なんでコイツ等楽しんでんの?   作:十六夜やと

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 今回はイキリト君がお休みです。良かったね。
 次回はギャグ少なめの回になるとは思いますが、別に一切ないわけではないので安心して下さい。ボスを目の前にしてアイツ等が真面目になると思います?


さすがに二層攻略には参加しますよ?

 俺達が一層攻略に参加しなかった理由。

 新規プレイヤー勢にカテゴライズされている他三人の武器の熟練度が低かった上、一層のフィールドにβ時になかった追加マップも存在していたため、ボスを討伐する余裕がなかった……が、それだけじゃない。

 βテスト時のボス攻略情報。

 その情報が正しいのかが疑わしかったためだ。そして実際に、一層のボスはβテストにはなかった《刀》のスキルを使用したという。以上のことから、『ボスがβテストと同じような行動を取るとは限らない』ことが証明されたのだ。

 

 先入観というものは恐ろしいものである。ボスが未知の行動をしてきたために、攻略組は最後が総崩れになりかけたと耳にした。

 死んで逝ったものには悪いが、やっぱ初見でボス攻略は避けたいよね。流れくらいは知っておきたい。

 

「──ここで本当に合ってンのか?」

 

「イキリキリキリキリトが本当のこと言ってたらの話だけどな。アイツだって俺達に偽情報掴ませたらどーなるか分からんほど馬鹿じゃないだろ?」

 

「クロの武器熟練度が上がっちゃうからねー」

 

 攻略のことはさておいて。

 俺達5人はキリトを脅迫して説得して得ることのできた情報──エクストラスキル《体術》をゲットするために、わざわざ二層の森林地帯まで足を運んでいた。

 クロの武器熟練度の餌食になりたくなかったイキリト君によると、ここら辺にある大岩で受けられる隠しクエストをクリアすることによって、本来ならば入手困難なスキル《体術》ってやつを覚えられるらしい。ソースはアルゴさんだとか。

 

「おや、あれですかね?」

 

「んー? ……おぉ、あれだあれだ!」

 

「……チッ」

 

 キリトを武器にする口実を失ったクロの舌打ちは置いといて、やけに岩が転がっている拓けた場所に出た俺達は、まず目についた大岩にニートが先行して走っていく。

 いつもはコイツの行動でモンスターによる大惨事が起こりやすいが、こうやって先行して危険があるかをを自分の身で俺達に警告してくれる姿は頼りになる。簡単に言うとスケープゴートである。

 

「いぇーい、一番乗りー」

 

 危機意識のないニート(まぬけ)と、無駄に負けず嫌いなケムッソ(ボケナス)が我先にとクエストを受けようとしているのを、何やら嫌な予感がした俺は黙って見つめる。クロは俺の真横に立って仏頂面を曝け出し、妙にニコニコ微笑んでいるハッタは何も言葉を発しない。

 

 ハッタのニヤニヤだけで俺が警戒するに値する。

 そして理由はすぐに分かることとなった。二人の間に爆笑が起こる。

 

「──ククククッ、テメェ何時から猫になったァ? そんな髭生やしてもテメェのアホさ加減が消えることはねェぜ?」

 

「あひゃひゃひゃひゃっっ! そっちこそ猫ちゃんでも目指してんの!? どんなに頑張ってもケムッソがプリティでキュートな存在にはなれないって!」

 

「「………」」

 

「「……は?」」

 

 クエストを受注した瞬間、突風が吹いたかと思えば、互いが頬に三本の髭を書かれていた……と言っても急展開過ぎて理解できないだろう。当の本人達でさえ頬を掻き毟りながら「「アルゴったあぁぁぁぁぁぁ!?」」と錯乱状態に陥っているのだから。

 ただ第三者視点で見ていた俺やハッタには理解できる。

 いつの間にか大岩に胡坐を掻いていた老人の手には筆が握られていたのだ。

 

 クエストを確認してみると、どうやら武器を使わずに大岩を破壊できたのなら、《体術》のスキルを得ることが出来るという。つかジジイが言ってた。

 なるほど、素手で岩を砕けと。

 

「あははは……無理ゲーだろ」

 

「ですな」

 

「「いいからテメェ等も受けろやぁっ!」」

 

 割と迫真の表情で二人が怒鳴るものだから、俺たちも仕方なくクエストを受注し、もれなくアルゴる。もしかして彼女はクエストをクリアしていないのではなかろうか?

