魔王の俺と勇者なクラスメイト[現在修復中]   作:無月・黒焔(現在萎えモード)

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妨害の後

 空を駆けながらファランは不満げな、それでいて嬉しいような顔をしていた。幼なじみである駿平と沙耶は見た感じ特に変化は無い。それが堪らなく嬉しかった。しかし、不満も存在していた。幾ら性別が変わったからといって、幼なじみの自身に気づかない事に不満であった。ファランは仕方ないと割り切った。

 

「“解除”……これで動けるだろう」

 

 ファランが持つ特典の一つ闇の帝王(ダークロード)。相手の意思を問わず、命令を絶対に聞かせる効果があり、一度従わせた命令は“解除”と言わない限り、解かれるこはない。ファランは少し笑うと頬に痛みを感じた。

 

「む? 血だと……?」

 

 頬に触れれば赤い液体がファランの指先に付着していた。何時、傷つけられたのか。それすら気づかない程に動揺していたことにファランは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「行動、判断、精神力。全てが足りんな」

 

──ここまで鈍るなんて……年は取りたくないなぁ。

 

 溜め息をつき、ファランは自身の城の前に着地する。城の前にはハディンと幹部達が跪いていた。

 

「ああ、ファラン様、お怪我を……」

 

 シルアはファランに近づき頬を見る。ファランは笑みを浮かべ、シルアの頭を優しく撫でた。

 

「なに、掠り傷だ」

 

 目を細めるシルアを見て和やかになるファランに、ハディンは何処から出したか分からないすり鉢とすりこぎ棒を持って近づく。

 

「ファラン様、貴女様に触れる事をどうかお許し下さい」

「む? ああ、別にかまわないが……なんだそれは?」

 

 ハディンは謎の黒い草をすりつぶした物を持ちながら、ファランに近づく。ファランはその黒い草を見て眉をひそめる。

 

「これは黒草と言います。光属性を打ち消し、私達魔族の回復力を底上げする草です。失礼ながらファラン様の傷口に塗らせていただこうかと」

「ああ、頼む」

 

 傷口に黒草が塗られ、ファランは「んんぅ」と声を漏らす。幹部達はそれにうっとりとした表情で見る。

 

「すまんなハディン。さて、貴様等。今夜俺の所に全員を集めろ……少し話をするとしよう」

「「ハッ!」」

 

 再び頭を下げる幹部達を見ながらファランは城の中に入っていった。

 

◆◇◆◇◆

 

「クソッ!」

 

 闘技場に響き渡る轟音。闘技場の壁には亀裂が入る。そこに騎士団団長ドレイクは拳を突っ込んでいた。驚くべきなのは闘技場の亀裂を拳だけで作った事である。

 

「俺が居て、何も出来なかった……!」

 

 魔族による謎の拘束によって動きを封じられ、危うく勇者の命が奪われるところであった。騎士団団長という立場でありながら、たった一人も護れないことがドレイクにとって悔しかったのだ。

 

「落ち着いて下さい団長。勇者達は無事です。今はこの事を報告に……」

「分かってる。レインお前は勇者達を王城に連れてってくれ。俺は行くところがある」

「分かりました」

 

 ドレイクは頭を冷静にさせる。昔から短気なのは治せと自身の師に言われてきた。少し昔の事を思い出したのか、ドレイクは少し笑うと一人の勇者に近づいた。

 

「勇者シュンペイ。それを預かってもいいか?」

「え? あ、はい。大丈夫です」

「すまなかったな。本当ならお前を護る側の俺が拘束されちまって」

 

 頭をボリボリと掻きながらドレイクは謝罪する。駿平は笑うと、フランスパンを差し出した。

 

「いえ、大丈夫です。俺も守る側なので」

「ヒュー、頼もしいなぁ」

「そこまで言われるほど俺は、強くないですよ」

 

 自分で言った言葉に照れくさそうに顔を俯かせた駿平からフランスパンを受け取り、ドレイクは短くお礼を言った後、レインを見た。

 

「レイン! 後は頼んだぞ!」

「はい! さぁ、皆。今日はもう帰ろうか」

 

 レインの声を聞きながらドレイクは闘技場を後にし、商業街を歩く。見慣れた風景を見ながら商業街のはずれに進み、冒険者ギルドへと入る。

 

