七号鎮守府譚   作:kokohm

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睦月は提督の意外な強さを知りました

 ――走る。ただひたすらに、走る。

 

 絶対数の少なさ故に、早朝の鎮守府は非常に静かで、澄んでいた。そんな、微かに肌寒さのある空気の中、睦月はただ一人、静かに走る。

 

 目的地があって、というものではない。敷地内を適当に走る、ただのランニングだ。もっとも、それも名目上のこと。良くも悪くも肉体面の変化が起こりにくい艦娘にとって、トレーニングの類はさして意味のあることではない。それで筋肉がつくわけでもないし、そもそも――肉体面に限ればの話だが――艦娘の戦闘において、艤装の性能以外は要素足りえないからだ。

 

 だから、どうして走っているのかと言えば、それはただ単に『そうした方がいいと思ったから』でしかない。ただ、漫然と座しているよりは有意義であると――あるいはそうすれば何かが進むと――そんな風に思ったからこそ、睦月はただ一人、静かに走っていた。

 

 そんな、孤独なランニングの中で彼女の頭を占めるのは、先の演習の結果だった。

 

『――この勝負、第二艦隊の勝ちとする!』

 

 昨日行われた、最初の演習。全体的な勝敗において、睦月たち第二艦隊は勝利を収めること()できた。ただし、その過程においては後悔がある。陽炎が離脱した後、睦月と如月は結局、独力で足柄を打ち倒すことが出来なかったからだ。どちらも損傷を受けこそしなかったものの、中破した足柄相手に攻めきれず、最終的には、自分の戦場を打破し、援護に来た川内がそのまま打ち倒し、決着となった形だ。

 

 ――その結果に、自身のふがいなさに、睦月は未だ、納得を得ていない。

 

 確かに、個々の能力に差はあった。艦種違いの足柄は当然として、駆逐艦同士でも陽炎型と睦月型は性能にかなりの差がある。はっきりと言ってしまえば、睦月型は『弱い部類に入る』艦娘だ。故に、あそこまで追い込んでおいてなお、決めきれないということもあるだろう。事実、そうなったのだ。

 

 だが――だが、である。はたして、それでよしと納得してよいものだろうか。あるいは、納得できる(・・・)だろうか。

 

 ――答えは、否だ。否以外の、何があろうか。

 

 あの時、陽炎を援護しきれなかった後悔。その後において、僅かに手が届かず、敗北してしまった無力感。それを得てなお、弱いままでいい(・・・・・・・)などと、受け入れていいわけがない。弱かろうが、古かろうが、艦娘であるならば(・・・・・・・・)、戦うことが、勝つことが――守ることが本分なのだから。

 

 故に、思うことは、ただ一つ。

 

 ――強くなりたい。

 

 そんな決意を胸に、睦月はただ、ひたすらに走り続け――

 

「――にゃ?」

 

 唐突に、一人だけの世界から、現実へと引き戻された。鎮守府内の訓練施設、確か『道場』と仮呼称されていた場所から、喧騒が聞こえたからである。

 

「えーっと……誰かいるのかな?」

 

 艦娘だからこそ聞こえた程度の音量だったが、妙に活気が感じられる。自分と同じように、朝の自主訓練をしているのだろうか、と思い、なんとなしに上がり、のぞき込む。

 

 すると、そこには木刀を構えた二人の艦娘――天龍と足柄の後ろ姿があった。やや荒く、そして深く息をしている様子から、それなりに疲労しているのだろう。その背から感じられる気配を見ても、よほどの真剣勝負を重ねたことが察せられる。

 

 だが、それ以上に目を引くのは、その二人と相対して木刀を構えている、提督の姿だ。普段着のままの二人と違い、道着をまとった彼は、得物を正眼に構えながら、悠然と二人を見据えている。呼吸には特に乱れも見られず、提督が艦娘二人を圧倒している側ということを容易に察することが出来る。常の立ち姿や、普段から軍刀を腰に下げていることから薄々と感じていたが、どうやら彼は相当な使い手であるようだ。

 

