我等が真祖を、語り継げ。   作:白蛆

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覚醒の章、5〜Gaze〜

トゥチカが隠れて様子を見に行くと、そこには驚愕的な光景が広がっていた。

 

(……三頭)

 

一頭でさえ絶大的な力と影響力を持つ"龍"が、三頭。

正確には、最初に生まれた"龍"の体色は純白であったのに対し、新たに生まれた二頭はそれぞれ真紅と漆黒であるので、まったくもって同じ存在であるとは言い難いのだが、それに準ずる力を持っているのは誰が見ても明らかだった。

 

「……それにしても、こうして並べてみると……成長が早いわ。」

 

純白の龍が日々成長しているのは観察の過程で当然わかってはいたが、改めてこうして比較対象が現れるとその成長度合いがよくわかる。成体がどれほどの大きさになるのかはわからないが、生まれて10日程度でここまで成長するということは、最終的にはかなりの巨躯を誇るであろうことは想像に難くない。

……と、そこでトゥチカは目の前の化け物が、未だ幼体であることを改めて思い出す。幼体の時点でファレンスウルフの群れを塵芥の如く葬る"龍"が成体になった時……いったいどれほどの力を発揮するかなど、既に卑小な人間ふぜいの想像の範疇に無かった。

 

もし、この三頭の"龍"が成体になったとして、果たして抗うことのできる生命体などこの世に存在するのであろうか?

 

「もし、人間と敵対する存在なら……」

 

……しかしトゥチカは静かに首を横に振る。

まだその"龍"が人類の敵であると決まったわけではないし、それを見極めるために今自分はここにいるのだ。事は既に個人で対処できる規模の問題ではない。もしこの"龍"という存在が人類の敵対者であったとして、自分にできるのはせいぜい彼等の逆鱗に触れない方法を見つけることぐらいだろう。

 

それに……、

 

「どんな生き物でも、子供は子供……なのかしら?」

 

純白の龍の胸に甘えるように顔を擦り付ける真紅の龍と、純白の龍の顔にペシペシと長い尻尾をぶつける漆黒の龍、そしてそんな二匹にオロオロする純白の龍。それぞれが容易く生命を奪える程の力を持っているとは到底思えないほど、それは平和な光景であった。

 

◇◆◇◆◇

 

生まれたばかりの子供同士での共食いというのは、そう珍しい話ではないのだが、どうやらこの生き物にはそういった生態はないようで、漆黒の龍が純白の龍に尻尾で押さえつけられていたり、ずっとくっ付いたままの真紅の龍が純白の龍に首根っこを咥えられて漆黒の龍の横に並べられるなど、まさに子供同士のじゃれあいといった程度のやり取りは行われるが、基本的に三頭の仲は良さそうである。

トゥチカは最悪"龍"同士で潰し合ってくれないかなとも考えたのだが、どうやら世の中そう上手くはいかないようであった。まあ、そうなったらなったでどのような天変地異が起こるかわかったものでは無いのだが。

 

そうして暫く三頭の様子を観察していると、三頭は川のある方向へと移動を始めた。正確には、純白の龍が川を目指し、他二頭はそれに付いて行っているだけといった印象である。

トゥチカはそれを追って森の中を木から木へと飛び移って移動を始める。しかも三頭に己の存在を知られぬよう、極力音は出さず、常に一定の距離を保ってだ。

いくら慣れている行為とはいえ、不安定な枝から不安定な枝へ……それも"龍"を見失わないよう観察しながらの状態で飛び移るのだ。流石のトゥチカといえどもバランスを崩しそうになることはあるのだが、しかしその度に彼女の体に巻き付いている毒蛇のロゥヴンが、素早くトゥチカと枝の間を固定するという見事なフォローを見せて、最終的にはトゥチカは特に危なげなく森の中を移動することができていた。

 

三頭が河原に到着すると、トゥチカは良さげな場所を探し、岩場の影に隠れて三頭の姿を観察した。

 

川に入っていく純白の龍と、その様子を興味深々といった様子で眺める他二頭。これから何が始まるのかとトゥチカ自身も興味深々に見ていたら、純白の龍は川の中をジッと観察すると、次の瞬間素早く腕を動かし……しかしその腕は何も捉えず、ただ水を掻くのみにとどまった。

 

(あんな目立つ色じゃそりゃあ魚は逃げるわよ。それに上から狙うのも間違いね。鳥に狙われる関係上魚は上に視野が広いから、低い位置から浅い角度で捕まえた方がいいのに。)

 

……と、トゥチカが"龍"とは反対方向に目を向けると、そこには一瞬で魚を獲って渾身のドヤ顔を披露する大鴉のイェルヴァの姿。いったい何を張り合っているのだろうか?

