誓いは彼女の為に    作:ユリシー

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 遂に飛鷹と瑞鶴の一騎打ち。
 さて飛鷹さんはどう戦うのか、必見です。


九話 演習

 『それでは、只今より航空母艦飛鷹と、航空母艦瑞鶴による演習作戦を開始致します』

 

 通信機から大淀の声が聞こえてくる。

 結局飛鷹さんとの演習は、提督が私の同意もあって渋々了承するという形で行われることとなった。

 提督が何故そこまで反対するのか見当はつかなかったが。

 それだけ、私と飛鷹さんの間で実力差があるのか、それとも他に理由があるのか……

 そこだけが懸案事項ではあったが、逆に言えばそれだけだ。

 

 この演習は必ず私にとって良いものになるはずだ、と直感で感じ取った。

 例えすぐに敗れてしまっても、完敗してしまっても。

 私には無い何かを、あの人は持っているように感じた。 

 

 『準備はいいか、二人とも』

 

 立会人として観戦している提督が問う。

 

 「瑞鶴、準備完了致しました」

 

 『飛鷹、こちらも準備オーケーよ』

 

 私と飛鷹さんの返答を受け、提督が一度頷いてから、

 

 『〇一〇〇。これより演習作戦を開始する』

 

 静かな開始号令。

 それを受けて、私はまず偵察機を発艦させる。

 

 今回の演習は、通常の艦隊戦とは異なり、単艦同士の戦いとなる。

 互いの位置は知らされておらず、偵察機か目視による敵艦の発見から始まる。

 殊に空母に於いては偵察が肝心となり、敵を先に発見できた方が艦載機を早く発艦できるため、圧倒的に有利となる。

 敵艦に対する近接防御兵装を持たない空母は、このフェイズの勝敗がそのまま戦闘の勝敗に繋がるのだ。

 

 「……居た!」

 

 演習開始から十分後、偵察妖精からの報告で、敵艦を発見。

 相手はまだこちらに気付いていない様子。

 

 これなら……

 と意気込みながら、矢筒に手を伸ばし、弓を構える。

 

 「第一次攻撃隊、発艦!」

 

 今回は相手が空母一隻の為、直掩隊を残し全機発艦させた。

 合計で六十機程度の大編隊。

 これによる攻撃をすべて避けきることは、ほぼ不可能に近いはず。

 半ば確信をもって艦載機隊の目標到達を待つ。

 

 

 

 ……すると不意に、偵察機からの通信が途切れる。

 

 

 

 偵察機は他にも飛ばしてあったので、すぐに再度追跡を試みるも、

 

 「……消えた?」

 

 さっきまでその場所に居たのに。

 目を離したのはたった数秒程度なのに。

 

 更に悪いことに、今度は別の偵察機がやられた。

 一機、一機、また一機と。

 忽然と偵察機から連絡が入らなくなっていく。

 

 マシンエラーを疑うが、しかし演習前にしっかりと点検をしたのでそれはないはず。

 あまりにも突然すぎる出来事に少々気味の悪さを感じる。

 

 ―――何か重大な見落としがあるのではないか。

 そう思った瞬間、最後の偵察機から打電が。

 

 『敵艦載機ノ大編隊ヲミユ』

 

 慌ててその偵察機の妖精と視覚同期を試みるも、しかしそのすぐ後、通信途絶。

 敵の姿を見ることなく、私は偵察の手段を失ってしまった。

 

 代替手段が無いことは無い。

 しかしこのまま艦載機隊を無暗に突撃させるのもリスクが大きい。

 一旦彼らを呼び戻すことにした。

 

 ……幾つか疑問点がある。

 

 まずは偵察機の通信途絶。

 これは敵による攻撃には間違いないだろうが、しかし最後の機体以外敵の姿を認識出来なかったことに疑問がある。

 対空砲火により撃墜されたということはまずありえないはずなので除外するとして。

 

 敵機による高高度からの急降下奇襲が次に挙げられるが……

 これを行うにしても、中々考えにくいことである。

 偵察機は当然ながら下方に意識を集中させていたのでこの説が可能性としては最も高い。

 しかし、襲撃を行った敵機はどんな役目を負っていた?

 ―――直掩隊?

 それにしては余りにも高度が高すぎる。

 ―――攻撃隊?

 可能性はあるが、こちらを発見しても無いのに?

 

 次に敵の大編隊が何故いたのか。

 先程の考察と被る部分もあるが、こちらを発見していないはずの状況で何故?