「よぉ、ギルドマスターはいるか?」

 

 ギルドのカウンター。其処にいる受付嬢にドレイクは少し馴れ馴れしく質問した。

 

「はい、ギルドマスターは自室にいらっしゃいますよ!」

 

 ギルドの受付嬢はニッコリ笑いながらドレイクの質問に答える。

 

「そっか、サンキュ」

 

 冒険者ギルドの二階へと上がり、ドレイクは一つの部屋のドアを叩いた。

 

「いいぞ」

「失礼する」

 

 大量の書類を机に積み上げて忙しそうに手を動かすギルドマスターを見てドレイクは苦笑した。ギルドマスターは手を止めるとドレイクを見る。

 

「相変わらず忙しそうだなギルドマスター」

「ドレイク……今は勇者達の訓練中ではないのか?」

「もう解散した。実は魔族の襲撃があってな」

「なに! 勇者達は無事か!」

 

 ダンッという机を叩く音がギルドマスターの部屋に響く。ドレイクは「ああ、無事だ」と真剣な声で言う。

 

「そうか……」

 

 ギルドマスターは糸が切れた操り人形のように椅子に座る。歯軋りをしたドレイクはフランスパンをギルドマスターの机に置いた。

 

「これは……?」

「フランスパンだ。襲撃した魔族が置いてったものでな。三度襲撃があったが、最後に来たあの魔族……普通じゃなかった」

 

 大鎌を扱う赤目、黒髪の魔族。恐らく吸血鬼と思われるあの魔族は尋常ではない強さであった。勇者を傷つけた際に動きが止まったが、それ以外は全く隙が無かったのだ。

 

「俺とレインの攻撃を簡単に受け止めやがった。血の鎖に謎の拘束で動きを封じられた。勇者が気に入ったとか何とかでフランスパンを置いて帰ったが……」

「もしかしたら【豪腕】を殺害した魔族かもしれんな」

 

 ギルドマスターの発言から会話が続かなくなる。溜め息をついたギルドマスターはドレイクを見た。

 

「これから戦争が起こるだろう……ドレイク、勇者を後どれぐらいで育て上げれるのだ?」

「良くて半年、悪くて二年だな」

「冒険者の戦力を半分以上其方の護衛に回す。頼む、半年で勇者達を育て上げてくれ……!」

 

 頭を下げるギルドマスターにドレイクは笑みを浮かべ腕を組む。

 

「元からその話をしに来た。任せろ、騎士団団長の名にかけて育て上げる。それまでは頼んだ」

 

 ギルドマスターは何も言わず、頭を下げ続ける。ドレイクはギルドマスターとギルドから出て王城へと向かった。

 

◆◇◆◇◆

 

 ドレイクは王城の中を歩く。それを追うように後ろから足音が聞こえた。

 

「団長、用事はもう良いんですか?」

「んあ? ああ、もう話は終わった。後は国王様に報告するだけだ」

「そうですか」

「しっかし、あの魔族馬鹿だよなぁ? わざわざ証拠を残すなんてよぉ」

 

 ドレイクがフランスパンを持ちながら肩を竦める。レインはそれを見てクスクスと笑いながら前を見た。王城の奥には巨大な扉があり、その先は王の間となっている。アラン王国国王コペルはそこに居る。

 

「よぉ、何時もご苦労様」

「ドレイクさん、今は訓練中では?」

「まぁ、色々あってな。開けてくれねぇか? コペル国王様に伝えなきゃならねぇことがある」

「わ、分かりました」

 

 ゆっくりと扉が開き、ドレイクとレインは進む。王の間の奥、玉座の前で二人は跪いた。

 

「む? どうした、今は訓練中ではないのか?」

「それについてご報告が。先程、魔族から襲撃を受けました」

「それは本当か! 勇者は無事なのか!?」

「はい、無事でございます」

 

 レインが報告している間。ドレイクは手に持っていたフランスパンをコペルの近くに置く。

 

「魔族が置いていったものです。これから察するに、恐らく今回襲撃した魔族は【豪腕】を殺害した魔族かと」

「そうか……勇者は後、どの程度で育つ?」

「良くて半年、悪くて二年かと……」

「ならば半年で育て上げてくれ。ギルドの方には既に伝えているのだろう?」

「はい」

 

