魔王の俺と勇者なクラスメイト[現在修復中] 作:無月・黒焔(現在萎えモード)
夕日が商業街を照らす中、ダビルは騎士団副団長レインの命令で、商業街の屋根に身を潜めながらファランを追っていた。彼の所属する騎士団は一概に魔族と戦う者達だけではない。情報を収集し、時には偵察を行う者達、研究を進め、魔族に対抗する武器を作る者達も騎士団にいるのだ。その中でダビルは前者と言える。
追って少し経っただろうか、ファランは立ち止まり路地裏へと入っていく。ダビルはファランの近くへ移動し、身を潜める。
「ハディン、シルア」
「「はい」」
ダビルと同じように音も無く現れた二人にダビルは警戒を高めた。ダビルの見えぬ移動は
「まさか…普通に移動したのか…!」
ダビルもまた魔力を感知出来る者だった。しかし、魔力が二人に纏わりついていない。つまり、自身の足で
「俺を追っている奴を始末しろ。鬱陶しくて仕方がない」
「お任せ下さいファラン様」
「必ずご期待に応えますわ」
ダビルの耳に届いたファランという言葉。一緒の硬直。ダビルは直ぐに我にかえり、足に力を入れた。
「早く伝えなければ、副団長殿に……!」
この場を離れなければ最悪殺され、伝えることが出来なくなる。刻一刻を争う状況であるにも関わらず、ダビルの足は動く気配がない。
「なっ! これは魔法陣!」
ダビルの足下には紫色の魔法陣が展開されており、そこから出てくる鎖によってダビルの足は拘束されていた。
「どうですか私の
「あら、可哀想。ハディンの
「大丈夫です、直ぐに終わりますから」
「ええ、今楽になるわ」
強すぎる。それがダビルの感想だった。もし、レインがファランを追っていたのだとしたら、殺されていたのはレインだっただろう。逃げる事は叶わず、伝えることなど出来ない。ならば、大声で他の騎士団に伝わるというのなら。ダビルはファラン達の正体を大声を上げる。しかし、それすらも許されない。
「貴様等は、吸「「黙れ」」がはっ!」
ダビルの身体は中に浮き二つの大きな穴が開く。抵抗する事も出来ず地面に叩きつけられた。
「伝えなければ……副団長殿に……伝えなければ……!」
ダビルは指先に血をつけ、地面にその震える指でメッセージを書き出す。降りてきたハディンとシルアは蔑むような目でダビルを見る。
「……諦めないですね。この人間」
「ええ、頑張るのを見てると見直しちゃうわね」
「駄目ですよシルア。ファラン様は始末しろと仰っていたのですから」
「分かってるわよ。それに──」
グシャという頭が潰れる音が小さく鳴る。シルアが足でダビルの頭を踏み潰したのだ。
「ヒントがある事件って面白くないもの。あ~あ、つまらないわ。あら、靴が汚れたわね、お気に入りだったのに」
ハディンはシルアを横目に見ながらダビルが書いていたメッセージを見る。
「彼女はき……ですか。恐らく彼女は吸血鬼と書きたかったのでしょう。今拭くのもありませんし、放置ですね」
「いいのハディン? 万が一を考えた方が良いと思うのだけれど」
「恐らく、大丈夫ですよ。き、だけでは吸血鬼とは気づくことはありませんよ。他にも貴族、危険、狂人もあります」
「是非とも貴族が良いわね。ファラン様は危険とは程遠いお方だもの」
「狂人でもありませんよ」
会話を終えたハディンとシルアは、ファランの元に跪く。
「ファラン様、追っ手は始末しました」
「もう、誰も来ませんわ」
「そうか、なら帰るとするぞ。此処にいても何もないからな」
「「はい!」」
置いていた馬車に乗り、自身の城に向かった。
◆◇◆◇◆
夜も更け、人間が寝静まる頃。ファランはパジャマを持って魔王城を歩いていた。勿論、風呂場に行くのである。魔王城の風呂場は三つあり、男性専用大浴場、女性専用大浴場、魔王専用大浴場がある。基本的にファランは魔王専用大浴場に入るのだが、今日は違った。
──みんな俺が行ったらなんて言うかなぁ。
偶には裸のお付き合いも必要だと思い、ファランは女性専用大浴場で向かっている。現在の時間に魔王軍のほぼ全員が大浴場に入っているらしいが、ファランはそれを知らない。
ファランは脱衣場に入り、服を籠に入れていく。黒い艶のある髪を揺らしながら、和気あいあいとした大浴場へと入った。
「む?」
ファランが入った途端、和気あいあいとしていた大浴場は静まり、ファランは不思議そうに首を傾げる。
──俺、何かしたかな?
