簡単に言えば最終回→後日談の流れですね。
というわけで駆け足の決闘編どうぞっ!
良くも悪くも『キリト』というプレイヤーは俺の影響を受けていたのだろう。ユイちゃんの「人格汚染能力」という比喩表現は的を射ていたわけだ。
作戦指揮をする俺は悪く言えば悲観主義の臆病者だ。敵が俺達を全滅させる確率と、味方が多くの被害を出して負ける確率を限りなくゼロにしてボス戦に挑んでいた。どっかの用兵家の言う「戦いは始まる前の準備段階で勝敗が決定する」を律儀に守ったわけだ。
故に俺は情報を
そしてキリトは俺の影響を受け、
攻略組の安全に全力を尽くすために考えもしなかったが、悲観主義の感染したキリトは『茅場晶彦はどこで何をしているのか?』を本気で探したのだろう。
どれだけ苦労したのか。それはキリトが現在進行形で披露する推理が物語っている。情報屋のアルゴさんですら唖然としているのだから、コイツは誰の力も借りずに一人で結論に至ったのだろう。素直に称賛に値する。どうしてヒースクリフが驚いてるのかは知らんが。
「──以上の理由から、俺はアンタが一番怪しいって推測したわけさ。まぁ、結果は目に見えてるが」
「……よくもまぁ、ヒースクリフが怪しいって分かったもんだ」
「アンタが前に酒に酔って『自分が世界を作った』とか言ってたのがきっかけだったがな」
「感動返せやイキリ泥ッパー」
完全にヒースクリフの凡ミスじゃねーか。
確かに「決闘の時に違和感を感じた」の件は素晴らしかったけども。
そして当のヒースクリフ氏はというと──
「……?」
唖然としていた。
彼は「コイツ何言ってんだ?」みたいな顔をした後、眉間を指で揉みながら失った記憶を掘り起こすかのように思案し、腕を組んで顔を上げながら真剣に思いだそうと試み、顎に手を当てて唸りながら考え込み──ふとスッキリした表情でポンと手で叩いた。
そしてキリッと雰囲気を変え、尊大に宣う。
「確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上階で君たちを待つはずだった、このゲームの最終ボスでもある」
「「さてはオメー自分の正体忘れてたな?」」
キリトと言葉が被るなんて屈辱である。
訴訟したら勝てるかも。
俺とキリトのツッコミにヒースクリフは苦笑した。
マジで忘れてたのかよ茅場晶彦。
「いやはいや……まさか不死設定を二重にしていたことすら忘れてるとは。我ながら迂闊だったな」
「何か言ったか?」
「失礼、何でもない。──私は本来であれば90層で身を明かし、最上層のラスボスで『魔王ヒースクリフ』として迎え撃つ予定であったがね。よくぞ見破ってくれた、キリト君」
──このまま百層ボスモンスターまで一緒に倒していたかもしれないが。
俺はヒースクリフがそう付け足したように聞こえた。
翳りのある微笑みで俺達を見渡したヒースクリフは、ウィンドウを数枚出して何かを操作する。すると、俺を含む攻略組のほとんどが痙攣したように地面へ這い蹲る。
俺のHPバーの下に無期限の麻痺バフがあった。
「さて、キリト君に選択肢がある。私の正体を見破った報酬として、この場で1対1で戦う権利をプレゼントしよう。私に勝てばゲームはクリアされ全プレイヤーがこの世界からログアウトできる」
恨めしそうに困惑しているキリトにヒースクリフは言葉を続ける。
「もちろん挑戦権だけでは報奨にはならない。ここで負けても君の安全は保証しよう。要するに、今ここで君が私を倒してクリアするか、百層で私を倒すかの誤差だ。無論、君に強要はしないがね」
「……つまりデュエルで負けても俺は死なないと? それはあまりにも──」
「虫が良過ぎる、と言いたいのかね? 確かに私にしかデメリットのない提案であることは否定しない。ゲームのルールとしてフェアじゃないのは私自身が一番理解しているさ」
だが、とヒースクリフは剣を抜いてキリトに向ける。
そこにはゲームマスターとしての彼ではなく、研究者としての彼でもなく、一人の剣士としての
「この前の決闘は君は本調子ではなかっただろう? このゲーム自体が私の我儘かもしれないが、この決闘は完全に自分の決めたルールにも反している。それでも──ゲームマスターとしても魔王としてでもない、《お祭り男》ヒースクリフとして君と競いたくなったのさ」
ヒースクリフの宣言に、キリトは不敵に笑った。
