勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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其ノ終 さらば勇者一行、また逢う日まで……
旅ノ終


 

メレブが気が付くとそこは暗闇だった。

 

「……はい?」

 

魔王を倒してキレイな朝日を見ていた次の瞬間、いきなり暗闇の世界

 

突然の出来事に困惑しつつ周りを見渡すも、、何処を見ても周りは何も見えなかった

  

「おいちょっと待て、コレ、なんか凄いデジャヴ、デジャヴーを感じるぞ?」

 

一度異世界に渡る時にこんな空間に飛ばされた気がする。

 

メレブがふと思い出しながら眉間をしわ寄せていると、ふと足元にコツンと何かが当たった。

 

「あ!」

 

「そう、お前の可愛がっていたスズメは既にここにはいない、私が食べてしまったのだから、美味しく丸ごとこんがり焼いて食べてしまったのだから」

 

勇者・ヨシヒコである。

 

ヨシヒコはまたカッと大きく目を見開きながらブツブツとうわ言の様に呟いている。どうやら寝ているらしい……

 

「だが私は謝らない、何故なら私は故意にお前のスズメを食べたのではない、あくまでスズメの方から食べて欲しいと願って来たからだ、故に私はその頼みを無下に断ることが出来ず、気が付いたら最寄りの店で塩と鉄網を購入していたのだ」

 

「……まさかあの時の寝言の続きを、最終回で聞ける事になるとは誰が予想出来たであろう……」

 

長々と呪文の様に意味不明な事を呟き続けるヨシヒコをしばし見つめた後、メレブは軽く彼の頬をひっぱ叩く。

 

「おいヨシヒコ、起きろヨシヒコ、てかなんで寝てんのよヨシヒコ」

 

「ああそうだ嘘だ、全くの嘘だ、本当はお前がいない隙を狙って日頃から食べようと狙っていたのさ、思い知ったか、フハハ……ぐわ!」

 

「うわ、なんか変な目覚め方した、え? ひょっとしてスズメの飼い主に刺された?」

 

寝言の内容がややシリアスな所になった所でヨシヒコが目をカッと見開いてバッと飛び上がる様に上体を起こした。

 

「あれ? おはようございますメレブさん……」

 

「ああうんおはよう、そしてもっと周りを見てみんさい、パート2」

 

「……なんか暗いですね、こういうの前にもありませんでしたっけ?」

 

「いや俺もさっき起きたばかりだからよくわかんないけどさ……やっぱり“アレ”の仕業でしょうなー」

 

「アレ?」

 

がっつり心当たりがあるので確信しながら頷くメレブ

 

ヨシヒコもうっすらと予感しつつ、ゆっくりと立ち上がろうとすると……

 

 

 

 

 

勇者ヨシヒコ! 勇者ヨシヒコーッ!

 

「! 今のは……!」

「だよねー、やっぱアイツだよねー」

 

頭上から聞こえる大きな声が二人の目をより覚まさせる。

 

聞き慣れたその声にヨシヒコがすかさず反応するとメレブもめんどくさそうに立ち上がりながら顔を上げた。

 

ヨシヒコー! ヨシヒコー!!

 

「いやだからもう聞こえてんだよ! さっさと姿現せって!」

 

ヨシヒコ!? おいヨシヒコ!? ヨシヒコ~ん!! ちょっと返事してよ~~ん!!

 

「ウゼェ、徐々にテンションが上がってマジ腹立つなぁ……いいからもうさっさと出て来いって!」

 

最初は威厳ある声付きであったのに徐々に悪ノリで叫んでる様な調子に

 

眉間にしわを寄せながらメレブはもういい加減にしろと叫ぼうとしたその時

 

 

ガチャッと足元から音がしたと思いきや、真っ黒な空間からヒョイッとブツブツ頭が現れた。

 

「さっきからずっと下から呼んでんだろうが! さっさと気付けよバカヤロー!!」

「うお! え!? 今度は下から!?」

「仏!」

 

急に足下から床下の扉みたいなところから現れた人物に、メレブとヨシヒコはビックリして見下ろす。

 

