魔王の俺と勇者なクラスメイト[現在修復中]   作:無月・黒焔(現在萎えモード)

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全面戦争

 妨害が失敗してから約半年後。明らかに人間の動きが変わったという報告を受け、ファラン達は王の間に集合していた。

 

「先程の報告通りなら人間は戦争の準備が整ったことを意味する。貴様等、準備はいいか!」

「「ハッ!」」

「人間のプライドと正義を壊し、俺達が勝利する! 行くぞ、戦争だ!」

「「我ら魔族の勝利にかけて!」」

 

 ファラン達魔王軍はファランを先頭に魔王城を出て野原を駆け出した。目指すはアラン王国。狙うは王の首である。

 

◆◇◆◇◆

 

「急げお前らぁ!」

 

 アラン王国では大勢の人間が門へと走っていた。先頭をきって走るドレイクは見事勇者達を半年近くで育て上げ、勇者、騎士団、冒険者を引き連れていた。これから行われるのはルールなど存在しない殺し合い。相手よりも先に動く事が出来れば優位な立場になる。天気が晴天でいられるのも時間の問題なのだから、ドレイクとしては早く決着をつけたかった。

 

「団長……」

「ん? なんだレイン。まだ気にしてんのか?」

 

 勇者達を育て上げる前のミーティングでレインは全てを打ち明けていた。フランスパンを置いていった魔族とお茶をしたこと、ダビルを追わせたこと、その後にダビルが死んだこと。その日からレインは思い詰めた表情をするようになった。

 

「いえ、もう私は迷いません」

「それで良いんだよ。彼奴は魔族、俺達は人間。愛や友情で埋めれるもんじゃない」

「はい」

 

 ドレイク達は門をくぐり抜け、野原へと踏み出す。遠目であったが、ドレイクには魔族が攻めて来ているのが見えた。

 

「くそっ! 遅れたか!」

「まだ大丈夫ですよ団長」

「おう、そうだな。天気は俺達に味方している」

「行くぞみんな!」

「「おお~!」」

 

 レインのかけ声に大声で応える人間。ドレイクはニヤリと笑い剣の柄を掴む。

 

「な、なんだよあれ……?」

 

 その瞬間だっただろう。魔族側から黒い雲のようなものが空を埋め尽くした。灰色ではない、真っ黒な雲のようなそれは、怪しげな光を放ち地上を照らす。

 

「あれは……闇!」

 

 ドレイクは瞬時に闇と判断し、歯軋りをする。希望であった晴天を無くされ、闇は光を蠢かせながら此方を見ているような錯覚を覚えさせる。

 

「テメェか……【吸血鬼王】テメェの仕業かぁ!」

 

 魔法で扱われる闇もどきではない。本物の闇。それを扱える存在は数えられる程しかいない。ドレイクは煮えたぎる怒りを混ぜて叫んだ。それは遠くに居る魔族にも聞こえたという。

 

◆◇◆◇◆

 

 野原を駆けるファランは不機嫌な顔を浮かべる。天気は晴天。それによってファラン達魔王軍は弱体化している。ファランは立ち止まり、空を見上げた。

 

「ファラン様どうなされましたか?」

「邪魔だな……太陽」

 

 不機嫌な顔をするファランを宥めようと魔王軍があたふたしている時、遠くから人間の声が聞こえた。

 

「行くぞみんな!」

「「おお~!」」

 

──楽しく愉快に魔王ライフを送ろうと過ごしていたのに……。

 

 ファランは脳内でうなだれながら不機嫌な顔になり続ける。

 

──なんでお前等が勇者召喚されんだよクラスメイトォ!

 

 ファランは脳内でヘッドバンキングを決めながら叫び、歯軋りをしてから笑う。

 

「覆うとしよう混沌でな」

 

 ファランは右手を上げる。ファランを中心に混沌が空を覆う。混沌は怪しい光を放ち地上を照らす。混沌が放つ偽物の光は魔族を弱らせることはなく、天敵である太陽の光を防いだ。魔族は太陽の光がなくなった事と、普段よりもみなぎる力に歓喜した。

 

「【吸血鬼王】テメェの仕業かぁ!」

「ククク、ハハハハ!」

 

 遠くから人間の叫び声が聞こえファランは笑い出した。その叫びに応える必要性は無い。魔族は人間を蔑み笑う。ただ、それだけでいいのだ。

 

