我等が真祖を、語り継げ。   作:白蛆

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閑話的なものです。天地神明の真祖龍にて登場した、端役のような脇役をクローズアップして勝手に設定をでっち上げるというコーナーです。
さて、今回のターゲットは、『病魔』。

嫌われ者な彼ですが、私はあの子大好きです。

というわけで、


『残酷な描写lv1』、どうかお楽しみください。


病巣の章1〜Necrophilia〜

 

俺は一体何をやっているんだ。

 

右手にべっとりと張り付いた生暖かい液体。

左の手で頬を拭えば、その一部が鮮やかな赤色に染まる。

耳障りだった大雨の音は、今はもう俺の耳には届かなくなっていた。

 

俺は一体何をやっているんだ。

 

雷鳴の轟く中で、俺はもう一度自問する。

しかしそれは、問うまでもない疑問であった。自分の右腕に握られた鋭利な刃物が、俺の前に斃れ伏す人の形をした肉の塊が、事の全てを物語っていたのだから。

 

既にピクリとも動く事のない人の形をした肉の塊に、必死に縋り付く女が俺に向ける表情が、視線が、全てを物語っていたのだから。

女は人間が出し得る最大限の憎悪の視線を俺に向けて、掠れた声で絞り出すようにこう言った。

 

「こんな……こんなモノ産むんじゃなかった。」

 

それは、俺という存在の完全否定。

ソレを生み出してしまった自分への、憎悪。

 

「消えろっ、ゴミ!」

 

ゴミに対する、呪詛。

 

 

……俺は一体、何をやっているんだ。

 

◇◆◇◆◇

 

「おーい、今日7時からモンハンマルチやろうぜ。」

「了解、誰が部屋立てるんだ?」

「朽木がパスかけて立てるってさ。」

「わかった、んじゃまたなー。」

「うーい。」

 

俺の名前は……いや、覚えてもらう必要はない。

俺にとって名前というのはそれほど重要なものではない……どころか、憎悪の対象ですらあるからな。どうせ浅い付き合いになる事だろうし、知ってもらう必要なんて無いさ。

さて、テンプレに倣えば名前の後に出てくる文言といえば、『極々普通の高校生だ』などが主流なのであろうが、こと俺はというと胸を張って『普通の高校生』を名乗れるのかは微妙なところであった。

 

とは言っても、それは高校生とは世を忍ぶ仮の姿!とか、何か特別な能力を持っているからとか、そういう夢のある理由ではない。俺としても出来ればそっちの方が良かったのだが、世の中というのは少しも俺の思い通りに行ってくれた試しなど無いというのが現状だ。

 

さて、では俺がどのように普通の高校生から異なるのかと言えば、一つは親が居ない事、もう一つは左目が見えないこと、これに尽きるであろう。確かに厨二心的に言えば隻眼というのは少々ロマンはあるものの、日常生活における実用性を考えると、とても嬉しいものではない。

……こうなった原因が原因だしな。

 

まあ、逆に言えばそれ以外では極々普通の高校生であり、彼女なんて貴重なものは居ないが友達はいるし、運動神経は特別優れているというわけではないが平均以上だし、学力に関してもそもそも周りのレベルが低いというのもあるがしっかりと上位に位置している。

親は居ないが、幸運にも親戚が引き取ってくれたため、生活に困っているということもない。限度はあるものの、ねだればゲームや携帯くらいは買い与えてもらうことができた。

最近の趣味はモンハンをプレイすることと、携帯小説を見ることくらい。まあ、趣味とは言っても一過性のマイブームみたいなものであり、すぐに飽きることであろうが。

 

「ただいま。」

 

家から近いという理由だけで入った高校というだけあって、一度帰路につけばそこまで時間がかかることもなく帰ることが出来る。そうして、いつも通りに自分の帰還を知らせると、しかし家内から返事が返って来ることは決して無かった。別に家の中に誰もいないと言うわけではなく、単に俺に興味が無いという、ただそれだけである。それでも俺が「ただいま」と言うのは、単にやめるタイミングを見失ったからに他ならない。人間、一度習慣化してしまったものは特別なキッカケでもない限りそう容易くやめやることなど出来ないのだ。

 

別に、俺と俺を引き取ってくれた親戚夫婦は特別仲が悪いというわけではない。特に俺からすれば引き取ってくれた恩こそあれ嫌う理由など一つもないのだから……。

しかしながら、現在の俺と親戚夫婦の関係性と言えば、最低限の不干渉というのが基本であった。親戚夫婦からすれば、引き取り手の無かった俺を押し付けられたというのは貧乏くじに他ならないし、本心からすれば家の中にいることさえ忌々しいのであろう。しかし、それでも俺を家から追い出すことをしないのは、一度は引き取ることを了承したという責任感と、そして俺という人間に対する恐怖があったからだ。逆に言えば、そこに愛情などというものは存在しない。

