魔王の俺と勇者なクラスメイト[現在修復中] 作:無月・黒焔(現在萎えモード)
「ファラン様、ファラン様」
「はっ……!」
目を見開き、瞳を揺らしていたファランはシルアに声をかけられ我にかえる。周りに居た人や勇者は居らず、心配そうな表情を浮かべシルアとハディンはファランを見た。
「大丈夫ですか、ファラン様?」
「ファラン様、大丈夫でしょうか?」
「ああ、問題ない。どうかしていた」
実際どうかしていたもないのだ。殆ど覚えていなかった前世の記憶でも、顔を見ればクラスメイトだと理解出来た。クラスメイトの中には、家族ぐるみで付き合っていた、所謂幼なじみが二人も居る。ファランは心の中で深いため息をつく。
「敵になるとはな……」
「どうかいたしましたか?」
「大丈夫だハディン。そうだな……少し、俺を一人にさせてはくれないか?」
「それは出来ません。私はファラン様の執事、側を離れる訳にはいきません」
「ふむ、なら遠くから俺を見ててくれないか? 危なくなったら近づいてきてくれ」
ハディンは暗い顔で、シルアは悲しい顔をしてファランを見る。
「分かりました……お気をつけてファラン様」
「ファラン様……どうかご無事で……」
「あ、ああ」
少し離れ、ファランは後ろ振り返る。ハディンとシルアは表情を変えないまま、ファランを見続けていた。
──なんでだよ、遠くから見るじゃん! 心配し過ぎなんだよ!
即座に前を見たファランは、早足で商業街を歩く。行き先は喫茶店。ファランは悩みがある時やストレスがある時には甘い物を食べることにしている。そう、ファランは甘党なのだ。
「う~ん、困ったわ」
しかし、ファランは喫茶店の道を知らない。甘い匂いを頼りに進んでいたが、ここは商業街。中心へと繋がる道は多くあり、甘い匂いだけではたどり着くのは到底不可能であった。結果、ファランは武器屋の前で立ち尽くしている。無理があったかな、とファランは心の中で呟き踵と返す。
「何かお困りですか?」
まさに踵を返したのと同時だろう。ファランは後ろから声が聞こえ、振り返る。後ろには茶髪、蒼眼の青年が立っていた。龍が刻まれたバッチを襟に着け白い騎士の正装を着ている。ファランは、警戒しながら騎士団と思われる青年に話しかける。
「ええ、生憎道に迷ってしまったの。喫茶店に行こうと思っていたのに、武器屋に来てしまったわ。良ければ、案内してもらえないかしら?」
「はい、構いませんよ。困っている人を見過ごす訳にはいきませんからね」
青年はファランは手を差し出す。ファランは柔らかく笑うと、青年の手を取った。
「エスコートよろしくね? 優しい騎士さん」
「お任せ下さい。美しきお嬢さん」
ファランは青年に連れられ喫茶店へと歩き出した。
◆◇◆◇◆
ファランが少し進んだのを確認したハディンとシルアは、路地裏に入り、商業街の屋根へと飛び乗る。
「行きますよシルア」
「ええ」
ファランの移動に合わせ、人間の目を盗みながらハディンとシルアに屋根の間を移動する。少し、進んだ所でファランは立ち止まり、周りをキョロキョロと見る。恐らくは、迷ったのだろう。
「ああ、迷う貴女も素敵」
「シルア、涎が垂れていますよ」
隣で「ウフフ」と涎を垂らしながら笑うシルアを見てハディンは頭を抱える。何故、こうも変態なのだろうか。忠誠を誓うのは普通なのだが、他の者と比べて歪んでいるように見える。
「ねぇ、ハディン?」
「なんですか?」
ファランが居ない前でのシルアの変態発言は最早、日常茶飯事。せめて、マシな発言になって欲しいとハディンは心の中で呟きながら返事をした。
「あの人間の男、誰かしら?」
予想外の言葉にハディンはキョトンとしてしまう。シルアはそんなハディンを見て首を傾げた。
「私の顔に何か付いてるの?」
「いえ、何でもありませんよ。あの服装を見るからに騎士団の者かと」
