七号鎮守府譚   作:kokohm

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長良が演習の開始を宣言しました

 中々に壮観な光景だ。海上に整列する二艦隊を見ながら、長良は素直にそう思う。ディスプレイ越し、大型艦なしの水雷戦隊とはいえ、十一隻もの艦娘が相対する様は、言葉以上に見事なものがあった。

 

「――防人だ。全艦、聞こえるか」

 

 長良の隣に立つ提督が、手持ちのマイクから呼びかける。その声に、埠頭よりさらに遠く、湾外に並ぶ艦娘たちが、それぞれに反応を見せる。

 

「これより、演習開始にあたっての最終確認を行う。第一艦隊は旗艦足柄、随伴に那珂、龍田、叢雲、響。第二艦隊は旗艦川内、随伴に神通、天龍、陽炎、睦月、如月。勝利条件は片方の艦隊の全滅、夜戦なしの昼戦のみで決着とする。全艦、艤装、砲弾、魚雷が演習仕様であることを確認!」

『――確認完了!』

 

 一拍、確認の時間を挟んだ後、十一の声が一斉に返る。艦娘の演習において、実戦と同じ装備が使われることはない。艤装そのものこそ同じであるものの、内部のシステム、並びに砲弾や魚雷が演習用のそれに置き換えられている。非殺傷用――少なくとも、艦娘や深海棲艦にとっては――に調整されたそれらは、攻撃が当たってもダメージは発生せず、しかし艦娘に対して実弾が当たった場合と同じ挙動をさせることができる。つまり、その直撃の度合いに応じ、小破や中破相当などと計算したうえで、主機の出力や障壁の強度に下方修正をかける形だ。これで相手を大破ないし轟沈判定まで追い込むことが、艦娘の演習における一般的な勝利条件である。

 

「よろしい。では全艦とも、悔いのない戦いを行うように」

 

 返答に深く頷き、そして、提督が長良の方を見やる。それを受け、長良もまた自身のマイクを手に持ち、大きく息を吸う。

 

「――演習、開始!!」

 

 一拍を挟んで放たれた、力強い彼女の宣言と共に、十一隻の艦娘が動き出した。二艦隊による艦隊運動はそれなりの速度を保ったものであったが、開始地点の距離は距離の都合、砲戦が始まるまでには、まだ多少の余裕がある。その隙に、長良たちも直前の会話を始める。

 

「始まりましたね」

「突貫だったが、なんとか形になるものだ。加賀、艦載機の制御は問題ないか?」

「はい、全機正常に飛行中。状況を見て距離を取ります」

 

 提督の確認に、加賀が目を閉じたまま頷く。目の前のディスプレイ群――戦場を俯瞰、あるいは多方向から映しているそれらは、彼女の艦載機から送られてきた映像を元にしている。艦娘たちであれば直接見る、あるいはデータリンクで情報を受け取る、ということが出来るが、提督にはそれが出来ない。この解消、ならびに演習の内容を記録として正式に残すために、わざわざ用意された出力装置だ。まあもっとも、今回は長良を始め待機している艦娘たちもまた、このディスプレイを主に見ている形なのだが。

 

「さて、どう動くかね?」

「素直に砲雷撃戦をする、となると、足柄のいる第一艦隊の方が有利そうだけど」

 

 隼鷹、それに千歳が興味深げにつぶやく。次いで口を開いたのは、こんな時でもゆるりとした表情を崩さない北上だ。

 

「とはいえ、第一艦隊は第二艦隊より一隻少ないしね。長良、この数の差って何から決めたの?」

「重巡を三、軽巡を二、駆逐艦を一と戦闘能力をざっくり定め、それが釣り合うように、ってとこ。数を同数にしなかったのは、戦力では互角でも数としては劣る、あるいは勝るって状況にしたかったから」

「そういう経験は、負けてもいい演習のうちにやっておきたかったからな。それに多少数で負けているくらいのほうが、足柄も燃えるだろう。それに釣られて第二艦隊の方も――と、なれば理想か」

「なるほどね」

 

