七号鎮守府譚   作:kokohm

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北上は当面の目標を定めました

「――このっ!」

 

 水面を蹴り、その場を飛び退る。着地したと同時、一瞬前まで自身が居た場所を魚雷が駆け抜けていく。その事にひやりとしたものを感じつつ、北上は砲を向ける。

 

「いい加減に、落ちてくれないか――なっ!」

 

 発砲。爆発音と風切音を生じさせた後、砲弾は見事激突音まで響かせる。北上の放った一撃は見事、敵駆逐級の装甲に命中したのだ。当たり所が良かったのか、それとも先に北上が当てた魚雷が効いていたのか。砲撃を受けた駆逐イ級は一瞬動きを止め、徐々にその身体を海面へと沈めていく。撤退や偽装ではない、確実に轟沈したのだと北上は直感する。

 

「よっし! って、そんな場合じゃないよね!」

 

 思わず歓声を上げつつも、すぐさまに視線を周囲にめぐらす。今回接敵したのは、軽巡ホ級一隻に、駆逐イ級三隻の合計四隻からなる艦隊。対してこちらは、北上を旗艦として、木曽、電、響の四人からなる艦隊。数が等しく、結果として各個対応という形になってしまったのだが、他の皆も自分のように敵を倒してくれただろうか。

 

 そんな心配から、データリンクの結果を見つつも、思わず北上は周囲を見渡す。しかし、結果としてこれは、どうやら杞憂であったらしい。北上が視線を動かすのと同じように、他の面々もこちらを含めた周囲に視線を向けている。どうやら、ちょうど他の戦闘も終了したようだ。哨戒任務中に発生した久しぶりの戦闘であったが、どうにか犠牲無く勝利を収めることが出来たようである。

 

「皆、大丈夫だったー?」

 

 あえて軽い調子で、北上は全員に問いかける。艦隊を組んでいる以上、データリンクによって各個の状態は把握出来ている。加えて、被弾具合なども視覚を介しておおよそ推測は可能だ。そういう意味ではわざわざ口答で状態を述べる意味はないのだが、あえてそうした方が、戦闘後の緊張もほぐれるだろうかと、何となくそう思ったからだ。実際、それは多少なりとも効果があったようで、特に電などは戦闘の疲れを追い出すように、大きく息を吐き出している。

 

「私は大丈夫だよ」

「電も、特に問題はないのです」

「悪い、こっちは一発喰らった」

 

 無傷の駆逐艦二人と違い、僅かに破れ、焼け焦げた衣装を纏いながら、木曾は顔を顰めて言う。そんな彼女に北上は、気にするなと手を振って応える。

 

「と言っても小破でしょ? じゃあ問題ないって。というか、謝られても困るし」

 

 むしろ、この結果は上々とすら言えるかもしれない。艦数の等しい相手と戦い、軽巡一人の小破で済んだというのは、今の北上たちの錬度を鑑みれば十分な犠牲だろう。哨戒任務中の接触で、誰一人轟沈することなく敵を撃破しきったのだ。少なくとも提督に怒られるようなことはあるまいと、北上はある種の確信すら覚えながら言う。

 

「大丈夫だと思うけど、周囲警戒を厳にお願い。その間に私は提督と通信しておくから」

 

 皆が頷いたのを確認した後、北上は鎮守府に通信を繋ぐ。よほど気を揉んでいたのだろうか、一秒と経たずに提督の声が聞こえてくる。

 

『私だ。どうなった?』

「全員無事だよ。木曾は小破を喰らっちゃったけど、敵は全員轟沈させた」

『……そうか、よくやった』

 

 一拍遅れて放たれた、提督からの賞賛の言葉。そこから北上は、僅かな喜色を感じ取った。こちらの状態はモニターされている以上、北上の報告の前から状況は分かっていたはずだが、それでも実際に言葉に出されると違うものがあるのだろう。先ほど北上が言葉に出して皆の状態を確認したのと同じく、分かっていても当人から言葉を聞くというのは、思っている以上の安堵を覚えるものである。

 

『ともかく、第一艦隊は急ぎ帰還しろ。往路と同じルートで構わん。万一、があっては貴官らが奮戦した意味が無くなる』

「了解。警戒しつつ急ぎ足で帰るね」

『頼むぞ』

 

