何とか今回、更新できました。
これからも投稿ペースが遅くなってしまいそうです。
それでも、必ず更新はしていくので、どうぞよろしくお願い致します。
「どうだった、瑞鶴?」
翔鶴姉のその一言で、ようやく意識を戻す。
私は、偵察機の妖精と視覚同期をして、さっきまでの提督の様子を見続けていた。
……勿論、覗き見が悪いことであるのは分かっていたけど。
だが目を見張るような光景ばかりだったのだ。
提督が砲弾を刀で撃ち落としたり、刀で深海棲艦を叩き斬ったり。
それら全てが今まで見たことも聞いたこともない離れ業。
当然目を離せるはずもなかった。
「……よっぽど驚いていたのね。
そうなるのも無理はないわ。私も初めて見た時は、貴女と同じような感じだったんだもの」
翔鶴姉の言葉を聞いて少し安心する。
あれは決して通常ではないことを確認できたから。
ただ、意外だったことはそれだけではない。
上から見ていたから分かるが、先程まで提督は、一人の艦娘と親しげに話していた。
……正直有り得ない事だった。
呉では、どんな理由であれ、中大破した艦娘は必ずと言っていいほど罵声を浴びせられていた。
それを叱るわけでもなく―――それが当然であってほしいが―――優しく微笑みかけているのが衝撃的だった。
「……ねぇ、翔鶴姉。
提督は、いつもあんな感じなの?」
ふと、尋ねたくなった。
驚くようなことばかりで確認したいというのもあったが、もう一つ、意味を含んだ問いだった。
翔鶴姉はすぐにその問いに答えてくれた。
「ええ。提督が毎回陣頭指揮を執ってるわ。
そしてその後には必ず、みんなに声を掛けて回っている。」
―――嬉しいけれど、危険だということをもう少し理解してほしいわ。
何処か困ったように最後付け加えて言っていたが、それと同時に、誇らしげに語っているようにもに見えた。
『もし、私の期待にそぐわない人物であるなら……』
私が提督に初めて会った時の言葉。
『もし』なんて言葉は付け加えるんじゃなかったな、と今更ながら後悔する。
ちょうどその時だった。
「……瑞鶴、居たわ。
戦艦四、空母二、他護衛艦多数。敵の主力ね」
一転引き締まった表情で、翔鶴姉が言う。
覚悟も決まった。
ならば、私が持つすべてを、敵にぶつけるのみ。
「翔鶴姉、行くよ!」
矢を弦に番え、構える。
「ええ。勿論」
翔鶴姉も続けて、構える。
水平線の彼方に向け狙いを澄ます。
呼吸を整え、ゆっくりと弦を引く。
決して気の抜けない作業だ。
ここでの良し悪しが、艦載機の稼働に影響を与える。
静かに狙い、そして……
「第一次攻撃隊、発艦始めっ!!」
弓を離れ、一本の矢が大海原へと駆け出す。
少しして、それは段々と変化していった。
日差しを跳ね返す金属光沢。
耳に残る発動機の駆動音。
―――成功だ!
少しだけ顔を綻ばせ、飛び立った艦載機たちを見守る。
不安はあったが、問題なく、またとても良い状態で送り出せた。
これならば……
「一、二、三……
やったわ!敵艦五隻の撃沈を確認よ!」
―――よしっ!
内心ガッツポーズをして喜ぶ。
あとは、戦果の確認と、第二次攻撃隊の発艦の準備を……
―――目が合った。
青白く光り輝く目を見てしまった。
しまった、と思った時にはもう遅かった。
敵の空母から艦載機が次々と発艦していた。
それどころか、直衛艦や戦艦たちも前進を開始していた。
当然、攻撃目標は私たち。
隣の翔鶴姉も私と同じく大きく目を見開き、茫然としていた。
……どうすれば、どうすれば……!