 納得した、と北上が頷く。なお、彼女は改装を経て軽巡洋艦から重雷装巡洋艦に艦種が代わり、千歳と同じく甲標的を装備できるようになっている。これで特性ががらりと変わり、戦力として単純比較も出来なかったため、今回は見学組に回された形になっていた。

 

「各艦の選定理由はあるのか?」

 

 次いで問うたのは、姉と同じく見学組の木曾だ。この二人と長良、それに電が、現状の七号の水雷戦隊のなかで、今回留守番になった面子だった。

 

「特に大きいのはないかな。睦月と如月は一緒の方が効率いいかな、とか、天龍と龍田は敵同士の方が乗るかも、とか、そんな感じでざっくりと」

「練度とかは見なかったのか?」

「見たけど、初期の六隻以外大差ないから。正直、割合を決めた後は半分くじだよ」

 

 とは言ったものの、実際にはもう少しの配慮をしている。例えば、今回の編成を決めた長良や神通、北上等に特別有利になるようなものを作らない、というのがそうだ。北上が艦種変更の都合で初戦自体、というのもここに当たるだろう。ただ、あまり意識して言及しておくことでもないので、長良もこの場で特に説明する気はない。

 

「それに、最終的には全員とも一回以上やる予定だしね。だったら別に良いかなって」

「……ならいいか」

 

 適当だな、と言いたげな表情ではあったが、木曾は納得したような姿勢を取る。自分が今回出られなかった理由に、一応は納得できたからなのだろう。

 

「――そろそろ、第二艦隊が足柄さんの射程に入るのです」

 

 じっと、ディスプレイを見つめていた電がつぶやく。その声に視線を正面に戻せば、確かにその通りの状況になっていた。第一艦隊は足柄を先頭とした単縦陣、第二艦隊は川内、神通をそれぞれ先頭に置いた複縦陣を取り、各艦隊で足並みを揃えられるほぼ上限の速度を出して接近している。これならばあと数秒もすれば、彼我の距離が足柄の有効射程範囲に収まるはずだ。

 

「さて、どう動くか」

 

 見させてもらおう。そんな風に提督が声を漏らした直後、足柄が動いた。他の艦娘が航行に注力する中、一人だけ主砲を前方に向け、砲撃を開始したのだ。

 

「撃ちだした。やっぱり先制攻撃するよな」

「とはいえ、まだ当たらないでしょう。安定性があまり良くない」

 

 木曾の言葉に、加賀が否定を付け加える。彼女の言う通り、足柄の第一射は第二艦隊の中央、あるいは左右に着弾し、水柱を作る。直撃弾はおろか、至近弾も見受けられない。こちらでモニタリングしている、各艦娘の艤装の状態を見ても、それは明らかだ。その結果に、思わず長良は目を細める。

 

「角度がずれている。複縦陣に惑わされたかな」

「だけど、相対距離と速度の計算はいいんじゃね?」

 

 そんな隼鷹の言葉を肯定するように、足柄の第二射が第二艦隊を襲う。やはり至近弾こそないが、先ほどのそれと比べ、より艦娘たちに近い位置に弾着していく。何隻か障壁を展開している者もいることから、第二艦隊の視点でも、中々危ない射撃だったようだ。

 

「やっぱり。次は当たるかな?」

「いや、この距離なら足柄が修正を適用するよりも、第二の射程に入るほうが早い。距離の利は生かせなかったか」

 

 難しいものだ、と言いたげに提督が腕組みをする。直後、両艦隊の軽巡組が、ほぼ同時に発砲を開始する。このまま互いに直進し、全力での殴り合いになるか、と思う長良だったが、彼女の予想は大きく裏切られた。第一艦隊の方は確かに、砲撃と共に前進を続けたものの、第二艦隊の方は、第一射を撃ち放った後、第二射の気配もさせることなく、左右に大きく艦隊を分けたのである。

 

「第二が割れた!?」

「第一艦隊を挟むつもりのようです!」

 

 千歳が声を上げ、電が補足する。二人の説明の通り、三対三に分かれた第二艦隊はそれぞれ、その勢いのまま、大きく弧を描いて外に回り、第一艦隊の左右を取るような艦隊運動を取っていた。これに虚を突かれたのか、あるいは左右どちらに撃つかを決めかねたのか、第一艦隊から砲弾が飛ぶ様子はない。第二艦隊の方も、移動に注力しているのか、発砲の気配はない。そのため、数十秒前が嘘のように、海上にはつかの間の静寂が訪れていた。