「……あぁ、それを言われちゃ応じざるを得ないな!」
二本の剣を構えて対峙する。
その言葉を待っていたと言わんばかりの表情を浮かべたヒースクリフは、後ろにいた人物に「それではよろしく頼むよ」と言葉を投げかける。
「おっしゃー、最終決戦いっちょやってみよー」
「……は?」
「真のイキリト使いは私」
「は?」
自然と呼吸するように麻痺バフをつけられなかったニートがヒースクリフの足を掴んで武器のように振り回し、同じくクロも対抗するように阿保みたいに口開けてるキリトを武器とする。
いつの間にか
「双方、準備はよろしいですか?」
「あぁ、何時でも構わないよ」
「……あぁ、これで決着をつけてやる」
ヒースクリフを構えるハッタと、キリトを構えるクロ。
ハッタは神妙に頷いた後、右手を大きく上げる。
「いざ尋常に──始めえっ!」
「「うぉぉぉぉおおおおおおおお!!」」
瞬時に懐へと入った双方は、渾身の力を込めて互いの武器を叩きつける。ニートはアインクラッド世界で培った《抜刀術》のスキルを元に、クロはイキリトと共に幾多のボスを薙ぎ払った我流の剣技を元に。
どちらが武器として優れているのかを競っているのだろう。
先にHPという名の耐久値が消えたほうが負けである。
人間を打ち合ってるとは思えない音がドーム型の部屋に響く。
一合、十合、百合、それでも互いの耐久値はゼロにならない。
「ニート君、もうちょっと斬撃の角度を上に修正してほしい。《神聖剣》の攻撃スキルが撃ちにくい。加えて遠慮なく攻撃したまえ。神聖剣の耐久は伊達ではない」
「角度四度修正ね。了解した」
ヒースクリフの紅い斬撃が踊り狂う。
剣舞のような美しさを内包しながら、ニートの鋭い抜刀技がキリトを襲う。
「クロ! 攻撃速度が遅い! 《イキリト》スキルを合わせるぞ!」
「りょーかい」
キリトの蒼い斬撃が踊り舞う。
信頼関係とも呼べる息の合うスキル回しで、クロの実用性だけに特化した剣戟がヒースクリフを捉える。
麻痺しながらでも観戦くらいはできる。
徐々に終盤になるにつれて、攻略組の面々から声援が迸る。
「キリト君! 頑張って!」
「キー坊! ここが正念場だゾ!」
「ここで負けたら承知しねぇぞ! キリの字!」
「魚雷だけが取り柄じゃないって証明してください! 団長!」
「血盟騎士団団長の名は伊達じゃねぇ!」
「《お祭り男》の名が泣きますよ!」
そこに『デスゲームの真犯人』だとか『イキリ散らすガキ』などという、まどろっこしい感情を持つ者は攻略組には一人として存在しなかった。これがゲームクリアを賭けた戦いだということも忘れてしまっていた。
拮抗する両者の剣戟に、誰しもが各陣営の応援をする。
そう──ここに憎むべきラスボスなど存在しない。
確かに《神聖剣》スキルは頑丈だ。それは間違いない。
けれども《イキリト》スキルで倍率がかけられたクロ&キリト組には遠く及ばないはずなのだ。そんな
だから──これはヒースクリフ最後の戦いなのだ。
徐々に差の開くHP。
誤差でもゼロになれば負けだ。
しかし、HPがドットでしか残ってないヒースクリフは剣と盾を構える。
「さぁ、フィナーレだ! ニート君!」
「……そうだね。この一撃を以て決別の儀としようか」
「最後決めるぞクロォ!」
「ばっちこーい」
互いに距離を取っていたニートとクロは地面を蹴りあげて突進する。
クロに持たれているキリトは青白く輝き出し、怒涛の16連撃を披露した。
「「エクス、カヤバアアアアアアアアアアアアアアンっっ!!」」
「「《スターバースト……キリトぉぉぉぉおおおおおおおお》っっっ!!」」
交差する蒼と紅。
飛び散る火花。
湧き上がる外野。
そして──
そして──
そして──
『11月7日、14時55分、ゲームはクリアされました』
『11月7日、14時55分、ゲームはクリアされました』
『11月7日、14時55分、ゲームはクリアされ──
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《neetsamurai》……『ハイスクールD×D』で赤龍帝の前でおっぱいドラゴンの歌を熱唱したい。
《Madhatter》……『ゼロの使い魔』でルイスに仕えて罵られたい
《Clover》……自分が普通に見えるような世界に行きたい。