というわけでユイ編最終回です。
次回はキリト視点での話となりますが、とあるキャラが完全にオリキャラ化してしまいます。そこんところ注意したうえで楽しみにしていただけると幸いですm(__)m
そこは白い部屋だった。
清潔感漂う質素な内装……と言えば聞こえはいいのかもしれないが、俺はどうにもこの空間が堅苦しく何とも言えないような印象を覚えた。形式ばったものが嫌いなキチガイ集団にありがちな感性である。
ユリエールさんとキバオウさんはシンカーさん救出して本部まで戻っていったので、この棺桶みたいな黒い何かだけが鎮座する部屋にはキリト夫妻と脳筋と変態と俺が、黒い何かに座って居るユイちゃんを注目している。
ユイちゃんは悲しそうに俯く。
悲痛な面持ちなため、首から下さえ見なければ何とかシリアスになりそうな絵面だ。
「ユイちゃん……思いだしたの?」
「……はい」
顔を上げた時のユイちゃんは外見上は前とは変わらぬ様であったが、雰囲気が完全に別のそれとなっていた。できれば外見も変えて欲しかった。
「キリトさん、アスナさん」
「……っ!」
さっきまで彼女は彼等のことを「パパ、ママ」と呼んでいたはずだ。
ただ呼び方が変わっただけ──なのに、どうしてこうも壁のようなものを感じてしまうのだろうか?
ユイちゃんは彼らの名前を呼んだ後、俺達馬鹿三人組の方にも目を向け、
「クローバーさん、マッドハッターさん……ハムタロサァン」
「だーめだこれ、俺が居るだけで雰囲気締まらねぇわ」
そもそもココ来た瞬間に何もかもの疑問を無視して「お、俺の! 俺のラストアタックボーナスはどうなったんだ!?」と詰め寄ったキリトがいた時点でお察しなんだがな。とうとう日頃の(アスナさんへの)ストレスからか頭おかしくなったんだろう。
俺たち全員が困ったように笑いながら、ユイちゃんへと向き直る。
「そんでユイちゃん、続きをどうぞ」
「ソードアートオンラインと呼ばれるこの世界は、一つのシステムによって支配されています。システムの名前は──『カーディナル』」
ユイちゃんは語った。
『カーディナル』というシステムは人の手のメンテナンスを必要としないものであり、カーディナルシステムのAIはSAOの制御を自らの判断で行っている。しかし人間の精神面までは『カーディナル』では調整できないはずだった。そのために数十人のGMで管理することとなのだが、開発者たちはそれさえもシステムによって統制させようとし、人間の所へ訪れてカウンセリングするAIが試作された。それが『メンタルヘルス・カウンセリングプログラム』──
「試作1号、コードネーム──『Yui』」
「AI……ユイちゃんはAIだって言うの!?」
「私の感情は人間に違和感を与えないよう組まれた模倣プログラムです。偽物なんですよ、私の感情は」
神話生物その2の悲痛な問いに、涙を見せるユイ。
感情も持たぬのに涙を流す。それに違和感を覚えたが、
SAOの正式サービスが始まったとき、上位プログラム『カーディナル』から下された命令は「人との一切の接触禁止」という、ユイちゃんのプログラムとは矛盾するも内容だった。ナーヴギアを通してプレイヤーの感情をモニタリングしていると、プレイヤーの全員が大小の差はありながらも『恐怖』や『絶望』などの負の感情を抱いており、自身がすべき使命が目の前にあるのに出来ないジレンマ。これが約2年も続き、ユイちゃんは初期の頃大きくエラーを蓄積したそうだ。
最初の頃は本当に絶望だった。自殺した者、それを見て恐怖を抱く者、中には精神的に狂い始めた者──それはカウンセリングプログラムであるユイちゃんには耐え難い苦痛だったのだろう。俺には想像もつかない。
しかし──ある日を境に彼等の負の感情は小さくなり始めた。
「それは違う意味での『狂気』でした。プレイヤーの持つ負の感情が限りなく少なく、けれども他者への精神汚染能力が極めて高い5人のプレイヤーが現れたんです」
「俺達やん」
「そこから、他のプレイヤーの負の感情が少なくなりました。『喜び』『安らぎ』……そのような希望を持つ人たちが増えたことにより、私のエラーが蓄積する量は減るように思われました」
だが、そのキチガイじみた行動をするプレイヤーのメンタルをモニタリングしたのが間違いだった。彼等の起こす行動そのものが不可解で測定不能であり、それを可能にする要因すら分からず、彼等の精神汚染とも呼べるキチガイ思考は上位のプログラム『カーディナル』にまで影響を与えたようだ。