トゥチカは苦笑いを浮かべつつ"龍"の方へ視線を戻すと、その後何度挑戦しても魚を捕ることが出来ていない純白の龍と、既に興味を失ってしまったのか昼寝を始めた真紅の龍と、元から殆ど興味が無かったのか虫を追いかけている漆黒の龍を見て、ひょっとしたらコイツ等力こそあれども技術という点ではまだまだ半人前なのかもしれないと、不思議な親近感を抱くのであった。

 

(一度失敗したら位置を変えるとか工夫はしないのかしら?まぁ、傍迷惑な紅い雷光を使わないだけ、周囲の環境への配慮は……)

 

 

 

–––––––赫光、雷鳴。

 

バァァァァァァアアアアアアアンンンッッ!!!

 

「キャッ……!」

 

褒めた側からこれである。

何度挑戦しても取れないので痺れを切らしたのだろう。

周囲の気温が一気に上昇し、蒸発した川の水がその場に小さな雲を作り出す。直後、風が吹きすさぶと同時にその雲は何処かへ流れて消え、その中から紅い残光を静かに纏った純白の龍が、神々しく姿を現した。

 

(……お馬鹿な行為も映えるのがこの化け物の凄さよね。)

 

純白の龍は自分を中心として浮かぶ大量の魚を見て満足げな表情を見せると、それらを回収して岸へと戻って行った。それを嬉しそうに出迎えたのは漆黒の龍だ。一瞬腹が減っていたのかとも思ったのだが、どうやらそうではないらしい。

どちらかといえば、純白の龍が使った紅い雷の方に興味を示している気がする。まるで新しいオモチャを見つけた子供のように、純白の龍を尻尾でペシペシと叩きながらはしゃいでいた。ちなみに真紅の龍の方は間近で鳴り響いた爆音に驚いて飛び起き、しきりに周囲を見回して……そして純白の龍を見つけた途端ピタリと密着した。

 

一方、純白の龍の顔はなんだか思案げである。伝説の"龍"といったその風貌に、人間のような大きな表情の変化は無いのだが、それでも何故だかトゥチカにはそう感じ取れたのだ。

というか、他の二匹に比べて、どうもこの純白の龍の動きは、酷く人間臭いように思えてしまう。

 

–––––––その理由を、彼女はまだ理解することができなかった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

観察を始めて十余日。

トゥチカはこれまでにわかったことを頭の中で整理していく。

 

 

まず、三頭の"龍"の持つ力。

 

純白の龍の扱う力は、これまで何度も見てきた紅い雷を操るというものだ。少なくともファレンスウルフを一撃で仕留める破壊力と、発動した瞬間に威力を発揮する速攻性……おそらく三頭の中で最も戦闘に向いている力であろう。

 

真紅の龍の扱う力は、大地の怒りだ。真紅の龍が一声吠えれば、溶けた土がそこら中から湧き出で、周囲一帯を真紅に染まった不毛の土地にする。トゥチカ自身もすぐにイェルヴァを呼び寄せて離脱しなければ巻き込まれていたことであろう、最も破壊力と環境影響力に優れた超絶迷惑な力である。

 

そして、漆黒の龍の扱う力は……一見すると真紅の龍の下位互換にも見えてしまう火。しかしトゥチカがそれと同時に感じ取ったのは、絶妙にコントロールされた"風の流れ"だ。意識的なのか無意識なのか、漆黒の龍は自らの周囲の風を操作することで、火の強弱を非常に高いレベルで操っている。実は技巧という意味では最も優れているのではないだろうか?

 

 

そして、三頭の"龍"の性格。

 

純白の龍は、一番最初に生まれたからか、保護者みたいな行動を行うことがままある。真紅の龍が周囲を溶けた土の地獄にした時に叱ったり、漆黒の龍の自由行動を抑えたり、他二頭が寝たのを確認してから寝る姿は、最早お母さんやお姉ちゃんといった雰囲気である。"龍"に性別があるのかはわからないが。

基本的には(魚の一件を考えると特に)適当な性格のようだが、知的な面も多く見られ、三頭のリーダー役を担っているようだ。

 

真紅の龍は、そんな純白の龍にベッタリな甘えん坊かつ寂しがり屋といった感じか。外見的には一番厳つくて覇気があるようにも見えるのに、中身は随分とギャップのある性格をしている。また、その性格からか、自分から能動的に行動することは殆どなく、基本的に純白の龍に付き従っているだけ……なのだが、偶に純白の龍の護衛をしているかのような素振りも見せる。意外に謎が多い。

 

漆黒の龍は、好奇心旺盛で活動的。一言で表現するならば小さな男の子のような性格である。虫を追いかけたり、無意味に翼を動かしたり、急に火を吹いては純白の龍に咎められたり……そのくせ寝る時には純白の龍にピタッとくっつく、まさにヤンチャ盛りの五、六歳児のような印象だ。

そして鋭い。ひよっとしたら此方の存在に気付いているのではないかと思ってしまうこともあるほどだ。奔放だが現在トゥチカが一番警戒している相手である。

 

 

果たして、この時トゥチカが抱いた印象は、正しかったのか。

そして、それが今後の運命に、どのような影響を及ぼすのか。

 

 

–––––––それはまだ、誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

《その名は、"運命の視線"》





感想、評価等遠慮無くお願いします。

ちなみにボレアスが風を操っているというのは勝手な想像です。
まあ、名前が北風の神ですから。
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