「……ん、睦月じゃない」

「あら。おはよう、睦月ちゃん」

 

 そこまでを観察したところで、ふと横合いから声をかけられた。見れば、道場の壁際で叢雲と龍田が正座をしている。こちらも普段着のままだが、傍らには木製の薙刀らしきものが見受けられる。

 

「おはようにゃしい。早速だけど、説明欲しいのね」

「見ての通り、格闘の演習よ。とりあえず一通りやって、今は二対一の変則戦ってとこ」

「そんなのをやっていたなんて、初耳なんだけど?」

「ほぼ突発的に、目についた面子でやってみたって形だから。まあ試しよ、試し。これで上手く固まったら、今度はアンタたちにもやらせるかもね」

「うーん、この体格で上手くやれるかにゃあ」

「やりようによるんじゃない? まったく素人ってわけでもないんだし」

 

 そうでしょ? と投げかける叢雲に、ううんと睦月は腕を組む。

 

 基本的に艦娘というものは、ある程度の知識や、今の世のおおまかな常識などを得た状態で、建造ないしドロップされる。最初から、見た目相応かそれ以上の知識を得た状態で生まれる、と言い換えてもいいだろう。

 

 これらの内容は――艦娘それぞれで多少の振れ幅はあるが――ある程度共通しており、その中には戦闘関連の知識も含まれる。戦術や戦略、という頭を使うものから、射撃や格闘といった身体を使うものまで、それなりに広い。先の叢雲の問いかけはこの後者を指してのものだ。

 

 ただ、これらの知識があるからといって、それをすぐに生かせるとは限らない。何故なら、それらの知識に対して、艦娘ごとに実感を覚えている者といない者がいるからだ。つまり、対象の知識に対して『そうである』と納得している者と、『そうであるらしい』と知っているだけの者に分かれているのだ。そのため、身体で覚えている人と頭だけで理解している人では同じことが出来ないように、艦娘たちもそれらの知識を実践するにあたって差異が出る、ということである。

 

 この二つの違いだが、これはかつての乗組員たちの記憶を持っているかどうか、と言われている。実感を覚えている者は知識と一緒に彼らの記憶を得ており、覚えていない方は彼らの知識だけを得ている、という解釈だ。知識を得た過程を覚えているかどうか、と言い換えてもいいかもしれない。

 

 この説は実際に、前者の艦娘たちがかつての乗組員たちの記憶があると主張しているために生まれたものだ。特に、彼女らは他の艦娘が知らないような専門知識を持っている場合があり、なおかつそれがかつての時代だからこそのものであることが多いため、おそらくはそういうことなのだろうと、漠然と支持されている。まあもっとも、では覚えている艦娘と覚えていない艦娘の違いは何か、というのは分かっていないため、どうにもしりすぼみな話でもあるのだが。

 

 そして、これらの知識区分の内、睦月は後者、つまり記憶がない側にあたる。それこそ、先の説を聞いた時にも、他の艦娘はそうなのか、と特に感慨なく頷いたほどだ。よくは分からないが、とりあえず知っている。睦月にとって自分が持つ知識というのは、結局その程度でしかない。だから、叢雲の確認に対しても、知ってはいても活用は難しい、と悩ましい反応を示す以外になかったのである。

 

「まあ、でしょうね。どうも、うちはそういうタイプみたいだし」

「そういう?」

 

 知っていた、とばかりの反応を返した叢雲に、睦月はやや首をかしげる。

 

「艦娘の知識と記憶の関係だけど、鎮守府によって偏ることが多いのよ。この鎮守府では記憶持ち、あの鎮守府では知識のみ、って感じでね。今ここに居る面子は全員後者だから、たぶん七号鎮守府自体がそちら側なんだと思うわ」

「そういうものがあるんだ」

 

 驚き、龍田の方に視線を向ける。すると、彼女もまた同意の頷きを返す。

 

「私も、なんとなくこれの振り方は分かっても、どうするのがいいのかとか、どう動きたくなるかとかは全く分からないのよねぇ。おかげでなかなか形にならなくて」

 