 その言葉を最後に、提督との通信が終了する。ふうと息を一つ吐いた後、北上は軽く手を叩く。

 

「はい。じゃあそういうわけだから、これから第一艦隊は鎮守府に戻るよ。旗艦様について来るように、ってね」

 

 言って、北上は鎮守府に向かって航路を取る。その後に僚艦が続いてくる事を確認し、さらにその距離がやや遠めだと分かると、北上は先ほどまでオープン通信ではなく、個別通信を提督に繋げる。

 

「……提督、ちょっといいかな?」

『待て、叢雲達は下がらせる』

 

 小声で話しかけた北上に対し、提督は間髪入れず命令を返してくる。状況から内緒話だと察したのだろうが、それにしても理解と対処が早い。有能だなあ、と半ば他人事のように北上が考えていると、少しして提督の声が彼女の脳裏に響いた。

 

『待たせたな。それで、一体どうした? 内密な話と判断したが』

「まあ、ね。率直に聞くけどさ、提督。今回の私の指揮っぷりはどう思った?」

『戦術面の話か?』

「うん、そう。ちょっと、アドバイスを貰いたいなって」

 

 そう言う北上の表情に、彼女が常に浮かべているのんびりとした色はなく、代わりに分かりやすいほどの苦々しさが統べていた。彼女が陣の先頭を買って出たのも、単に彼女が旗艦であるというのもあるが、万一にもこの表情を誰かに見られたくないというものがあったのだろう。もっとも、彼女がそれを自覚しているかどうかは定かではないが。

 

『そうか。まあ、アドバイスを考え、与えること自体には、私としても拒否する理由は無い』

 

 そんな彼女の表情など見えるはずもないが、その口ぶりから彼女の抱く後悔は読み取れたのだろう。返って来た提督の言葉は真剣で、そして深刻な口調だ。

 

『だが二つ、まず言っておくべき事がある。まず一つは、何故それを他の者に知られないようにしている? さして、知られて困るものでもあるまい』

「うーん、そうだねえ……何というか、切磋琢磨しているって知られたくないから、かな?」

 

 自分のキャラ、というのを北上は理解している。マイペースで、暢気。それが、他者から見られやすい、『北上』という艦娘の特性だ。そこからしてみると、熱心にメモを片手に教授を受ける、というのはあまり合わないように見えるだろう。別に、それを律儀に守ろうというわけではないが、あまり逸脱すると妙な関心も引くだろう。何か、その理由などをしつこく問われるかもしれない。

 

 それは、面倒だ。だから、こそこそとこうして尋ねている。そういうことを含ませた北上の言葉に、通信先の提督からは、小さく頷いたような気配が感じられた。

 

『なるほど、分からないでもない感想だ。その事に関しては納得しよう』

「ありがとう。それで、もう一つってのは?」

『こちらは私の都合だが、もう一つの前提として、私はあまり戦術面に詳しいわけではない』

「え? そうなの?」

 

 提督の言葉に、北上は『意外』という言葉を得る。そんな彼女の反応は織り込み済みだったのだろう。さして大きな反応を見せるでもなく、淡々と提督は続ける。

 

『確かに戦術を極めた提督も他にはいるのだろうが、生憎と私が『提督』となるために学んだことは、どちらかと言えば戦術よりも戦略だ。戦術を学んで貴官らを直接指揮するより、貴官らが十全に戦えるための戦略を学ぶ方が有益だと思ったのでな。どんな状況でも勝てる手段を学ぶより、勝てる状況を作る方がいい、とね』

「だから、戦闘中も丸投げだったの?」

『下手に差し出口を挟むよりは、貴官らの独自判断の方が動きやすいだろう? 他で作戦行動が実行中というならともかく、ただの局地戦ならその場だけで判断したほうが返って楽だろうというのが私の考えだ。そも、小さいとはいえ一つの組織のトップが下の細々とした動きまでコントロールするより、下にそれが出来る人材を当てた方が効率はいいと私は思う』

「言われてみると……」

 

