この作品は事前にソードアートオンラインの原作を見た上で読まれると楽しいかと思われます。楽しくない? そうですか(´・ω・`)
そして世間一般では意味が異なる『イキリト』が使われます。
んで被害者も増えます。
一層のボスが攻略された。
──ボス攻略の発案者である『ディアベル』というプレイヤーを犠牲にして。
二層がアクティベートされたことにプレイヤー達が歓喜し、それと同時に不穏かつ不愉快な情報が出回るようになった。曰く、『キリトというβテスターは、
事前にハッタのツテで、情報屋をしているアルゴという少女から、彼が新規プレイヤーとβテスターとの溝を取り除くためのスケープゴートを自ら買って出た──そんな情報を得た。
犠牲無くして人は前へは進めない。それを14歳の中学生一人に背負わせるこの仮想世界は、どこまで残酷になれば気が済むのだろう? いや、リアルでは知らないだけで、自分達の知らないところでこういうことは頻繁に起こっているんだろう。
こう考えればいい。一人の犠牲で皆が救われるのだと。
少数を斬り捨てて多数を救う、素晴らしい民主主義的考え。皮肉でもなくコレが効率的かつ合理的で、別にキリトは強制されたのではないのだから、これで万事解決だろう?
「よぅ、キリト~。お前ビーターになったらしいじゃねぇか~」
「は、ハムタロ……!? ちゃんとハイディングしてたはずなのに……!?」
「俺達の方が熟練度が上なんだよ、それくらい察しろ」
んな解決認められるわけねぇだろうが。
木陰から攻略組のレベリングを遠巻きに観察していたキリトを見つけた俺達は、彼に気付かれないように《
キリトは逃げ出そうとしたが、キチガイ共の包囲網を甘く見ないでほしい。
途中でイガグリ頭の男と、若干ロン毛の男が目を見開いていたが、そんなことを気にせず目的の狩場まで移動する。なんか栗色の髪をした美少女もついて来ている感じがしたが、そんなのを気にするようではアホ共とパーティは組めない。
歩みを止めた俺達はキリトを包囲する。いくらビーター様だろうと、容易に抜け出せはしないだろう。
「おうおう、テメェがイキリキリキリキリト様かァ。オレはケムッソって名前だヨロシクゥ」
「あ、僕はニート侍ね。このコート結構防御力あるんじゃないの? どこでドロップするのか教えてよ、イキリキリキリキリト君」
「初めまして、とでも言うべきでしょうか。私はマッドハッターと言うものです。一層攻略の立役者であるイキリキリキリキリト君には是非ともコネを持って利用してやろうと思っていたところ。どうぞよしなに」
「ま、待て待て待て! 色々と突っ込みたいところが多すぎて訳が分かんないんだが! その『イキリキリキリキリト』って何だよ!?」
いちゃもんつける田舎のヤンキーみたいにメンチを切りながら自己紹介をしていた初対面の連中は、一人だけ身長が飛びぬけて低い紅一点の金髪娘へと視線を移動した。
同時に腰の引けてるキリトもクロへと視線を向けるが、何とも言えない仏頂面の迫力に押されて冷や汗をかく。
そんなイキリキリキリキリト君に──彼女は身も蓋もないド正論を叩きつけた。
「ビーターになれば解決すると思った? そんなに人の心は単純じゃない」
「い、いや……それは仕方のないことで……」
「本当は孤独に生きている俺カッケーって考えてるんでしょ? 中途半端過ぎ」
「そんなわけないじゃないですか!」
「『自分を主人公だと思ってる一般キリト』……略して『イキリト』」
「いきっ……!?」
トドメの一撃にキリトは言葉を失う。
俺達がさっきから行ってる『イキリキリキリキリト』の発案者はクロ。彼女は一層攻略時に広まったキリトの悪名に、仏頂面ながらも不機嫌になった故、このように『イキリト』──俺なら皆の不満を一身に背負える!と思ってる勘違い野郎の意味を持つ造語を考えたのだ。
自分だけが犠牲になるという甘い考えが許せない。世間知らずのお子様の考えと言われようが、クロは自らを捨て石に使うやり方が心底気に入らなかったのだろう。少し彼女の罵倒はズレているかもしれないけれど、彼女なりに怒っているんだろうよ。
それは俺だって同じだ。
知己の奴が知りもしないアホタレに貶されるのは我慢ならない。
だから──
「あ、この造語はアルゴさんに頼んで広めてもらう予定だから」
「はぁっ!?」
俺達が貶すのは大いに構わない。
すでに莫大なコル(アインクラッド内の仮想通貨)を払って、攻略で一緒だったらしいエギルさんと、キリトと知り合いらしいクラインさんなどに頼んで広めてもらっている。イキリトの知り合いすら見つけ出すハッタの謎な友好関係も侮れないと戦慄しつつ、『イキリトのキリト』は着実に一層で有名となっている。
ん? んな変なことに金を使うなって?
