魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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FILE #16 掃き溜めの鶴が笑う時  ―由比鶴乃 追憶編―

 

 

 

 

 

 

なさねばならぬと決断して

君が何かをする時

たとえ多くの人々が

それについて違った事を考えようとも

それをするのを見られまいと避けてはならない。

 

もし君のすることが正しく無いならば

その行為そのものを避けた方がいい

だがもし正しければ

正しくないと批難する人々をなんで恐れるか

 

 

 

                       ――――エピクテトス『要録』 三十五節より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『わたしって……●●ってるのかな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――神浜市神浜町参京区。

 魔法少女の存在が世界中に知れ渡り、市が「保護特区」に任命されてからというもの、市役所の有る中央区ばかりが国の恩恵を受けていた。

 本来、神浜商店街とはこの区のメイン街道の事を指す。だが、その名は中央区に奪われた。

 現在は「旧商店街」などと蔑まれ、至るところで閑古鳥が鳴いている始末だ。

 

 

 ――――ここ(・・)を除いては。

 

 

 

 神浜旧商店街のちょうど中央に当る場所に、その飲食店は有った。

 『万々歳』――――祖先、由比(ゆい)雀七(しょうしち)が戦時中、現地で会得した中華料理の技を活かす為に始めたその店は、戦後、行列が絶えなかった。

 息子の鶏太郎の代になると、人気は更に上昇。万々歳は全盛期を迎える。

 『神浜一の中華飯店』と地元住民からは口々に称賛を受け、TVや新聞、雑誌といったメディアでも取り上げられるようになり、有名な著名人や芸能人が来訪するようになった。

 特に、あの昭和天皇陛下が、噂を聞きつけてご飲食なされた時の衝撃は計り知れない。食後に受け賜った感謝状は今でも、家宝として大事に保管してある。

 

 しかし、盛者必衰の理があるように、栄華も三代は続かなかった。

 

 鶏太郎の息子、(しゅん)太郎の代になると、客数は激減、人気も急降下。メディアでは一切取り上げられなくなり、著名人も来訪もピタリと止まってしまった。

 時代の流れで、最近は美味いチェーン店が近所にできているからだとか、単純に、隼太郎のやる気がなくて料理の味が落ちたからだとか――恐らくは、後者だろう――言われるが……とにかく店には閑古鳥が住みついてしまった。

 

 経営は次第に悪化。このままでは店を畳むのもやむ無し――――参京区に住む人々は、直にそうなるだろうと考えていた。

 しかし……

 

 

「いらっしゃーい!!」

 

 

 万々歳には一つの“希望”があった。それがこの元気溌剌な声の持ち主だ。

 大きく張り上げた声は、店中によく響き渡り、客が斑な店内を活気づかせた。

 

「味は50点!! 笑顔は満点っ!! 万々歳、今日も元気に開店中だよ!」

 

 少女の名前は由比鶴乃といった。

 現店主、由比隼太郎の娘にして、万々歳が誇る最強の看板娘。

 努力家で、勉強もスポーツも得意で、底抜けに明るい性格で純真無垢。容姿も悪くない。スラリとした細身の長身と色白の肌は人形の様に綺麗だし、ニッコリとした笑顔は子供の様な愛くるしさがある。

 由比家の事情(・・)を知る常連客からすれば、あの両親から、こんな娘が生まれたのが、奇跡であった。

 

「おう鶴ちゃん!」

 

 出迎えた客を確認すると、知り合いの初老の男性だった。服の上からでも分かるくらい筋骨隆々で、色黒の、見るからに快活そうな大男だ。

 

「織田さん!?」

 

 鶴乃は目を見開いてびっくりする。織田は歯を見せてにっかり笑っていた。

 

「久しぶりに元気貰いに来たよ!」

 

 そういう織田だが――――途端に鶴乃の顔から明かりが消えた。しゅんと、顔を俯かせる。

 

「織田さん、確か……鉄工所は……」

 

「あ~はっはっはっはっは!!! 気にするねぇ鶴ちゃん!!」

 

 暗い表情でポツリと呟くも、即座に織田は豪快に笑ってそう告げた。

 

「えっ……?」

 

「サンシャイン重工に買収されちまったのは悔しいがよ……おかげでこうして飯が食えてるんだ」

 