「ファ、ファラン様!?」
ファランが考え込んでいると、一人の女性の声が大浴場に響く。ファランは下げていた顔を上げた。
「シルアか。俺は何かしてしまったか? いきなり黙り込んで」
「い、いえ。ただファラン様の裸を見るのが恐れ多いと言いますか、なんと言いますか」
オロオロするシルアを見てファランは笑う。ファランはシルアの頭を撫でる。
「気にするな。偶には裸の付き合いも必要だろう?」
「は、はい!」
シルアは嬉しそうに目を細めながら返事をする。ファランは髪と背中を洗うために座った。
「ファラン様お背中をお流し致しましょうか?」
「ああ、頼む。背中を流すのは少し苦手でな」
シルアは華奢な身体つきのファランを見てうっとりする。後ろから寒気を覚えたファランはそれを忘れて、ゴシゴシと洗われる背中に気持ちよさを覚えながらファランは口を開いた。
「ハディンに毎日やってもらっているのだが、シルアも上手いな」
「毎日ハディンに洗ってもらっているのですか?」
──お? 力が強くなってきたぞ?
「あ、ああ。ハディンにはとても感謝している。勿論、面倒事を押し付けてしまっているシルア達もにもな」
「ありがとうございます!」
──あ、力が弱くなった。
お湯を上から被り、泡を流したファランは湯船に浸かる。その際に「ふあぁ」なんて声を出した為、魔族は少し笑顔になる。普段は無表情のファランがそんな声を出すのが稀なのだ。
「どうかしたか?」
「何でもありませんわ」
ファランは会話しながら大浴場で楽しく過ごすのであった。
◆◇◆◇◆
窓辺から差し込む月明かりを頼りにファランは自室で本を読んでいた。少し読み進んだところでドアがノックされる。
「ファラン様、ハディンです。入っても宜しいでしょうか?」
この時間はハディンは寝ている。起きているという事は何かあるのだろう。ファランはそう思った。
「ああ、構わん。どうした?」
「報告が。召喚された勇者達が明日から訓練を始めるそうです。如何なさいますか?」
「そうだな……」
今まで通りなら訓練をしていても無視していた。だが、今回は大人数。しかし、勇者であってもクラスメイトで攻撃したくないのが本音である。それでも仲間がやられたら元も子もない。
「ふむ」
なら、ちょっかいを出すぐらいなら死ぬことはないだろう。そうファランは思った。
「一年後、訓練の妨害をするとしよう。勇者の実力というものを見せてもらおうではないか」
「分かりました。では至急妨害メンバーを選定します」
そう言い終わったハディンは「失礼致しました」と言いながらファランの部屋を出る。本をゆっくりと閉じ、月を窓辺から見ながらファランは口を三日月のように歪めて笑った。
~インフォメーション~
シルア
金髪、赤目の吸血鬼。その実力は魔王軍幹部の中でもトップクラスであり、ファランに対する忠誠も高い。ファランが大好きで最早変態の域まで辿り着いた手遅れな方。何時でもファランを見ている(ストーカー)。