 そうかもしれない、と北上は提督への反応を意外から納得に変更する。今の規模ならともかく、将来的に鎮守府が大きくなっていけば、提督の論の方が良さそうに思えたからだ。それに、提督の言う、勝てる状況を作る、という言葉を北上は気に入った。巧みな用兵こそ華、という考えもあるのだろうが、そもそも相手を凌駕する戦力を持って戦った方がやりやすいに決まっている。その状況こそを作るのが提督の仕事、という考えは、北上の胸の中にストンと入るものであった。

 

「うん、そこは了解した。でも、全く素人って訳じゃないんでしょ? だったら参考意見として話を聞きたいかな」

『そうか。では話すが……そうだな、今回の戦闘において問題となるのは、やはりそれぞれが各個に戦闘を行ったことだろう』

「やっぱり、四対四の方が良かった?」

 

 予想通りの指摘に、北上は眉を顰める。自分でも、そこは駄目だったのではないか、と思っている所であったのだ。

 

『あくまで私見だがな。艦隊同士でぶつかり、応戦。全体として攻撃受け流しつつ、四隻の攻撃を敵一隻に集中。これを達磨落としの様に繰り返し、最終的に撃破、という方が良かったように思える。各個で戦闘を行った場合、一つが終わり次第他の加勢に迎えることになるが、逆を言うと一つの戦いが終わらないと仲間がピンチになろうとも援護が出来ない。今回の木曾の損傷が例と言えば例だ。そういう観点で言えば、あくまで四隻で互いをカバーしながら一点集中の方が良かったのではないか、と思う』

「そっか……まあ、そうだよね」

『とはいえ、これはあくまで理想論。全てが上手く行った場合の話だろう。実際、今の貴官らの錬度ではこれを成せるだけの連携が出来るかと言うと、やや怪しい所があると私は思う。そういう意味では、今回の戦法も悪いものではない』

「そうなの?」

『連携が取れずに足を引っ張り合うよりは、いっそそれぞれが独自に動いた方がやりやすい場合もあるだろう。とはいえ、結局のところ、こちらとあちらの各個の能力差で、こちらに天秤が傾いていたからこそ言えることだが。向こうのほうが優秀な状況で各個戦闘など、むしろ各個撃破されかねん』

「そういう意味では運が良かったってことなのかな。いやまあ、鎮守府近海でそんな強力な個体がポンポン出てこられても困るんだけどさ」

『そうだな。話を戻すが、データを見る限り、今回の戦闘では木曾が率先してホ級に当たりに行ったな?』

「え? うん、そうだよ。俺に任せろって突っ込んで行った」

『そうか……では、あくまで一論ではあるが、真にホ級と当たるべきは木曾ではなく旗艦だった、と私は思う』

「その心は? その場合、提督ならどういう指揮をするの?」

『そうだな、私ならまず、ホ級に対しては同じ軽巡である貴官を当てる。その際、貴官に徹底させるのは遅滞戦闘だ。無理に同格の相手を倒そうとせず、相手の攻撃を受け流し、いなすことに専念させて時間を稼ぐ。その間、木曾にはイ級の一体の急ぎ撃破を命令する。撃破後、今度は他のイ級との戦闘、すなわち響か電のどちらかの加勢に向かわせ、これを更に撃破。そして残ったもう一体も、今度は三隻がかりで倒す。最後に遅滞戦闘を行っていた貴官を援護し、四隻での全力攻撃をもって撃破すると、まあ私ならこういう指揮を執るだろうか』

「ふむふむ……」

 

 そういう手もあるのか、と北上は提督の話す戦術に頷く。提督自身は門外漢と言ったが、北上もまたそれほど戦術面で詳しいわけではないのだ。合っている、いないはともかく、他の考えを知ることは無駄ではないだろう。むしろ、前提自体は北上と同じものであることもあり、こちらの方が良さそうだなとすら北上には思えた。

 

『ホ級に木曾ではなく貴官を当てるのは、それぞれの性格的な問題だ。貴官が消極的と言うわけではないが、こと戦闘においては貴官よりも木曾の方が積極性は高いだろう。切り込み役や遊撃ならともかく、遅滞戦闘という戦い方は木曾と相性が良いとは考え難いものがある。少なくとも、現状では木曾の長所を潰しているだけになりかねん』

