七号鎮守府譚   作:kokohm

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閑話 提督談義・一杯目

「――すまん、待たせたか?」

『おう、防人。お前が最後は珍しいな』

『といっても予定よりも早いけどね』

『そも、仁科君は人のことを揶揄できないでしょうに。前科何犯なのよ、貴方』

『うっせえ。俺が遅れるのは方向音痴だからであって、こういうネット通話なら問題ないんだよ』

『どっちにしても褒められないと思うよ、それ。まあいいからさ、いい加減乾杯しようよ』

『だったら防人君に音頭を取ってもらいましょうよ。実害はないけど遅れてきたお詫び、ってことで』

「まあ、そのくらいなら。では、提督として無事着任し、始まりから躓かずに済んだ我らに――乾杯」

『乾杯!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……しかしまあ、本当に躓かなくて良かったね。特に防人君は』

『水雷で空母機動部隊と戦ったんですって? 本当、練度も低いうちから大変だったわね』

「ずいぶん話が早いな」

『俺がちょいと話したからな。あの時は援護できなくて悪かった。ちょうどこっちも逆側に部隊を出していたもんで、どうやってもそっちに間に合わせられなかった』

「気にするな。どっちも駆け出しなんだ、戦力がない以上どうしても対応は遅れる。俺だって、逆の立場なら手助けできたか分からんしな」

『そう言ってもらえると助かる。借り一つ、としておくぜ』

「覚えていたらどこかで返してもらうかね」

『忘れていなくてもあんまり使わなそうだけどねえ、防人君の場合』

『ああ、それはちょっと納得ね。防人君と二宮君は意識しなさそう。逆に仁科君や私とかはどうでもいいところでパッと使うでしょうね』

『俺への風評被害、って言おうかと思ったら自分も巻き込みやがった』

「そういうキャラだからな、清水は」

『さっぱりしているのはいいこと、なのかなあ?』

『それがチャームポイントだから』

『よく言うぜ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『相変わらずペースが速いな、お前ら。パカパカ飲みやがって』

『各個準備で良かったね。もし割り勘だったら財布直撃だったよ』

「自分の分くらい自分で払うぞ、俺は」

『私はたかるけど。その分肴はあんまり食べないし』

『大体は酒の方が高いわ。特に清水は高いのを飲みやがるし、安酒でも気にしない防人を見習えや』

「俺だって飲むなら旨い方がいいがな。少なくともビールは飲まん」

『仁科君はビールばっかりだけどねー』

『二宮だってチューハイばっかりじゃねえか。というか俺はビールじゃないとさっさと潰れるんだよ』

「この中だとお前が一番弱いからな、アルコール」

『言うわね、最強酒飲みさん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そういえば皆、初期艦って誰にした? 私はなんとなく五月雨にしたんだけれど』

『僕は電だね。他だとなんかこう、二人から言われそうで……』

『あー、二宮は下手に大人っぽい子を選べないか。確かに、そうなると一番ロリっぽい電がマシだな』

『そういうこと』

『大変だな。で、俺は漣な。ああいうノリの子の方がやりやすそうだったし、実際そうなったから万々歳。いやあ、上位七割には入れて良かったわ』

『あっ、そうか。初期艦の自由選択権を得られていない可能性があったのを失念していたわ。今にして思えば、その手の話って全然していなかったのね』

『どっちかというと提督になれたこと自体――ちゃんと卒業できたことに会話が寄っていたからね。僕も民間出身の提督じゃなかったら、自由には選べなかっただろうなあ』

「座学と実技がそれぞれ苦手だったからなあ、お前ら。まあ両方駄目じゃなかっただけマシだが」

『防人君は割とそつなくこなしたというか、一部戦術面以外は強かったもんねえ』

『私もそこ以外勝てなかったし。それで、防人君は誰にしたのよ』

「俺は叢雲だった。理由はランダムだから特にない」

『……え? 防人君がランダム?』

『民間出身の提督の逆だから……軍人出身の提督は上位の三割が初期艦を選べるよな? お前の普段の成績なら行けたと思うんだが』

『というか私、防人君に直接確認して、私より順位が高かったのを覚えているわよ。なんで同じ軍出身の提督で、上位の貴方がランダムなの?』

「辞退したんだよ。別に初期艦にこだわりはなかったし、だったら他に回した方が健全だろ」

『勿体ねえなあ。結果として叢雲が来たんなら、それはそれで防人には合っている気がするけれど』

「俺としても、叢雲が来てくれて助かっているよ」

『……なんかただでさえ負けている上に、さらに負けた気分なんだけどー』

『まあまあ、防人君だし』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小耳に挟んだんだが、二宮のところって前任の艦娘が残っていたんだって?」

『うん? ああ、そうだよ。六人くらいだね』

『へえ、珍しいな。そういうのは滅多にないぜ』

『艦娘の異動って、基本的にはダブったせいで再配置くらいよね。提督じゃなくて鎮守府そのものに固執したでもしたの?』

『いや、通常とはちょっと違う処理ってだけで、要はダブり艦のそれと同じだよ。対象の子たちなんだけど、前任の提督が異動する直前にドロップしちゃった子みたいでね。あんまり提督への執着もないってことで、どうせなら後任――つまり僕に放り投げようってことにしたらしいよ。一々大本営に移動して、ってことをしなくて済むから、当人たちにとっても色々と都合が良かったんだって』