その人物こそ、案の定、仏である。

 

「ったく2度目なんだから学習しろよ、ずっと下から呼んでたじゃんよ~」

 

「いやだから、本当になんなのこの空間? ドラマのセットみたいな作りなの? 急ごしらえで作った空間なのここ?」

 

「あーもういいや、とりあえず今から話するからちゃんと聞いて、ね?」

 

「調子狂うな全く……」

 

足下を指差しながらすぐ様抗議しようとするメレブに、はいはいといった感じで床下から出て来ながら適当に流す仏。

 

少々ムカつきながらもメレブは渋々従うと、改めてこちらと対峙した仏に、最初にヨシヒコが尋ねる。

 

「仏、私の記憶が正しければ、仲間と力を合わせ無事に魔王を倒した筈なのですが?」

 

「その通りだヨシヒコ、お前は異世界で古き仲間、そして新しき仲間と共に魔王の中の魔王、竜王を倒したのだ」

 

「ではどうして私とメレブさんはこんな所に……」

 

「そうだよ、魔王倒したら目の前に仏が出てくるって、チョー最悪なんだけど」

 

「おいホクロ、仏が出て来てチョー最悪って、よくもまあ本人目の前にして言えたなコノヤロー」

 

ヨシヒコとの会話の途中で口を挟んで来るメレブを軽く睨んで舌打ちすると、仏は再度口を開く。

 

「えーヨシヒコよく聞きなさい、実を言うとこの空間にはお前達だけではありません、他の者達もこっちに連れて来ました」

 

「本当ですか!? しかしどこにも見えませんが……」

 

「時間的に、そろそろ私の後輩が連れて来る頃合いだと思います、はい」

 

「後輩に手伝わせてるのかよ、相変わらず適当な仏だなー」

 

どうやらヨシヒコとメレブ以外にも仲間達がこの空間にいるらしい。

 

そして仏が「ちょっと待っててね」と軽く手を上げてしばらく待っていると……

 

「やっと見つけた! ほら先輩! ヨシヒコさん達と仏先輩がいましたよ!」

「あ! ようやく見つけたわよアンタ達!」

「女神! そしてもう一人の女神まで!?」

 

ふと甲高い声が飛んで来たと思い振り返ると、そこには幸運の女神に案内されてここまで来たと思われるアクアが現れた。

 

会って早々不機嫌な様子で彼女がこちらに歩み寄って来ると、その後ろからカズマと、彼に肩を貸してもらってフラフラと歩いているめぐみんもいた。

 

「ハァ~魔王を倒したと思ったらいきなり真っ暗な空間に閉じ込められてビビったぜ~まあエリス様に出会えたから万々歳だけど」

 

「一体全体どうなってんですか? 魔王を倒した筈なのに世界は滅んでしまったんですか?」

 

二人の方は見知らぬ空間に飛ばされた事でまだ頭が混乱しているみたいだ。

 

更に底へブツブツ頭のやたらと顔のデカい男が、ニコニコしながらこちらに手を振っている事に、二人揃って怪訝な表情を浮かべている。

 

「……鎌倉の大仏?」

 

「なんか、胡散臭そうな人が出てきましたね、もしかして裏ボスって奴でしょうか?」

 

「あ、そうか。カズマとめぐみんはコイツの事知らないのよね」

 

初めて見る仏の姿に各々感想を呟いていると、アクアは堂々と仏を指差すと

 

「コイツが仏よ、事あるごとに私達の目の前に現れて無駄話ばかりするしょうもない神なの」

 

「どうもー仏でーす! いやしょうもないってなんだよ、もっと気の利いた紹介できねぇのかよアホ(笑)」

 

「アホ(笑)ってなによ! せめて女神(笑)にしてよ!」

 

「(笑)の部分はいいんか~い」

 

ノリツッコミをしながら間近で対面できたアクアに対し早速口喧嘩を始める仏だが、そこへエリスが恐る恐る近づいて

 

「あの、仏先輩、皆さん揃ったのですからそろそろ説明を……」

「いやまだ全員揃ってないでしょうが、ヨシヒコの仲間はこれだけじゃないでしょうが」

「え?」

 

