誓いは彼女の為に    作:ユリシー

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諸事情あり、六か月以上更新していませんでしたが、続きです。
何とか今回、更新できました。

これからも投稿ペースが遅くなってしまいそうです。
それでも、必ず更新はしていくので、どうぞよろしくお願い致します。




七話 飛翔

 「どうだった、瑞鶴?」

 

 翔鶴姉のその一言で、ようやく意識を戻す。

 私は、偵察機の妖精と視覚同期をして、さっきまでの提督の様子を見続けていた。

 

 ……勿論、覗き見が悪いことであるのは分かっていたけど。

 

 だが目を見張るような光景ばかりだったのだ。

 提督が砲弾を刀で撃ち落としたり、刀で深海棲艦を叩き斬ったり。

 

 それら全てが今まで見たことも聞いたこともない離れ業。

 当然目を離せるはずもなかった。

 

 「……よっぽど驚いていたのね。

  そうなるのも無理はないわ。私も初めて見た時は、貴女と同じような感じだったんだもの」

 

 翔鶴姉の言葉を聞いて少し安心する。

 あれは決して通常ではないことを確認できたから。

 

 ただ、意外だったことはそれだけではない。

 上から見ていたから分かるが、先程まで提督は、一人の艦娘と親しげに話していた。

 

 ……正直有り得ない事だった。

 呉では、どんな理由であれ、中大破した艦娘は必ずと言っていいほど罵声を浴びせられていた。

 

 それを叱るわけでもなく―――それが当然であってほしいが―――優しく微笑みかけているのが衝撃的だった。

 

 「……ねぇ、翔鶴姉。

  提督は、いつもあんな感じなの?」

 

 ふと、尋ねたくなった。

 驚くようなことばかりで確認したいというのもあったが、もう一つ、意味を含んだ問いだった。

 

 翔鶴姉はすぐにその問いに答えてくれた。

 

 「ええ。提督が毎回陣頭指揮を執ってるわ。

  そしてその後には必ず、みんなに声を掛けて回っている。」

 

 ―――嬉しいけれど、危険だということをもう少し理解してほしいわ。

 

 何処か困ったように最後付け加えて言っていたが、それと同時に、誇らしげに語っているようにもに見えた。

 

 『もし、私の期待にそぐわない人物であるなら……』

 

 私が提督に初めて会った時の言葉。

 『もし』なんて言葉は付け加えるんじゃなかったな、と今更ながら後悔する。

 

 

 

 

 ちょうどその時だった。

 

 「……瑞鶴、居たわ。

  戦艦四、空母二、他護衛艦多数。敵の主力ね」

 

 一転引き締まった表情で、翔鶴姉が言う。

 

 覚悟も決まった。

 ならば、私が持つすべてを、敵にぶつけるのみ。

 

 「翔鶴姉、行くよ!」

 

 矢を弦に番え、構える。

 

 「ええ。勿論」

 

 翔鶴姉も続けて、構える。

 

 水平線の彼方に向け狙いを澄ます。

 呼吸を整え、ゆっくりと弦を引く。

 

 決して気の抜けない作業だ。

 ここでの良し悪しが、艦載機の稼働に影響を与える。

 

 静かに狙い、そして……

 

 「第一次攻撃隊、発艦始めっ!!」

 

 弓を離れ、一本の矢が大海原へと駆け出す。

 少しして、それは段々と変化していった。

 

 日差しを跳ね返す金属光沢。

 耳に残る発動機の駆動音。

 

 ―――成功だ!

 

 少しだけ顔を綻ばせ、飛び立った艦載機たちを見守る。

 

 不安はあったが、問題なく、またとても良い状態で送り出せた。

 これならば……

 

 「一、二、三……

  やったわ!敵艦五隻の撃沈を確認よ!」

 

 ―――よしっ!

 内心ガッツポーズをして喜ぶ。

 

 あとは、戦果の確認と、第二次攻撃隊の発艦の準備を……

 

 

 

 

 ―――目が合った。

 

 

 

 

 青白く光り輝く目を見てしまった。

 

 しまった、と思った時にはもう遅かった。

 敵の空母から艦載機が次々と発艦していた。

 それどころか、直衛艦や戦艦たちも前進を開始していた。

 

 当然、攻撃目標は私たち。

 隣の翔鶴姉も私と同じく大きく目を見開き、茫然としていた。

 

 ……どうすれば、どうすれば……!

