話を重ねるごとに投稿ペースが遅くなっている気がします……
これから忙しくなると投稿がさらに遅くなるかもしれません。
申し訳ありませんが、気長に待って下さると幸いです。
こちらもできうる限りの努力をして参りますので。
前書きが長くなりましたが、本編、どうぞ!
機体が滑走路に着陸した。
多少の揺れはあったものの、特に身構えることもなかった。
―――零式輸送機―――
この機体の優秀さもさることながら、機長の腕は確かだろう。
安定した着地だった。
タラップが降りる。
機体の外の空気を噛みしめながら、
今一度機長への感謝の意を込め、敬礼をする。
機長もそれに答礼で返し、短く、
―――ご武運を。
と添えた。
その目は何処か我が娘を心配するかのような、
自分の教え子の巣立ちを見送るかのような……。
初めて出会った人物だったが、その彼の顔は忘れることはないだろう。
見送る顔というものは、得てして記憶にとどまり続けるのだから。
『あの頃』に味わった思いは、忘れられるわけがないのだから。
数秒ほどの逡巡の後、タラップを降り始めた。
……振り向かない。私は振り向かない。
それが私の、航空母艦『瑞鶴』の英姿を表すのだと信じて。
タラップを降り終わった後、一人の艦娘が私に近づいてきた。
彼女はこの鎮守府の艦娘だろう。
彼女の先には、機内から見た赤レンガが見える。
ただ、その近づいてきた艦娘の顔を見て、私は目を見開いた。
「……翔鶴姉!」
「あら、瑞鶴なの!?
久しぶりね!元気にしてた?」
声を掛けた相手―――『翔鶴』―――が顔に喜色を浮かべて、
こちらに近づいてきた。
「もちろん、……とは言えないけど。」
久しぶりに会った姉を気遣う言葉を掛けようと思ったが、
自分の配属理由を思い浮かべ、少し濁してしまった。
ああ、駄目だ。
移動中の機内で気持ちに区切りを付けたはずなのに。
しかしどうしたって明るく振舞えない。
前の出来事はそれほどまでに辛く、苦しい記憶なのだから。
「……そう。瑞鶴、無理はしないでね。
あなたのその顔を見れば、ここに来た理由の想像は付くわ。」
優しく声を掛けてくれる姉。
前から優しいことはよくわかっていたが、こういう時には、その優しさが身に染みる。
「それに、心配することはないわ。
私たちの提督は、あなたが考える提督よりも、ずっと『軍人らしくない』人だから。」
……軍人らしくない?
それはどういうことだろう。
軍紀を守らないだらしがない提督?
―――それなら私の艦載機で爆撃しよう。
自分の責任を自覚していない提督?
―――これも爆撃ね。
いくつか『軍人らしくない』提督について考えてみたが、
如何せん良い印象を浮かべられなかった。
しかし、自分の姉がそんな提督に付き従う訳がない。
私の姉がおしとやかな淑女、というだけの人物ではないことは知っている。
それに、翔鶴姉の紹介の仕方は、
此処の鎮守府の提督に、希望を持って良いと思わせるようなものだった。
―――だとしたら。
此処の提督は、どのような人物なのだろうか。
少し思いを巡らせていた私の考えが遮られる。
翔鶴姉が、私の手を取って歩き出したからだ。
「わっ、え、ちょっと、翔鶴姉?」
「いいから。あまり考えすぎなくていいわよ。
今から提督の執務室に連れていくけど、
貴女は、挨拶を噛まないようにすることだけ考えていればいいから。」
多少強引に連れていかれる。
私の緊張を解そうとしてくれたのだろうけど、
翔鶴姉の顔を見るに、それだけじゃない気がしてきた。
……すごくうれしそうだ。
鼻歌まで歌っている。どうして?
「瑞鶴。ここよ。」
と、何時の間にか執務室の前に到着していた。
慌てて自分の身だしなみを整える。
―――髪は大丈夫かな?
―――声は?顔は?
隣で翔鶴姉が苦笑していた。
……ああ、そうだった。
考えすぎないようにって、翔鶴姉に言われてたのに。
うん。考えすぎない、思いすぎない。
少し深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
大丈夫、大丈夫。
そうやって少し間をおいて、ドアをノックする。
「翔鶴型航空母艦、二番艦瑞鶴。入ります!」
重厚なドアが軋み音を上げながら、ゆっくりと開いていった。
一人称の主は『瑞鶴』でした。
もしこの瑞鶴、またはもう一人の登場人物、『翔鶴』におかしいところがあれば、
ご指摘くださると有難いです。