 

まあ、愛情など実際の親子の間ですら本当にあるとは思えない。所詮は幻想に過ぎないものだ、それを親戚間で抱けという方が無理なことであろう。

 

 

家に帰ってからも、特別俺に何かをすることなど無い。ただいつものように課題をやって、風呂に入って、ゲームをして、インスタントな飯を食い、寝る。そんな何の変哲も無いルーティンワークである。

いや、もっと正しく言えば、俺は睡眠時間は出来るだけ短くて済むようにしている。布団に潜った後でも携帯を弄り、ハーメルンでモンハンの転生モノ小説を漁ったりしながら、時間を潰していくのだ。

 

それは単に、俺がモンハン小説が好きで、その主人公達に憧れすら抱いているという以前に、俺は自分の夢を恐れているという大きな理由が存在する。この歳にもなって「怖い夢を見るから寝たくない」など正直あまりにも恥ずかしすぎるので周囲の人間には言っていないが、これは俺にとってはかなり深刻な問題であった。

 

とはいえ、三大欲求の一つである睡眠欲に、ただでさえ普段から睡眠不足である俺が抗える筈もなく、時間と共に瞼が垂れ下がり、意識は闇の底へと消えていく。

 

そうして、眠る度に、俺は見る。

 

 

忌々しき、古い記憶を–––––––

 

◇◆◇◆◇

 

才能には、恵まれていた筈である。

実際、自分が幼い頃には年齢の割にはとても賢い子であると、周囲に持て囃されていた記憶がある。思えば、あの頃が一番幸せであったのだろう。何も知らず、何も考えず、世界なんてチョロいものだと思っていた。

 

だけど、そんな俺の世界は、すぐに潰えることになる。

俺の二歳下にあたる弟は、間違えなく天才であった。多少賢いとはいえ、凡才の一人に過ぎない俺とは異なり、彼は正真正銘の天才であったのだ。

俺よりも二歳も年下であるにも関わらず、何をやらせてもすぐに俺の上を行ってしまう。俺がどんなに努力しようとも効率の良さによって容易く覆され、得意と思っていた分野でさえ軽く捻り潰される。それも、二歳も年下の相手にである。当時の俺の兄としてのプライドはズタボロであった。

 

さて、突然ではあるが、俺の家は母子家庭である。残念ながら今の時代となってはさほど珍しいというわけではない、シングルマザーの家庭に生まれたのだ。

原因は父と母の離婚だが、そこを語れば長くなる上に詰まらないので割愛するとして、さほど珍しいものではないとはいえ、シングルマザーの家庭というのは決して余裕のあるものではない。女手一つで二人の子供を育て上げるというのは相当に無理がいる。そして、離婚したことからもわかるように、あの女はそこまで忍耐力のある人間ではなかった。

 

……では、そんな二人の子供のうち、片方が天才で、可愛げもあり、真面目な子あったとして、貴女はどちらを優先するだろうか?

 

論ずるまでもない。あの女は最悪俺を潰してでも弟を育て上げることを選んだ。別にその選択自体は間違っているというわけではない。十分に将来性の見込める子供と、一凡人に過ぎない子供、前者を取るのはあまりにも当然のことである。

そして、優秀な人間を優秀に育て上げるには、それ相応の金が必要だ。私立中学、高校、大学……そこまで考えれば、とてもではないが子供二人を育てながらシングルマザーが賄える額ではない。

 

では、どうするべきか?簡単だ、将来性の薄い方に、徹底的に金をかけなければいい。安い服を成長のギリギリになるまで着倒させ、安い餌を与え、娯楽など視界にも触れさせないようにすればいい。

一銭でも節約し、優秀な方の子供の将来に当てるのだ。確かに、将来的なことを考えればその方が遥かに合理的である。年上に勝つということで弟に自信を付けさせるというテクニックも、随分と鮮やかなものであった。

それはもう、忌々しいまでに。

 

愛情の反対は無関心とはよく言ったもので、あの女は俺が失敗しても怒るようなことはしなかった。それは、その時々にはいいことだと思っていたのだが、後になって考えてみれば、失敗を咎めないというのは、「そもそも期待などしていない」ということの裏返しに他ならないことに気付く。本当に、あの女にとっては俺のことなどどうでもいいのである。

 