 そう言って、龍田は傍らの薙刀を撫でる。

 

「その辺り、天龍ちゃんは強いわよねえ。とりあえず動いて引き寄せるタイプだから――っと」

「ぐはっ――――ぐぇっ!」

 

 話を切るように、色気のない声と共に吹っ飛んできた天龍が、龍田の横を通って壁に叩きつけられる。常人が見れば慌てそうな勢いだったが、この場にいる面子の大半は艦娘であり、自分たちの頑強さはよく知っている。そのため、睦月はその見事な吹っ飛び具合にむしろ感心し、叢雲と龍田に至ってはちらりと視線を向けるくらいの反応しか見せない。どころか、まるで何もなかったかのように話を再開する始末だった。

 

「私も、中々しっくりこないのよねえ。頭を使う方じゃ特に不便はないんだけど、こっちはどうにも難しくって」

「そういえば、その傾向云々って性格とかでも出るって本当? この前、工廠の妖精さんたちがそんなことを言っていた気がするんだけど」

「まあ、そうね。そういうのもないことはないわね。性格はちょっと違うかもしれないけど、例えば全体的に冷静な艦娘が多いとか、逆に熱血ばっかりとか、そういうのも鎮守府によって『色』が出ることが多いらしいわ。土地が建造とかに関係しているとか、提督の気質が妖精に影響を与えているだとか、説だけはあって答えが出てない類の話だけど」

「ふーん、じゃあここにも他にそういう傾向があるのかな?」

「比較的理性的な娘が多い気はするけれど……分からないわよねえ」

 

 ほんわかと首をかしげる龍田に、そうだねと叢雲と一緒に同意を示す。そんなところで、先ほど吹っ飛んできた天龍が、よれよれと立ち上がった。

 

「お前ら……流石に反応が薄くないか……?」

「いや、そりゃ何回も吹っ飛んだのを見ればこうもなるわよ。なんなら私たちだって似たようなものだったんだし」

「こっち、長物なのにねえ。切り結んだ状態から吹き飛ばされるのはまだしも、どうやったらあそこから腕を掴んで投げられるのかしら」

「……あれ? もしかして、一人も勝ててないの?」

 

 まさか、と睦月が問いかけると、三人は一切のずれもなく同時に頷く。

 

「指導混じり、というのはそうなんだけどね。それでもまあ、あそこまで圧倒的だと逆に笑うわ」

「流石に、腕力的な意味では全力じゃねえけどな。ワンチャン、それでも受け流されるかもしれないってのが末恐ろしいが」

「――無茶を言うな。貴官らが本気の膂力で打ち込んできたら、避ける以外の選択がないに決まっているだろう」

 

 そこで、提督の声が会話に混じった。見ると、木刀を肩に当てた態勢で立つ提督と、その奥で床に突っ伏している足柄の姿がある。よほど良い一撃をもらったのか、足柄は倒れこんだ状態のまま、ピクリとも動くそぶりがない。提督に息切れの一つもする様子がないところを見るに、聞いた通り彼我の実力差は圧倒的であるらしい。

 

「あ、あはようございます、提督。実は結構強かったんだね」

「それなりに、だ。艤装からのアシストありならこうはならん」

「なしでもそこそこ強いはずなんだけどなあ、艦娘(俺ら)は」

「技術勝負なら余地はあるということだ」

「流石は刀剣類の携帯許可持ちよね」

「携帯許可?」

「銃刀法は知っているでしょ? あれを限定的に無視できる権利のことよ」

「……あの軍刀、鎮守府内だから持ち歩いているわけじゃなかったの?」

 

 龍田の疑問に、提督は木刀で肩を叩きながら答える。

 

「自分で言うのもなんだが……あれは提督学校において、そちらの関係の成績優秀者だけが持てるものだ。貴官の言う通り、軍の敷地内ならともかく、一般の提督や軍人は公道での携帯はできないようになっている。その代わり、拳銃の方は比較的制限が緩く、大体の者は所持している。それこそ、素人と大差ない提督ですら、公務中であれば携帯が可能だし、人によってはプライベートでも持ち歩ける。まあ実際に使ったり、変に一般人に見せたりしたら、後で処分を受けることもあるが」