「そんなのは分かっているわ。問題はなんでファラン様に近づいているか。もしかしてピンチかしら?」
「待って下さいシルア。ファラン様と話していますね。何故、ファラン様は笑顔に……?」
危険か否か。それを判断していると、ファランと話していた男かファランに手を差し出す。ファランは何の迷いも無く、柔らかく笑うとその手を取った。
「あの男……死にたいようね。その穢らわしい手でファラン様の手を握るなんて……!」
「落ち着いて下さいシルア。追いかけますよ」
怒るシルアに声を掛け、ハディンは移動する。シルアも少し冷静になり、ハディンを追いかける。ハディンよりもシルアの方が力が強い。もし、シルアが暴走する事になればハディンはシルアを抑える事は出来ないだろう。そうなれば、自分の正体をバラした挙げ句、ファランに迷惑を掛けることになる。何より、騎士団の男が何者か分からない以上迂闊な行動は出来ない。
ハディンはそんな事を考えつつ、横目でシルアを見ながらファランを見る。ハディンもシルアと同様に怒ってはいる。だが、冷静にならなければならない。此処は敵地。目立った行動はするべきではないのだ。
「行き先は喫茶店ですか」
「そのようね」
遅れてきたシルアが通った屋根は凹んでおり、まだ完全に落ち着いて居るわけではないことが分かる。ハディンはため息をつきながら引き続きファラン様見た。
「なんで喫茶店なのかしら?」
「ファラン様は紅茶と茶菓子が好物ですからね」
ハディンはクスッと笑いながらシルアの質問に答える。何処へ行ってもファラン様はファラン様なのだと確信していた。
「あの男ファラン様を座らせたわね」
「はい、一体何を……!?」
ファランを連れていた男は、ファランを座らせた後、自分まで座りだしたのだ。シルアからは殺気が溢れ、ハディンも冷静で居られなくなってきた。
「殺してやるわ。ファラン様とお茶だなんて、私はまだ一回もしたことないのに! あの男は……!」
「落ち着いて下さい……! 確かに予想外ですが、今は慎重に動かなければ、ファラン様までバレてしまいます。ファラン様にご迷惑をおかけするつもりですか!」
動ことしたシルアをハディンは拘束する。ハディンは関節技を決めるが、シルアはそれを強引に破ろうとしていた。
「ええ、私は冷静よハディン。そう、冷静なのよ。だから離しなさい、魔法を使って姿を消せば、ファラン様にご迷惑をおかけしないわよ……!」
「それが…駄目なんです…! いきなり人間が死ぬなんて不自然です!」
数十秒、経っただろうか。未だにハディンは拘束し、シルアは抜け出そうと力を入れる。ハディンは汗を流しながら歯を食いしばる。
「良いから離し……!?」
「……!?」
シルアが言いかけた直後、一瞬だけ殺気を感じた。重く、鋭いそれに気圧され、ハディンとシルアは数秒固まる。そして直ぐに理解したのだ。この殺気はファランのだと。
「ああ、睨む貴女様の顔を素敵」
「申し訳ありません、ファラン様」
ハディンとシルアを睨んでいるファランを見ながら、ハディンはシルアを離し、頭を下げる。それとは逆にシルアは恍惚の表情になる。それから数秒後だろう。ファランは口を開いた。「何をしている?」と。
「「……!」」
ハディンとシルアは顔を青ざめ、一礼してから魔法でその姿を消した。
◆◇◆◇◆
「此方へ」
「ありがとう」
ファランは青年に引かれた椅子に座る。青年は優しく笑うと、口を開いた。
「それでは私はこれで」
「ねぇ、少し私とお茶でもいかが?」
立ち去ろうとする青年にファランは話しかける。青年はファランを見て、疑問を浮かべるような顔をしていた。
「別に構いませんが、何故私なのでしようか?」
「私、最近此処に来たばかりで身寄りがないのよ。もし、身体目的なら此処で立ち去る事もないし、貴方なら信用出来ると思ってね」