 こちらの直掩隊は四方八方で警戒を厳にしていた。

 この監視網を掻い潜るのは殆ど不可能なはずである。 

 

 疑問は解決しなかったが、続く思考を打電が遮る。

 

 『敵編隊ト交戦中』 

 

 撤収の判断は一歩遅かったようだ。

 次に打つ手を考えるが、敵艦の場所が分からなければ意味がない。

 

 八方塞がりかと思っていた私に、またもや打電。

 

 『前方二敵艦発見』

 

 直掩隊からだった。

 

 前方を見れば、なんと本当に居た。

 しかもグングンと加速していて、距離が詰められていく。

 

 相手は雲を利用して接近してきたのだと感心する一方で、しかし何故距離を詰めるのか。

 

 だが好機ではある。

 直掩隊と幾つか交戦を免れた味方機に敵艦への攻撃を命じる。

 

 まず戦闘機隊が機銃掃射で攻撃を仕掛ける。

 しかしこの攻撃をいとも容易く、不敵な笑みを浮かべる相手に悉く躱される。

 

 次に爆撃機隊の攻撃。

 が、相手は攻撃が来ると分かるや否や、いったん急停止することで攻撃を躱し、至近弾が起こす水柱を利用してまた距離を詰めてくる。

 

 そして最後の雷撃隊も果敢に攻撃を仕掛けるも―――

 まるで当然のように全弾躱される。

 

 この時点で敵艦との距離は凡そ一キロ。

 それでも相手は加速し、むしろ好機とばかりに加速している。

 

 相手の意図は分からなかったが、しかし接近されるのは不味いと思い、後退を開始する。

 

 ―――何か、何かを仕掛けてくる。

 その何かが分からず、固唾を呑んで、手に汗握り、冷や汗すら浮かぶ状況。

 

 ふと、相手を見失う。

 ―――何処だ、何処だ!

 

 周りを見渡してその姿を追う。

 

 

 

 一瞬の静寂。

 

 

 

 自らの鼓動以外何も感じられないような極限状態の中、背後に何かを感じた。

 だが私が振り向くより早く……

 

 

 

 「空母にはね、こういう戦い方があるのよ」 

 

 

 

 手を自分の背中に当てられ、短く息を吸う音が聞こえる。

 危険を感じて咄嗟に躱そうと身を捩るも、一足遅く。

 

 

 

 瞬間、世界が反転する。

  

 

 

 しばらくして、自分が海面を転がり始めてようやく自分がどうなったか悟った。

 

 発勁。

 それも生半可なものではない。

 

 自らが吹き飛んだ距離は凡そ五十メートル。

 身を捩っていなければもっとだっただろう。

 

 何とかそこから立ち上がるも―――フラフラとして本当に余裕はなかった―――提督からそこまで、と連絡が入る。

 

 ―――ああ、負けちゃったか。

 鈍い痛みを感じつつも、何処か悪い気分はしなかった。

 

 すると、飛鷹さんが近づいてくる。

 

 「正直驚いたわ。あれを食らって立ち上がることが出来るなんて」

 

 そう言って、肩を貸してくれる飛鷹さんに、やはり歴然とした力の差を感じた。

 というか、飛鷹さんも驚いていたけど、あんな攻撃を食らってなお立ち上がれたことは、自分でも奇跡と思う。

 

 「お疲れ様。貴女、とても強いのね」

 

 飛鷹さんの賛辞を聞いた途端に、

 飛鷹さんの肩に身を預けた途端に段々と瞼が重くなっていく。

 

 これはいけない。

 先輩にこのままじゃ迷惑をかけてしまうと思いつつも、しかしどうしても抗えず。

 

 「すみません、少し、休んでもいいですか……」

 

 私は完全に瞼を閉じてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やりすぎだ。瑞鶴に何かあったらどうするつもりだ」

 

 少し不満げに言う提督。

 それは勿論そう思ったけど……

 

 「いやね、ああしなければもしかしたら私は負けてたかもしれないのに」

 

 そう。

 瑞鶴の航空攻撃には無駄が無かった。

 

 私の攻撃を食らったその瞬間にも、彼女の艦載機は稼働を続けていた。

 これは正直驚くべきことだ。

 

 艦娘の艤装は、それを身に着けている者に極度の身体的負荷がかかると稼働を停止するようになっている。

 これは艤装を動かす妖精たちに力の供給が行かずに妖精が活動を停止してしまうためである。

 無論艦載機も例外ではない。

 

 今回はその後の私の追撃までこなす力が残ってなかったようだが、もしもう少し攻撃が()()()()()()逸らされていたなら。

 

 「やっぱり、彼女には才能があるわよ」

 

 隣で瞳を閉じたままの瑞鶴には、他と違うものがある、そう確信した。

 

 

 

 

 




 空母戦はどうしても勢いに欠けるような気がして……
 艦載機目線なら、劇場版艦隊これくしょんのような熾烈な戦い(赤城や瑞鶴の、敵の攻撃を躱しながら艦載機を発艦させるシーンには驚きましたが)ならともかく、艦載機を発艦させた後の空母目線で戦闘を描くとき、かなり苦労します。

 
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