「じゃあ提督は拳銃も持っているの?」

「ああ、普段は懐にしまっている」

「軍人だからって、そこまで出来るもんなのか?」

「基本はそうなんだが、少し前にちょっとしたごたごた(・・・・)があってな……」

「ごたごた?」

「諸事情でね、一部地域なんかで限定的に治安が悪くなったのよ。それに関連して軍関係者――特に鎮守府を出入りしている者が襲われることがあって」

「それで、自衛の強化ということで軍人の武器の携帯が許可されるようになったわけだ。かつての大戦からこちら、元々軍の影響力は強かったし、深海棲艦が出現するようになってからは多少の無茶も利くようになった、とか。その辺りは私も詳しくないがね」

「艦娘からの提督、それでなくても護国のために軍人の身は大事、ってわけか」

 

 そういうことだ、と天龍のまとめに、提督と叢雲が揃って頷く。色々とあるのだなあ、と今の軍人の武器事情にそんなことも思いつつ、それではと睦月は口を開く。

 

「じゃあ、そのごだごだってなんにゃしい? 提督関連なら、私たちも知っていた方が良い気がするのね」

「それはまあ、道理ね。どうする?」

「……まあ、鎮守府内の資料なり、支給品の端末で調べれば分かるか。私もざっくりとしか知らないが――」

 

 と、思案顔を挟みつつ、提督が説明を始めようとしたところで、

 

「――っ、まだまだぁ!」

 

 突然の咆哮と、何かが砕けたような轟音。何事か、と見れば、先ほどまで寝転がっていた足柄が、提督に向かって一直線に駆けだしている。ようやくの覚醒から、意識があった直前の状況を再開――リベンジをしに来たらしい。

 

「ちょっ、足柄さん!?」

 

 しかし流石に動きが速すぎる。常人であれば出せないだろう、という速度で迫り、木刀を振り上げる足柄に、睦月は思わず驚愕の声を上げる。艦娘相手ならともかく、人間に相手にその勢いで当たれば、怪我程度では済まない可能性が高い。それはまずい、と止めようとして――

 

「――っせい!」

「にゃぁっ!?」

 

 思わず伸ばした手の先で、素早く振り向いた提督自身が、見事足柄を投げ飛ばした。その反応速度と、動作の淀みのなさは、一瞬状況を忘れ、つい感嘆してしまうほどに美しかった。あるいは、睦月以外もそう感じたのか、視界の端に映る叢雲たちもまた、介入のために踏み込もうとした姿勢のままに固まっている。その隣を――空中での上下一回転を挟みつつ――足柄が通り過ぎ、その勢いのままに背中から壁に叩きつけられた。

 

「がっ――いった!!?」

 

 背中への、そして落下からの頭部への一撃。いっそギャグかなにかのような流れで発されたその鈍い二音と、その痛みから転げまわる足柄に、ハッと睦月たちの時が動き出す。

 

「……すっご」

「え、あれに反応できるのかよ」

「提督、本当にすごいのね……」

「いや……今のはほとんど無意識だったんだが。まさかあそこまで身体が動くとは」

 

 提督自身ですら予想外だったのか、珍しく困惑十割の表情を浮かべる彼に、睦月は尊敬の視線を向ける。

 

 あるいは――これが自分の求めていたものではないか。こういったことが出来るようになれば、より強くなれるのではないか。そんな風に、睦月は感じ取った。本来の艦娘のあり方としては、これはかなり異質な思考だろう。砲雷撃戦を主とする艦娘に、文字通りの格闘戦を生かす余地など、本来であれば、ない。

 

 だが、魅入られてしまった。提督が今見せたあの技に、睦月の心は大きな衝撃を受けていた。だから思わず、状況も忘れて師事を請おうとし――

 

「な・に・を――やっているの、アンタは!」

 