 

「複縦陣を取ったのはこれが理由か。だが、ここからどうするつもりだ……?」

「ひょっとして――」

 

 包囲陣でも敷くつもりなのかも。木曾の疑問に対し、そんなことを言いかけた長良だったが、それを遮るように突如として第二艦隊が発砲を再開する。位置取りは第一から見て斜め左右、両側を取って有利、とは判断しがたいタイミングだ。

 

「ここで発砲?」

「――そういうことか」

 

 加賀の疑問の直後、提督が納得したように眉を動かす。何を、と彼に確認を取るよりも早く、砲撃が第一艦隊を襲う。二方向から放たれたそれらは、足柄の背後、二番艦の那珂との間に水柱を作った。自身への攻撃と察した那珂が、急ブレーキをかけることで回避した結果だ。いくつもの水柱が立つその光景に、長良もまた第二艦隊の思惑に気づく。

 

「分断狙い……!」

 

 咄嗟に速度を下げた那珂以下五艦と、そのまま直進を続けた足柄。旗艦と随伴艦たちが、見事に分断されていた。状況に気づいた足柄が振り向き、おそらくは再合流を試みたのだろうが、それよりも第二艦隊の追撃の方が早い。

 

 二つに分かれた六隻が、それぞれに第一艦隊へと殺到する。砲撃を織り交ぜながら近づく中、まず目を引いたのは天龍の動きだ。唯一砲撃を行わず、ただひたすらに直進を――突撃を続けた彼女は、その勢いそのままに突出し、三番艦の龍田にぶつかる。姉妹艦であるこの二隻は、砲雷撃用の艤装の他に、天龍は刀型、龍田は薙刀型の、近接用と分類されている武装を所持している。この二振りでの鍔迫り合いを見せながら、維持していた加速と、その気迫をもって天龍が龍田を隊列から押し出した。

 

 次いで――正確には天龍の突撃の途中から――今度はその逆サイドから、川内が突出する。流石に二度目ということで、第一艦隊も砲撃を川内へと集中させようとしたが、残った第二艦隊からの砲撃支援がこれを阻害し、足並みを乱させる。

 

 速度との併用ぎりぎり、というほどに上体を下げ、それでもなお迫る砲撃を障壁で強引に防ぎながら、川内が那珂に組み付く。肩口を那珂の腰元にぶち当てた彼女は、天龍よろしくその勢いを生かす形で、妹を無理やりに隊列から引きはがす。

 

 そうして、その二隻がこじ開けた隙間に、神通と陽炎が飛び込んだ。前者は響と叢雲に、後者は足柄へと向き直り、そちらへと舵を取る。そのうえで、足柄の側には、左右から睦月と如月の砲撃が襲う。神通が古参駆逐艦二隻と等しく相対し、三隻の駆逐艦が足柄を包囲する形だった。

 

「また見事に分断されたな。完全に第二艦隊のペースだ」

 

 やるなあ、と隼鷹が口笛を吹く。天龍と龍田、川内と那珂という、姉妹艦同士による一対一が二つ。神通と響、叢雲による一対二が一つ。そして陽炎、睦月、如月と足柄という三対一が一つ。どういう形になるか、と見守っていた演習は、第二艦隊の思惑の下、四つの戦場へと分かたれていた。

 

「単純な艦隊同士での正面戦闘ではなく、分断からの各個撃破を狙う形か。ガチの近接戦闘も混ぜてくるあたり、初戦から面白いもんを見せてくるじゃないか。一応、長良の戦力計算的にも釣り合っているから、そう分が悪いもんでもない……よな?」

「でしょうね。足柄に駆逐組を当てたのも、軽巡で下手に重巡と砲撃戦をやるよりも、小回りの利く駆逐に雷撃を狙わせる方がいい、と判断じゃないかしら。上手く決まれば、三方からの魚雷で仕留められる」