悩んでも見つからない。
答えが、最適解が思いつかない。
このままじゃ……
「艦載機だ!敵空母を狙え!」
何処からともなく、声が聞こえてきた。
だがその声は、固まったままだった私を一瞬で突き動かした。
矢筒から矢を抜き放ち、即座に番える。
狙いは驚くほど速く、そして正確に定まった。
「第二次攻撃隊、発艦始めっ!!」
再び艦載機たちが航空隊を結成して、大海原へ飛び立つ。
やや遅れて翔鶴姉も同様に、艦載機を射出した。
そこでようやく、私は声がした方を向いた。
そこにいるのが誰か、なんてことは最早分かり切っていた。
しかしそれでも、それでも『あの戦い方』を確かめてみたかった。
「待たせたな」
短く私にそう告げて、彼は敵の群れに向かって突撃していく。
白刃は恐ろしいほどまでに煌めいていて、それだけで後の展開を予感できた。
―――ひとつ。
真正面から彼とぶつかることになった敵の深海棲艦は、私が瞬きした一瞬で鉄屑と化していた。
―――二つ。
彼の横から飛び出してきた別の個体は、返す刀で両断された。
―――三つ、四つ、五つ。
一斉に飛び掛かった深海棲艦達だったが、それでも彼の歩みを止められない。
いや、止めるどころか更に加速していっている。
提督は敵輪形陣の中央の空母を狙っているようだった。
道を塞ぐ敵艦は即座に斬り捨て、距離を詰めていく。
そこに来て敵空母は提督に艦載機を差し向けた。
当然の反応と言えばそれまでだが、しかし……
「今だ!」
上空に待機させておいた攻撃隊を一気に急降下させる。
敵艦隊上空の守りは殆ど無い。
これなら、いける!
風切り音と最高出力時独特のエンジン音が響く。
敵が上空を見上げた時は、すでに手遅れだった。
轟音。
轟音。
轟音…………
一度だけではなく、二度、三度……
炎と煙の中で青白い瞳の色が一瞬一際光り輝き、そして消えてゆく。
形容出来ない程の恐ろしい断末魔を上げながら、その身を海に沈めてゆく。
「……やったの、私……?」
敵艦の多くが沈んでゆく。
さっきまでは想像すら出来なかったそんな光景を前にして、気の抜けた声を出す。
「ええ、貴女が仕留めたのよ。
敵空母二、戦艦二、重巡一……
大戦果よ、瑞鶴!」
翔鶴姉がそう言うが、まだ信じ切れていなかった。
唖然、茫然、とにかく呆けた顔で私は海の上に突っ立っているのだろう。
ただ、そんな私でも、燃え盛る海の中から、一人の男が現れたのを見つけることが出来た。
白を基調とする軍服、海軍第二種軍装を身に纏い、腰には刀を佩いている。
煌々と燃え盛る炎の中でも、一際目立つその出で立ち、そしてその瞳。
瞳の中に宿す炎は、彼の背後の炎よりも激しく燃え盛っていた。
「翔鶴の見込み通りだったな」
開口一番、彼が言った感想。
それは恐らく本心で、だからこそ―――何となくだが―――驚いているように感じた。
表情には、幾分か驚きの色が表れている。
驚いているのは、やはり当然だろうと思う。
自分ですらこのような戦果を挙げたことを信じ切れていないから。
ふと、彼の表情が柔らかくなる。
「流石、よくやってくれたな、瑞鶴」
さっきまでとは違って、明るい笑みを浮かべて言っていた。
本当に、ついさっきまで殺気を孕んだ表情だったのが、今は打って変わって笑顔。
不思議と、私は照れ臭くなる。
―――あの時の天龍さんは、こんな気持ちだったのかな。
私が求めていた言葉。
私の成果に対する素直な賛辞。
そして。
私を安心させてくれる背中と、その笑顔。
敵わないな、と思う。
提督がこんなことを言うなんて、思ってもみなかった。
「提督、いや、提督さん」
私は意識せずに言葉を発していた。
一瞬驚いたが、でも、伝えたいと思うことはすぐに出てきた。
「私、まだまだ頑張るから!」
この人の役に立って見せる。
この人の力になって見せる。
私はそう決心した。
へぇ、とつぶやきを漏らす。
「彼女、いい腕してるじゃない」
出撃任務を終えて帰投する最中、鎮守府から打電があった。
どうやら、戦闘中の味方艦隊がいて、窮地に立たされているらしい。
全速力で救援に駆け付けようとしたが、私たちが到着する前に戦闘は終了したようだ。
偵察機の観測で確認出来た。
私が特に気になったのは、翔鶴の隣に居た子。
提督の助力があったとはいえ、戦果としては素晴らしいものだ。
―――それにどうも、提督も気に入っているみたいだし。
あくまで直感、されど直感。
直感は非常に役に立つ物だと、私は知っている。
彼女が気になるのは山々だが、先ずは報告を。
無線機を手に取って、鎮守府へ報告する。
「第二艦隊、旗艦『飛鷹』、只今帰還しました」
鎮守府へ帰投してから、彼女に会うこととしよう。
ようやくメインキャラが大体出せたなぁ、と。
飛鷹は絶対に出したかったキャラですので。
原作でも思い入れが強いキャラです。