「で、でも……」

 

 鶴乃の顔は晴れない。

 

「先祖代々、続けてきた鉄工所だったんでしょ? それなのに……」

 

「買収されなくっても、業績不振で早晩畳んでたよ。でも、大企業が買ってくれたお陰で、俺とウチの技術はまだ、此処で根を張って生き続けるんだ」

 

「…………」

 

 そこまで言っても、大企業に“負けて”しまったのには違いない。

 鶴乃は沈黙。口をムっと結んで顔を俯かせる。だが、織田は彼女の肩に手をポンと置いて、

 

「ほらほら!! 万々歳は隼さんのせいで味が50点に落ちたが、鶴ちゃんのお陰で接客は100点に上がったんだろ!?」

 

「俺のせいで、とはひどい言い草だねぇ織田さん」

 

 店主が後ろからそんな事を言って睨みつけてきたが、気のせいだろう。

 織田は無視して続ける。

 

「おら、元気出しなって!」

 

 彼の豪快な声は、他の客にも聞こえたらしい。

 狭い店内で好き好きに食事をしている男性客達が一斉に鶴乃の方へと向いた。

 

「そうだぜ鶴ちゃん!!」

 

「鶴ちゃんの笑顔を一日一回は見なきゃ働けねーよ!!」

 

「織田のことなんか気にしてねーで、自分のこと気にしなよ!!」

 

「参京のアイドルに沈んだ顔は似合わねーって!! 死んだ爺さんも心配しちまうぜ!」

 

「鶴ちゃんの顔見てりゃ、どんな料理も100点満点だぜ!!」

 

 織田の声を皮切りに、鶴乃へそう励ます男性客たち。

 

「みんな……!」

 

 鶴乃が目を見開いて、店内を見遣る。

 ここにいる常連客は、何れも経営者だが、織田と同じ様に店を畳むか畳まないかの瀬戸際に追い詰められている。日々の暮らしをするので精一杯で、大変な思いをしている筈なのに……ニッカリと良い笑顔を浮かべていた。

 次いで織田の顔を見ると、彼も同じように笑っている。

 

 だとしたら――――鶴乃はグッと拳を握りしめる。

 

(そうだよ……みんなで励まし合って生きていくのが参京区(ここ)じゃん)

 

 自分だけ暗い顔を浮かべている訳にはいかない。皆がああいってくれているのだ。期待には応えねば。

 鶴乃の腹は、そこで決まった。

 

「あ――――っはっはっはっはっはっはっは!!!!」

 

 快笑一閃。

 

「そうだったねー!! ごめんごめーん!! じゃあ一名様ごあんなーいっ!!!」 

 

 陽のような笑顔が再び店内を明るく照らした。

 織田をカウンター席まで案内すると、氷水を渡して注文を確認する。

 

「いやあ隼さん、鶴ちゃんは本当に良い子だねぇ」

 

 店主である隼太郎に注文を言い渡してから、別の男性客の方へと向かい、注文の確認がてら談笑する鶴乃を見て、織田は愉快気に言う。

 彼にしてみれば、万々歳が畳まずに、今日もやっていけてるのは、一重に鶴乃のお陰だと思っている。

 こうして、近隣住民の常連客で賑わっているのは、鶴乃の存在があってこそだ。

 彼女の元気と笑顔は、寂れたこの商店街の中で、皆の心を照らす『光』に等しかった。

 

「いやあ、自分にはもったいないぐらいの娘ですよぉ」

 

 身長が高く恰幅も良い、正しく巨漢ともいえる体躯の隼太郎だったが、顔つきは対極的に、情けなさが感じられるほど人が良さそうだった。

 くしゃっと温和な笑みを浮かべると、間延びした声で織田にそう返す。

 

「隼さんも負けてられないんじゃないのかい?」

 

「何が?」

 

 織田の言葉が、まるで訳が分からない、と言った様子でポカンとなる隼太郎。

 織田はその反応に「えっ?」と一瞬呆気にとられたが、他の男性客達にせっせと立ち回りながらも、談笑を続ける鶴乃を指さして言い放つ。

 

「あ、いや……娘の元気に負けないぐらい味を良くしなきゃ! って思うだろ、普通?」

 