「うーん……その戦法ならいっそ、当てるのは駆逐二隻でもいい気もするけどねえ。下手に拮抗状態を並べるより、何処かを偏らせて勝負をかけた方が良さそうに思える」

「そうですね。少なくとも、私ならばそのようにします」

 

 軽巡級二隻と航空母艦二隻が、交互に状況を評価する。四隻の言葉に頷きながら、長良も自分の考えを述べる。

 

「あくまで予想だけど、その辺は川内たちの自負とか自信から来ているんじゃないかな。たぶん、自分なら相手を倒せる、あるいは抑え込める、って見積もったんだと思う。その上で、第一艦隊の最大戦力である足柄を確実に落とすため、そこに陽炎たち全員を突っ込ませた」

「足柄さんをまず落とし、そこから戦況を一気に取る、ってことですか?」

 

 たぶん、と電からの確認に対し、肯定の言葉を投げる。その上で、更に指摘しておかなければならない点にも目を向ける。

 

「ただ、それが上手く行かなかったら、負けるのは第二艦隊の方だろうね。足柄さんが三隻を翻弄し、更なる各個撃破の形にでも持ち込まれれば、第二艦隊の戦略は一気に瓦解する。たぶん、他の三つの戦場のどれでやられても、同じようなことになると思う」

「最初にどの組み合わせが決着をつけるか。それが勝敗に直結すると見て間違いないな。唯一覆せるとしたら、足柄が奮闘した場合のみくらいだが、流石に難しいだろう。このまま第二が流れを維持して勝つか、あるいは第一が逆転するか……」

 

 そこまでまとめたところで、しかし、と提督は目を細め、ディスプレイを見つめる。こちらでの会話の合間に、あちらの戦況もほぼ最適化されている。その四つの戦場のうち、彼が視線を向けていたのは、天龍と龍田が作り出しているものだ。先ほどからの継続か、何故か未だに格闘戦を繰り広げている二隻を見ながら、提督は鼻を鳴らす。

 

「司令官さん、どうかしたのですか?」

「天龍と龍田の動きが、どうにも気にいらん。人の形をとっていることの強みを生かせていない」

「……えっと?」

 

 どういうことだろう、と首を傾げた電に、提督はディスプレイを軽く指しながら答える。

 

「間合いの取り方と得物の振り方が悪い。先ほどのもので言えば、天龍はもう少し踏み込んでから当たっても良かったし、龍田も龍田で内側に入り込まれ過ぎている。今にしても、互いの間合いを完全に把握しきれていない。得物の振り方、それに身体の動かし方を理解しきれていないのが丸分かりだ」

「そこはまあ……そもそも、艦娘の戦闘で文字通りの近接戦を行うってことが珍しいですし」

 

 真正面からの砲撃戦を『殴り合い』などと表現することはあるが、それはあくまでも比喩。実際に肉弾戦を行う、などということが艦娘と深海棲艦の戦いで起こることは、ほぼほぼありえないと言っていいだろう。そんなことをするくらいなら砲雷撃の一つでも放った方が得だし、何よりもまず、相手方の深海棲艦がこれに乗ってくるわけがないからだ。

 

 だから、そういうことが不慣れでも仕方がない。そういうことを長良が擁護するものの、しかしと提督は納得を見せてはくれない。腰に下げた軍刀と、普段の身のこなしから察するに、提督はそれなりの使い手であるはず。その辺りの知識や経験が、提督の中に不満を生じさせているのだろう。

 

「ああいう戦法を自分たちから取ってきたんだ。ならばそれ相応の振る舞いをしてくれねば、戦いを任せている側としても困る。不慣れなことを軸に戦法を立てられても、ではそれでと指揮は取れんよ」

「まあ、確かにそれはそうかもしれないけどね。この演習然り、提案したことを出来るようにするのが、日々の鍛錬なわけだし」

「そうだ。そもそも、不意打ち以降も近接戦を続けているというのも良くない。せめて合間に砲戦の一つも混ぜなければ、艦娘の強みすら消してしまうだろう。砲戦の合間に近接を入れない、ならそれでいいが、逆はあまりに勿体ない」

 

 それに、と腕を組みながら、提督は続ける。

 