「おっと、笑いすぎたな」

 

 前を見れば、人間はよく見える位置まで来ていた。ファランは大鎌を取り出し、魔族はそれぞれの得物を構えた。

 

「行くぞ、貴様等!」

「「おおおお!」」

 

 ある者は忠誠をある者はリベンジを胸に抱き、魔族と人間は衝突した。

 

「ククク」

 

 戦場に咲く赤い華と散る命。魔王軍は半年の中でかなり強化され、圧倒的な力で人間を殺していく。悲鳴を上げながら死んでいく人間を見て愉快、愉快と言うようにファランは笑った。だが、その中に抗う者がいる。魔族は思うのだ早く死ねよと。

 

「刹那、極!」

「刹那、鬼神!」

 

 戦場を見ていたファランにドレイクとレインは突っ込み、攻撃を仕掛ける。ファランは攻撃を止める事もなく立ち尽くす。それも当然である。何故ならファランを守る存在が居るのだから。

 

「その汚い手でファラン様に近づかないでほしいわ。人間如きが近づいては良いお方じゃないのよ?」

「流石は人間ですね。一直線しか攻撃できないなんて知能が低いことを自ら教えているとですね」

 

 ハディンとシルアの声と同時に、金属が打ち付けあう音が響く。ファランは無表情でそれを見る。

 

「これはこれは豪華な来客だな。其方から来るとは思っても居なかった」

「ファラン様。貴女様の手を煩わせる必要はありません。ここは私達にお任せを」

「ハディンの言う通りですファラン様。お休み下さい」

「ああ、頼んだ」

 

 ファランは大鎌を担ぎ上げ、ハディンとシルアを見る。ファランが見守る中ハディンとシルアの戦闘が始まった。

 

◆◇◆◇◆

 

「死ねぇ魔族ぅ!」

 

 ドレイクの聖剣が輝き、シルアに襲いかかる。シルアはそれを軽々と避けると自身の武器である漆黒のハルバードを横に振り、ドレイクに反撃する。

 

「嫌な光ね……へし折ってあげるわ」

「やってみろよ。その前にテメェが死ぬからよぉ!」

 

 シルアが扱う漆黒のハルバードは魔剣の類である。黒い霧状の毒を発生させ、相手を確実に仕留めることが可能であり、ハルバード自体も攻守共に優れ、様々な戦い方に応用出来るため、使い手によっては化ける武器である。

 

「おらぁ!」

 

 ドレイクの早い攻撃をシルアはいとも簡単に受け流す。体勢を若干崩しながらもドレイクは踏み込み、聖剣を振り下げた。

 

「あら、思ったより力弱いのね」

「ああ? 嘗めてんじゃねぇぞぉ!」

 

 鍔迫り合いになり、シルアとドレイクは力を込めていく。しかし、ゆっくりとシルアが押し始め、ドレイクを飛ばす。

 

「奇襲した魔族といいテメェといい……魔族は馬鹿力しかいねぇのか?」

 

 ドレイクは妨害の時を思い出して悪態を吐く。レインとの同時攻撃を受け止め、いとも簡単に弾いたファランが脳裏に浮かび、気づけばそんな事を言っていた。ドレイクの悪態を聞いたシルアはプルプルと震え、ハルバードを勢いよく横に振った。

 

「危ねぇ!」

 

 それを間一髪でよけたドレイクは、回転しながらシルアに攻撃する。シルアはハルバードでそれを防ぎながら、ドレイクの首を掴んだ。

 

「ぐっあぁ!」

「貴方……今、ファラン様の事を馬鹿力と言ったわよね? 人間如きが、ファラン様を侮辱するなんて許さないわ!」

 

 ドレイクは力を込めるシルアの手を掴み離そうとする。だが、シルアの手は微動だにせず、ドレイクは苦しげな表情を浮かべた。

 

「人間様を、嘗めてんじゃ、ねぇ!」

 

 ドレイクの叫びと共に聖剣が光り、シルアはすぐさまその場から離れる。シルアが居た場所には、空から光のレーザー状のものが何本か地面に焼け跡を残しながら飛んできていた。

 

「危ないわね。本当に面倒だわ」

「ゲホッゲホ、ゲホ。ふざけやがって」

「ファラン様を侮辱する者は殺すしかないわ。ええ、殺すわ。私のファラン様を侮辱したもの」

「狂ってやがる……!」

 