「なるほど。ということは、練度はそうでもないのか?」

『ないね、ドロップしたばっかり。ただ、そのドロップが起きた戦闘の中に強敵が混ざっていたらしくてね。おかげで最初から空母と戦艦をゲットすることになっちゃったよ』

『ますます珍しいな、ラッキーじゃないか』

『いや、提督としての経験値的にも鎮守府の資材的にも運用が厳しいから、それはそれで複雑なんだけどね。でもなんで急にこの話題?』

「いや、最初から給糧艦がいたと聞いたから――うらやましいな、と」

『ああ、そこなんだ……確かに間宮さんも残ってくれたけどさ。こっちはここが慣れているって理由だったけれど』

『そっちは割と普通の異動、か? まあそれはさておき、給糧艦はガチで重要だぞ。いないと飯が困るからな』

『おかげでうちはレトルト系を購入する羽目になったわ』

「自炊しろよ。艦娘たちもうまく手伝わせれば、一先ずの分くらいはどうにかなるだろうが」

『私は料理できないのよ』

「堂々と言うな、情けない」

『そりゃ、清水は女子力低いからな』

『仁科君には言われたくないわよ。どうせそっちも似たようなもんでしょ』

『はん、俺はお前と違ってレトルトという発想が出てこなかったね。おかげでしっちゃかめっちゃかでマズ飯量産体制になっちまった』

『駄目じゃんか』

『私以下じゃないの』

『今はどうにか出来ているからいいんだよ』

「まったく、家事能力の低い奴らめ」

『……僕は違うからね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さっきの話にちょっと戻るんだけどさ、艦娘の異動ってダブり艦の再配置以外にあったりするの? 仁科君が珍しいだの普通だの言っていたけれど』

『大本営からの異動……がダブり艦の再配置だったわね。他にあるの?』

『異動ってか、まあ艦娘が鎮守府を離れるってことだが、これはダブり艦の再配置以外だと他に二つばかしある』

「提督が異動させる場合と、艦娘から異動願いを出した場合だな。前者は大体大本営に行くが、後者だと特定の鎮守府にってこともあるそうだ。一応、仁科の場合は後者になるかもしれん」

『念のために言っておくが、どっちも鎮守府から艦娘を出すことしかできないから注意な。最終的な配置権はあくまで大本営しか持っていないから。さっき珍しいって言ったのも、大本営が新人に対して、多数ないし強力な艦娘をほいほい渡すってことが基本的にないからだ』

『なるほど、だから珍しいと。で、普通の異動は、追い出すことは出来ても招くのは無理ってことね。うちの間宮さんの場合は、まあぎりぎりこっちでいいのかなあ。微妙だけど』

『確かに微妙ね。あ、その普通の異動ってしょっちゅう起こるものなの?』

『ぼちぼちかなあ。どうしても特定の艦娘が受け付けなくて、ってことはままあるっぽいし。艦娘の方も、いまいちその鎮守府とは合わないから異動したい、ってパターンはなくはないとか』

「どうでもいいが、その合わない艦娘を移動させることの隠語が『解体』らしい。普通の解体は余った艤装をばらすことだが、一人の艦娘と一つの艤装しかない状態で『解体』となると」

『そういう意味、ってわけね』

『人当たりのきつい子もいるからねえ。確かに僕も『解体』しない自信はないかも。でもこれ、要望を出したら必ず通るの?』

『百じゃないがまあ大体通るらしい。特に艦娘からの方が確実だとか』

『なんで?』

『そりゃそうでしょ。アンタの元にいたくないですって提督に示すようなものなんだから、通らなかった場合は気まずいなんてもんじゃないでしょ』

「そういうことだな。秘書艦ならまだともかく、艦娘が大本営と直接話す機会はあんまりない。となればどうしてもその手の話は提督を介さんといかんわけで」

『あー、そういうことか。それは確かに異動させないと面倒くさそうだね。なまじ提督の艦娘に対する権限って大きいわけだし』

『ブラック鎮守府につながるようなことには大本営も敏感だからな。俺らが学校に通っていた辺りに元帥たちの面子が大きく変わって、そういう問題には厳正な態度を取るようになったんだと。防人のところの七号鎮守府も、それで閉鎖したんだったか?』

「らしいな。周辺脅威が減少していたってのが前提にあって、それで一発アウトになったそうだ」

『そう考えると、結構ゲンが悪いわね。まあ、防人君がそういうことをするとは思えないけれど』

「そりゃどうも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……流石にそろそろお開きにするか』

「もういい時間だからな。これ以上は明日に差し支える」

『学生時代もそうだったけれど、提督が二日酔いはいくらなんでもまずいしね』

『こういう形だとまた新鮮だったわね。結構面白かったし、また画面越し飲み会やりましょうか。今回は割と仕事関連が多かったし、今度は馬鹿話もしたいわ』

『だなあ。それぞれの提督業が軌道に乗ったら、その時はリアルで顔を合わせて飲みたいもんだ』

「それにはもう少しかかるだろうな。それまではまあ、この飲み会で我慢だ、我慢」

『そうだね。じゃあ皆、また今度』

『ええ、また』

『おう』

「それまで息災に、な」

 

 






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