何やら仏から重大なお知らせでもあるらしい、すると仏は喉の奥から力強い声で

 

「ナナナナーン!!!」

 

いきなり変な声を上げる仏にヨシヒコ達だけでなくエリスも驚いてると、次の瞬間

 

ボンッ! ヨシヒコ達の近くに白い煙が放たれると

 

「あ! ダクネスだわ!」

「おっさんもだ! そうか仏、生き返らせたのか!」

「ムラサキさんもいます!」

 

そこから死んでしまった筈のダンジョー、ダクネス、ムラサキの姿が現れたのだ。

 

三人は目を開いてキョロキョロと辺りを見渡して、ざわめく周りを見ながら状況がわからず困惑している様子。

 

「もしや俺達は……生き返ったのか?」

「そうだと思うが……ここは一体」

「は? てかなんで仏の奴が普通にいんの?」

 

各々どういう事なのかと首を傾げる三人に、ヨシヒコ達は心から彼等の帰還を歓迎する。

 

「全く、せっかく私がみんなを蘇生して恩を貰おうとしていたのに……」

 

「お前はヨシヒコとカズマ君に支援魔法使いまくったから魔力ほぼ空だけどな」

 

「でも本当に良かったです、死んでしまった時は流石に柄にもなく泣きそうになったんですからねこっちは……」

 

ちょっとだけガッカリするアクアにメレブが冷ややかにツッコミを入れる中でめぐみんは安どの表情を浮かべた後小さく微笑んだ。

 

そしてヨシヒコとカズマもまた彼等が生き返ってくれた事に安心した様子で

 

「皆さんのおかげで魔王を無事に倒せました、ありがとうございます」

 

「後始末は俺達がやっておいたから、まあ俺の武勇伝は宴会の時にでもゆっくり聞かせてやるぜ」

 

「フ、俺はちゃんと信じていたぞヨシヒコ、それにカズマ、よくやったなお前達」

 

「あのヘタレなカズマが魔王を相手にどんなに必死になっていたのかを見れなかったのは残念だが、それは後でめぐみんにでも聞いておくことにしよう」

 

「いやまあ私もヨシヒコ達が魔王を倒してくれたんならそれでいいけど……だからなんで仏がここにいんの? それと……」

 

ヨシヒコとカズマの肩に手を置いてそれぞれに賛辞を贈るダンジョーに、その隣で土産話を期待するダクネス。

 

そしてまだ仏がいる事に疑問を持つムラサキは、ふと彼だけでなく一人の少女がいる事に……

 

「あれ? もしかして……クリスちゃん?」

 

「ぶ! ち、違います! 私はエリスです! 幸運の女神のエリス! クリスなんて名前でもお節介焼きの盗賊でもありません!」

 

「いやいや、絶対クリスちゃんでしょ? どうしたのその恰好? え、もしかしてクリスちゃんの正体って……」

 

「わーわー!! それ以上はダメですムラサキさん! とにかく私の事については追及しないで下さい!!」

 

すると一目見ただけで、ムラサキはエリスがどこぞの盗賊と似ている事に気付いた。

 

目を細めてこちらに歩み寄りながら追及して来た彼女に、エリスは慌てて両手を振りながら制止。

 

そして誤魔化すようにコホンとわざとらしい咳をすると、隣に立っている仏の方に振り返って

 

「そ、それでは仏先輩! 皆さん揃いましたのでそろそろ仏先輩の口から説明を!」

 

「な! なんという事だ! エリス様がこんな間近に現れている事に今気気付いたぞ私は!」

 

「あ、パッドバズーカの人だ、ブフッ!」

 

「ん? メレブさん、パッドバズーカって何ですか?」

 

「あーもう皆さんいいから少し黙っていてください! 話が全然進みませんから! メレブさんに至っては一生黙ってください!」

 

「なんで!? なんか俺だけ厳しくね!?」

 

自分の方に注目集まり、ダクネスが仰天し、メレブが余計な事を呟き、めぐみんが彼の言葉に興味を持ったりと、全く話を聞く態勢に入らない一同を一喝して黙らせると、エリスはテキパキと話を進めていく。