 アルゴった頬を擦っても髭を消せないことを確認していると、俺の服の裾を引っ張る抵抗感を受けた。そちらの方を見てみると、他の連中と同じように猫の髭を描かれたクロが、いつもの仏頂面ながらも何やら期待を込めた瞳で俺を見ていた。

 

「どう、似合う?」

 

「いや、特には」

 

「Fuck you」

 

 どうして俺は罵倒されたのであろうか。

 コイツ情緒不安定過ぎないか?

 

「さて、ハム吉君。このクエストの存在自体はβテストで知っていたのですが、クリア方法だけは見つけることが出来なかったんですよね。この通り、武器も取られては如何しようにも……」

 

 肩をすくめるハッタの言う通り、老人によって武器は手元にない。

 文字通り武器を使わずに岩を砕かなければいけないのだが……。

 

 俺は近くにあった岩に触れてみる。

 仮想世界なのに、しっかりとした岩の肌触りが完全に再現されており、拳を軽くぶつけても岩はビクともしないどころか、本気で殴ったらダメージを受けそうだ。

 うーん、これ正攻法じゃ無理なんじゃね?

 

「で、どォすンだ? このままじゃ人前にも出られねェぞ」

 

「それアルゴさんの前でも同じこと言ってみろよ……。まぁ、正攻法じゃ早めにクリアできなさそうなクエストだし、何か裏があるとは思うんだわ。とりあえず目星らしいものは付けてるんだが……」

 

「へぇ、例えば?」

 

 ニートに急かされた俺はハッタに視線を移す。補足だが、クロは馬鹿真面目に岩を殴っている。まるで吊るされたバナナを取ろうとしているチンパンジーを彷彿とさせた。

 ひとまずハッタに、拳が顔の部分に来るように腕をクロスさせるよう指示する。

 

「こう……でしょうか?」

 

「もうちょい下……そうそう、そのまま何があっても姿勢をキープしとけよー?」

 

 俺は直立不動でラジオ体操の腕をクロスさせる運動みたいなアレの姿勢を貫くハッタの後ろに回り、腰を低くしゃがませて、彼の両足を両手で力強く握った。

 これは以前の疑問を応用とした解決法だ。

 

求めるのは最速

己のSTRを最大限に生かし

腰を低く踏ん張り

体を大きく捻らせて

岩の中央めがけて

 

 ハッタを叩きつける。

 ソードスキルが発生するエフェクトを身に纏ったハッタは、大岩を木っ端微塵に破壊して、俺がうっかり手を滑らして離してしまったので、そのまま森の木々にミサイルが如く突っ込んで消えてしまった。

 そしてクエストクリアのファンファーレが鳴り響いた。

 

「そっかー、これだとハッタがクリアしたことになるのか」

 

「なるほどねぇ」

 

「オイ、待──」

 

 同じように一歩早かったニートがケムッソを使って岩を砕く所を眺めていると、不意に視界が大きくぼやけた。正確に描写するのならば、世界が高速で動いたかのような気分だ。

 咄嗟に俺は顔面を拳で守った矢先、硬いものに当たった体の部位が粉砕骨折してしまうのではないかと錯覚してしまうほどの衝撃を与えられ、ついでに空中へとFly Awayしてしまう。地面に衝突してしまった俺の目に映ったのは、クエストクリアの文字と、残り一割を切った赤色のHPバーだけである。

 

「クエストクリアおめでとうございます」

 

「あぁ、助かった」

 

 PTメンバーがクロを除いて全員HPが一割なのが面白かったデス。

 え? オレンジプレイヤー? 武器の耐久値が減っただけでオレンジプレイヤーになるはずがないだろう?

 後はクロだけだなぁ……と考えた矢先、突然爆発音が森に響き渡った。

 その方角を見てみると、大きな土煙と共に岩が粉砕する瞬間と、小柄な少女が正拳突きを繰り出した姿勢を維持している姿だった。

 これには俺たち全員が目を剥く。

 

「……何これ脆い」

 

「「「「………」」」」

 

 クエストクリアの文字すら見ずに吐き捨てるクロ。

 ……《体術》スキルいらないよな、アレ。

 

 

 

 




ボス攻略時の布陣

《Hamutarosaan》……遊撃手。場合によってはタンクの代わりにタゲを取るし、隙を見ては攻撃を仕掛ける。
《Wurmple》……タンクその一。そのためかエギルさん並の耐久性を誇る。
《neetsamurai》……火力その一。火力の面を考えるとアホ共の中で一番高いダメージを叩きだす。
《Madhatter》……火力その二。スピード重視の攻撃が多いため、割とヘイト管理が大変なポジション。でもコイツはやる。
《Clover》……タンクその二。考えなしに攻撃するためヘイトを集めるから自然とそうなった。STRがクソ高いのでボスの攻撃すら仏頂面で跳ね返す脳筋。

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