 それよりも先に、叢雲の怒声が睦月の耳を打った。思わずハッと――浸っていた熱から覚めて――そちらを見れば、そこでは未だふらふらとする足柄に対し、ためらいなくこぶしを振り下ろす彼女の姿があった。

 

「いっ――た!?」

 

 叢雲の拳が足柄の脳天に突き刺さり、一応は生物同士である、とは思えぬほどの鈍い轟音が鳴り響く。見た目以上の衝撃があったか、一瞬白目をむいた後、足柄が頭を両の手で押さえる。だが、そんな足柄に配慮するそぶりもなく、叢雲は彼女の襟首を掴み上げる。

 

 その剣幕に、熱に浮かれかけていた睦月の思考が平常に戻る。その極端な温度差に、直前の思考を思い出せなくなる睦月の前で、叢雲が足柄の胸倉をつかみ上げ、不自然なほどの笑顔で問いかける。

 

「ねえ、足柄? 艤装を展開中の艦娘は提督と物理的接触をしてはならない、と決まっているのは知っているわよねえ? それはなんでだったかしら?」

 

 常の叢雲が見せないような、とびっきりの笑顔。だが、その目には光がなく、その背からは尋常ではないほどの圧が発せられている。そこに可憐はなく、ただひたすらに苛烈。怒髪天を突く一人の艦娘の姿が、そこにはあった。

 

「……ぎ、擬装を展開しているときは、パワーアシストがオンになっているから」

「そう、つまり擬装展開中、私たちはデフォで怪力になっているということ。基本的には意識して制御できているけれど、無意識に制御が緩む可能性はある。気を抜いているときに握手を求められ、うっかり相手の手を握りつぶす、とかね。そういったことによる事故が起きないように、擬装展開中は人間に近づきすぎない決まりになっている」

 

 そうよね、と叢雲が笑顔で首をかしげる。文句のないほどの美少女、という様であるにもかかわらず、彼女と至近距離にある足柄の顔には、冷汗以外のものが浮かんでいない。いや、それは睦月も――そして、天龍と龍田もまた、同じ。この場にいるすべての艦娘が、叢雲の発する怒気に飲み込まれている。

 

「とはいえ、擬装を展開していなくても、接続自体があるならば、アシストは受けられるようになっているわ。だから非戦闘時にも十分な自衛は出来るし、その膂力を日々の雑務に生かすこともできる――そう、意識すれば(・・・・・)、ね?」

 

 叢雲が言葉を紡ぐほどに、足柄の顔が蒼白に転じていく。その内容に、ではない。彼女の全身から発される圧が――無関係の睦月ですら、まったく近づけないほどのそれが――あの勇猛な足柄をすら恐怖させているのだ。

 

「今、アンタは擬装を展開していない。だけど、さっきの踏み込みは明らかに、擬装からのアシストを受けたものだった。ええ、ええ――それはつまり、意識して擬装を使ったということ。司令官相手に、負けん気を発揮したと、そういうことよね?」

 

 そう言って、特大の笑みを叢雲が浮かべる。だが、それが彼女の表情を占めていたのは、瞬く間のこと。

 

 次の瞬間には、彼女は羅刹もかくやという形相で、再度拳を振りかぶり――

 

「ちょっと負けた程度で、提督を殺しにかかる艦娘が何処にいるかぁ――!!」」

 

 もう一度、足柄の頭部を発生源とした轟音が、睦月たちの耳を打った。その剣幕に思わず身をすくめる中、足柄はくらくらと頭を揺らした後、バタンとその場に倒れこむ。それと、フンと鼻を鳴らす叢雲に、睦月の脳裏をノックアウトという言葉が占める。

 

「……はあ、まったく」

 

 そんな中、一人まるで動じる様子を見せなかった提督が、呆れたように息を吐いて、

 

「とりあえず――今日一杯は独房入りな」

 

 細かい沙汰は後で下す。そう告げる提督に、聞こえていないと思うけど、などと突っ込みを入れられる度胸を、残念ながら睦月は持ち合わせていないのであった。

 

 





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