 

「はいそれじゃあ仏先輩どうぞ!」

 

「えーとですね、とりあえずもう一度改めまして、仏から言わせてもらいます」

 

半ば無理矢理に彼女が話題を振ると、仏は一同を見渡しながら改めて話を始める

 

「元はと言えば私のミスでね、こちらに逃がしてしまった竜王を、皆さんが協力してなんとか倒してくれたのでね。私からマジで、超マジでありがとう、という感謝の言葉を贈りたいと思います」

 

「は? 感謝の言葉だけって冗談でしょ? そんなんじゃ誠意は届かないんですけど?」

 

「物を寄越せ物を、もしくは現ナマで」

 

「あーそこの二人、黙ってろ」

 

話しをしてる途中で、しかめっ面を浮かべるアクアとメレブからの抗議を受けるが、仏は軽くスルーして話を続ける。

 

「あー皆さんがいなかったら、我々の世界だけでなくね? この世界も、闇に? 沈んでいた事でしょうよ」

 

「他人事に言ってるけどそれ、お前が竜王をまんまとこの世界に逃がしたからだろ」

 

「ムラサキさんの言ってる通りですね、私達のパーティーが一時的とはいえ崩壊してしまった件は、元はと言えばあなたの過失が原因だと思うのですが?」

 

「はい、そこの二人もちょっち、ちょっち黙ってろ」

 

今度はムラサキとめぐみんも冷たい目で避難して来るので、仏は無理矢理黙らせた。

 

「えーしかし、魔王は無事にヨシヒコとその愉快な仲間達が倒してくれました、という事でそのね、言いにくいんだけどさ……この世界でのヨシヒコ、ダンジョー、ムラサキ、メレブの役目はもう無いという事です、はい」

 

「仏? それはつまりどういう……」

 

「元々こちら側の世界の者ではないヨシヒコ達は、お役御免という形で私が連れ帰るという事だ」

 

「てことはもう私達はここの世界には……」

 

「まぁ特に理由が無い限り、二度と戻って来る事は……ぶいっくしゅん! 無いであろう」

 

「おい、大事な所でクシャミするな……」

 

仏が皆をここに集まらせたのはそういった理由があったからだ。

 

魔王は倒され、ヨシヒコ達がここにいる必要はもうない。

 

故に仏にとって、ここで皆に感謝の言葉を贈るだけでなく、ヨシヒコ達を連れて帰る事こそ本当の目的なのだ。

 

それを聞いてヨシヒコはショックを受けた様子で、静かに首を横に振る。

 

「なんて事だ……魔王を倒した直後にこうもあっさり皆さんとお別れになるとは……」

 

「ヨシヒコよ、これもまた勇者の宿命だ、やるべき事を終えたら静かに去る。お前もよくわかっているだろう」

 

「確かに、ダンジョーさんの言う通りですが……」

 

寂しそうに呟くヨシヒコに年長者らしく諭すダンジョー。

 

それに納得しつつも、せめてキチンとお別れをしたかったとヨシヒコの表情からは見て取れる。

 

「……」

 

その表情を見てアクアが見守る様に静かに見つめていると、めぐみんやダクネスが仏に対して異議を唱え始めた。

 

「流石にいきなり過ぎるんじゃないですか? お別れするのは仕方ないですが、もうちょっとここでゆっくりしてもいいじゃないですか」

 

「ああ、せめて魔王を倒したのを祝して、街のみんなと宴でもしてからとか」

 

「いやあのね、ヨシヒコ達と別れるのが寂しいと言ってくれるのは嬉しいんだけど、仏にも色々と事情があるんですよそこん所は、お別れ会とか街のみんなに挨拶とかそういうのさせたいんだけれども……無理、ごめん、ホントこっちもこっちでヤバいから」

 

二人が口を揃えてしばらくゆっくりしてからでも良いではないかと言うが、仏は申し訳なさそうに両手を合わせながらそれは出来ないと首を横に振る。

 