……極め付きは、俺と弟が些細なことで喧嘩をした時。別に兄弟喧嘩など珍しいことでもなんでもないのに、あの女は憤怒に表情を染め、俺を強引に叩き伏せてヒステリックにこう叫んだ。

 

私の息子(・・・・)に何をするの!」

 

 

……テメェが叩き伏せたソレは何だよ。

 

あの年齢、特にシングルマザーの家庭においては、母親というのは家庭内における絶対者であり、子供にとってもっとも大きな影響を受ける相手である。

そんな相手から、俺は愛されなかった。俺は認めてもらえなかった。

 

教師も然り、周りの大人も子供も、幼少期に形成される特別な世界(コミュニティ)に所属する自分以外の全ての人間が、俺が何をやろうとも優秀な弟と比較して、俺を認めることは決して無い。どんなことをしても、俺は弟を越えることが出来ない、俺はこの世に生を受けたその時から、ただ弟の能力を強調するための咬ませ犬……モブに過ぎなかったのだ。

 

 

なんで……?

 

こんなに頑張ってるのに、こんなに苦しんでるのに……

 

 

どうして誰も、俺のことを見てくれない?

どうして誰も、俺のことを認めてくれない?

 

 

誰かに自分を見て欲しい。誰かに自分を認めて欲しい。

まるで、物語の主人公のように……

 

 

 

 

–––––––主人公のように、なりたい。

 

◇◆◇◆◇

 

殺した理由を明確に述べよと言われても、ハッキリとした理由を言うことは出来ない。それはただの、積み重ね……長きに渡って蓄積された無念が、ふとした拍子に弾けただけである。

人というのは簡単に死ぬ。まだ非力な子供でも、隙さえあれば包丁の一本で誰でも殺すことができる。素人同士の戦いは、単純な刺した者勝ち。そこに才能など介入する余地すらなく、先に仕掛けた方が相手を殺す。

 

実際にやってみれば、なんとも容易いものである。こんなに簡単に殺せるなら、もっと早くに殺しておくべきであった。

 

「よくも、よくも私の子供をっ!!」

 

ああそうだな、お前の息子を殺してやったよ。ザマミロ。

 

「こんな……こんなモノ産むんじゃなかった。」

 

その気持ちはよくわかるさ、俺もお前なんかに産まれたって考えるだけで虫唾が走るよ。

 

「消えろ、ゴミ。」

 

何故俺がお前の命令を聞く必要がある?

 

 

それは、俺が産まれた日。

それは、俺が死んだ日。

左目の視力を失った、丁度その日の出来事である。

 

◇◆◇◆◇

 

目を覚ますと、体が脂汗でべっとりと濡れていた。

あの日から1日たりとも欠かすことなく、ずっと見続けてきた悪夢は、しかし慣れることなく等しい恐怖と嫌悪感を俺に与え続ける。

 

体にまとわりついた汗とズッシリと重い倦怠感、そして心の中に渦巻き続ける嫌悪感を洗い流すようにシャワーを浴びると、俺はいつも通りの日常に戻っていく。

 

「おはよう。」

 

その言葉に、返事をする者はやはり居ない。いつものようにたった一人で栄養補給のためだけの簡素な朝食を胃袋の中に掻っ込むと、早々に家から出る。ここまで顔を合わせることも無かった親戚夫婦……だがまあ、このくらいの距離感が丁度いいとすら思っていた。

子供だったとはいえ俺は元殺人犯、出来るだけ関わりたくないという心情は十分に理解できる。家に置いてくれるだけで充分すぎるとさえ言っても良いだろう。

 

だから俺は、そんな二人に迷惑をかけないように、出来るだけ早く独り立ちしようと思っていた。過去の関係を全て精算して、新たな人生を歩みだしたいという願望を抱いていた。

 

そうして、今日も学校へと向かう。

 

「あー、眠み。」

 

……その日は、いつもと同じ朝だった。

 

----ォォォォォォオオオオ...

 

いつもと同じように学校へ行き、

 

「今日一時間目から数学とかダッル!」

 

いつもと同じように授業を受け、

 

オオオオオオオオオオオオオッッ!

 

いつもと同じように帰ってくる。

 

「あん?」

 

そんな、いつもと同じ一日であるはずだった……

 

バンッ!!

 

……人というのは、簡単に死ぬ。

トラックに跳ねられ、急速に消え行く意識の中で、俺は願った。

 

 

–––––––どうか来世があるならば、皆んなに認められるような、

 

 

 

 

主人公のように、なりたい–––––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

その名は、"病魔の胎動"





母親は病魔君を「こんなモノ」と称し、
病魔君は最後まで母親とは言わず「あの女」と呼び続ける。

エターナルフォースブリザードな関係はお好きですか?


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