 困惑気にそう訴えると、隼太郎はう~~む、と顎に手を当てて真剣に考える素振りを見せるが、

 

「あ~~でも、今のままでも十分生活していけっからなあ。別にいいや」

 

「…………」

 

 素っ気なく返されて、織田は沈黙。ガックリと項垂れる。

 

「あ、相変わらずの日和見主義者だねぇ……鶴ちゃんの苦労がわかるよ……」

 

「ん~、なんかいったかぁい?」

 

「……いや、何も」

 

 どうせ聞こえたとしても、この男は気にはしなかったろう。

 全く、と織田は深い溜息を吐いた。

 ああいったのは、万々歳と鶴乃の将来を思ってのことだったのに、この男ときたら――――

 

「あ、おんじおかえりー!」

 

 思ってると、万々歳に新たな来訪者が現れていた。

 

 頑固オヤジ(・・・・・)が来た――――!!

 

 そう思った織田は、咄嗟に両肩を強張らせて身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただいま、と低い声を発して店内の出入り口から入ってきた人物は、如何にも頑固一徹といった老人だった。

 ハンチング帽を被り、眉間に皺を寄せた憮然とした表情を、自身を「おんじ」と呼んだ小娘に向けてから、のっそりとした足取りで店内に足を踏み入れていく。

 彼が入った瞬間、店内の緊張感が増した。

 和気あいあいとしていた常連客達は会話を止めて、眼前の食事を取ることに集中し始める。

 

「あれ? 何で家からじゃなくって店から直接入ってんの?」

 

 鶴乃だけは目の前の老人に緊張することなく、きょとんと小首を傾げて率直に疑問を投げかけていた。

 

「鶴、時計見ろ」

 

 おんじは若干呆れたように顔を俯かせると、店内の中央で天井付近に飾られている丸時計を指差した。

 

「へ?」

 

 言われて時計を確認すると――――ギョッとした! なんとあと15分で14時だ!!

 

「やっば!!」

 

 大きく目を見開いて、体をビクリと大きく震わす鶴乃。今日はこの時間から自動車教習所に行く予定だった!!

 即座におんじの方へとキッと怒りの目を向ける。

 

「なんでもっと早く言ってくれなかったのー!?」

 

 両手をブンブンと振って、目尻に涙を溜めながら駄々っ子のように喚く鶴乃。

 だが、おんじはフン、と鼻を鳴らすと、

 

「てめぇの一日の予定ぐらいてめぇの頭にブッ込んでるモンだろうが」

 

 にべもない様子で、そう言い放った。

 

「そんな言い方無いじゃん!! おんじのバカッ!!」

 

 そう言い返すと、鶴乃は「フンだ!」とプンプン湯気を蒸しながらエプロンを外すと、バタバタと忙しなく駆け足を響かせながら裏の自宅へと戻ってしまう。

 

「うるせぇバカじゃなくハゲっていえ」

 

 おんじは表情一つ変えずに、頭からハンチング帽を取り外した。

 ――――陽の明りがもう一つ出現する。

 

「うぷぷぷ……っ」

 

「クスクス……っ」

 

「うくく……っ」

 

 わんわん子犬の様に鳴く看板娘と、それを真面目か冗談か付かない態度で言いくるめる頑固ジジイ。

 漫才のような二人のやりとりは万々歳の名物であった。客達は顔を伏せながらも、含み笑いを漏らしている。

 何故か、店主の隼太郎も一緒に笑っていたが……

 

「おい隼」

 

「ヒイっ!」

 

 ギンッと猛禽類の如き眼光で睨みつけられたので、背筋がぞっと震えてしまった。

 顔を情けなく歪ますと、ペコペコと頭を何度も下げて、謝り始める。

 

「ご、ごめんよ叔父さん。俺も今日は日曜だから無いって思っちゃってなぁ~!」

 

 その言葉に、おんじは溜息。

 

「アホか、冷蔵庫に予定表張ってあんだろ……」

 

 おんじはそういうと着ているコートを脱いだ。身長は隼太郎どころか鶴乃よりも小柄だが、長年刑事をしていただけあってかガッシリとした体格だ。

 彼は、入り口前に置かれた洗面台で、うがいをして、手をよく洗い消毒液を馴染ませると、厨房に侵入。

 自分用の調理服を身に纏い、隼太郎の傍へと歩み寄る。

 