「こちらでヨシヒコ達をお邪魔させて色々な事に首突っ込ませちゃったけども、そもそもこの世界の物語は、君達が進めるモノじゃない? だからこれ以上ヨシヒコ達がこの世界にいちゃいけないの、これからは君達だけで、君達だけの物語を続けて欲しいのよ?」

 

「俺達の物語ね……ま、正直俺としてはこのまま勇者様達に、元々こっちの世界にいる魔王も倒して欲しい気もあるにはあるんだが」

 

 

手を動かす動作をしながら一生懸命訴えて来る仏に対し、カズマは眉間にしわを寄せながらも渋々納得した様子で頷いた。

 

「それでもアンタ等にはアンタ等の物語もあるんだよな、どうせこれからもアンタ達の事だし冒険を続けていくんだろ? だったらもう用は済んだこの世界に入る必要はないんだし、引き留めはしねぇよ」

 

「全く冷たいですねカズマは、そんなあっさりと皆さんにお別れしていいんですか? もう二度と会えなくなるかもしれないのに」

 

「いいんだよ、こっちが未練がましくいたら向こうも帰り辛くなろうだろうが。こういう時はあっさりと「お疲れさん」の一言で済ませておけばいいんだよ、今生の別れになるとは限らないだろ?」

 

「なるほど……」

 

あっけらかんとした感じでそう答えながら、照れ臭いのを誤魔化す為に、ため息をついて後頭部を掻くカズマ

 

 

 

彼の言葉を聞いてめぐみんもしばしの間を置いた後、ゆっくりと頷く。

 

「そうですね、それでは一旦お別れという事にしましょうか、ヨシヒコさん、それとダンジョーさんとムラサキさん、お世話になりました」

 

「おい娘、今大事な人が抜けていたのではないか? お前にとって師と呼ぶべき存在が、マスターメレブがここにいるぞ?」

 

「あ、メレブさんとは二度と会えなくても全然構わないので」

 

「最後までムカつくなぁコイツ……ぜってぇいつか会いに来てやる」

 

他の三人にはキチンと頭を下げたのに、自分にだけは蔑んだ目を向けるめぐみんにメレブが頬をピクピク動かしながらちょっとキレかかっていると

 

 

 

ダクネスもまた「そうだな……」と呟き、納得した様子でヨシヒコ達の方へと顔を上げる。

 

「これからはもうお前達に頼らず、私達でどうにかしなければいけないのだからな……」

 

「フフ、その為には攻撃ぐらいまともに当てられるようにならんとな」

 

「言われるまでも無い、次に会った時には片方だけでなく両方のもみあげを斬り落としてみせよう」

 

「ハッハッハ! そいつは楽しみだな! ま、期待しないで待ってやる!」

 

こちらからの皮肉に負けじと言葉を返してきたダクネスに、ダンジョーは豪快に笑い声を上げる。

 

次に会う時は敵同士ではなく友として戦ってやろうと内心思いながら

 

 

 

そしてカズマの方もまた、「あ~」と言い辛そうにしながらムラサキの方へ軽く手を上げて

 

「アンタとダンジョーさんには色々と世話になったな、あんがとさん」

 

「カズマお前もさ、他の仲間、特にめぐみんちゃんの事をしっかり守ってあげるぐらいには成長しろよ?」

 

「は? いきなりなんなんだよ? あの爆裂娘が人に守られるタマかよ。むしろ俺が守られたいぐらいだわ」

 

「か~、ホントダメダメだなお前、やっぱもうちょっとお前に色々言ってやりたいから残りたいわ私」

 

すっとぼけた事を抜かすとことん女性の事をわかっていないカズマに、ムラサキはあからさまに呆れた調子で声を上げて嘆くのであった。

 

 

 

「ねぇヨシヒコ、ちょっとみんなから離れた所で、私の話を聞いてくれない?」

「はい、なんでしょうか……」

 

ふいにアクアからそう言われて、ちょっとブルーになっていたヨシヒコは素直に従うと

 

仲間達から少し距離を取って二人きりで顔を合わせるヨシヒコとアクア。

 

すると最初にアクアの方から口を開き

 

