誓いは彼女の為に    作:ユリシー

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はい。三回目の投稿です。
話を重ねるごとに投稿ペースが遅くなっている気がします……

これから忙しくなると投稿がさらに遅くなるかもしれません。

申し訳ありませんが、気長に待って下さると幸いです。

こちらもできうる限りの努力をして参りますので。

前書きが長くなりましたが、本編、どうぞ!


二話 邂逅

 機体が滑走路に着陸した。

 多少の揺れはあったものの、特に身構えることもなかった。

 

 ―――零式輸送機――― 

 この機体の優秀さもさることながら、機長の腕は確かだろう。

 安定した着地だった。

 

 タラップが降りる。

 機体の外の空気を噛みしめながら、

 今一度機長への感謝の意を込め、敬礼をする。

 

 機長もそれに答礼で返し、短く、

 ―――ご武運を。

 と添えた。

 

 その目は何処か我が娘を心配するかのような、

 自分の教え子の巣立ちを見送るかのような……。

 

 初めて出会った人物だったが、その彼の顔は忘れることはないだろう。

 見送る顔というものは、得てして記憶にとどまり続けるのだから。

 

 『あの頃』に味わった思いは、忘れられるわけがないのだから。

 

 数秒ほどの逡巡の後、タラップを降り始めた。

 

 ……振り向かない。私は振り向かない。

 それが私の、航空母艦『瑞鶴』の英姿を表すのだと信じて。

 

 

 

 

 タラップを降り終わった後、一人の艦娘が私に近づいてきた。

 彼女はこの鎮守府の艦娘だろう。

 彼女の先には、機内から見た赤レンガが見える。

 

 ただ、その近づいてきた艦娘の顔を見て、私は目を見開いた。

 

 「……翔鶴姉!」

 

 「あら、瑞鶴なの!?

  久しぶりね!元気にしてた?」

 

 声を掛けた相手―――『翔鶴』―――が顔に喜色を浮かべて、

 こちらに近づいてきた。

 

 「もちろん、……とは言えないけど。」 

  

 久しぶりに会った姉を気遣う言葉を掛けようと思ったが、

 自分の配属理由を思い浮かべ、少し濁してしまった。 

 

 ああ、駄目だ。

 移動中の機内で気持ちに区切りを付けたはずなのに。

 しかしどうしたって明るく振舞えない。

 前の出来事はそれほどまでに辛く、苦しい記憶なのだから。

 

 「……そう。瑞鶴、無理はしないでね。

  あなたのその顔を見れば、ここに来た理由の想像は付くわ。」

 

 優しく声を掛けてくれる姉。 

 前から優しいことはよくわかっていたが、こういう時には、その優しさが身に染みる。

 

 「それに、心配することはないわ。

  私たちの提督は、あなたが考える提督よりも、ずっと『軍人らしくない』人だから。」

 

 ……軍人らしくない?

 それはどういうことだろう。 

 

 軍紀を守らないだらしがない提督?

 ―――それなら私の艦載機で爆撃しよう。

 自分の責任を自覚していない提督?

 ―――これも爆撃ね。

 

 いくつか『軍人らしくない』提督について考えてみたが、

 如何せん良い印象を浮かべられなかった。

 

 しかし、自分の姉がそんな提督に付き従う訳がない。

 私の姉がおしとやかな淑女、というだけの人物ではないことは知っている。

 

 それに、翔鶴姉の紹介の仕方は、

 此処の鎮守府の提督に、希望を持って良いと思わせるようなものだった。

 

 ―――だとしたら。

 此処の提督は、どのような人物なのだろうか。

 少し思いを巡らせていた私の考えが遮られる。

 

 翔鶴姉が、私の手を取って歩き出したからだ。

 

 「わっ、え、ちょっと、翔鶴姉?」

 

 「いいから。あまり考えすぎなくていいわよ。

  今から提督の執務室に連れていくけど、

  貴女は、挨拶を噛まないようにすることだけ考えていればいいから。」

 

 多少強引に連れていかれる。

 私の緊張を解そうとしてくれたのだろうけど、

 翔鶴姉の顔を見るに、それだけじゃない気がしてきた。

 

 ……すごくうれしそうだ。

 鼻歌まで歌っている。どうして?

 

 

 

 「瑞鶴。ここよ。」

 

 と、何時の間にか執務室の前に到着していた。

 慌てて自分の身だしなみを整える。

 

 ―――髪は大丈夫かな?

 ―――声は?顔は?

 

 隣で翔鶴姉が苦笑していた。

 

 ……ああ、そうだった。

 考えすぎないようにって、翔鶴姉に言われてたのに。

 

 うん。考えすぎない、思いすぎない。

 

 少し深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 大丈夫、大丈夫。

 

 そうやって少し間をおいて、ドアをノックする。 

 

 「翔鶴型航空母艦、二番艦瑞鶴。入ります!」

 

 重厚なドアが軋み音を上げながら、ゆっくりと開いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




一人称の主は『瑞鶴』でした。
もしこの瑞鶴、またはもう一人の登場人物、『翔鶴』におかしいところがあれば、
ご指摘くださると有難いです。

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