「ここからは俺がこっちをやる。お前はホールやってろ」

 

「おーう!」

 

 威勢よく返事をする隼太郎。

 彼から、作っている途中の料理と、注文されてからまだ作り始めていない品を引き継ぐと、せっせと手際よく調理をし始める。

 何故か、店主の隼太郎より手際と腕前はいいのだが、それは誰もツッコんではならないのが、常連客達の間で暗黙のルールだ。

 

「じゃ、お父さん、おんじ、行ってくるねー!」

 

「お~う!」

 

「おう、行ってらっしゃい」

 

 そこで私服姿に戻り、教科書等を詰め込んだカバンを肩に掛けた鶴乃が店に顔を覗かせた。

 笑顔でそう言うと、走り去っていく。

 隼太郎は手を振って見送り、おんじは調理に顔を集中したまま、声だけを送った。

 

「あ~あ」

 

 鶴乃が店の窓から見えなくなると、不意に目の前のカウンター席からそんな声が聞こえてきた。

 織田の隣に座る常連客の一人、「斉藤寝具店」の店主、斉藤 司である。

 

「味は75点、笑顔は3点の頑固親父の店に早変わりかぁ~」

 

 斉藤の心の底から残念がる言葉に、同じカウンター席に座る常連客も、うむうむと同意する。

 カウンターにはちょうど、初老の男達が5人並んでいた。

 彼らが、万々歳の常連になっているのは、『由比鶴乃のファン』である以外に他ならない。ぶっちゃけると料理よりも、鶴乃の笑顔を見ることが来店の目的であった。

 おんじの眉間に皺が寄る。

 

「うるせぇ、旨いもん作ってやっから、静かにしてろ」

 

「おいおい雉さん、そんなこと言い方してっと飯が不味くなんだろ?」

 

 斉藤の隣で座る恰幅の良い初老の男がそう言い放つ。

 ちなみに、『雉』とは、おんじの愛称である。というのも、彼の本名は由比木次(・・)郎(きじ(・・)ろう)という。

 由比家は何故か、先祖代々、家を継ぐ者は「鳥を名前に入れる」という謎の風習が有り、木次郎の渾名もそれになぞって付けられたのであった。

 

「雉さんにも、鶴ちゃんの笑顔と隼さんののんびりがありゃーなぁ」

 

 恰幅の良い男の隣で、細身だが長身で筋肉質の男がそう言った。

 あってたまるか、んなモン――――木次郎は無視しながら、胸中でそう吐き捨てる。

 

「オェ……想像したら気分悪くなってきたぜ」

 

「お、おう、雉さんにその二つは似合わねぇなあ」

 

 細身の男の隣の中肉中背の男が、顔を青くしながら、織田とそう言い合う。

 

「おいおい、んなこと言ったら失礼だろお!? 雉さんは孫娘の為に、こうして店手伝ってんだからよぉ~!」

 

 斉藤がそう騒ぐと、織田を含めたカウンターに座る初老の男達はガハハと笑い合う。

 

「そういやそうだったなぁ~!」

 

「いよ、ツンデレ!!」

 

「孫娘じゃねぇ」

 

 あと“ツンデレ”ってなんだ? そちらも聞こうと思ったが、一層からかわれそうなのでやめた。

 

「でも孫娘みたいなもんでしょ?」

 

「兄貴のな」

 

 素っ気なく伝えるも、まだ自分を囃し立てる声が聞こえてくるが……これ以上は面倒くさいので無視した。

 連中も拒否されてると感じたのか、今度は隼太郎を標的にして、アレコレ言い始める。

 木次郎は聞こえないふりをして料理に集中。

 やがて、餃子定食、麻婆豆腐定食、油淋鶏定食、チャーハン、そして中華飯店なのに何故かあるカレーを一通り作り上げると、カウンターの常連達に手渡した。

 

「おらよ、いい加減黙って食え」

 

 ムスッとした表情でそう言いつける。自称鶴乃のファン達は「は~い」と一斉に返事した。

 

「あーあー。これで鶴ちゃんがいりゃあ、百点満点なのになぁ~」

 