「なる程、確かにそうですね。少しとは言わず、貴女が満足するまで付き合いさせていただきます」
青年は納得し、椅子へと座る。ファランは笑い、出された紅茶を飲みながら青年に質問した。
「質問、良いかしら?」
「大丈夫ですよ。私の答えられる範囲までですが」
「ありがとう、それじゃあ、なんで今日はこんなに人が多いのかしら? 昨日はこんなに居なかったわ」
「それは、今日勇者が召喚されたからです。皆は期待しているんです。強力な力を持つ勇者が大勢召喚されたので、漸く忌々しい魔王と魔族を倒せると」
「そう……」
ファランはカップを置くと、悲しそうな顔をする。長い年月を魔族として過ごしたファランでも、人間の感性が完全に無くなった訳ではない。時々考えるのだ、何故そこまで争う必要があるのかと。いつまでも続く互いに殺し合う関係。一度そうなったからにはもう、止まらないのだろう。
そんな中、人間は魔族を魔族は人間を好きという者も居るのだ。多くの者はその者達を変人のように扱い貶す。だが、ファランは違った。蔑むのではなく、見守るのだ。変人と呼ばれる者達にも子は出来る。所謂、魔族と人間のハーフである。
ハーフもその親と同じく蔑まれる。人間よりも力が強く、魔族よりも力が弱い。亜人とも呼ばれ、虐待を受けることが多い。それを見てファランはハーフを保護し、選ばせるのだ。人間としてか、魔族としてか。どっちとして生きるのか。殆どは魔族としてファランに仕えるが、人間として生きる者も居る。ハーフとしては苦痛だろう。魔族になれば人間を人間になれば魔族を殺す事になるかも知れないのだから。
──ハーフの方が強いのかもしれないな。
「申し訳ありません。暗くなってしまって」
「いえ、大丈夫よ。私にも非があるし」
──今はそんな事よりも。
ファランは上を見る。先程から青年に向けられた殺気の出所を探しているのだ。上を探していると、シルアを拘束しているハディンが居た。
──いや、あいつら何やってんの?
一瞬だけ殺気を向け睨むと、ハディンは一礼しシルアは恍惚とした表情を浮かべる。何をしていたのか気になったファランは口パクで「何をしている?」と、質問するとハディンとシルアは消えた。
──本当に何やってんの!?
ハディンとシルアの行動を見てファランは硬直する。怪しまれない為にもファランは直ぐに切り替え、ファランは青年とのお茶を楽しむのであった。
◆◇◆◇◆
「今日はありがとう。とても楽しかったわ」
「こちらこそ、有意義な時間を過ごさせていただきありがとうございます」
お茶は終わる頃には日は沈み、商業街に指すオレンジ色の光はファランを妖美に照らす。騎士団の者であるからこそ何か情報が入手出来ると思いお茶を誘ったが、騎士団の者も馬鹿ではなく、口を割ることはなかった。
「貴方とはまた会える気がするわ。その時は宜しくね?」
「はい、その時は」
ファランは自身の城に向かって歩く。青年はファランが遠ざかったのを確認した後、口を開いた。
「少し、頼んでもいいかな?」
何も無いところから現れるかのように青年の後ろから、突如一人の男が現れる。青年と同じ服装であるところから騎士団なのだろう。
「ハッ! なんなりと副団長殿」
「目の前の彼女、追跡して欲しいんだ。何か嫌な気配を感じたからね。危険になったら直ぐに逃げて良いから」
「お任せ下さい」
男はその姿を消し、ファランを追跡すべく走りだした。
「彼女には秘密がある」
お茶中に感じた殺気、そして彼女が放った殺気。明らかに怪しい事は確か。他の王国が来日であるなら、情報が入っているにも関わらず、何もなかったのだ。怪しいと思わない方がおかしい。
「頼んだよ。ダビル」
青年は既に見えなくなった男の名を呼び、その場から去った。
その後、青年がダビルを見るのは殺された後だった。死体の近くには「彼女はき」という不可解なメッセージだけだったという。