 ぶつぶつと独り言を言うシルアを見てドレイクは冷や汗をかく。目の前にいる魔族はただの強い魔族ではない。魔王への忠誠が以上なまで強いのだ。狂っている、ドレイクは感じたこともない威圧に一歩後退りしてしまった。

 

「まぁ、いい……テメェを殺すのは確定だ。【吸血鬼王】を殺すのに邪魔なんだよ」

「ファラン様を殺す……? ふざけるのもいい加減にしてほしいわね。ファラン様は永遠に不滅、私達の頂点に立つお方。人間如きが攻撃できるお方じゃないのよ!」

「どうだろうなぁ!」

 

 ドレイクは地を蹴り、シルアの首もとを斬りつける。シルアはハルバードを地面に突き刺しポールダンスをするようにその攻撃を避けた。

 

「嘘だろ!?」

「本当に単純ね」

 

 ハルバードを中心に一回転したシルアはドレイクの腹を蹴り上げる。血を吐き、宙に浮いたドレイクを蔑むように見ながら、シルアは更に一回転してドレイクを横に蹴る。

 

「がっ!?」

 

 ドレイクは人間と魔族がぶつかりあっている方向へ吹き飛び、シルアはそれを見届けていた。

 

「吹き飛ばしちゃったわね……まぁいいわ。ハディンは決着つきそうだし、ファラン様の所に戻ろうかしら」

 

 ハルバードを抜き、シルアはファランが居る場所へと向かった。

 

◆◇◆◇◆

 

 キンキンと、甲高い金属が打ち付けあう音が、ハディンとレインの耳に残響として残る。その残響よりも早く金属音が聞こえるのだから二人の攻撃が如何に早いかが分かるだろう。

 

「……やるね」

「そうでしょうか? 普通ですが」

 

 冷や汗をかきながらレインは攻撃を仕掛ける。ハディンはまるで余裕と言うように一歩も動かず、二本のナイフを扱いレインの攻撃を捌く。

 

 レインは後方へ跳び、地を踏みしめる。レインの聖剣が光り輝き、移動に残る残像すら残すことなく、レインと共に高速で移動した。

 

「刹那、極!」

「それはもう見ました」

 

 キィン! という甲高い金属音が一つ響く。ハディンはナイフで聖剣を受け止める。簡単に止められたレインは目を見開いた。

 

「余程の自身があったのでしょう。しかし、多くの人間は所詮この程度。ファラン様が昔戦った【剣豪】と同じ実力でもない貴方が私に立ち向かったこと自体が間違いです」

「これでもこの道、数十年なんだけどね」

「たった数十年ですか。なる程、それならまだこの実力でも納得できますね。ただ、数十年の若者がファラン様に挑むなんて身の程を知って下さい」

 

 ハディンはレインに一瞬で近づき、ナイフを逆手持ちにしながらレインを殴る。

 

「くっ!」

 

 レインはとっさの判断で〈結界〉を発動し、ハディンの攻撃を止める。ハディンは拳を人差し指を突き刺すように変え、結界に近づけた。

 

「素晴らしい判断能力です。ですが──」

 

 人差し指が〈結界〉に触れた瞬間。レインの結界は砕け、レインは驚きを隠せずにいた。

 

「なっ!?」

「余りにも弱すぎます。込める魔力も、剣術も。ファラン様には足元にも及びません」

「か、はっ!」

 

 ハディンは隙を見逃さずレインの懐に入り、胴体を殴る。肺の中の空気が無理やり押し出され、倒れ込むレインをナイフで切り刻む。

 

「っ!」

 

 皮膚が裂かれ、その痛みによってレインを顔をしかめる。しかし、予想よりも傷が浅い(・・・・)ことにレインは安堵する。

 

「傷が浅いことに安心してますか? 考えが浅はかですね。本当に」

 

 ハディンはファランにすら見せないような残酷な笑みでレインを見る。

 

「私達魔族はファラン様のお役に立つことと、人間の悲鳴と苦痛な表情を見るのが幸せを感じるのです。ですから、敢えてそうしたんですよ」

 

 レインはハディンを睨みつける。笑いながら薄く開くハディンの目は確実に狂気が含まれていた。レインは痛みに耐えながら後ろに飛び退く。

 