上位のプログラムへの影響はカウンセリングプログラムへのエラーを蓄積させた。
そのせいなのか。ユイちゃんはAIでありながらも、「彼等に会ってみたい」と思い始めたらしい。
「……ん? ちょっと待って。もしかして《イキリト》のスキルや《投擲》がプレイヤーを投げられるようになったのって……」
「恐らく『カーディナル』がエラーを起こしているのが原因かと」
「やっぱ俺達のせいやん」
プログラムがエラー起こすレベルで言動がぶっ飛んでる俺達がキチガイ極めてんのか、それとも耐えることのできなかった『カーディナル』が惰弱なのか。できれば後者であると信じたい。
俺は少なくとも他四人よりはマトモやぞ。
なんてアホみたいなこと考えていると、ユイちゃんが突然光り始める。下半身サイヤ人で光り始めるって、もはや次のサイヤ人モードに移行するかのようだ。
しかし、現実は非情だ。
「私がボスモンスターへとトドメを刺したせいで、プログラムが私を調べ、それが異物であると判断したようです。本来プレイヤーに不干渉であるはずだったので、当然だと思います」
「どうしてトドメ刺したりなんかしたんだ?」
「……私も皆さんと同じようにSAOというゲームを、一度でもいいから楽しんでみたかったんです。どのような絶望的な状況であろうと、笑いながら真剣に『生きる』ことを諦めない皆さんと一緒に。……おかしいですよね、プログラムの私がこんなことを想うなんて」
キリトの問いに、ユイちゃんは泣き笑いながら答える。
笑っているはずなのに見ていて悲痛な表情に、アスナさんは「そんなことないわ! 貴方は私達の子供よ!」みたいなこと言ってユイちゃんに抱きつき、それを見てキリトが複雑そうだが言い出せない状況に目を逸らし、この現場をポップコーン食いながら仏頂面で眺めるクロ。
これは流石にどうしようもないだろう。
俺も何とかしてやりたい衝動に駆られるが、プログラムが関係してくるとなると、俺等にはどうしようも──
「──ハムタロ」
「んだよハッタ」
「私はロリコンです」
んなこと誰だって知ってるわ。という言葉を出せない程の威圧感を出すハッタは、ゆっくりと黒い石みたいなオブジェへと歩を進める。
そこに迷いはなく、自分の行動に全面的な自信があるように思えた。
「たとえ作られたモノであろうとも、それがAIによる作られたプログラムであろうとも──幼女の流す涙を私は許容することはできません。これでも『幼女は皆等しく無邪気に笑う姿こそが美しく清らか』というのが私の持論でしてね」
ハッタが黒い物体に手をかざすと、青白い光を走らせながらキーボード風のコマンドが浮かび上がり──ちょっと待てや変態紳士。それ何なん? お前知ってるん?
「『楽しんでみたかったんです』……えぇ、結構。その願いを叶えて差し上げましょう」
「で、でも! プログラムに消される私は──っ!」
「
高速でキーボードを叩くハッタに、キリトは化物でも見るような目で慄く。
俺には何やってんのかさっぱりだが、確かプログラム技術に詳しかったキリトにはハッタの凄まじさが分かるのだろうか?
「は、ハッタ! 何とかできるのか!?」
「できるかじゃなくて、やるんです」
自信満々に浮かび上がる画面を相手に、ハッタは無意識に微笑んでいた。
「ふふ、幼女をカウンセリングプログラムに指定した茅場晶彦には好感を持てますが、それが今回仇になったようですね。貴女のプログラムは素晴らしかった! 『カーディナル』も『カウンセリングプログラム』も! だが、しかし、まるで全然! この私を相手するには程遠いんですよ!」
本編では語られない後のGGO編での動向
《Hamutarosaan》……報奨金に目が眩んだキリトとデス・ガン調査に赴く。射撃はクソ下手くそ。
《Wurmple》……普通に参加。シノンとかいうプレイヤーと一騎打ちの末、最後には拳で殴り合う。というかコイツがシノンを救う。
《neetsamurai》……ダースベイダーのコスプレして参加する。最終的に優勝する。
《Madhatter》……GGOで外見が幼女になるまでリセマラしたが出ずに本編が終了する。
《Clover》……キリトとハムタロに協力してたが最終的にGGO世界が崩壊する要因を作る。