拙い部分も有るかもしれませんが、どうかご覧あれ。
穏やかな波が立ち、心地よい風が吹いていた場所に、砲弾による水柱が立ち始める。
つい先程まで南国の日常があったその場所は、一瞬にして崩れ去っていた。
「回避に集中しろ!反撃のことは考えるな!」
深海棲艦とそれに追われる艦娘達。
その艦娘の先頭で声を張り上げて指示を飛ばしていたのは、軽巡『天龍』だった。
ラバウル第一鎮守府で報告に上がっていた水雷戦隊は、天龍を旗艦とする第四水雷戦隊だった。
軽巡二、駆逐四の小規模な戦隊。
おまけに駆逐艦達はまだ練度が低い。
天龍ともう一人の軽巡、『由良』は十分以上の練度が有るものの、駆逐艦を庇いながらでは実力を発揮出来ない。
「天龍さん、どうする?このままじゃ、誰か追い付かれるかも。」
由良が天龍に対して問いかけた。
天龍はそれを受けて回避行動をしながらも考える。
由良の言う通り、不味い状況ではある。
駆逐艦達は戦場に慣れておらず、戦闘開始から十五分経った現在、疲労の色が見えてきている。
また、それに加え、敵艦載機の姿が認識出来ていない。
対空装備も十分とは言い難い。
「回避に専念だ。提督はそう言った。」
打開策が思い付くわけでもなく、苦し紛れにそれしか言えなかった天龍。
だが、ただ一つ光明が有るとすれば、提督が来ることだ。
……アイツが来れば、間違いなく勝てる。
それだけは揺るぎない事実だと、天龍は思っていた。
「とりあえず、由良、お前は艦隊の最後尾へ。遅れてる奴を後ろから押してやれ。」
「了解。」
二つ返事で、彼女は了承した。
最後尾が危険だとハッキリ理解した上でだ。
―――無茶はしないでくれよ。
内心ではそう思いながら、改めて索敵と回避に努める。
レーダーは装備していない。
今回の出撃で、このような敵と遭遇するとは思ってもみなかったからだ。
……感覚を研ぎ澄ます。
レーダーが無くとも、感覚を用いればおおよそ検討も付く。
天龍はそれが出来る位には、戦場を駆けている。
後方から、敵駆逐、軽巡合わせて十。
戦艦はその部隊の更に後方から定期的に砲撃を加えてきている。
空母は見えず。
少なくとも、砲撃を加えている戦艦部隊の近くではない。
……定期的な砲撃?
引っ掛かった部分はそこだった。
決して砲撃後、再装填完了次第、順次砲撃、というわけでも無さそうだ。
それにしては、砲撃の間隔が空きすぎている。
―――まさか!
天龍がそう気づいたときは、もう遅かった。
「敵機来襲!数四十余り!」
由良が鋭く声を上げる。
そしてその時にはもう、敵機が視認出来る距離まで近付かれていた。
が、そこで天龍は致命的とも言えるミスをしていたことに気が付く。
暗礁地帯。
彼女は回避を急ぐあまり、周囲の確認を疎かにしていた。
そしてたどり着いた―――誘い込まれたの方が適切か―――場所が、そこだったという訳だ。
こんな所では回避行動など録に取れない。
歯軋りしながらも、天龍は指示を飛ばす。
「対空戦闘用意!死ぬ気で撃ち落とせ!!」
その指示を受けて、駆逐艦達も対空警戒体勢をとる。
しかし、その顔は戸惑いと不安で満ちていた。
由良が、それを見て、先ず彼女から対空機銃掃射を始めた。
駆逐艦も、それに続いて撃ち始める。
天龍も勿論、その後に続いた。
だが、それで撃ち落とせたのはほんの数機。
撃ち漏らした急降下爆撃隊、戦闘機隊が、遂に攻撃を始めた。
風切り音を帯び、爆撃機から、鋼と火薬の塊が落とされる。
それは殆どが海中へと没し、盛大な水柱を立てたが、幾つかは艦娘達の至近距離へと着弾した。
何人かの悲鳴が聞こえる。
天龍は襲いかかる敵機を相手に、果敢にも機銃を打ち込み、何機か撃墜していたものの……
「―――ッ!」
至近弾の破片が直撃し、体勢を崩す。
思わず閉じてしまっていた目を開き、直ぐに敵機に追撃をかけようとする。
だが、その少しの隙は、天龍を狙う敵にとってこの上ない僥幸であった。
「天龍さん!!後ろ!」
由良の声にハッとして後ろを見るも、もう遅かった。
……見下していた。
こんな物なのかと。
この程度で終わってしまうのかと。
天龍と目が合った深海棲艦は、そんなことを感じさせるような目で、
―――砲弾を放った―――
肌に感じる爆風と思われる風圧。
それとともに感じる熱。
感覚が残っている、ということは即死ではないのだと。
我ながら冷めた分析だ、と思いながらも天龍は恐る恐る目を開く。
しかしそこで目にしたのは、自分の体の一部に砲弾が刺さっている、という光景でもなく、
また、そもそも自分の体が、もう見るに堪えない状態であった、という事でもなく。
ただ目の前で、『刀を手に握りしめている』男の姿だった。
「遅くなった。」
短く謝罪の言葉と共に、男は口を開く。
だがそのぶっきらぼうともとれる言葉とは裏腹に、彼の目には明確な怒りが表れていた。
「提、督?」
由良が気の抜けたような声で、その男に問いかける。
男はそれに対し、ほんの少しだけ口元をゆるめて答える。
「ああ。私は君達の提督だ。」
そして、と提督は一旦区切り、改めて言い始める。
「君達を護り通すと誓った『司令官』だ。」
提督が本格的に戦うのは次回以降となります。
それまでどうかお待ちください(-_-;)