「さて、もう終わりにしましょう。貴方と戯れる時間はそんなにないのですから」

 

 ハディンはレインの周りをゆっくりと回りだす。ゆっくりと歩くハディンが一人また一人と増え、最終的にはレインの周りを囲んだ。

 

「気の遠くなるような修業の果てに得たものを見せてあげましょう」

 

 ハディン達は同時に口を開き、ナイフを構える。

 

「籠にてカゴメ、貪るは血肉、残るは愉悦」

 

 一斉に地面を蹴ったハディン達を避ける為にレインはジャンプする。しかし、それを許すまいと一人のハディンがレインの足を掴み地面に叩きつける。

 

「ぐっ! まさか実体が!」

「何を言っているのですか? これは魔法で見せる幻ではなく、本物ですよ?」

 

 レインをサウンドバックにしながらハディン達は浅い傷をつけていく。レインに反撃の隙を与えず、徐々に体力を奪う。

 

「ドドメです」

 

 ハディンはレインの腹を殴る。それを辛うじて〈結界〉によって防いだレインは少し笑うが、他のハディンが〈結界〉を破り、他のハディンがレインの腹を殴った。

 

 レインは殴られた勢いのまま吹き飛ぶ。ハディンはそれを見て目を細めた。

 

「この程度すら耐えれませんか。やはりファラン様の足元にも及びませんね。しかし、吹き飛ばしてしまったことには反省しなければなりませんね。恐らく、死ぬことはないでしょうから」

 

 独り言を呟きながらハディンはファランの元へと向かった。

 

◆◇◆◇◆

 

「ファラン様申し訳ありません。人間を吹き飛ばしてしまいました」

「別に構わん。離したのならそれでいい」

 

 戦闘を終えたシルアが最初に発したのは謝罪であった。相手は騎士団団長。倒すまでいかなくとも、単体で撃破したことは誇れることでもあるのだが、流石は幹部のトップクラス。それだけでは満足できないらしい。

 

「申し訳ありませんファラン様。私としたことが人間を殺すことが出来ず、吹き飛ばしてしまいました」

「別に構わん」

 

 シルアに続くかのようにハディンも戦闘を終え帰ってきた。シルアと同じく謝罪をする。ファランはシルアとハディンから目を離し、戦場を見た。

 

「これは……」

 

 少しずつ、本当に少しずつではあるが、魔族が押されかけてきていた。正面からの衝突は勝っていた筈。騎士団の二人が吹き飛ばされその場にいるからか、或いは勇者が参戦したからか。

 

「ククク、ハハハハ!」

 

 否、どちらでもなかった。何故、正面衝突で勝っていたのか。それをファランは理解したのだ。

 

「そうか、そうか。やはり老いとは怖いものだ。その可能性すら頭に浮かんでこないとはな」

 

 正面衝突した騎士団の二人を含めた人間は陽動であった。敢えて強い者を正面に置き、フリーになる横から二つの軍が突撃する。人間の奇襲が見事に決まり、魔族が押されていたのだ。

 

「陽動か。わざわざ手の込んだことを」

 

 ファランはニヤリと笑うとハディンを見た。

 

「ハディン、全軍を退かせろ。後は俺がやろう」

「象徴致しました」

「待ってハディン本当に退かせるつもり!? ファラン様お考え下さい! 幾ら貴女様でも!」

 

 ファランの意志を理解したハディンを止めるシルア。相手はアラン王国の人間達。シルアはファランだけでは勝つか分からない状況にはしたくなかった。

 

「俺は死なん、これは絶対だ。シルア、貴様にとって俺はなんだ?」

「ファラン様は唯一無二の絶対なるお方です。それでも、人間を全員相手にするなど!」

「そうだな。必ず勝利するという保証はないだろう。だが、これ以上同族の死ぬ姿を見たくは無いのだ」

「ファラン様……」

「勝利するにしても、しないにしても必ず帰ってこよう。俺は貴様等の王なのだからな」

 

 大鎌を担ぎ上げ、ファランは強く地面を踏みしめる。既に全軍が退いてきており、ハディンは相変わらず仕事が早いとファランは苦笑する。

 

「さて、行くか」

 

 ファランは地面を壊しながら、人間に向かって駆ける。遂に魔王軍の切り札(ジョーカー)。魔王が動き出した。


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