最初に言っておきますが今作最大のキャラ崩壊があります。ネタ要素は後半少なめですが存在自体がネタなので許してください。
次回は攻略戻ります。あと少しで今作も終わりですね。
あと補足ですがFGO編始めました。見て頂けると泣いて喜びながら泣きます(´;ω;`)
第22層の大きな湖。
そこでは《天壌無窮》非公式釣り大会が密かに行われていた。
開催主はロリコン紳士ことマッドハッターで、その上には本来なら消えるはずの運命だったユイが楽しそうに肩車されていた。最初はアイツに任せるのはどうかと思ったけど、『幼女が悲しむようなことは絶対にしない』の信念を持つロリコン相手には杞憂だったようだ。
釣り大会とは言っても、SAO内に囚われたプレイヤー達が自由に釣るだけである。一見何が楽しいかは分からないが、いつもなら『始まりの町』から出ることのない非戦闘員のプレイヤーには大好評だった。
釣りスキルを取ったばかりの老若男女が楽しそうに釣りをし、中には某神話生物が魚を熊のように素手で掴み、取れた魚は《天壌無窮》のギルドマスターが調理をする。ニートやケムッソは配膳へと回っている。
そんな俺は少し離れた場所で座りながら会場の様子を一人で眺めている。
モンスターがこの会場に迷い込んできたときの護衛のようなものだが、それ以外にも俺が一人で黄昏ている理由があった。
「「「廬山昇龍覇あああああああ!!」」」
どっかの馬鹿三人が馬鹿なことしてるけど。
金髪の少女と栗色の髪の少女、黒髪の幼女が湖に水の柱を生んでいたが、アイツ等は将来
「──はは、元気な娘さん達ですな」
釣り大会が水遊びに変化しようとしている様を何の感情もなく眺め居ていると、いきなり後ろから声をかけられて振り返る。俺の《索敵》スキルに引っかからなかったので内心警戒したが、そこには50歳は迎えているだろうと思われる初老の男性が微笑みながら立っていた。
厚着の装備に釣竿をもっている姿を見るに、釣りをしに来た大会参加者かと思うかもしれないが、何か──そう、何か圧倒的な違和感を覚えるのだ。
喉に小骨が引っかかったような違和感を抱えながらも、俺は挨拶を試みる。どの階層で言われたか覚えてないが、どうやら俺は無意識のうちに目上に対する態度がなっていないとハッタに指摘されたことがある。
今ではニートのスパルタマナー講座で何とかなったけど。
「えっと、はい……ウチの連れが騒がしくてすみません」
「いえいえ、元気なのは良いことです。特に今のようなデスゲーム下であのように笑えるのは、大切なことだと思いますよ」
元気過ぎるのも如何なものかと。
と思ったところで、初老の男性は気づいたように名乗る。
「申し遅れましたな。私のプレイヤーネームは『ニシダ』と申します」
「俺はキリトって言います」
「キリト……あぁ、あの《黒の剣士》と名高き攻略組のキリト君ですか。そのような有名人に会えて私も運がいい」
「あはは……その名前は久しぶりですね」
いつもは『イキリト』だとか『自分を主人公だと思い込んでいる精神異常キリト』だとか『変態ドロッパー』などとロクな呼ばれ方がない。だから黒の剣士と言われて、「え、誰のこと言ってんの?」と本気で考えようとしたレベルである。
そんな内心の俺を他所に、ニシダさんは「しかし──」と微笑みを崩さずに話題を変える。
「浮かない顔をしていた模様。何やら悩み事でもおありなのでしょうか? 良ければ人生の先達者として聞いてみたい」
「え、いや、それほどの悩みでも……」
などと口に出してはみたものの、本当に喋ってしまった方がいいと自分の中の何かが囁いてくる。今日会ったばかりのニシダさんに言うべき内容でもないだろうに、彼には不思議と悩みを打ち明けてしまった。
「腐れ縁の連中を見ていると、何というか、自分が物凄くちっぽけな奴だって考えてしまうんです」
俺は座りながら横に立っているニシダさんにぽつぽつと話し始める。
この劣等感にも似た考えが顕著になったのはユイが消えそうになった時のハッタの行動。自分には少なくともネットの知識はあったと豪語してただけに、複雑かつ理解不能な『カーディナル』を簡単に操作し、ユイをシステムから切り離して確立させたハッタに唖然となったのだ。
いや、今までもそうだった。
周囲の状況を誰よりも把握して幾多のボス戦で不敗を貫いているハムタロ、鋭い洞察力で時には核心を突くニート、不器用ながらも他者を誰よりも想いやっているケムッソ、自分の信念を守り抜く技術と知識を豊富に持つハッタ、無意識に不可能を可能にするクロ。
確かに攻略組では俺も抜きん出た存在だと思われているのだろう。けれども、どう逆立ちしても同世代のアイツ等よりも劣ってしまうと嫌にも自覚してしまうのだ。
一層の時に『自分がスケープゴートになればいい』と考えた事件。今思うと俺がSAOで初めて犯した失敗であり、今も失敗続きで今に至っている。
アイツ等なら──もっと上手くやれたんじゃないだろうか?