 斉藤は目の前に出された、麻婆豆腐を一口放り込むと、そうボヤいた。

 いねぇモンはいねぇんだ。諦めろ――――木次郎はそう言おうとしたが、

 

「しょーがない。これで我慢すっか」

 

 斉藤は、眼の前に、スマホを横に向けて置いた。画面には、鶴乃の笑顔が全面に映っている。

 

「俺もそーしよ」

 

 次いで織田も、鶴乃の笑顔が映ったスマホを横向けにした飾る。

 

「俺もー」

 

 細身で筋肉質の男もそう同意して、スマホを――――ではなく、写真を取り出してそっと立てかけた。

 映っているのは恐らく、鶴乃の満面の笑顔だろう。

 

「「俺達もー」」

 

 残る二人も、同じ画像が映ったスマホを横に立てかけた。

 

「ウチの看板娘を変な目で見てんじゃねぇ……独男どもが。隼、お前も何か言ってやれ」

 

 そう言う前に、隼は既に常連達のもとへ歩み出していた。

 父親のあいつが一言いやあ、連中も調子づかなくなるかも――――そう思っていたが、

 

「おお~~、いい笑顔だなぁ」

 

 隼太郎の口から出たのは怒声ではなく、まさかの賛辞。木次郎はガックリと項垂れる。

 

「へへへ、この前撮らせてもらったんだよ♪」

 

「へえ~~!」

 

 愉快気にそう言う斉藤に、関心する隼太郎。

 自分の娘が――恐らく下心込みで――見られているであろうことには、何とも感じていないらしい。

 木次郎はハア~、と深い溜息。

 

「中田さんのもいい写真だねぇ。2人でツーショットなんて」

 

 ――――ツーショットっ!?

 木次郎はギョッと目を剥いて、細身で筋肉質の男こと、中田を見た。

 

「鶴ちゃん、ノリがいいからねぇ~! 二つ返事で撮らせてくれたよ」

 

「いいなあ。俺も今度一緒に撮ろうかなぁ~!」

 

 隼太郎は普通の中田に羨望の眼差しを送っていた。

 いやいや、それどころじゃないだろう!!――――調子づく常連と、甥の馬鹿さに木次郎は頭が痛くなる。

 

「……それにしても」

 

 と、そこで、一部始終を可笑しそうに眺めていた織田が、不意に声を挙げてきた。

 

「ん?」

 

 木次郎は気になって視線を向ける。織田の顔は、どこか思いつめた様な表情を浮かばせていた。

 

「鶴ちゃんさあ、最近落ち着いてきたんじゃないか?」

 

 真剣な声色でそう呟く織田に、他のカウンターに座る常連達も、コクコクと頷く。

 

「そうだなあ、工事が中止になった後はさぁ」

 

「『何もできなくてごめん!!』なんて言われてな~……結構ふさぎ込んでたもんな~……」

 

「それはこっちのセリフだってーの。俺らが我儘言ったせいで、あの子をこんなボロ商店街に縛り付けちまったんだからよ……まぁ、あん時に比べりゃあ全然元気になったよな」

 

「時間が解決してくれたな」

 

 常連達はそうやって憶測混じりに話し合うが、厨房の木次郎はムスッと顰めっ面を浮かべて――といっても、いつもそんな表情なのだが――いた。

 

「時間、か……」

 

 唐突に口から出た彼の声色は、普段の様にはっきりとしたものでなく、ポツリと、消え入りそうな程に小さかった。

 幸い、誰の耳にもその言葉は聞こえていなかった。

 

「どいつもこいつもそうのたまいやがるが……そんなものが、本当に解決してくれてるんだろうな……?」

 

 呟きながら、木次郎は思い出していた。

 昨日の土曜日――――昼前に起きた出来事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




☆サイドストーリーはこちら☆

 またオリキャラだよ! またジジイだよ!!
 と、思われるかもしれませんが、鶴ちゃんに合わせられる一般人っていうとこういう人しか思いつきませんでした。

 さて、いよいよ鶴乃加入編に入っていきますが、原作とはかなり違う形になります……かなり長期戦になります。話がかなり膨れ上がっているので、収集できるか今から心配です……。

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