 コペルは真剣な顔つきから少し和らげる。しかし、問題が解決した訳ではない。魔族から攻撃を受けたということは、宣戦布告を受けたと同じなのだ。

 

「ひとまず今日は休め。明日から頼むぞ」

「「ハッ!」」

 

 ドレイクとレインはその場から立ち去り、コペルだけとなる。魔族からの宣戦布告。喧嘩を売ってきたのだ。当然黙っている訳にはいかない。

 

「今度こそ潰してくれる」

 

 ポツリと呟いたその言葉は誰の耳にも届くことはなかった。

 

◆◇◆◇◆

 

 魔王城の王の間。真ん中に敷かれたレッドカーペットを避けるようにして並んだ魔王軍を見てファランは笑う。

 

「ファラン様。魔王軍全員、集合しました」

「ご苦労だったなハディン。さて、貴様等を集めた理由は二つ。一つ目は今回の妨害についてだ。妨害メンバーは前に出てこい」

 

 顔を青く、白くした妨害メンバーはファランの前に跪く。それを見て他の魔族はケタケタと笑う。

 

「今笑った馬鹿共は解散した後此処に残れ。根性を叩き直してやる」

 

 笑った魔族も顔を青ざめるが、ファランはそんなのは知ったことではないと無視をする。

 

「今回の妨害の件。失敗したことは此処にいる全員が知っている」 

 

 妨害メンバーはカタカタと震える。ファランの期待に応えることが出来なかったことと殺される恐怖に身が震えていた。

 

「まさか騎士団団長と副団長が居るとは思いもしなかった。人間に背を向けることは屈辱だっただろう。だからこそ、よく生きてくれた」

 

 まるで「えっ?」とでも言うような顔をしながら妨害メンバーは顔を上げた。ファランは立ち上がり、妨害メンバーの近くまで歩き再び口を開く。

 

「すまなかった」

 

 ファランは深く頭を下げる。自分の考えの甘さ。それが今回部下達を傷つけた要因なら責任は間違いなくファランにある。そして、傷つけたことに対する謝罪の気持ちがファランにはあった。

 

 だが、そんな気持ちなど知る由もない魔王軍は驚愕した。魔王軍のトップ。最強であり絶対であるファランが頭を下げたのだ。

 

「頭を上げてくださいファラン様! 貴女様が頭を下げる必要はありません!」

「し、しかしだな……」

「俺達に力が無かったからこんな結果になったんです! 俺達のせいで……!」

「……」

 

 立ち上がって叫ぶメルガを見てファランは困惑する。責任はファランにある。しかし、それをメルガは自分のせいと言うのだ。

 

「貴様等は何も悪くない。力が無かった? これからつければ良いだけだ。俺は貴様等が失敗したことに責めるつもりはない。ただ、生きてくれただけで良かったのだ」

「ファラン様……」

「俺の謝罪が気に入らないなら別の形で礼をしよう。それでも良いか?」

「は、はい」

 

 ファランは返事を聞くと軽く頷き、玉座に戻る。

 

「妨害メンバーはもう戻って大丈夫だ。疲れている中すまなかったな」

 

 妨害メンバーが戻るのを見届けた後、ファランは目を閉じる。

 

「さて、理由の二つ目は今後の事だ。今までと同じならば、今回の妨害で俺達は人間に宣戦布告したことになるだろう。責めはしない。戦争に出たくない者はここで正直に手を挙げろ」

 

 誰も手を上げず、静寂だけが王の間を支配する。ファランはそれを許すまいと口を開いた。

 

「誰も居らんのか?」

「これが私達の意志ですファラン様。私達は貴女様の矛となり盾となること。貴女様の為に動けるならこれほど幸福なことはありません」

 

 疑問を持つファランにハディンは跪いて応える。ファランは苦笑した後口角を上げる。

 

「良いか、貴様等、領土の拡大を抑え、出来る限り人間との戦闘控えろ! 来る日に備えて各自鍛錬に励め!」

「「ハッ! 我らが魔族の勝利の為に!」」

 

 叫び声にも似たやる気に満ち溢れた返事を聞いてファランは満足げな顔になった。

 

 その後と魔族が寝静まる頃に複数の叫び声が王の間に響いたという。

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