「フフーン、私にはわかるわよヨシヒコ、アンタの事だからどうせ私達と別れるのが寂しいんでしょ? 特にこの水の女神たるアクア様に」

 

「はい、その通りです……勇者として私はここを去らなければいけないのはわかっているんですが……長く苦楽を共にした皆さん達ともう会えなくなるかもしれないと思うと……やはり寂しいです」

 

「アンタってば本当に素直なんだから……では勇者ヨシヒコ、私の話をよく聞きなさい」

 

「はい?」

 

目の前で本音を素直に吐露するヨシヒコに、アクアは思わずフッと笑ってしまうと急に改まった様子で、両手を会わせ祈る様な仕草をすると、目を瞑って耳ではなく心に語りかけるように

 

「あなたには私達と別れた後もきっと多くの壁が待ち構えているでしょう、時にはその壁の前で立ち止まったり逃げ出したりするかもしれません、しかし忘れないで下さい、どんな苦境に立たされようと、水の女神のアクアがあなたをずっと見守っているという事を」

 

「女神……」

 

「道は別れてしまっても、私はいつもあなたを見ています、私はあなたの心の中で生き続け、あなたがどんな道を歩もうとも応援します、だから恐れずに進みなさい、この素晴らしい水の女神に祝福されし、伝説の勇者・ヨシヒコよ」

 

「……ありがとうございます、やはりあなたは女神です、迷っていた私の気持ちを一瞬で晴らしてくれました」

 

女神として、仲間として、そして大切な存在として、これから先のヨシヒコの人生を応援すると言ってくれたアクアに

 

ようやくヨシヒコも踏ん切りがついたかのように小さく微笑み、強く縦に頷いた。

 

「女神、名残惜しいですがここでお別れです」

 

「そうね、実の所私も寂しいわ、私の言う事素直に聞いてくれるのアンタぐらいだし」

 

「心配ありません、女神ならきっと大丈夫ですよ」

 

「当然よ、だって私だもの、ま、アンタの方はちゃんと気張って頑張りなさい」

 

「はい!」

 

迷いが晴れたヨシヒコは力強く叫んだ後、アクアと共に再び仲間の下へ

 

「お待たせしました皆さん、帰りましょう。私達の世界に」

 

「うむ、俺達がここでやるべき事は終わった」

 

「この世界の事はコイツ等に任せる事にしよう、あの店に行けなくなるというのはちと心残りだが……」

 

「よしそれじゃあ、仏の奴に連れてってもらうとしますかねー」

 

ヨシヒコ達は各々呟いて、帰るべき場所に帰る事を決めると、カズマ達の方へ振り返り

 

「カズマ、これからはお前がこの世界の勇者だ、魔王を倒す為に頑張りなさい」

 

「うわ、最後の最後にめんどくさいモンを押し付けんなよな……あーとりあえずベストは尽くします、はい」

 

ヨシヒコの言葉に後頭部を掻きながら、けだるそうに頷くカズマ

 

「めぐみん、さっさとこの俺に到達する程の凄い魔法使いになるのだぞ」

 

「とうの昔にあなた程度超えています、そういうセリフは私以上に爆裂魔法を使いこなしてから言いなさい」

 

メレブの言葉に、お約束なノリで真っ向から否定しつつも、表情は若干和らいでいるめぐみん

 

「ダクネス、お前とはいずれ完全に決着を着けてやる、その時を楽しみにしているぞ」

 

「ああ、せいぜいその自慢のもみあげを伸ばして待っているがいいさ、約束通り斬り落としてやる」

 

ダンジョーの言葉に、いずれ再会する事を願いながら、その時までには自分も立派な聖騎士になろうと心に誓うダクネス。

 

「特にお前に言う事無いや、パス」

「なんでよー!」

 

ムラサキの言葉に、泣くアクア。

 

一同それぞれ別れの言葉を終えた後、それを終始見つめていた仏は満足そうに頷いて

 

「んーいいね、こういうの、青春してるなみんな、でももう尺が残ってないんで、巻いてさっさと行こうか」

 

「仏先輩、尺とか言わないで下さい……」

 

