切るのかは聞かないでおこう。縁であると信じたい。
子供から「スゲー!」だの「格好いい!」だの称賛され、女性から深々と頭を下げられているハッタを放置し、俺は夫妻の元に向かった。
死角で見えなかったが、キリトはどうやら子供を背負ってるようだ。
「よっす、謹慎中のキリトさん。それアスナさんとの子供」
「縁起でもないこと言うな。拾った娘だよ」
「それはそれで問題なんだけど──」
もっとキリトを弄り倒してやろうかと考えた矢先、
視界そのものに走るノイズ。
脳裏を揺さぶるかのような不協和音。
一瞬姿がぼやける少女。
摩訶不思議な現象は短い時間ではあったが、確かに起こったバグのようなものが消えた時には、キリトの背負っていた少女は後ろに倒れるように気を失う。
慌てて俺が支えようと試みたが、「ユイちゃん!」という言葉と共に、アスナさんが俺を吹き飛ばして少女を優しく抱きとめる。近くの壁にめり込みながら、俺は彼女が最後に発言した「みんなの、みんなの心が……あたし、ここには、いなかった……ずっと一人で、暗い所に……」の意味を考えていた。
そう、俺達は気づかなかった。
彼女の正体を。彼女が現れた理由を。その末路を。
♦♦♦
「ホンマすまんかった」
「いやいや、キバオウさんが謝ることじゃないだろ。幸いこちらには物理的な損失はなかったわけだし、今回は水に流してくれると嬉しい」
子供たちの保護を幼女相手にヤベー奴と誰に対してもヤベー奴に任せ、俺は一層の視察に訪れていたキバオウと黒鉄宮前の広場で軽い情報交換をしていた。
いかにも噴水広場とも呼べそうな場所で男二人が会話するのは絵面的にどうかとも思ったが、俺は噴水のオブジェの縁に腰を下ろし、俺の前にはイガグリ頭が特徴のキバオウさんが立っている。
今回の騒動に関してはキバオウさん方で対応してくれる話となり、他にも前線の様子などの聞かれたことを事細かに説明した。俺も『軍内部では未だに主戦過激派と治安維持派で割れており、今回のようなことが小さいながらも起こっている』という情報を頂いた。
軍も一枚岩とは程遠いというわけだ。
「対応が後手に回るのは感心しない──なんて口が裂けても言えねぇわな。そもそも俺達はゲームするためにSAO来たわけであって、政治しに来たわけじゃない。現実世界でも完璧とは程遠いのに、素人の俺達が治安維持を完璧にできる訳がないんだって気づくべきだったんだよ、うん」
「せやけど、起こさないように努力はするべきや。アンタ等がゲームクリアするまでは、なぁ?」
「軍が前線抜けてからの再編で一時期攻略が滞っていたけど、今はちゃんとペース保って攻略が進んでるだろ? 絶対とは言い切れんけど、来年度にはクリアしてやるよ」
わざと挑発するような笑みのキバオウさんに、俺は同じような表情で返す。同時に、やはりこの男が前線から引退してしまったのは非常に惜しいと痛感してしまった。
そろそろ連中の元へ戻ろうと腰を上げた時、思いだしたかのようにキバオウさんが「ところでシンカーはんを知らへんか?」と深刻そうに尋ねてきた。
「えっと、軍のサブリーダーだよな? 俺は最近見てないけど」
「今行方不明になってんや。アインクラッドの一層にいるのは分かってるんやけど、捜索しても目撃情報すら得られん。フレンド欄もなぜかアテにならんし……情報あったら連絡頼むで」
「あいよ。まぁ、俺はすぐにでも前線戻るけどな」
キバオウさんと別れて、俺はキチガイ共の元へと帰る途中、ふとキリトとアスナさんが拾った少女──ユイちゃんが脳裏を過った。
幽霊が出ると噂のある森。俺達はそこに『コサックダンス縛りのレベリング』と称して行ったことがあるが、少なくとも彼女のようなレベル上げもしてない少女が倒れていて無事な場所じゃないのはよく知ってる。無事であったことは……まぁ、奇跡って言葉で片づけられるだろう。
だが彼女にプレイヤーだと証明するカーソルがなく、アスナさん曰くシステムウィンドウがバグかなんかで変なことになってるらしかった。極めつけに、軍との騒動後のノイズ……。
自分にあるだけの情報を整理し、とある仮説を立てたところで、俺はキチガイ共のいる建物の前へと辿り着いた。
俺はノックして扉を開き──
「やはり筋肉! 筋肉こそ至高! ハッタさん、もっとプロテイン下さい!」
「そのままの彼女でいて欲しかった……!」
「うん、これでユイも仲間」
「ほら、キリト君! 私達の娘がちゃんと立派になったよ!」
「……もう……なるようになれよ……」
首から下がドラゴンボールの主人公並みに筋肉質となったユイちゃんと、項垂れて血の涙を流すハッタ、満足げに頷く確信犯のクロと、自分の娘の成長に歓喜するアスナさん、諦めの境地に至るキリト──そのような地獄を目の前に、考えるのが馬鹿らしくなる俺だった。
SAOから出て一番したいこと
《Hamutarosaan》……ラーメン食べたい。
《Wurmple》……ベット下にある人妻モノのエロ本の生存確認したい。
《neetsamurai》……スマホに入れてるゲームアプリ更新したい。
《Madhatter》……自分の組(物騒な方)の様子を確認したい。
《Clover》……ペットのツキノワグマに会いたい。