「最初の接触にしても、龍田や那珂は障壁を張るべきだっただろう。そうすれば、ああも上手く押し出されはしなかったはずだ。特に那珂は、ダメージを抑えるという意味でも、そうするべきだった」

 

 そう言って、提督が目で那珂を示す。確かに、改めて見ると、ディスプレイ越しの那珂には違和感がある。普段はどういう状況であれ、大体は笑みを浮かべている彼女が、今はよく見れば分かる程度には、その顔にひきつりが浮かべている。おそらく、先ほどの激突の際にダメージを受けたのだろう。流石にタックルに演習仕様も何もないから、見たままのそれが通ったのだろう。相対する川内にそのそぶりが見えないのは、攻撃した側と不意打ちを受けた側の違いか、あるいは直前の彼女だけ張っていた障壁の違いか。どちらにしても、提督の指摘は確かに一理ある。

 

「だけどさ、それって難しくない? そりゃ障壁そのものは瞬時に展開できるけどさ、それってあくまで本人がそうしようと思って張るもんで、自動でそうなるってもんじゃないじゃん。高速で迫る砲弾に反応できているのは、あくまでそれが艦娘の本能みたいなもんだからで、その本能に引っかからない、砲撃も雷撃でもないただの突撃に、意識して障壁張るのは、慣れていないとちょっと厳しいよ。基本的に想定されていない上、完全に不意打ちでもあるわけだし。そもそも今回食らった二人は、実戦経験自体があまりないんだから、分かっていても面食らうって」

「……む」

 

 北上の反論に、提督は口元を隠しながら考え込む。さらなる反論がないのは、彼女の言葉に一定の納得を得たからだろう。それを援護するように、今度は加賀が口を開く。

 

「人の形をしているとはいえ、我々艦娘の本質はあくまで艦船。一口に近接戦と言っても、それは格闘技術の発揮の場というよりも、いわゆるラムアタックの延長線という方が近いでしょう。その認識の中では、障壁を張るにしても、格闘を行うにしても、適切な選択を取るのは確かに難しいかと。まあ、川内のアレを『ラムアタック』ととるならば、那珂への言も正しいとは思いますが」

「いやあ、あれは無理だよ。そもそも、アタシらがただの軍艦だったかつての大戦を『ひと昔』とするならば、ラムアタック前提の戦闘なんて、それこそ『大昔』の話だ。そうそう上手くは出来ない、って考える方が自然だよ。そりゃ、あくまで不慣れなだけだから、訓練を重なれば出来るようになるんだろうけどさ」

 

 艦娘にとっての、近接格闘という戦い方の立ち位置。加賀と隼鷹が語ったそれに、提督しばしの沈黙の後、仕方ないとばかりに吐息を漏らす。

 

「……そうだな。自力での最適化は難しい以上、そこまで言うのは高望みか」

 

 理解した、と提督はゆっくりと頷く。残念、あるいは無念というような動作の後、しかしすぐに、となれば、と彼は気を取り直したように続ける。

 

「二度目がないと言えない以上、何処かで本格的に覚えさせる必要があるな。武器持ちの天龍と龍田、それに叢雲辺りは半強制。後は希望者に……いや、川内の件もあるし、装備に限らずやる者はやるな。だとすれば全員に教導するべきか」

 

 武器持ちどころか、しれっと全艦娘を対象にして、提督が一つの決定を下す。その言葉に、妙な圧のようなもの――出来るまでしごく、とでも言いたげな迫力を感じ取り、思わず長良の頬がひきつる。訓練の類を苦にしない彼女ですら嫌な予感を覚えるくらいには、提督の言葉からは何やら尋常ではないものが感じられた。

 

「あはは……お手柔らかにお願いしますね」

「うむ、半端はせん」

 

 ……果たして、意図は通じているのだろうか。内心でそんな疑問を抱くものの、まあいいかと気持ちを切り替えて、長良は改めてディスプレイの方に目を向ける。

 

「……とりあえず、ここまでは完全に第二艦隊のペース。このまま第二が流れを取るか、第一艦隊が取り戻して逆転するか」

 

 どっちになるかな、と長良――今回の演習の審判役は、楽しげに戦況を見守るのだった。

 

 






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