ここに来て空気の読めない発言をする仏にエリスがジト目でツッコミを入れた後、仏はもう一度一同を見渡して

 

「それじゃあもう私達は行くんで、この世界の事はそちらにお任せします、えー頑張ってください、以上」

 

「皆さん、本当にお世話になりました」

 

「寝る前は歯ぁ磨けよー」

 

「困った時はいつでも呼んでくれ」

 

「あばよみんな、またどっかで会おうぜー」

 

去る間際にヨシヒコ達が皆に手を振りながら言葉を送ると、仏はタイミングを見計らって軽く息を吸って

 

 

 

 

「ルーラー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

突然眩しい光が降り注いだので思わずカズマ達が目をつぶった。

 

そしてしばしの間を置いてもう一度開けるとそこは

 

「あり? ここって魔王の城じゃんかよ」

「てことは元の場所に戻って来た、という事だな」

 

こちらに笑顔を浮かべながら手を振るヨシヒコ達はもういない。エリスの姿も

 

どうやらカズマ達は仏の呪文で無事にこっちに戻ってこられた様だ。

 

「ハァ~ようやく終わったんだな……」

「ああ、魔王は倒した、とりあえずこれで一件落着だ」

 

 

ダクネスが家主のいなくなった廃墟を見渡しながらそう答えていると、カズマはふと足元に目をやる

 

そこには竜王を倒す時に使った聖剣・エクスカリヴァーンが転がっていた、しかし根っこからポッキリと折れていてもう使い物にならない。

 

「あー折れちまったのかこの剣……コイツがあればこの後も楽になると思ったのに……」

 

「相変わらず楽な方にばかり突っ走りたがるなお前は……」

 

「まあいいや、今日はもう色々あって疲れちまった、さっさとアクセルの街に戻って……あ」

 

伝説の剣が使えなくなったことにちょっとガッカリしつつも、今はこの体にある疲労感をどうにかしたいと思うカズマだったが

 

ふと大事な事を思い出して頬を引きつらせた。

 

「そういや俺、帰ってきたら覚えてろって言われてたんだわ……」

 

「きっとアクセルに戻ったらすぐに袋叩きになるでしょうね、さようならカズマ」

 

「お前だって共犯だろうが! 道連れにしてやる!」

 

「私は間抜けなカズマと違って魔王の味方のフリです、善意でやった事ですしきっと街のみんなも許してくれるでしょう」

 

アクセルの冒険者に助けられた時に、こちらを睨み付けていた彼等の表情を思い出しブルッと震えるカズマ。

 

それに他人事の様子でめぐみんが呟いていると、そこへアクアが「あーあ」とやけにテンション低めな様子で歩み寄って来た。

 

「ヨシヒコ達は今頃元の世界に帰れたのかしらねぇ……」

 

「なんならお前もあっち側に行ってても良かったんだぞ、お前、あの勇者様と仲良かったみたいだし」

 

「そういう訳には行かないわよ、ヨシヒコにはヨシヒコの、私には私の成すべき事があるんだから」

 

出来ればヨシヒコ達と一緒にどっか行ってほしかったと目で訴えるカズマに、アクアは胸を張って自分に言い聞かせるようにうんうんと頷き始める。

 

「私達はこっちの世界に元々いる魔王を倒す使命があるんだから、その使命をクリアすれば私も晴れて天界に戻れるんだし、そん時が来たら仏が管理している世界にお邪魔するのも悪くないわね」

 

「そんなのいつになるかわかんねぇぞ、あの連中がいない今の状態の俺達じゃ、どう足掻いても魔王なんてもう倒せる訳……」

 

いずれこっちから向こうの世界に出向こうと決めるアクアに対し、カズマは現実的にそれを今すぐ実行するのは到底無理だとハッキリと言い聞かせてやろうとしていると……

 

 

 

 

「兄様! 何処に行かれたんですか兄様!」

「へ?」

 

そこへ颯爽と現れたのは

 

まさかのヨシヒコの妹・ヒサであった。

 

どうやら彼女だけこの世界に置いてけぼりにされてしまったらしく、屈強な仲間達をゾロゾロと連れながら途方に暮れている様子。

 