「その点、私なら出来るってことね。まあ確かに、能力自体は同等でも、精神的にガンガン行くなら、私よりも木曾の方が向いているかも。マイペースだからね、私は。のらりくらりとするのも、そう難しくはなさそうだ」

『マイペースと言うのは、協調性はどうあれ、自分の軸はあるということだ。それはそれで、悪いことではあるまい。停滞的な行動もあえて取れるというのも、使い所を見極めれば有用と言えるしな』

「そうかなあ。まあ、そう言ってくれると悪い気はしないけれど」

 

 物は言いようだ、と思いつつも、北上は微笑を浮かべる。しかしそれをすぐに振り払い、結局の所、と頭につけて言う。

 

「悪くはないが、失敗したといえば失敗した、って感じなのかな、私の行動は。木曾が出ようとしたとき、私が交代していれば被害は出なかった可能性もある、か」

『でもあるまい。結果的に見れば、小破で済んだのだからな。交代していた場合でも被害が出た可能性は十分にあるし、ともすれば今以上のものとなっていた可能性すらあるのだからな。そもそも、失敗したと言うなら、それは私の方だろう』

「え? 何で提督が失敗したってことになるのさ?」

 

 再確認して落ち込みかけた拍子に述べられた提督の言葉に、北上の表情は後悔から驚愕に変わる。どういうことだろう、と首を傾げる北上に、提督は苦々しそうな口調で続ける。

 

『そもそも、私が艦娘の数を揃えてさえいれば、このような論をしなくいいからだ。六対四であれば、そもそももっと楽だったに違いないし、木曾も損傷を受けずに済んだ可能性が高い。そういう意味では、数を揃えるという最低限の戦略も全う出来ていない私にこそ非があるだろう。貴官らと朝食の場で人員不足を語った日から、既に数日と経っている。にも関わらずこの体たらくだ、責任を取るならまず私だな』

「それは……そりゃ、さっきの提督の論から言えばそうなんだろうけどさ。私としては、提督がそこで責任を感じる必要はないと思う。開発失敗もドロップなしも確率の問題だし、開発資材が回ってこないのは上の都合でしょ? 結局は運みたいなもんなんだから、提督がどうこうと気を病む必要はないと思うな」

 

 自嘲するように言う提督に、北上は思わず否定の言葉を投げた。提督が努力を怠った末の人員不足なら、確かに提督の責任なのだろう。しかし、現状を導いたのは不運によるものだ。むしろ彼は自分の出来る範囲内で人員を増やし、さらにそれを最大限活用できるように動いている。鎮守府に艦娘を二人待機させているのも、予備戦力として活用や疲労抜きが目的であるはずだ。出来る事をやっているにも関わらず、それ以上を望むのはむしろやりすぎだとすら北上には思えた。

 

「私が言うことでもないんだろうけど、ここはどっちも悪いでいいんじゃない? 私は戦術で少しミスったし、提督は戦略でちょっと運が逃げた。それでいいじゃん」

『あまり、そういうなあなあな結論は好きではないんだが…………ここは受け入れておこうか――ありがとう、北上』

「へ……?」

 

 提督から礼を言われた。しかも、この上なく純朴でシンプルな文言で。そのことは何故か酷く意外に思えて、北上は間抜けな声を漏らしてしまう。礼をも言わぬ冷血漢、と思っていたわけでは当然ないのだが、常に冷静な態度を取っている提督が素直な感情を吐露してきた、というのが本当に意外であったのだ。

 

『なんだ? 私が感謝を示すのはそんなに不思議か?』

「いや、何と言ったらいいのか、その……」

『まあいい。とにかく、悪かったと思うなら、次はないと貴官なりに頑張ればいい。私も、数日内にどうにか出来るようにしておく…………では、帰還後、改めて報告を行うように。以上、通信を終了する』

 

 その言葉と共に、再度提督との通信が途切れた。怒ったため、というわけではないのだろうが、切り際の会話が会話だっただけに、北上は何とも微妙な表情を浮かべる。

 

「やっちゃった……ってことはないんだろうけど、うーん…………」

 