 

 悩んでも見つからない。

 答えが、最適解が思いつかない。

 このままじゃ……

 

 

 

 

 「艦載機だ!敵空母を狙え!」

 

 

 

 

 何処からともなく、声が聞こえてきた。

 だがその声は、固まったままだった私を一瞬で突き動かした。

 

 矢筒から矢を抜き放ち、即座に番える。

 狙いは驚くほど速く、そして正確に定まった。

 

 「第二次攻撃隊、発艦始めっ!!」

 

 再び艦載機たちが航空隊を結成して、大海原へ飛び立つ。

 やや遅れて翔鶴姉も同様に、艦載機を射出した。

 

 そこでようやく、私は声がした方を向いた。

 そこにいるのが誰か、なんてことは最早分かり切っていた。

 しかしそれでも、それでも『あの戦い方』を確かめてみたかった。

 

 

 

 

 「待たせたな」

 

 短く私にそう告げて、彼は敵の群れに向かって突撃していく。

 白刃は恐ろしいほどまでに煌めいていて、それだけで後の展開を予感できた。

 

 ―――ひとつ。

 真正面から彼とぶつかることになった敵の深海棲艦は、私が瞬きした一瞬で鉄屑と化していた。

 

 ―――二つ。

 彼の横から飛び出してきた別の個体は、返す刀で両断された。

 

 ―――三つ、四つ、五つ。

 一斉に飛び掛かった深海棲艦達だったが、それでも彼の歩みを止められない。

 いや、止めるどころか更に加速していっている。

 

 提督は敵輪形陣の中央の空母を狙っているようだった。

 道を塞ぐ敵艦は即座に斬り捨て、距離を詰めていく。

 

 そこに来て敵空母は提督に艦載機を差し向けた。

 当然の反応と言えばそれまでだが、しかし……

 

 「今だ!」

 

 上空に待機させておいた攻撃隊を一気に急降下させる。

 敵艦隊上空の守りは殆ど無い。

 これなら、いける!

 

 風切り音と最高出力時独特のエンジン音が響く。

 敵が上空を見上げた時は、すでに手遅れだった。

 

 

 

 

 轟音。

 轟音。

 轟音…………

 

 

 

 

 一度だけではなく、二度、三度……

 

 炎と煙の中で青白い瞳の色が一瞬一際光り輝き、そして消えてゆく。

 形容出来ない程の恐ろしい断末魔を上げながら、その身を海に沈めてゆく。

 

 「……やったの、私……?」

 

 敵艦の多くが沈んでゆく。 

 さっきまでは想像すら出来なかったそんな光景を前にして、気の抜けた声を出す。

 

 「ええ、貴女が仕留めたのよ。

  敵空母二、戦艦二、重巡一……

  大戦果よ、瑞鶴!」

 

 翔鶴姉がそう言うが、まだ信じ切れていなかった。

 唖然、茫然、とにかく呆けた顔で私は海の上に突っ立っているのだろう。

 

 ただ、そんな私でも、燃え盛る海の中から、一人の男が現れたのを見つけることが出来た。

 白を基調とする軍服、海軍第二種軍装を身に纏い、腰には刀を佩いている。

 煌々と燃え盛る炎の中でも、一際目立つその出で立ち、そしてその瞳。

 瞳の中に宿す炎は、彼の背後の炎よりも激しく燃え盛っていた。

 

 「翔鶴の見込み通りだったな」

 

 開口一番、彼が言った感想。

 それは恐らく本心で、だからこそ―――何となくだが―――驚いているように感じた。

 表情には、幾分か驚きの色が表れている。

 

 驚いているのは、やはり当然だろうと思う。

 自分ですらこのような戦果を挙げたことを信じ切れていないから。

 

 ふと、彼の表情が柔らかくなる。

 

 「流石、よくやってくれたな、瑞鶴」

 

 さっきまでとは違って、明るい笑みを浮かべて言っていた。

 本当に、ついさっきまで殺気を孕んだ表情だったのが、今は打って変わって笑顔。

 不思議と、私は照れ臭くなる。

 

 ―――あの時の天龍さんは、こんな気持ちだったのかな。

 私が求めていた言葉。

 私の成果に対する素直な賛辞。

 

 そして。

 

 私を安心させてくれる背中と、その笑顔。

 

 敵わないな、と思う。

 提督がこんなことを言うなんて、思ってもみなかった。

 

 「提督、いや、提督さん」

 

 私は意識せずに言葉を発していた。

 一瞬驚いたが、でも、伝えたいと思うことはすぐに出てきた。

 

 「私、まだまだ頑張るから!」

 

 この人の役に立って見せる。

 この人の力になって見せる。

 

 私はそう決心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 へぇ、とつぶやきを漏らす。

 

 「彼女、いい腕してるじゃない」

 

 出撃任務を終えて帰投する最中、鎮守府から打電があった。

 どうやら、戦闘中の味方艦隊がいて、窮地に立たされているらしい。

 

 全速力で救援に駆け付けようとしたが、私たちが到着する前に戦闘は終了したようだ。

 偵察機の観測で確認出来た。

 

 私が特に気になったのは、翔鶴の隣に居た子。

 提督の助力があったとはいえ、戦果としては素晴らしいものだ。

 

 ―――それにどうも、提督も気に入っているみたいだし。

 

 あくまで直感、されど直感。

 

 直感は非常に役に立つ物だと、私は知っている。

 

 彼女が気になるのは山々だが、先ずは報告を。

 無線機を手に取って、鎮守府へ報告する。

 

 「第二艦隊、旗艦『飛鷹』、只今帰還しました」

 

 鎮守府へ帰投してから、彼女に会うこととしよう。   

 

 

 




ようやくメインキャラが大体出せたなぁ、と。
飛鷹は絶対に出したかったキャラですので。

原作でも思い入れが強いキャラです。

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