キチガイ共がマトモなことに金を使うわけがねぇだろう?
そして栗色の髪の美少女……恐らく声からしてアスナさんであろう人物が、明後日の方向を向いて震えている。
怒っているようにも泣いているようにも見えるが、
「イキリ……キリキリ……イキリト……君……!」
「アスナさん何笑ってんのぉ!?」
くっそ笑ってるらしい。
隠せていない様子から、何気にツボってしまったのだろう。
「さーて、無駄話はそれくらいにして」
「俺の名誉的に物凄く重大なことなんだけど」
「後で広めるために使ったコルは全額請求するからな? ──せっかく狩場の一部を使わせてもらってるんだから、ここにいるメンバーで『どっちが多くのモンスターを狩れるか』勝負しようや」
俺とクロとアスナさんとイキリキリキリキリト。ケムッソとニート侍とハッタと、さっき隠蔽スキルを使って木蔭で大爆笑していたアルゴさんも巻き込んで、4対4の即席パーティを作った。
レベル上げのモチベーション維持の為に俺たちの間ではよく使われる方法で、無駄に攻略組と同じくらいレベルが高い要因の一つでもある競争は、俺たちの間ではいつもの如く『賭け』が発生する。
「よーし、負けたパーティは勝ったパーティにケーキ奢りな」
「前の『負けたら全裸でエイサイハラマスコイ踊り』より生ぬるくねェか?」
「あのハッタのキレキレダンスには驚いたよねー」
ケーキという言葉に目を輝かせる女性陣と、生ぬるいと嘲笑う男性陣。
被害者面をしているキリトは「もう俺疲れたから帰りたいんだけど……」と攻略組にあるまじき泣き言を漏らす。
こうして俺たちは日が暮れまでモンスターを狩り続けた。
ビーターと呼ばれる人間と楽しく狩ってる連中が気に食わないと思う奴もいたかもしれないが、それでも俺達が楽しんじゃいけない理由にはならない。
少なくともこのメンバーは……今がデスゲームであることを忘れて楽しんじゃないだろうか?
「ところで人を武器にしてソードスキルは放てるのだろうか?」
「おいっ、ハムタロ! お前また余計なことを……!」
「実際にやってみた」
「あ、クロちゃんにブン回されてるキリト君が光ってる」
「へー、人を片手に装備してもソードスキルは打てるのかぁ」
「つまりハッタ投げれば飛び道具って訳かァ」
「私を投げられる身長じゃないでしょう? そこのアルゴさんを使いなさい」
「チョっ!? オレっちを掴むな……って投擲スキルを使うなぁぁぁぁぁぁ!!??」
スキルに関して
《Hamutarosaan》……《隠蔽》スキルがクソ高い。片手剣で戦っているが、そのうち《短剣》スキルを戦闘で使うようになる。
《Wurmple》……《両手槍》を伸ばしつつ、なぜか《投擲》スキルもマスターしようと試みている。
《neetsamurai》……《曲刀》一筋云十年。そのうち《刀》スキルに浮気するだろうね。
《Madhatter》……《細剣》と《隠蔽》を上げて何をするのかは神のみぞ知る世界。
《Clover》……まだ片手剣縛りを続行。この話が後に彼女が会得するユニークスキル《イキリト》の伏線だったりする。