 弱ったなあ、と北上は腕を組んで唸る。鎮守府に戻った時のことを考えると、どうにも困ったことになった、と思ったからである。無論、それは提督の反応という意味ではない。今までの言動と最後の応対を考えると、さして大きな反応を彼が見せることは無いだろう。内心はどうあれ、表立って非難されたり、逆贔屓されたりということはまずあるまい。いや、最後にアドバイスじみた言葉を投げられた事を見るに、提督が本心から気にしていない可能性のほうが高いとも見れる。

 

 だから、ここで問題なのは、北上の側の反応であるのだ。つまり、下手なことをしてしまった当人としては、相手とどうやって自然な会話を交わせばいいのかだろうか、と考えてしまうのである。変な演技は不自然になるだろうし、かといって本心から気にしないと思えるほど北上の面の皮は厚くない。どうしたものか、と北上は小さく嘆息する。

 

「どうしたんだ、北上姉?」

「え? ああ、うん、何でもないよ?」

 

 悩む北上の雰囲気を感じ取ったのか、背後に続いていた木曾が不意に声をかけてきた。話すとむしろこじれそうだと判断し、北上は咄嗟に別の話題を口に出す。

 

「そういえば木曾、傷は大丈夫? データ上は問題ないと言っても、実際はまた違うんじゃない?」

「ん? ああ、まあちょっと痛むは痛むが、たいしたことはねえ。むしろまあ、割と満足しているな、今は」

「満足?」

「久々の戦闘だったってことだよ。天龍や叢雲には悪いが、久しぶりに暴れられてスカッとしたぜ。平和が一番は一番だが、やっぱり俺らは艦娘だからかな。深海棲艦相手に戦うのはまあ、使命だとか本能みたいなもんだから、それが満たされたって言うか」

「ああ、そういう」

 

 確かに、と北上は木曾の言葉に同意する。程度の違いはあれ、似たような感覚を北上もまた抱いていたからだ。心の中にある闘争心か、闘争欲か、あるいはそれに類似した何か。それらが満たされ、自然な形で自身の中に納まっている。そういう感覚であった。

 

「まあ戦いというか、経験を積めるってのは艦娘にとって悪いことじゃないしねえ。戦えば錬度も上がるし、錬度が上がればそのうち改造も出来るからさらに強くなれる」

「それを段々と繰り返していけば、初期じゃ倒せないような相手も打ち倒せる、と。それがまあ、艦娘なりの成長って奴になるのか」

「分かっていると思うけれど、だからと言って無茶は止めてよ? 勝っても沈んじゃ意味ないんだからさ」

「分かっているって。俺だってむざむざ沈む気はねえよ――って、今回小破した俺が言っても説得力は微妙か」

「小破した上でそう思っているならいいんじゃない。その場しのぎならともかく、木曾なりに反省した上での言葉ならさ」

「そうかな」

「そうだと思うよ。提督も木曾の積極性は評価しているみたいだし、長所を殺しすぎるのも駄目っしょ。木曾は木曾で、アンタらしく頑張ればいいさ」

「提督が……そうか。じゃあ、俺なりに頑張るとしようかね。決して沈まず、生還し、それでいて勝つ。提督の言葉を守りつつ、俺自身の満足も追及していくために」

 

 そんな目標らしき言葉を、木曾は勝気な笑みと共に延べた。『提督』という言葉を出した途端の、前向きさに満ちた言葉と表情。どうやら彼女の中で、提督の存在は中々のウェイトを占めているらしい。まだ半月と経っていない程度の付き合いに反しての態度に、提督の人心把握力は侮れぬものがあると、北上は木曾の全てからそれを感じ取る。

 

「……それは私も同じか」

 

 ふと呟き、北上はその口角を僅かに上げる。木曾に対しての感想が、そのまま自身にも返ってくると気付いたからだ。でもなければ、わざわざ提督に助言を求めたり、その言葉で一喜一憂したり、その後の対応で気を揉んだりするはずもない。どういう形であれ、北上もまた提督に心を掴まれかけているようであった。

 

「そうだね、うん。私も、私なりに頑張ろうっと。『提督』も言っていたしね」

 

 まずは、旗艦として間違った判断を下さないように。当面の目標を胸に刻み、北上はその視線を改めて前方――その先にある鎮守府へと向ける。帰る場所を見据える彼女の横顔には、もはや提督への気まずさは感じられず、ただ道を定めたことによる喜色のみがあった。

 

 

 








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