次回やっと†キリト†が登場します、たぶん。
SAOがデスゲーム化してから一週間が過ぎようとしていた。
このゲームに閉じ込められたプレイヤーも多い中、とりあえずの生活基盤を整えたものが多いといっても過言じゃないだろう。ただ一層だけで生活するには無理があるのか、まだ住処を見つけられない者もいるだろう。
加えて、元々βテストの情報もあった御蔭か、一層と二層を繋ぐ迷宮区自体は見つかったものの、この短時間で約千人程のプレイヤーが死亡していることが分かった。純粋にゲーム内で死亡する他にも、外部からナーヴギアを取り外そうとしたために死亡したケースもあるとか。
他に言うことと言えば……βテスターと新規プレイヤーの確執が挙げられる。情報を持っているβテスターと、右も左も分からない新規プレイヤー──そんな彼等がお手て繋いで一つの目標に走ると思うほど楽観視してなかったが、どうやら溝は思ったより深いらしい。
まぁ、俺達には関係ないけどね。
「──チッ。やっぱオレには合わねェわ、コレ」
アインクラッドの一層では三番目辺りに人気が高かった狩場で狩りをしていたところ、周囲にいる中では最後と思われるモンスターを斬り捨てたケムッソが、鼻を鳴らしながら地面に剣を刺す。
地面に刺した武器は《アニールブレード》という、片手剣の中では一層で得られる最高の武器とされている。あれを四人分揃えるのはかなり苦労したのだが、この外見不良低身長少年はお気に召さなかったらしい。この言い方からして剣の質ではなく武器の種類にあると仮定する。
「そうかなー、これ結構使いやすいよ?」
「オレには合わないンだよ」
対してニートは剣を自分の手足のように弄びながら上機嫌に鼻歌まで歌っている。
コイツは確かリアルでも剣道だか何だか……そういった剣を使う何かしらの習い事をしていた気がする。このゲームでは《
集まった他の面々を観察すると、同じくβテスターであるハッタは、さっさと一層で手に入る最高品質の細剣をリセマラし終えた状態で所持しており、HPポーションを飲んで回復していた。一方のクロは剣を素振りしては首を傾げていた。
後者は不満があるらしいな。
「人には向き不向きってのがあンだろ?」
「何とも言えない違和感」
「……そういうもんかー」
初期装備が剣であり、振ってるうちに慣れてしまった俺には俺には分からない感覚ではあるが、本能的にそういうものを察してしまったのか。
俺にはよく分からない感覚のため反応も薄くなるのは仕方のないことだと諦めて欲しい。
ケムッソとクロの言葉に、俺は少し悩んだ後に街へ帰ることを提案する。
かれこれ数時間は狩ったのだし、迷宮区には入れるレベルまでは上がっていた。
この狩場を使っていたのは、回復アイテムの素材の補充場所としても最適な場所でもあったのが理由だ。これだけあれば迷宮区を探索しても余るだろうと推測した。
「んなら街の武器屋でも覗いてみっか?」
「ケムッソが欲しいものも見つかるかもしれませんしねぇ」
何の武器があったのかβテストの時を思い出しながら、俺は近くの街まで歩いていくのだった。
途中ニートのアホタレがモンスターの群れに突っ込んで大惨事になったのは語る必要もないだろう。
♦♦♦
「古来より武器ってのは日々進化していくもンだ。それは人類史が証明しているもンだし、じゃなきゃ人間が空飛んで爆発物投げつけるようなことは起こんねェだろ」
「一理あるな。日本でも槍の台頭、火縄銃の登場、零戦の活躍など、人を殺すための道具は形を変えて絶え間なく歴史に介入してきた。本来どのような形で使うのかという、制作者の意図せぬままに、な」
「そして──飛び道具は人類史を大きく変えた。接近しないと殺せない剣や槍なンか比べ物にならないほど、歴史の上に屍を積み上げてきたのは明白だァ。考えても見ろや、女子供に銃器渡せば何人かは確実に殺せるンだぜ? これほど訓練の要らない人殺しの道具なんて他にねェよ」
「つまり──何が言いたい?」
「SAOに銃火器ねェの?」
「FPSでもしてろ害虫」
んなアホな会話を武器屋で行うキチガイ共。
一通りの武器を試しに振るってみた結果、ケムッソの要求に「アホか」と切り捨てる。
そもそもソードアート・オンラインで剣以外があることに驚きなのに、その上銃火器まで登場したら本格的に『ソード』の部分が詐称になる。
あったら攻略が楽になるかもしれんが、それを茅場が許すかと考えれば難しい。片手剣と細剣、両手槍に両手斧、曲刀や短剣……これだけバリエーションが豊富なだけでも、茅場の優しさなのかもしれない。そうじゃない可能性の方が圧倒的に高いがな。
「クロは良い得物を見つけたか?」
「………」
自分の背丈はありそうな斧を街中でブンブン振り回した後、俺の方に物足りなさを含んだ仏頂面を向けて、気落ちした様子で弱弱しく呟く。
怯えた小動物の様で、何もしてないのに罪悪感が増す。
「……もっと重い両手剣とかないの?」
「さてはオメーSTR極だな?」
言ってることは脳筋のそれと大差ないが。
あるにはあると予想するが、まだスキルや武器の出現条件が分かっていない両手剣を要求して来やがったが、それよりもコイツのステータスに戦慄を禁じ得ない。ただでさえポンコツな脳ミソしてんのに、叩き潰すことしか考えてない武器のチョイスとステータスは相乗効果が凄まじいことになるだろう。悪い意味で。
叩き潰すという意味合いでなら片手棍でも勧めてみようかと考えていると、ふと思いついたことを実践してみる。
俺はクロに《アニールブレード》を取り出すよう指示し、構えさせる。
それなりに様になった彼女の構えの背後から手を伸ばす。後ろから抱きつく形になってるのに文句すら言わないコイツに不安を覚えつつ、構えを若干矯正してみた。
「片手剣は片手で剣を使うもんだから片手剣と呼ばれる」
「……馬鹿にしないで。それくらい知ってる」
「つまり両手で握ったら両手剣。違うか?」
「……!? なるほど」
「……大丈夫なんでしょうかね、このパーティ」
彼女の開いた片手に俺は手を添えることで、片手剣を両手で握らせるという馬鹿なことを教え込む。本来なら知能のあるチンパンジーでもしない勘違いだろうが、コイツの思考回路はチンパンジー以下なので問題ない。
目を輝かせながら片手剣を両手で振り回す馬鹿を生暖かい目で眺める俺と、この連中が根本的に問題があるのではないかと眉間を押さえるハッタ。この面子に問題があるなんて、何を今さら。
そこで放っておいた他の馬鹿の声が聞こえる。
どうやら欲しい武器を見つけたようだ。
「……この両手槍で勘弁してやるかァ」
「あ、おっちゃん! その曲刀! その曲刀が欲しい! プリーズミー!」
もしかして《アニールブレード》は要らなかったんじゃなかろうか。
現在の装備武器設定
《Hamutarosaan》……頑張って手に入れた《アニールブレード》。
《Wurmple》……両手槍。こっからタンクの役割を得る。
《neetsamurai》……曲刀。無意識のうちに刀の条件を満たそうとする。
《Madhatter》……細剣。一層ボスでアスナさんが振ってたアレ。
《Clover》……片手剣を両手で振り回すアホ。スキルなど要らぬ。