「魔王の姿はもうどこにもない……という事はもしや! 兄様はもう別の魔王を倒しに行かれたのでは!?」

 

「あ、ヒサさん! それなら俺ちょっと心当たりありますよ! 元々魔王軍の幹部でしたから俺!」

 

自分達より圧倒的に桁違いな強さを誇るヒサ―パーティーが歩いてるのをカズマ達が無言で眺めている中

 

ヒサと最も付き合いの長い首なし騎士のベルディアが意気揚々と話しかけている。

 

「ヒサさんが行きたいのであれば当然案内します!」

 

「い、いいんですかベルディアさん……? その魔王ってベルディアさん達の上司なんでしょ……?」

 

「気にしなくていいわよ、今の私達にとっては魔王なんかよりも彼女について行った方が楽しいし」

 

自ら案内役を買って出るベルディアに恐る恐る呟くゆんゆんだが、そこに口を挟んで問題ないと断言するシルビア。

 

「う、うわぁ~なんか大変な事になっちゃってませんか? このままだと私達、魔王さんの城に襲撃するみたいな……」

 

「ハハハハ、良いではないかウィズ! こうなったらあの小娘に散々振り回されてやろうではないか! コレから一体どうなるのか、我輩はそれを是非見てみたい!」

 

「ピキー! ヒサさんの為なら魔王なんて粉砕! 玉砕! 大喝采!だピキー!」

 

主君を裏切る形になる事に焦るウィズを笑い飛ばすバニル、ハンスに至っては既に魔王を殺る気満々だ。

 

「はぁ、魔王軍の幹部が総出で裏切ったなんて知ったら、魔王はどうするのかしらね……」

 

「その時はヒサ教に入団させるわ、捕まえた魔王にあたしが徹底的にヒサ様の素晴らしさを説いてあげれば一発入信よ!! 待ってなさい魔王!!」

 

「魔王を倒せば王都も平和になります、だったら王族である私も魔王討伐に参加する義務がありますね、つまりこれからもお姉様とご一緒に戦えるという事ですね!」

 

軽く心配しつつもとりあえずついて行く事にするウォルバクと、魔王さえも入信させてみせようと邪悪な笑みを浮かべるセレナ、そして今だ王都に帰るつもりも無く、更にはヒサと一緒に魔王討伐に出向こうとするアイリス。

 

「「「「……」」」」

 

彼女達の行進を無言で眺めながらカズマ達は固まっていると、列の最後尾であるスズキがヒョコッとこちらの横を通り過ぎて

 

「あ、お疲れ様でーす。んじゃ僕等、もう一人の魔王倒しに行きますんで」

 

そう言って軽く会釈すると、ヒサ達と共に何処へと去って行ってしまった。

 

残された一同は彼等の頼もしい背中を見送った後、しばらくしてカズマが静かな口調で

 

 

 

 

「どうやら”そん時”はそう遠くないみたいだな……」

「そうみたいですね……」

「そうだな……」

「そうね……」

 

彼の呟きに誰も異議を唱える者はいなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

こうして勇者ヨシヒコの異世界での物語は幕を閉じた。

 

彼等の活躍によって無事に世界の混乱は防がれ、一時の脅威は去ったのである

 

しかし彼等はこの時知る由も無かった。

 

彼等の異世界の物語はまだ終わっておらず、むしろここからが始まりなのだという事に……

 

 

 

 

 

 

とか言っておけば、もしかしたらいずれ別のシリーズとして復活するんじゃないかと思ったので

 

とりあえず言ってみたのであった。

 

 

 




これにて勇者ヨシヒコと魔王カズマは完結でございます。

最後まで読んで下さった読者の皆様、そして感想を書いて下さった方、評価を付けてくれた方々、こんなアホな連中の物語を終始見守って下さり本当にありがとうございました。

本作はこれにて終了となりますが、機会があればまたどこかでヨシヒコ達の物語があるやもしれません。彼等ならどんな世界でも乗り越えて行けるでしょう。例えば……


それでは最後にもう一度、この度は本作を最後まで読んで下さり本当にありがとうございました。





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