「──それは、違うんじゃないですかな?」
「え?」
長い話に耳を傾けていたニシダさん。
表情は笑顔のままなのだが、そこには有無を言わさぬ迫力のようなものがあった。
「この世界、下手をすれば簡単に死ぬことが出来ます。現実では得難い経験となる……と宣うには不謹慎と指を差されかねませんが、それでも貴方は生きている。生き抜いている。それだけでも立派だと私は考えますがね」
失敗したから何というのだ。大いに失敗すればいい。いつか失敗したでは取り返しがつかぬ問題に直撃した時の為に、その失敗を経験に活かせるような人生を歩むことが重要なのではないのか?
ニシダさんの言葉には俺やキチガイ共には出せない風格を感じる。
「現実世界での経歴は語ることが出来ませんが、人生そのものが失敗続きです。あの時に死んでいれば……なんてデスゲームを体験しなくても思ったことがあります。今はそう思いませんがね。私は還暦を迎えましたが、六十歳近くまで失敗を恐れる生き方をしてきました。最近は、そうではない生き方もあることが、ようやく判って来たんですよ」
そう言って微笑みを俺に向ける。
最初から彼の表情は変わってないが、それは俺の悩みを溶かしていくような優しい笑みだった。
「貴方の悩みを『たかが』と切り捨てる必要性はありません。それは貴方が感じた失敗の形なのですから。その感情が、貴方の今後の成長を促す糧になってくれると期待していますよ」
♦♦♦
「ふむ、やはり失敗続きですな。結局は老害の説教じみた話になってしまう。私の意図が少しでも少年に伝わってくれたでしょうか?」
「おう、ここにいやがったのか。そろそろ時間だ──何ニヤニヤしてやがんだ?」
「少し若い頃の自分と似たような少年を見かけたものでしてね。かつての私が周囲の人間からこう見られているのかと考えたら……と」
「無鉄砲で考えなしでカッコつけってか?」
「……貴方とは決着をつける必要がありそうですね」
「お前さんみたいな化物とカチ合う予定はないんでね。俺のリアルの入れ歯が取れちまう」
「大気圏へと飛んでくれれば御の字ですな」
「っと、くっちゃべってる時間はねぇ。あの嬢ちゃん待たせるには可哀そうだろ」
「一理あります」
「それにしても不思議な場所ですね、ホロウ・エリアとは。まぁ、階層攻略は若い者が頑張っているのです。彼らの手の届かぬ範囲をサポートするのも年長者の務めですね」
「おいおい、変なこと言ってねぇで早く行くぞ
「ここではニシダと呼びなさい」
本編では語られない後のマザーズ・ロザリオ編での動向
《Hamutarosaan》……アスナと母親との衝突を『セルと悟空の戦いのようだった』と後に書き記す。
《Wurmple》……なぜかスリーピング・ナイツの助っ人をアスナとする。場違い感が半端なかった。
《neetsamurai》……故郷のババアと協力してユウキを治す。
《Madhatter》……ちゃっかり須郷の後釜につく。お前は何をしようとしてるんだ。
《Clover》……というかコイツの発言が最終的にユウキ死亡フラグを崩壊させる要因を作る。